ミイダス株式会社が運営する転職求人サービス「ミイダス」では、2019年から「ミイダス コンピテンシー診断」を提供してきました。
「ミイダス コンピテンシー診断」とは、仕事を行なう上でその方の能力特性や職務適性を診断する独自の診断機能のこと。パーソナリティの特徴・上下関係適性・ストレス要因・マネジメント資質など、41項目の行動特性診断結果から、法人と転職希望者をマッチングするサービスです。
この診断を用いた新たな雇用モデルが、島根県の海士町(あまちょう)で誕生しました。都市から地方への採用・転職の常識を変える取り組みの様子をご紹介します。
地域産業の担い手の確保が難航する理由
今、地方では若年層の人口流出が続くなど、人材獲得や定着に大きな課題を抱えています。数多くの自治体でUターン・Iターンの促進や移住支援などが進められてはいるものの、採用や就業後の定着には多くの障壁があります。
その一つに、都市と地方での仕事の性質の違いが挙げられます。
都市での仕事の場合、雇用主は、「営業」「エンジニア」など業務ごとに採用を行うのが一般的です。一方、地方で発生する業務は、季節や曜日、自然状況や繁忙により増減するものが多く、事業者は季節によって必要な人員数が異なるため、人材の需給ギャップが生じやすいのです。
島根県の北に浮かぶ隠岐諸島の一つである海士町も、そんな悩みを抱える自治体の一つでした。
手つかずの自然が数多く残る海士町の観光シーズンは、夏。島旅を楽しむため多くの観光客が訪れ、ホテルなどの観光産業は繁忙期を迎えます。一方、海士町の特産品としてイカが知られていますが、イカ漁の最盛期は冬。町全体で季節ごとに人員が必要な仕事が異なり、事業者ごとの採用を行うだけでは、町として安定した地域産業の担い手を確保するのは難しい状況にありました。
町全体で仕事を創出・調整する仕組みに挑戦
そこで海士町は、2020年11月に「特定地域づくり事業」に挑戦する海士町複業協同組合(以下、組合)を発足させました。特定地域づくり事業とは、季節ごとの労働需要などに応じて複数の事業者の仕事に就く、いわば“マルチワーカー”に関わる派遣事業などを指します。(※)
この仕組みは、組合が雇用主となって、人材の確保や事業者と求職者とのマッチングを行うというものです。繁閑に応じて複数の事業者に人材を派遣する仕組みをとることで、町として季節ごとの人材需給を調整し、さらには「はたらき方のデザイン」ができる地域として町の魅力を高めることが狙いでした。
(※)海士町複業協同組合は、同年12月に「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」に基づく特定地域づくり事業協同組合として、国内で初めての認定を受けました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000070051.html
求めるのは“フィット感”
しかし、ここで大きな壁が立ちはだかります。それは、複数の事業者ではたらけるような人材を、町の外からどう採用するかという問題でした。
通常の中途採用であれば、経験やスキル、過去の実績を基にして求人を出すことが一般的です。ところが特定地域づくり事業では、個人は複数の職場ではたらくことになるため、経験やスキルを基にしたマッチングには限界があります。
さらに海士町という地域性も考えると、その方がこの町の暮らし方や仕事の仕方に馴染むかどうかが重要であり、採用においても「〇〇のスキルがある人」ではなく「海士町の雰囲気に合う人」こそが本質的な人材要件だったのです。
移住者に長く町に住んでもらうためにも、この“フィット感”は見過ごせないポイントでした。
“フィット感”という極めて抽象的な要件をどう叶えるのか──。これは海士町だけでなく、多くの自治体が抱えている採用・定着上の課題です。また、個人にとっても、自分がその町で馴染めるかどうかは、転職を決断する上で大きな不安の種となります。
移住を伴う採用・転職には、求人票の記載要件以上の、目に見えない難しさがあるのです。
「町に馴染む人」を、コンピテンシーを基に採用する
海士町からミイダスにお声がけをいただいたのは、2020年の暮れのこと。その人の行動特性をもとにして求職者と法人のフィッティングを行う「ミイダス コンピテンシー診断」を用いた採用が、課題を解決する一手になると考えられたためです。
まずはじめに、海士町とミイダスは、現町民や組合に参画する事業者の職員にコンピテンシー診断を実施しました。その結果「急な変化にも臨機応変に対応できる」、「変化にストレスを感じない」ことが、本採用における重要なファクターだということが明らかになりました。
次に、「ミイダス」に登録する転職希望者のうち、そのファクターと合致する対象者にオファーを送付。スキルや経験には一切制限をかけず、行動特性のみでのオファーを行った結果、すぐに数名の応募がありました。そしてオンラインで面接を進めていった結果、海士町の雰囲気にフィットする人材の採用に至ったのです。
移住して数か月…… イカの加工業務の後は、ホテルスタッフに
東京でITエンジニアとしてはたらいていた藤原 夏実さんは、「ミイダス」を通じて海士町へ移住・転職した一人です。
新卒から2年間エンジニアとして勤め、「もっといろんな仕事に挑戦したい」という気持ちから転職活動を始めるも、なんだかしっくりこない日々が続いていたそう。藤原さんは、自身の性格として「一つの会社でずっと同じことをするというのが、自分的にちょっと違うなという思いがありました」と語ります。
そんな中、SNSの広告で「ミイダス」と出会った藤原さん。コンピテンシー診断を受けて間もなく、海士町からのオファーが届きます。いろいろな仕事ができることに魅力を感じ、応募。面接の中で組合の職員とも会話を重ね、ついに移住・転職を決意しました。
今年4月に海士町に移住して最初に配属されたのは、水産食品などの加工を行う「CAS凍結センター」。イカや牡蠣の加工などに従事したあと、夏の観光シーズンからは、海士町内のホテル「Entô(エントウ)」で、ダイニングスタッフとして食事の提供などを行っています。
藤原さんは「いろいろな仕事ができてとても楽しい」と話し、海士町での出来事を自身のTwitterでも発信するなど、活き活きとした毎日を過ごしています。また、組合の職員も「町にフィットする人材が採用できて良かったです。このようなマルチワーカーとしてのはたらき方を海士町から発信し、全国に広げていきたいです」と話します。
多様な人材に活躍の機会を
組合の発足を通じた全国初の雇用モデルを生み出した海士町と、コンピテンシーを基にしたフィッティングを提供するミイダスのタッグにより実現したこの採用。
ミイダスのマーケティング担当の村尾 薫和は、「コンピテンシーによるフィッティングは『本当に活躍できる人』を探る上で非常に有効で、雰囲気などの相性が重要となる地方採用の場合は、より効果を発揮します」と話します。
さらに、採用において経験や年齢でなく行動特性を重視することは、より多くの人にはたらく機会を提供できる可能性も生み出します。
「労働力不足が叫ばれる中、経験や年齢に縛られない採用を行うことができれば、たとえばシニアやブランクのある方などそれまで採用対象になりにくかった人でも、行動特性が合えば十分に活躍できるかもしれません。そういう意味でも、職務経歴書では分からない特性を基にしたフィッティングには大きな価値があり、実際に、コンピテンシーを基に採用した法人さまからは多くの好評をいただいています」(村尾)
島根県から離れた離島という立地条件で、採用だけでなく、就業後の活躍・定着も見据えたコンピテンシーによるフィッティングの支援。今回活用したミイダス コンピテンシー診断なら地方の小さい企業や、未経験者採用などでも活用ができるでしょう。
海士町での事例は、今後の採用モデルを変革する第一歩となるかもしれません。