パーソルイノベーション株式会社は、新規事業起案プログラム「Drit」で、約半年間構想を練ったビジネスケアラー(※1)に特化した転支援サービス(以下、「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」)の事業検証を4月10日より開始しました。
(※1)仕事をしながら介護をする人のこと
※本事業検証については既に終了しました
■「Drit」とは
主にパーソルグループ社員による新規事業創出プログラムで、事業化したい案を提案できる機会は年に2回(上期と下期)。エントリー後は、パーソルイノベーション代表取締役社長と起業経験を数多く持つ有識者とともにパーソルの次世代事業創造を目指す、ハンズオン事業開発プログラムとなっています。今期、「Drit」ではソーシャルイシューへの取り組みを強化していく方針です。
「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」の概要 ~特徴と魅力~
「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」は、家族(祖父母・両親・兄弟姉妹・配偶者・子どもなど)の介護と仕事を両立させたい転職希望者と、即戦力となる人材を採用したい柔軟なはたらき方ができる企業をマッチングさせるサービスです。キャリアアドバイザーにはケアラー経験者や当事者を中心に配置して転職希望者の個別ニーズに配慮し、企業側にもはたらき方の実態をヒアリングしてマッチングさせます。
また、事業検証後のサービス開始の際は、求人サイトに募集ポジションのはたらきやすさを分かりやすく可視化したレーダーチャートを表示して転職希望者の求人探しを効率化したり、面接時にベビーシッターやヘルパーを利用する転職希望者には利用料を一部実費支給したりする予定です。さらには、転職者、企業に向けた無料相談窓口の設置や企業向けセミナーの開催など、採用後のアフターフォローも行っていきます。
本記事では、パーソルキャリアからDritにチャレンジした、「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」の発起人でプロジェクトリーダーの洪 鵬(こう ほう/パーソルキャリア テクノロジー本部 デジタルテクノロジー統括部)に起案のきっかけやDrit挑戦への想い、今後の展望などを聞きました。
はたらくすべての人たちは、ビジネスケアラー予備軍の可能性がある
──なぜ「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」を立ち上げたいと思われたのでしょうか?
洪:私自身がビジネスケアラーで、子どもの障害のケアをきっかけに、2023年パーソルキャリアに転職してきました。そのときの転職活動の経験から、自分と同じ想いをしている人が多数いるのではないかと思ったことが、一番はじめのきっかけです。
──転職活動がかなり大変だったのですか?
洪:私は大学で博士号を取得したあと10年近く研究者としてはたらき、専門性の高いキャリアを積んできました。転職など考えたこともなかったので、自分が求めるはたらき方、たとえばリモートワークが可能で転勤がなく、キャリアを活かせるポジションがいい、といった求人をどのように探せばいいかも分からない状態で……。自分と同じ目線で相談にのってくれる転職エージェントにも出会えず、転職活動は困難を極めました。
──その経験がビジネスケアラー向けの転職支援サービスにつながったと……。
洪:世の中には能力や経験があるのに、本人の責ではない家庭の事情ではたらく機会すら奪われてしまった人がたくさんいます。私はそうした社会に疑問を持っているし、社会としてももったいないと思うんです。
近年の調査で、家族の介護をしながらはたらく“ビジネスケアラー”は国内に200~300万人いると推定されています(※2)。また、高齢化の急速な進行、少子化にも関わらず障害児や不登校児の数の増加(※3、※4)などを考えると、数十年後、「介護しながらはたらく」というスタイルは当たり前になってくるかもしれない、「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」は、時代のニーズを先取りしたサービスになるかもしれない、そう思ったんです。今は独身や子どもを持たない世帯も増えていますが、皆誰かの子ども。はたらくほぼすべての人たちがビジネスケアラー予備軍といっても過言ではないかと……。
(※2)令和4年就業構造基本調査 全国結果
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&stat_infid=000040077491
(※3)障害児:特別支援教育資料(令和4年度)第一部 データ編
https://www.mext.go.jp/content/20240117-mxt_tokubetu01-000033566_2.pdf
(※4)不登校児:令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf
──今後、社会的に必要性が増していくサービスというわけですね。パーソルでやろうとDritで起案したのには何か理由があったのでしょうか?
洪:障害児を持つ親の会やNPOなどは全国に無数にあり、国や自治体、企業にビジネスケアラーに対する法律や制度の改正を訴えていますが、なかなか難しいのが現状です。特に国を動かすには多大な労力と時間がかかります。ビジネスケアラーへの支援は大きな社会課題。だからこそ、人材サービス業界大手のパーソルグループからビジネスケアラー向けの転職支援サービスが出たら、社会全体のケアラーへの理解も深まり、国をも動かす力になるかもしれない、そう考えました。それに、“はたらくWell-being”創造カンパニーをありたい姿として掲げるパーソルグループにぴったりの取り組みなんじゃないかと……。そこにパーソル新規事業創出プログラムDritという新規事業創出プログラムがあった──、すぐ「Dritに挑戦しよう!」そう思いました。
ビジネスケアラーの活躍を通して、ケアラーに対する理解も深めたい
──2023年10月、Dritに応募したと伺っています。何人でプロジェクトを組まれていたんですか?
洪:応募までは1人です。1次審査通過後、社内でメンバー集めに奔走しはじめました。とは言っても、私は入社1年未満で社内人脈もあまりない状態でしたから、部署内で説明会をやったり、つてをたどってとにかく声をかけたりしていきました。ありがたいことに、趣旨に賛同してくれる方々がどんどん増え、今では11人のチームになっています。
──Dritの一時審査通過後に市場調査も実施されていますよね。反応はいかがでしたか?
洪:ビジネスケアラー側はアンケートを、企業側にはヒアリングを行いました。
ビジネスケアラー側の対象は約100名。「まさに自分が待ち望んでいたサービスだ」という声を多くいただきました。
企業側は、dodaのRA(リクルーティングアドバイザー)の協力を得て、十数社の声を集めることができました。反応は上々で、「はたらき方の柔軟性を訴求することで、会社の知名度や年収で他社に負けていても転職市場で勝負できそうだ」「少子化が進むこれからの時代に必要なサービスだ」といった声や、障害者や難病の人向けのサービスやアプリを開発している医療系企業からは、「エンドユーザーの気持ちを考えられる人を紹介してもらえそう」といった声も。多くのビジネスケアラーや企業が、この事業の意義に共感し、事業実証試験への協力を快諾してくれたのは本当にうれしかったです。
また、市場調査の結果をもとにしたアイデア、「ビジネスケアラーの口コミを活用した介護と仕事の両立がしやすい企業の可視化」(※5)は経済産業省主催の「OPEN CARE PROJECT AWARD 2023」(※6)で、部門賞を受賞しました。国や社会からも公益性を高く評価していただいたと実感しています。
(※5)ビジネスケアラーの口コミを掲載した転職サイトを開設し、企業のはたらきやすさを可視化するというもの。詳しくは、こちらをご覧ください。
(※6)介護をエンパワーするアワード。詳しくは、こちらをご覧ください。
──4月10日から事業検証がスタートしました。その時のお気持ちを教えてください。
洪:事業検証を実施すると決定したあとは、既に取材依頼などを受けていたこともあり、喜びより「いよいよスタートラインに立つんだ!」という身の引き締まる想いの方が強かったですね。「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」がより良いサービスとなり10年、20年と続くよう、大局を見据えて事業を推進していこうと思っています。
──事業検証開始から約2週間が経ちます。手応えはいかがでしょうか?
洪:NHK『おはよう日本』や日本経済新聞、WEBニュースなど、メディアで取り上げていただいた反響も大きく、企業からはもちろん、経済産業省からヒアリングさせてほしいという要望があるなど、国や自治体のご担当者からもご連絡をいただいています。また、ビジネスケアラー側の登録者は、見込み求人職種(※7)の関係もあると思いますが、ハイキャリア専門職の方々が多いですね。私が転職活動をしていたときに抱えた問題に直面し、同じ困難な状況に陥っている方の登録もありました。
社内でも「ニュースで知ったよ」と声をかけられることも多いですし、社内外の皆さまの大きな期待をひしひしと感じています。
(※7)求人職種はITエンジニア、データアナリスト/データサイエンティスト、コンサルタント、人事、企画、法務、経理等の専門職種となる見込みです。
──今後の展望・意気込みについて教えてください。
洪:「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」は、一見するとマイノリティの方々を対象としたニッチなサービスに思えるかもしれません。しかし、日本の人口減少は加速し、今後ミドル・シニア向けの転職支援はますます重要になっていくでしょうし、そうした方々の“家族のケア”と“はたらく”の両立を望む声は確実に増えていくと思うので、そのニーズに「ビジネスケアラー向け転職支援サービス(仮)」で応えていきたいです。そして、ビジネスケアラーが社会で活躍することで、ケアされる側だけでなく、ケアをする側に対する理解も深まっていってくれたらうれしいですね。
中長期的には、ビジネスケアラーという枠だけでなく、子育て世帯への訴求、高齢化の波が押し寄せているアジア・パシフィックへの展開も考えていきたいと思っています。
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。