【岩本友規×元井洋子】「転職4回、30歳を過ぎて発覚した発達障害」。大人の発達障害と上手に付き合っていくには?

パーソルグループは、はたらき方やはたらく価値観が多様化する今、あらゆるはたらく個人がより幸せに生き、自分らしくはたらくための一歩を踏み出すきっかけづくりを目的として、どなたでも気軽に参加できるオンラインセミナー「今、ニッポンのはたらくを考える会議」を定期開催しています。

障害者雇用支援月間である9月に合わせ、9月16日には「障害と共に生きる・はたらく」をテーマにしたセッションを開催しました。障害と一口に言っても、抱える困難は人によってさまざまです。一人ひとり異なる障害特性と困難に対し、いかに向き合っていくべきか。そのような問いに対してヒントを探るべく、同日に2つのセッションを開催しました。

今回は、大人になってからうつ病や発達障害を経験した岩本 友規氏をゲストにお迎えした、Session2「『転職4回、30歳を過ぎて発覚した発達障害』大人の発達障害と上手に付き合っていくには?」をレポートします。

【Session2】
「転職4回、30歳を過ぎて発覚した発達障害」。大人の発達障害と上手に付き合っていくには?

<登壇者>
岩本 友規氏(明星大学 発達支援研究センター 研究員/株式会社Tandem 取締役)

<モデレーター>
元井 洋子(パーソルチャレンジ株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 キャリアアドバイザー)

目次

環境要因の蓄積から2次障害に

元井:まずは岩本さんがこれまでどのようなキャリアを歩んで来られたのか、簡単に教えていただけますか。

岩本氏:私は2002年に大学を卒業して半導体商社に一般就労しているのですが、2007年にうつ病・双極性障害II型との診断を受けて、1年間休職しています。そして2008年には障害手帳を取得。2012年にはさらに発達障害診断を受け、2013年から2017年までは障害者雇用を経験しました。

私の障害は、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症です。幼少期は授業中にじっとしていられないほどではなかったのですが、百貨店などでは迷子になるようなことがよくありました。そのほか、ピアノを両手ではうまく弾けなかったり、臨海学校の日程を間違えて一人で電車で向かうはめになったりもしました。

大学生になってからも、目先の興味を優先して単位の取得が後回しになってしまったり、金銭管理がちゃんとできなかったりと、困ったことがたくさんありました。そんな調子なので、就職してはたらき始めてからも、うっかりミスが多かったり、仕事の優先順位がうまく付けられませんでした。その結果、心身の疲労が限界になり、「いのちの電話」に助けを求めるほど追い詰められ、これが最初の受診と休職のきっかけにもなりました。

元井:精神的な重圧というのはやはり、心身のコンディションに表れてしまうということですね。

岩本氏:そうですね。こうした障害は、周囲の状況次第では環境になじめるケースもあると思います。しかし現実的には理解が得られる環境は多くなく、当事者の皆さんは人知れず苦しみを溜め込んでいるのが実情です。

そして環境によるネガティブな影響が蓄積してくると、うつや双極性障害などの2次障害に、さらに誤診や薬害といった要因が積み重なると、3次障害、4次障害につながる可能性もありますから注意しなければなりません。

元井:そうした当事者の方に対し、なんらかの支援の手はないのでしょうか?

岩本氏:大きくは、3つの対策があると私は思っています。1つ目はユニバーサルデザインなど、環境面での合理的配慮。ユニバーサルデザインとは、どんな人にでも使いやすく設計された社会インフラや設備、道具のことです。2つ目はテクノロジーを活用したサポートグッズの利用で、たとえばADHDの方に対する、タスク管理のツールなどを指しています。そして3つ目は環境からの影響をうまくコントロールする、当事者の認知能力の向上をはかることです。

大切なのは認知をセルフマネジメントすること

元井:では岩本さんが症状を克服し、こうして支援する側になったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

岩本氏:私の場合は事業所の移動とともに、主治医が変わったことが大きかったですね。そこで薬も変わり、それがよく効いてくれました。私が処方された薬の場合、効果が得られるケースは全体のおよそ半数程度とも言われていますから、運も良かったかもしれません。

元井:逆にいえば、半分の方は薬を服用しても苦しみ続けていることになります。

岩本氏:そうですね。環境面の要因も多いですし、薬だけで治療するのは決して簡単なことではないと思います。私はたまたま注意力を改善させる薬が効いたことで、体感的にもかなり仕事がしやすくなりました。

具体的には、行動前に“余白”が生まれ、データ入力などの作業一つでも、見直しや確認ができるようになったんです。以前はそこに見直しをするタイミングが存在することにすら気付いていませんでしたから、これは劇的な変化でした。「ヒトにはこんなに便利な機能が備わっていたのか」と感動したくらいです。

元井:なるほど。そうした気付きが現在の取り組みにもつながっているんですね。

岩本氏:注意制御機能が改善されたことで、自分が何に興味を持ち、どんなことに集中しているのかを自覚できるようになりましたから、これは大きな転機だったと思います。

元井:では、そうした発達障害と上手に付き合いながら生活し、そしてはたらくために気を付けるべきことはなんでしょう?

岩本氏:私が主に支援の対象にしている、就労後に発達障害の診断を受けるような方について言えば、自分の心を少し上から眺めてみることだと思います。私はこれを「心のメタ認知」と呼んでいるのですが、認知をセルフマネジメントすることが大切で、自分の興味や関心の傾向が分かれば、「好き」や「得意」を仕事につなげるきっかけになります。

何より、この“自分の心を少し上から眺める”という作業を他人に応用すれば、コミュニケーションもスムーズになるはずです。たとえば私自身はどちらかといえば理屈っぽい人間ですが、クリエイティブな仕事をしている人とやり取りする際には、ロジックで説明するよりも直感的な伝え方をしたほうがいいだろう、といった配慮ができるようになります。

元井:なるほど。これはもしかすると、障害のない方にも通じることかもしれませんね。

岩本氏:まさしく、そうだと思います。

境遇に関わらず可能性を広げられる世の中に

元井:ところで、岩本さんの著書『発達障害の自分の育て方』も拝読しましたが、障害についてどこか面白おかしく、わりとライトに表現されていたのが印象的です。一方で、大学で研究員もされているように、深い専門知識をお持ちでもあります。本当の岩本さんはどちらのタイプなのでしょうか?(笑)

岩本氏:日ごろから今日お話した分野の理屈っぽいことばかり考えていますよ(笑)。だからこそ、こういう場でもギリギリ話すことができるのだと思います。

元井:著書の中には、ご自身の障害とうまく付き合い、そしてトレーニングするために、読書会に参加されているエピソードもありました。非常にチャレンジ精神も旺盛でいらっしゃいますね。他人に自分の好きな本を紹介するのは、それなりにハードルの高い行動なのでは?

岩本氏:もともと決して人付き合いが得意なほうでも、コミュニケーションが得意なタイプでもないのですが、「読書会をやっているので来てください」と間口が開いていたので、飛び込みやすかったのだと思います。そうしていざ参加してみると、意外と話しやすい環境があって助けられました。

元井:やはり場が開かれているというのは大切なんですね。では、岩本さんの今後の展望をお聞かせください。

岩本氏:「自分の可能性を楽しく学ぼう」ですね。これは普段から研修や講義でも伝えていることなのですが、多様な個性のある自分や他者の心をメタ認知するための学びというのは、学校ではあまり重視されてきませんでした。いろんな境遇の人が自由に、それぞれの心の違いを認知していくことについて学べる機会をどんどん増やしていかなければなりませんし、その取り組みのために障害のある当事者の方々とのネットワークも広げていきたいと考えています。

元井:本日のお話を通して、その「自分の可能性を楽しく学ぼう」という境地に達するまでの過程で、岩本さん自身が自分と向き合う時間を大切にされてきたことがよく分かりました。

岩本氏:ありがとうございます。同じように苦しんでいる方には、これからの私の活動や身近な学びの場へぜひ積極的に参加していただければと思います。

元井:そして私たちもそれを支援する、開かれた環境づくりに取り組んでいかなければなりませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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