ロボによって人の「はたらく」はどう変わり始めた?─先端ロボ活用事例の現場から【(1)Pepper活用編】

コミュニケーションが苦手でも、カメラ越しにならできる!Pepperと一緒につくった、新しいはたらき方

ロボット(以下ロボ)の活用が注目されていますが、皆さんの身近なところでロボは活躍していますか?こんなにもニュースになっているのに、意外と近くにいないロボたち。実際に彼らはどこでどんなことをし、人の「はたらく」にどんな影響を与えているのか、パーソルグループの取り組みから紐解いていきます。[3回連載]

目次

挑戦の始まり─Pepperで、障害者に新しい「はたらく」の選択肢を提供したい!

「パーソルチャレンジへようこそ!」

オフィスにひときわ明るい声が響きます。ここは、障害者雇用支援事業を手掛けるパーソルチャレンジのオフィスの受付。声の主は、ヒト型ロボットのPepper。パーソルチャレンジの採用面接に来た方に対してのファーストコンタクトの役割を担っています。
お客さまから見えないところでこのPepperを操作しているのは、実は、同社で勤務する障害のある社員たちです。

ヒト型ロボットと、障害者。一見結びつかないこの二つのワードですが、実はとても相性が良いことをパーソルチャレンジは実証しています。きっかけは、ソフトバンクロボティクスさまからのお声かけでした。プロジェクトマネジメントを担当している塩田 達人は、導入時の背景についてこう語ります。

塩田「それまでは、障害のある社員に任せる業務のマネジメントとしてパーソルグループの求人広告の原稿制作を担当していたのですが、この業務しか仕事の選択肢がないという中で、「はたして、彼らはやりがいを感じてくれているのか?」という疑問を持つようになりました。もっと選択肢が増えればやりがいにも繋がっていくのではないかと考えていたとき、ソフトバンクロボティクスさまから『Pepperを活用しないか』というお話をいただきました」


一般的に、精神・発達障害のある方の中には、対面によるコミュニケーションが苦手な方が多いと言われます。一方で、Pepperは会話が得意。だからこそ「これはいける!」という感覚がありました。

塩田「互いの強みや弱みを補い合いながら共生できたら、それがベストプラクティスになると思って。はたらくことの選択肢を増やして、それが誰かのモチベーションアップに繋げられたらという想いで、自分のチームでやらせてほしいと志願しました」

立ち上げ後に参画した西郡 大も同じ想いでした。

西郡「このプロジェクトにはとても興味があったのですが、当時は、別の業務を担当していたのでスタートしたときは外から見ていました。しばらくは心に秘めていたのですが、そのうち我慢しきれなくなって、とうとう手を挙げました(笑)。直接人と話すことが苦手な障害者も、Pepperを通してコミュニケーションを取ることで、『自分でもできる』という自信や新たな気づきになると思いました」

未来の可能性を大いに感じながらの船出でしたが、初めてだらけのプロジェクト、困難は多々ありました。

それぞれの「苦手」がぶつかることで起こった不協和音

このプロジェクトの仕組みは、受付に来たお客さまへのご案内を、障害のある社員がPepperを通して行うというもの。Pepperに搭載されているカメラ越しにお客さまの様子を見ながら、事前に登録されている定型文を選択したり文字を入力したりすることで、Pepperがそのままお客さまに話しかけるという流れです。
仕組み自体はとてもシンプルですが、とにかく前例のないプロジェクト。すべてが試行錯誤でした。

壁となったのは大きく二つ。一つはネットワークの不安定さ、もう一つは、プロジェクトのゴールが見えないということでした。
一つ目のネットワークの問題。これまで活用実績のないアプリを使用したこともあり、途中で繋がらなくなってしまうことが多発したのです。

西郡「試験運用のために、社内のとあるチームで朝会の司会をPepperにやらせてみたのですが、途中で動かなくなってしまうことが頻発してしまいました。最初は面白がってくれる社員も、結局朝会の進行が中断してしまうので、だんだん冷めた感じになってきてしまっていましたね…」

そして二つ目のゴールが見えないこと。得てして新しいプロジェクトというのは試行錯誤の連続ですが、ここは障害者がはたらく特例子会社。

塩田「障害のあるメンバーの特性上、先が見えないことに対して、こちらが想像している以上に不安を感じてしまう人も少なくありません。実際にプロジェクトに参加しているメンバーはもちろん、直接関わっていないメンバーにとっても、このプロジェクトに対しては『やりたい!』という想いだけが先行して、その実績が伴っていないことに、少なからずネガティブな感情はあったと思います」

この時点では、Pepperと障害者はお互いの苦手な部分がぶつかっていた状態で、誰もが、共存のイメージなどまったく持つことはできませんでした。
それでも、取り組みの意義を信じてついてきてくれたメンバーたちによって、このプロジェクトは一歩ずつ、前に進み始めます。その一人が大川 聖。彼もまた、障害のある社員の一人です。

Pepperでなら自分もできる!コミュニケーションへの喜びが生まれた

大川は、前職でWEBデザインなどクリエイティブに関わる仕事をしていました。パーソルチャレンジには障害者として入社し、原稿制作に携わっていました。実はもともと新しいことが好きな性分、Pepperの話を聞いて、

大川「食い気味で『やります!』って言いました(笑)」

と笑顔で語ってくれました。そうは言っても、コミュニケーションを取ることが決して得意なわけではありません。

大川「社内の電話対応であればそこまで緊張しないのですが、社外の人に対しては少なからず苦手意識がありました。Pepperの相手は社外からいらっしゃる方なので、ちゃんとご案内できるか、ミスなくできるか、という想いは常にありましたね」

自分ができるかどうかという不安に加え、Pepperが動かないことで周囲から感じる冷ややかな目線。モチベーションを保てなくなる瞬間もありました。それでも辛抱強くこのプロジェクトを進めてこられたのは、「新しいことをやろう!」という流れをつぶしたくなかったことと、何とかしたいという想いがあったからこそ。

そして、実際に社外のお客さまに「接客」をするようになり、大川には心境の変化が生まれてきます。

大川「もともと、お客さまとやり取りするうえで遊び心を持てたら、と思っていました。私がPepperを通して対峙するのは面接に来る方なので、皆さん緊張されているんですね。なので『深呼吸してみましょうか』と声をかけてリラックスできるような雰囲気をつくりました。それに面接を通過すると再度ご来社されるのですが、そうすると『あ、この人また来てくれた!』って思って、Pepperを通して『前回もいらっしゃいましたよね』って話しかけてみました。それをすごく喜んでくれたという感想を聞いて自分もすごくうれしくなりました」

直接相対すると緊張してできなかったことが、Pepperを通せば自分なりに相手を思いやった気の利いた一言を返せるようになったこと、これが塩田の考える「ベストプラクティス」の一つであったのは間違いありません。

仕事のやりがいを増やし、人と人とを繋いでいく

Pepperを活用することで思わぬ強みを発揮するメンバーもいます。

西郡「ネットゲームでチャットをしているメンバーはタイピングが異様に速いので、電話対応が苦手だったとしても、ゲームで鍛えたスキルをここで発揮しています(笑)」

今まで隠れていた障害者の強みを活かすきっかけになったことは、うれしい発見でした。このPepperの活用によって、障害者にとってのやりがいを増やすことになったのです。

塩田「『マニュアル化』とか『標準化』というやり方がフィットする障害者もいれば、自分から動いていくことにやりがいを感じる障害者もいるのです。そういう人たちにとってPepperを活用することは、新しいことにチャレンジするきっかけになったと感じています」

このPepperプロジェクト、これまで対象となるお客さまは採用面接に来る方だけでしたが、10月からはキャリアカウンセリングに来る方まで広げることができました。対応する頻度は、これまでの倍以上。これも、地道に前進を続けて、プロジェクト体制の基盤が整ったことで実現できたのです。
今後Pepperを活用してどんなことができるのでしょうか。

塩田「このPepperの事例も、やり方次第では在宅勤務の人にも展開することができると思っています。身体障害者など外出が難しい人は、ずっと家にいるので外部の人とのコミュニケーションが限られてしまいます。そういった方がPepperを通して多くの人と繋がることができれば、それも新たな雇用とやりがいの創出になると思います。可能性が広がりますね」

西郡「たとえPepperを通していても、人の心に刺さるのはやっぱり人の言葉なのかなって思っています。Pepperが人の温もりを感じる言葉を発することに驚いてくれる人も多いです。Pepperだからこそできるコミュニケーションがまだまだあると思っていて、お客さまにも楽しんでもらい、顧客満足度が高まっていけば、それに伴って従業員満足度も上がっていくのだと思います。わくわく感をつくっていきたいですね」

ロボというのは必ずしもプログラミング通りに動いたり、過去のデータを元に答えを出したりするだけではありません。人と人を繋ぎ、それによって今まで眠っていた人の能力を発掘し、新たなやりがいを感じてもらう。ロボが人のような優しさを発揮し、互いが共存しあう新たなコミュニケーションの可能性を、この事例から感じ取ることができるでしょう。

※本記事の取り組みは、ソフトバンクロボティクスのPepperを活用し当社が独自に実施しています。

(第二回へ続く)

このページをシェアする
目次
閉じる