性別のバイアスに左右されず、“自分らしくはたらく”に大切なことは?
パーソルテクノロジースタッフ株式会社では、多様な人材が”はたらく”を通じて自己実現できるよう、さまざまな取り組みを行っています。その一つとして、4月23日、パーソルグループ社員を対象とした対談イベント「一緒に考える、これからの“My”キャリア」を開催しました。
IT系や製造業などは、長年男性の割合が多かった業界・業種。男性の仕事というような固定概念に捉われがちです。しかし、こうした業界で自分らしくはたらきたいと考える女性は少なくありません。そうした女性に、性別のバイアスに左右されずに、女性であっても長期的に活躍するイメージを抱き、自己実現のイメージが持てるようになって欲しいという想いからこのイベントを行いました。
登壇したのは、女性エンジニアとしてキャリアをスタートしたパーソルAVCテクノロジー株式会社 取締役であり、パナソニック株式会社 テクニクスブランド事業担当参与、アプライアンス社 副社長、さらにジャズピアニストとしての顔を持つ小川 理子と、パーソルテクノロジースタッフ株式会社 代表取締役社長 正木 慎二。二人に自分らしくはたらくことについて聞きました。
一部を抜粋してご紹介します。
<登壇者紹介>
小川 理子(おがわ みちこ)
パナソニック株式会社
テクニクスブランド事業担当参与、関西渉外・万博担当参与
(アプライアンス社 副社長 2017年4月~2021年3月末)
慶應義塾大学理工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)株式会社に入社。
音響研究所にて音響機器の企画、研究開発、商品化などを担当。
2014年 テクニクス事業推進室長に就任、高級オーディオブランドのテクニクス復活を総指揮。
2015年 役員に就任。アプライアンス社 常務、技術担当、デザイン担当、新規事業開発担当。
2017年 アプライアンス社 副社長に就任 。
2018年 大阪関西万博誘致の最終プレゼンテーションを担当。
2021年 テクニクスブランド事業担当参与、関西渉外・万博担当参与
その他、日本オーディオ協会 会長、マツダ株式会社 社外取締役を務める。
ジャズピアニストとしての顔も持ち、5回にわたり、関西フィルハーモニー管弦楽団と共演。
正木 慎二(まさき しんじ)
パーソルテクノロジースタッフ株式会社 代表取締役社長
1997年大学卒業後、テンプスタッフ株式会社(現:パーソルテンプスタッフ株式会社)に営業として入社。
新宿オフィスマネージャー、バイオメディカル事業本部長、東日本第一営業本部長などを経て、2016年よりパーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員。派遣社員がはたらきやすい仕組みやサービスなど派遣サービスにおける業務革新を担当。2020年より、パーソルテクノロジースタッフ株式会社 代表取締役社長に就任。
小川が「自分らしさ」を探すために決意したこと、
それは「仕事」と「音楽」の両方を生懸命にやることだった
――小川さんは最初のキャリアをオーディオエンジニアとしてスタートされました。なぜエンジニアに?
小川 理子(以下、小川):大学時代は理工学部で生体電子工学の研究室に所属していました。人間と自然と音楽が好きなので「人間が音を聞いたとき、心理的にどういう風に感じるのか」という音質に関しての研究をエンジニアリングの観点から行っていました。「社会人になっても音響を研究したい」と思い、いまのパナソニックを受けました。周囲の先輩から「これからはオーディオの時代じゃないよ」と言われてしまったのですが、私はどうしても音響がやりたかったので初志貫徹で。採用面接で「音響をやりたいです」とPRしたら、幸いにも音響研究所に配属してもらうことができました。
その後、パナソニックのブランドスローガンにふくまれる「世界文化の進展」という考えにも賛同し、「音の世界で文化をつくりたい」という青臭い志を持って7年ほどは楽しく没頭していました。
――ジャズピアニストとしても活躍されており、順風満帆なキャリアのように見えますが、挫折や苦労を経験されたことはありますか?
小川:挫折の連続で、どろどろのキャリアですよ。最初の転機になったのは30歳のころです。バブルが崩壊して、所属していた研究所も、取り組んでいたプロジェクトも解散になってしまった。年齢的に「結婚しなきゃ」という焦りもあり、会社を辞めようかなと思うほど落ち込んでいました。
半年くらいはモヤモヤしていたと思います。でも、そんなとき休暇を利用して気分転換で行ったニューヨークで、友人と会ったり、夜ライブに行って音楽を聴いたりしているうちに、「自分はなんて小さいことで悩んでいるのだろう」と思ったんです。これからハイレゾリューション(CDより高解像度な音源)技術やインターネットを通じたコンテンツ配信が進む中で、まだまだ自分にもやれることがあるはず。ここで諦めるわけにはいかない、と思いました。
一度は離れていた音楽を再度やることになったのも、このころです。ニューオリンズジャズのドラマーとしても活躍していた上司が、落ち込んでいる私を励ますために誘ってくれたのをきっかけにジャズを始めました。
しかし、ある方から「君がやっていることは、仕事も音楽も中途半端だね」と言われて。もう腹が立って。そんなことを言わせないように、仕事も音楽も100%で両立させようと決意しました。
いろんな人に相談もしました。先輩たちから「会社だから組織や仕事がなくなることはある。小川さんらしい生き方をしたらいいんじゃない?」というアドバイスをもらい、私らしい生き方を探すために、まずは仕事と音楽を一生懸命やることにしました。
――仕事も音楽も両方を全力でやると決めた後も、挫折があったと伺いましたが……。
小川:はい。その後、時代はオーディオよりも映像、デジタルネットワークへとシフトしていき、オーディオ事業はどんどん縮小し、私はまたオーディオの仕事を続けられなくなってしまいました。
そのとき、「ネットワーク事業でマネジャーをやらないか」と先輩から誘われました。まったく新しいことへの挑戦に思いましたが、先輩から「映像・音響のコンテンツを提供するには通信技術だけではなく、小川さんのようにコンテンツを理解できる人が必要だ」と言ってもらえたこともあり、チャレンジしました。
「自分らしさ」と「あるべき」を両立するために、自分の強みを自覚する。
2人の強みとは⁉
――自分らしさと、家族や組織から求められるあるべき姿との葛藤はありましたか?
小川:自分らしさとあるべき姿は二律背反ではなく共存できると思います。私がやってきた音楽と会社の仕事は、まさに「らしさ」と「あるべき」でしたから。
ただ、両立するためには、自分の強みを知り磨かなければならないと思います。強みでもない、得意でもないことを嫌々やっているのでは、自分らしくないし、周りから見てもいいリーダーには見えませんよね。
小川:いま、これだけ「多様性」と言われる時代に大事なのは、ほかの人から「何で覚えられるか」ということだと思っています。
私にとっては、音響が30年間磨き続けてきた強みでもあり武器でもあり個性です。
周囲からも「“音”の小川」と覚えてもらえて、さまざまな機会に恵まれて来ました。その結果、「音響研究開発」「ネットワーク事業」「ブランドコミュニケーション(CSR、社会貢献)」とまったく異なる3つのキャリアを通して、点でやってきた経験が繋がって線になり、面にしていくことで強みがさらに磨かれてきたと思います。
オーディオブランドのTechnics(テクニクス)を復活に際して、事業責任者としてアサインされましたときは、経験してきたことがすべて繋がったようで、とても不思議でした。
――なるほど。正木さんは、ご自身の強みをどう捉えていますか?
正木 慎二(以下、正木):派遣のビジネスだったら絶対負けないと言えますね。もともと営業に自信があって「営業なら負けない」と思っていました。その後、システム部門や管理部門などいろいろ経験させてもらい、いまは営業だけではなく、派遣に関わること全部負けない」と言えるようになりましたね。
「目の前のことに没頭する」「諦めない」が重要!
――小川さんにとっての「音」のように、強みが明確になっていない人はどうやって見つければよいのでしょうか。
小川:好奇心を持ってアンテナを高くするということだと思います。「会社と家の往復で毎日しんどい」ということだけじゃなくて、遊びなども含めて多様な経験をすると、いろいろ気付けるようになります。その状態で与えられた役割を100%の力でやると必ず何かが見えてくるはず。まずは目の前のことに没頭してやり抜くことですね。
正木:パーソル創業者の篠原 欣子さんからも、同じような話を聞いたことがあります。「まずは、いま、目の前にある仕事で『誰にも負けない』と言えるようになりなさい」と。もしそれが単純なルーチンワークだったとしても、自分なりに工夫を重ねることで、自分にしかできない仕事になるはず。飛び込み営業でも量だけは負けないようにしようとか、小さな一部分だけでも負けないことをつくると自分の得意なことが見えてきますよね。
小川:そうですね。そうすれば、そのように頑張っている姿を周りの誰かが見てくれて、次のチャンスにも繋がってきますしね。
――お二人にとっての「音」や「営業」などの技術的に突出した何かではなく、こういうことも自分らしさかなと思うことはありますか?
小川:私の場合は常にポジティブなんです。落ち込むことも、くじけることもあるけど「こんなことでくよくよしても仕方ない。なんとかできる」と、どんなことでも切り替えられる。それも私らしさです。
正木:私も新卒でまったく売れない営業だったときから、「調子はどうだ?」と聞かれたら、どんなに調子が悪くても「絶好調です!」と言うと決めていました。
小川:それは素晴らしいですね。若手時代、上司から「世の中のエンジニアには2種類ある。難題を吹っ掛けたとき、何も考えずに『簡単です』って言ってから考えるタイプと、最初から『できません』って言うタイプがいる。お前は前者になれ」と言われました。
女性エンジニアが活躍できる環境・チャンスをつくるために
正木:現在、パーソルグループでも女性の活躍推進のためにいろいろな取り組みを行っています。エンジニア部門においては男性が多いですが、優秀な女性エンジニアも大勢います。女性エンジニアからも選ばれる会社になれるよう、さまざまな施策に取り組んでいるところです。
小川:いま進んでいるテレワークもチャンスですよね。これを機に女性のはたらき方をブレイクスルーしていけると、男性優位だったものづくりの現場も変わってくると思います。
正木:ものづくり系はIT系と比べるとテレワークが進んでいない傾向にあります。「リモートワークは絶対できない」という会社でも、一つひとつ紐解いていくと「じゃあ、試してみようか」と言っていただけることも少なくありません。
――経営者の観点からリモートワークに向けた取り組みを推進する一方で、個人側も変わったほうがいいと思うことはありますか?
小川:女性の中には「子育てと両立できないのではないか」、男性の中には「こんな仕事を女性に任せてはいけない」というような、それぞれのアンコンシャス・バイアスがあると思いますが、そういうことを抜きにして肩の力を抜いて自然体で挑戦してみたらいいと思います。特にエンジニアの方は皆さん真面目なので、「100%完璧にこなさなければ」と思っている人が多いでしょうけれど、100%できる人なんてまずいません。得意なことをやって、自分にできないことはチームの人に補完してもらえばいいですから。
正木:先日、当社の女性マネジャーと話していたときに「自分の境遇と同じようなロールモデルがいない」という話を聞きました。エンジニア領域は男性が多いので確かに女性のロールモデルは近くにいないかもしれませんが、アンテナを立てるというか、自分が見えている範囲から少し背伸びして遠くを見てみてほしいなと思いますね。小川さんのように活躍されている女性が大勢いますから。