居酒屋からスーパーへ 前例なき“従業員シェア”決断の裏側

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、店舗の休業を強いられた企業から、急速な需要の拡大で人手が必要になった企業が期間限定で従業員を受け入れる「従業員シェア」(以下、他社就労)が、大きな広がりを見せています。
食品スーパーを運営するまいばすけっと株式会社と、飲食店の運営を手掛ける株式会社エー・ピーカンパニーも、今年4月からこの取り組みを実施。エー・ピーカンパニー社内での呼びかけに手をあげた従業員の方々が、まいばすけっとの店舗で、短期アルバイトとして勤務しました。
今回の他社就労を決断した背景について、エー・ピーカンパニー 執行役員 人事本部長の越川 康成氏と、まいばすけっと ストアサポート部 部長の岩澤 典和氏に、当時の想いや、実際の就労を経て感じていることを伺いました。

※今回の取り組みについて、パーソルグループは、両社のニーズをふまえて各社の紹介・橋渡しを行っています。『まいばすけっと』のほか、『ビッグ・エー』などさまざまな店舗における従業員の受け入れが実現しています。

「雇用を守る」という決意からはじまった
前例のない取り組み


――まずは、エー・ピーカンパニーさまに伺います。4月2日から、運営されている全店舗を休業されましたが、当時の状況について教えてください。

越川氏(エー・ピーカンパニー):3月30日の夜、経営陣で協議のうえ全店舗の休業を決定しました。休業決定と同時に「休業中に従業員に他社での就労機会を提供できないか」と動きはじめました。
休業対象者は、800人以上にのぼります。私の知人づてに必死に受け入れ先を探しましたが、これだけの規模となると、自分だけで見つけるのは到底困難なことでした。そんなとき、「パーソルなら、受け入れニーズのある企業さまをご存知かもしれない」と連絡を取ったのが、今回のご縁のはじまりです。

――難しい決断だったかと思いますが、他社就労を決められた理由は?

越川氏:店舗休業を発表したとき、従業員からはいつ再開できるのかという不安の声があがったり、中には「リストラがあるのか?」などの動揺もありました。どうすれば、従業員の不安を取り除き、生活への影響を抑え、雇用を守れるか……。それを考え続けた末、今回の決断に至りました。
また、それだけではなく「単なる出稼ぎではなく、普段とは違う形でお客さまの生活に貢献しよう」という想いもありました。ライフラインとして社会から必要とされているまいばすけっとさまで勤務させていただけるというのは、その意味でも、非常に価値があることです。この意義も社員には率直に伝え、「全員で窮地を乗り越えよう」という気持ちをともにしました。

――そのころ、まいばすけっとさまでは、どのような状況にあったのでしょうか。

岩澤氏(まいばすけっと):お客さまの来店者数は日々増加しており、人手が必要な状況でした。求人への応募者は全体としては増えてはいたものの、留学生や学生のアルバイト採用には苦戦しており、また、お子さんを持つ従業員が休校の影響で出勤できなくなるケースも発生するなど、通常通りの営業を継続するには、現場の従業員に負担がかかる状態でした。

――そのような状況が、受け入れを検討された要因になったのですね。

岩澤氏:そうですね。弊社と同じグループであるイオングループ各社からも人員協力は得ていたものの、当時はそれ以上の人員需要がありました。パーソルさまからこのご提案をいただいたとき「すぐに話を進めたい」と思ったのを覚えています。ただし、別グループの企業さまからの就労受け入れは弊社では前例がなく、一度持ち帰って社内で検討させていただきました。

――前例がない中、その2日後には、受け入れを決断されましたね。

岩澤氏:ご提案元がエー・ピーカンパニーさまであることも、大きな理由の一つです。私も個人的にエー・ピーカンパニーさまが運営されている『塚田農場』さんに何度か訪れたことがありますが、接客が素晴らしく、社員教育に対する熱心さを以前から感じていました。そのような従業員の方々とはたらけるのは、弊社としてもメリットが大きいのではという期待もありましたね。


従業員の交流を通じて、
これまでにない気付きを得た


――実際に面会されて、どのような印象を抱かれましたか?

岩澤氏:まず感じたのは、エー・ピーカンパニーさまの「従業員の雇用を守る」という強い意志です。また、その後お話を進めていく中で、意思決定のスピーディーさにも大変感銘を受けました。

越川氏:弊社としても、まいばすけっとさまのスピード感の早さには、とても驚きました。社内調整で大変なこともあったかと思うのですが、スピード感のあるご対応をいただき、本当に感謝しています。

――4月27日から、早速受け入れが開始しました。現場はどのような様子でしたか?

岩澤氏:エー・ピーカンパニーさまからお越しいただいた方々は、慣れない環境だったにも関わらず、意欲的に仕事に取り組んでくださいました。特に接客スキルは期待以上で、見習うべきことが多く、弊社の従業員にとって大きな刺激になっています。指示された仕事に関わらず自ら率先して動かれたりと、本当にご活躍いただきました。

越川氏:そのようなお言葉をいただき、ほっとしております……。弊社側では、社内限定のSNSがあるのですが、そこに、社員からさまざまな投稿がありました。「お客さまから、たくさん『ありがとう』とお声がけいただけて、うれしい」といったコメントや、「『まいばすけっと』の従業員の方々に、いつも励ましていただいています。塚田農場の営業が再開したら、皆さんをぜひ招待したいです!」といった声まで挙がっています。


エー・ピーカンパニー社内のSNSで投稿された実際の社員の投稿

――従業員の方にとっては、一緒にはたらけたからこその学びもあったのではないでしょうか。

越川氏:まいばすけっとさまは業務マニュアルがよく整備されており、弊社の従業員からは「マニュアルがあるとこんなに仕事がはかどるんだ!」というような声をよく聞きます。弊社はあまりマニュアルをつくる文化ではなかったのですが、今回を機に「取り入れられるものは、取り入れてみようよ」という意見もではじめました。これまで自分たちが当たり前と思ってきたことが、そうではないということに気付ける、貴重な機会となりました。

岩澤氏:弊社としても、今回の協業を通じて、接客の重要さを改めて痛感しているところです。私たちがマニュアルで効率化を図っているもともとの背景には、無駄を省くことで、よりお客さまと向き合えるようにしたいという想いがあります。エー・ピーカンパニーさまとの仕事を通じて、改めて、そんな原点を思い出させられました。

――今回の取り組みの意義を、どのように感じていらっしゃいますか?

越川氏:あくまで雇用維持のためにお願いしたことではありましたが、実際にやってみて、先ほどもお話したような「自分たちの当たり前」を疑う機会を得たことには大きな意義があると感じています。この先、人材交流や教育の観点で、またこのような取り組みができたらいいなと感じています。

岩澤氏:そうですね。先日からまいばすけっとの店舗で『塚田農場』さんのお弁当の販売を開始しましたが、このように、さまざまな面でもっと交流を深めることができたらと思っています。

―最後に、お互いにメッセージがありましたらぜひお願いします。

岩澤氏:急速なお買い物需要の拡大に、既存の従業員だけでは対応が追い付かない中での店舗運営でしたので、弊社としても従業員の負担を軽減することができ、大変感謝しています。一緒にはたかせていただくことで、良い刺激にもなりました。ありがとうございました。

越川氏:全店休業という危機に直面していた中、多くの従業員を受け入れていただき、感謝の言葉しかありません。迅速なご対応をいただき、本当にありがとうございました。
また、今回パーソルさまには「ニッポンの人事部長」として頼らせていただきました。この紹介自体は貴社の収益に直結するものではなかったかと思いますし、リスクもあったであろう中、弊社の想いに共感いただけたことをうれしく思っています。今後とも宜しくお願いします。

(以上)

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