ロボによって人の「はたらく」はどう変わり始めた?─先端ロボ活用事例の現場から【(2)完全リモートワーク編】

発症から18年…ロボの介在によって叶えられた「はたらく」とは。

ロボット(以下ロボ)の活用が注目されていますが、皆さんの身近なところでロボは活躍していますか?こんなにもニュースになっているのに、意外と近くにいないロボたち。実際に彼らはどこでどんなことをし、人の「はたらく」にどんな影響を与えているのか、パーソルグループの取り組みから紐解いていきます。
[3回連載/前回記事はこちら]

目次

特例子会社だからこそ「はたらく選択肢」を増やしたい
初の完全リモートワーク導入までの道のり

パーソルチャレンジで勤務する岡本 未和は、主に業績管理や支払い申請のアシスタントをしています。彼女のデスクに置かれているのは、リモートワークで使用する卓上ロボット「kubi」。週4日・1日3時間、自宅のある宇都宮市から「kubi」を通して仕事をしています。岡本は筋痛性脳脊髄炎という難病を抱えており、その病気の特性上、日常生活のちょっとした動作でも体力を大幅に消耗してしまうため、雇用に必要な時間分の勤務が困難なのです。そのため、「kubi」を使って完全リモートワークで勤務しています。なぜこういったことが実現できたのか…。

パーソルチャレンジは、グループ内での障害者雇用をはじめ、障害者の就労や、企業の雇用を支援している特例子会社です。岡本とともにこの取り組みにチャレンジしてきた渡邉 渉は、ロボ導入の経緯と意義についてこのように話します。

渡邉「もともとはPepperを活用して、精神障害のあるメンバーの新たな業務を創出することにチャレンジしました(参考)。それをきっかけに、ロボットを使ってもっと障害者の『はたらく選択肢』を広げられるのではないか、と考えるようになりました」

そこで辿り着いたのが、この卓上ロボット「kubi」を使った完全リモートワークでの就業。ただ、実現に向けては大きく次の3つの壁がありました。

(1)業務の切り出し:そもそもどんな業務を任せればいいのか想像できない
(2)コミュニケーションの取り方:隣にいるわけではないので心の距離が生まれそう
(3)社内の理解:法定雇用人数の対象外である時短勤務者を採用するのか

(1)については日々の業務の棚卸を行い、手順を可視化することで切り出す業務が見えてきました。(2)については意識的にコミュニケーションを取ることで些細なことも共有できる関係性に。また、(3)についても「障害者雇用を成功させる特例子会社だからこそ推進していくべき」という企業の意志と熱量に現場も応え実現できました。

こうして、「障害者雇用を成功させる」という会社のミッションを実現するため、ロボを活用した完全リモートワークがスタートしました。

発症から18年、「通勤ができない」という壁を越えてようやく手にした「はたらく」

岡本は高校3年生の冬に筋痛性脳脊髄炎を発症しました。その後7年かけて通信制の大学を卒業したものの、その先はまったく見通しの立たない状況に。公的支援を求めて行政に相談していましたが、障害者手帳の取得までに発症から12年かかってしまい、はたらくどころではなかったのです。
ようやく基盤が整ったところで仕事を探しはじめましたが、世の中の求人は「出社すること」が当たり前。病気の特性上、通勤と、障害者雇用として就業するうえで必要な勤務時間分はたらくことは、岡本には厳しい現実でした。

岡本「はたらきたいという想いは持っていましたが、外出することが大前提で、それができないと外と繋がれない。もう打つ手がないという状況でした。ただ、以前から参加している患者会のお手伝いなどでパソコンに触れる機会はあったので、さまざまなご縁からパーソルチャレンジを紹介されました」

発症から18年、ようやく手にした「はたらく機会」でした。

渡邉と岡本は頻繁に「kubi」を介してコミュニケーションを取っています。岡本は画面越しの渡邉やオフィスの様子を見ながら、あたかもそこにいるかのようにミーティングをしたり、ときに首を回して隣の同僚に話しかけたりします。

岡本「顔を見ながら話せるのは本当に大きいです。人の動きがわかるので、声だけでは感じ取れないことを理解できます。また、必要なときにすぐに話しかけることができることも助かっています。『kubi』を通してオフィス全体の様子も分かるので、『コピーしておくね』って言ってもらったときに『あそこのコピー機だな』ってイメージできるので、オフィスにいる感覚を持つことができます」

渡邉「この前も紙の請求書を画面越しに見せながら『ここのこれがね』っていう話をしていました。電話ではなかなかできないですよね」

「障害者だから」なんてことはない、東北から完全リモートワークを叶えた社員

実はパーソルチャレンジには、障害のない健常者で、完全リモートワークを実現している社員がいます。

青森の自宅から、リモートワークロボ「Double2」を通して話をしてくれたのは、人材紹介事業部ではたらく三神 知。当初、三神は結婚と同時に退職を覚悟していました。夫の東北勤務が確定していましたが、パーソルチャレンジでは当時、東北にオフィスがなかったためです。1年近くの別居期間を経て、いよいよ東北に拠点を移すため退職の意を伝えたとき、会社から完全リモートワークによる就業を提案されました。

三神「最初はセキュリティの観点も含め『本当にできるのかな』っていうのが正直な思いでした。また、当時はロボを活用する話はまだなく、普通のリモートワークだったので、できることが限定されて下請けのような仕事になってしまうのかな、と。不安な気持ちが大きかったです」

それでも、三神は不安よりもこの取り組みの意義の方を強く感じていました。

三神「たとえ下請けになって大して役に立てなかったとしても、こういったはたらき方の前例をつくることにはものすごい意味があると思ったのです。それに、いざ業務を見直してみたら、オフィスでやっていたことの多くはリモートでもできると分かったので、場所とはたらき方だけ変えればいいと判断できました」

開始当初はwebカメラを繋ぐだけの簡単な仕組みでした。映像は見られるものの、同時に音声に接続することができません。顔を見てコミュニケーションを取れることだけが、離れて仕事をする三神にとって大きな安心材料となっていました。

その後産育休を取り、復帰したのが2018年5月。会社の様子が少し変わっていました。

三神「復帰3カ月後にはこの『Double2』が出てきて。実際に使ってみて画期的だと思いました!何がすごいって、卓上ロボでは身振り手振りができ、自分の意思を社内の人たちにすぐに伝えられること。オフィスではたらいていたときと同じように、そこにいるかのようにコミュニケーションを取ることができるので、寂しさが圧倒的に軽減しました!」

この「Double2」は三神の操作によって自由に動き回ることができます。社内の別の場所にいる社員のデスクにも、自らの意思で移動し、話しかけることができるのです。三神は、ロボを通して社内の雰囲気を感じながら仲間と仕事ができる環境を「ありがたい」と言います。

これから2回目の産休に入る三神。

三神「webカメラだけで仕事をしていたときは寂しさを強く感じていたので、もしロボが導入されていなかったら会社を辞めていたかもしれないといまでは思っています。それくらい大きな存在です」

ロボによって「雇用」と「はたらき方の選択肢」を増やす

ロボを導入することで、パーソルチャレンジのはたらく概念が大きく変わりました。

岡本「何よりも、はたらくという選択肢があって、それを選べていることに幸せを感じます!それに、完全リモートワークではたらいているという話をすると、ほかの障害を持っている知り合いはみんな信じられないようで、興味津々でいろいろ聞かれます。私のようなはたらき方をしている人はまだ少ないですし、そもそも知らないという人たちもたくさんいます。私と同じように難病を抱えている人や、在宅でないと仕事ができない人たちに、『こういうはたらき方があるよ!』って知ってほしいなと思っています」

まだまだ業務をこなすことで精一杯ですが、これから少しずつ新しい業務にもチャレンジしていきたいと、と岡本は静かに闘志を燃やしています。

また、実際にリモートワークではたらく当事者だけではなく、オフィスではたらく社員にとっても大きな気付きを与えています。

渡邉「一番変わったのは、『家から出られなかったとしても、やりがいを持ってはたらける人はたくさんいる』と思えたことです。以前は在宅というだけでできる仕事はかなり制限されていましたが、岡本さんとはたらく中で、決してそんなことはないと思えるようになりました。いまはいくらでもできる仕事があると、オフィスにいる社員も皆強く感じています。だから、仕事に対しての視点も変わりましたね。これまでは一人で抱え込みがちでしたが、業務をステップで見るようになったので、『これだったらお願いできる』という発想になっています」

属人化しがちな個々の業務を見える化し、会社の財産として扱えるようになったことで、生産性向上にも一役買っているのです。

ロボにより、今まではたらくことを諦めかけていた人たちに新しい就業機会をつくることができました。ロボが新しい希望となり、人と共存して人の可能性を広げていることを、パーソルチャレンジの岡本と三神は体現しています。

(第三回へ続く)

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