連載|平成の「はたらく」とこれから【新時代に私たちが幸せに働き続けるための4つのヒント】

激動の平成時代の働く環境や意識の変遷を振り返り、新時代を生き抜くためのヒントを、
「正社員」「アルバイト・パート」「派遣」の3つのテーマで探していきます。

学費や生活費を稼ぎたい。ブランド物やバイクを買いたい。流行のお店で働いてSNSで人気者になりたい。スキルアップしたい。家計を支えたい――「アルバイト・パート」と一口に言っても、その目的や働き方は人によりさまざまです。平成という激動の時代の中で、働き手も、仕事の内容も大きく変化してきました。
そんな平成のアルバイト市場では何が起こり、そして、これからどのように変わっていくのか…。

第二回は、インターネット黎明期からウェブ業界に携わり、小売・人材・出版、IT企業でサービスプロデュースなどに携わった実績を持ち、現在は日本で最も歴史のあるアルバイト求人情報サービス「an」編集長を務める川合 恵太が、アルバイトの歴史を振り返り、新時代の働き方を予測します。


【主なトピック】
・空前の好景気。アルバイトの目的は、「生活や学費」から「ステータス」へ
・深刻な景気後退や就職氷河期、人材不足の荒波の中で変わったこと
・アルバイトの定義がガラッと変わる。より自由で幸せなライフスタイルの選択肢の一つに
・AIやロボットにできなくて、人にしかできないことって、何だろう


■空前の好景気。アルバイトの目的は、「生活や学費」から「ステータス」へ

―― 平成の30年間、アルバイト市場は大きく変化してきたと思います。この中で、どんなトレンドがあったのでしょうか。

川合 ¦ 平成を振り返ると、大きくわけて「バブル絶頂期」「就職氷河期」「現在」に分けることができると思います。
まずは、バブル期。当時は空前の好景気で、日経平均株価は史上最高値の39,000円近くを記録しました。こうした好景気を背景に、全職種で採用ニーズが高まり、特に建設現場や製造業のほか、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどのチェーン店の採用ニーズの高まりは顕著でした。

―― 働く個人の視点ではどうでしょうか。

川合 ¦ バブル期は、アルバイトへの意識が大きく変化した時期です。高度経済成長期は、学費や生活費のためにアルバイトをする学生が多く、仕事内容を気にしている人はそんなに多くありませんでした。それがバブル絶頂期の平成初期は、「欲しいモノを買いたい」「かっこいい職場で働きたい」というステータス志向が高まっていった時期でもあります。私も当時は大学生でしたが、友人はアルバイト代を貯めてDCブランドや、高価なバイクを買っていました。あとは映画のヒットで、スキー場などのリゾートや大型レジャー施設や、カラオケ店やプールバーでのアルバイトが人気に……。ちょっと懐かしいですね(笑)。
自由な働き方として、フリーターを選択する若者が出てきたのも、この時期です。また、アルバイトニーズが高まったことで、これまで専業主婦であった女性などが気軽に仕事を始めるという動きがあり、共働き世帯が増加していったことも特徴的です。アルバイトという働き方を選ぶ人は、学生だけではなくなってきました。

■深刻な景気後退や就職氷河期、人材不足の荒波の中で変わったこと

―― バブルがはじけた後の状況はどうだったのでしょうか。

川合 ¦ 特に高度経済成長期からバブル期を支えた、製造業や建設業など基幹産業の縮小で、求人数全体が減少しました。一方で、コンビニエンスストアやファストフードチェーンは堅調で、販売・飲食・サービス業の求人の割合が増加しました。

―― 就職氷河期の影響で、大卒で就職できなかった人がフリーターとなるケースも増加しましたね。

川合 ¦ バブル期はフリーターが「自由でかっこいい生き方」で、積極的にその道を選んでいた人が多かったのですが、この時代は就職が決まらないためフリーターを選択する若者が目立ちました。しかし、厳しい状況の中でも、自分のやりたいことを見つめ直したり、アルバイトをしながら資格に挑戦したり、前向きな生き方をする若者の姿もありました。

―― 2000年代から現在までの平成後期も波乱万丈ですが、変化のポイントは。

川合 ¦ 2000年代、有効求人倍率は1倍を超える状況まで一旦回復しましたが、リーマンショックで0.4倍に落ち込みました。そこから2012年には0.75倍。本当に浮き沈みが激しいですね。現在は、1.6倍強、人材不足が大きな課題です。産業全体を見ると、やはりITなしでは語れません。インターネットが発展して、新しい求人サイトが続々と誕生しました。そして、スマートフォンの誕生と普及、SNSの盛り上がり。働き手としても、スマホ一つでいろんな情報が手に入るようになって、価値観や目的に合ったアルバイトを選択しやすくなりました。
個人の志向では、価値観の多様化。みんなが同じものを欲しがったバブル時代とは違い、一人ひとりの求めるものが多様になりました。従来のように物を買うことだけではなく、趣味のため、スキルアップのため、就職活動対策のためなど、より自分の人生に根差した目的意識も生まれてきたのです。
働きやすさ、待遇の良さ、人間関係、制服のかわいらしさなど、環境や待遇を重視する人も増えています。ご存知と思いますが「インスタ映え」もキーワードで、SNSで発信力のあるショップスタッフが人気を集めるなど、「個」の価値観が際立つ時代を反映していると感じます。

―― 労働力不足の中、価値観の多様化に応えるために、企業はどのようなことをしているのでしょうか。

川合 ¦ アルバイトを単なる労働力として捉えるのではなく、彼らの「目的志向」に応えるような支援型の企業が出てきています。一つ例をあげると、就職活動のサポートです。販売・飲食業界では自社への正社員登用は以前からありました。しかし、いま注目されているのは、自社ではなく他社への就職活動のために、エントリーシートの添削や面接対策をする動きです。今後もこうした、就業者の悩みに寄り添う企業は増えていくのではないでしょうか。
シニア層や外国人の採用も活発化しています。人材不足が進んでいく中で、企業はさまざまな人にとって働きやすい環境を整え、戦力にしていくことを意識する必要があります。

■アルバイトの定義が、ガラッと変わる。より自由で幸せなライフスタイルの選択肢の一つに

―― テクノロジーの発展は、産業にも私たちの生活にも大きな変化をもたらすと思いますが、アルバイトの働き方はどのように変わるのでしょうか。

川合 ¦ まずは、個人とアルバイト求人とのマッチングが、短時間でより正確にできるようになると考えています。「この限られた時間だけ働きたい」など、スポット的なニーズを叶えることはできませんでした。しかし今後は、そういったマッチングもできるようになるでしょう。これまで学業が忙しく時間が取れなかった学生や、配偶者の転勤で就労をあきらめていた主婦などに、チャンスが広がるのではないかと思います。
インターネットやテクノロジーをベースとした求人も増加するでしょう。より専門的なスキルや、創造性が発揮できるフィールドが広がります。そうなると、画一的だったアルバイトの賃金体系が、スキルや能力によって変動するということも起こっていくはずです。
さらには、リモートワークが可能となって、働く場所も選べるようになるかもしれません。首都圏に住んでいた人が、自然豊かな環境に移住し、そこから都会へ通勤せずに自宅や近隣で働く。それが、その人の生活を豊かにすることにも繋がりますし、地方活性化の一助にもなると思います。

―― つまり、アルバイト市場はより広く、より多様な選択肢が生まれる可能性があるということですか。

川合 ¦ そう思います。これからはアルバイトだけでなく、働き方そのものに対する価値観や定義が、ガラリと変わっていく時代だと思っています。一つの可能性として、アルバイトや正社員、派遣社員というものは、固定の肩書ではなく、その人のそのときの単なる契約形態の状態を示す言葉になると思うのです。
さまざまな働き方を組み合わせて、すき間時間も効率よく稼いだり、能力に見合った賃金を得られたり、場所に捉われない働き方ができたり。これまでの働き方を変えたくない人も、変えたい人も、とにかく選択ができるようになる。もちろん、急に変わるわけではないですが、一人ひとりの幸せの形を追求できるような世界となっていくでしょう。

■AIやロボットにできなくて、人にしかできないことって、何だろう

―― テクノロジーの発展によって「機械に仕事が奪われるのでは」という危機感を持っている人もいます。そんな心配を抱える方に伝えたいことはありますか。

川合 ¦ 機械に代替されないのは「非認知能力」が必要とされる領域だと思います。非認知能力とは、正解のないところからゴールを導き出す創造性や忍耐力であったり、人と関わるための社会性、協調性や道徳性のことで、いわゆる「コミュニケーション能力」も含まれます。幼児教育などにも取り入れられている注目のキーワードですが、これが働く領域でもより重視されるようになると思います。テクノロジーが発展していくからこそ、人間にしかできない領域や仕事に注目が集まるのは間違いないでしょうね。
例えば、介護業界や飲食業界で「接客」をサービス価値としている企業では、機械では代用できない「顧客満足度」の部分として、「人」が求められるでしょう。人柄も含めてサービスのスキルが高い人は、年齢・性別問わず評価が高まるはずです。

―― その「非認知能力」を高めるにはどうしたら良いのでしょうか。

川合 ¦ まずは自身の得意、不得意を意識するというところからでしょうか。「セルフコーチング」は大切だと思います。私自身も、毎日自分の感情を整理するために日記をつけるようにしています。自分に対して客観的になり、問題と認識した行動パターンを変えることができれば、非認知能力は鍛えられるものだと思います。

―― 「同一労働同一賃金」の議論など、アルバイトと正社員などの格差是正の動きもあります。世の中の流れとして、今後はアルバイトにとっても納得感のある環境になっていくのでしょうか。

川合 ¦ 改善されていくでしょう。アルバイトの労働人口が増え、そのインパクトが大きくなっていく中、近年の国策として、パートタイム労働法改正である「待遇の差に不合理があってはならない」を起点に、格差が見直されていくのは間違いありません。
「同一労働同一賃金」の考えが進むと、今までの雇用形態も変わってくるはず。アルバイト・パートの条件面を、より明文化する動きも出てくると思います。
すべての人が、ライフスタイルや価値観に合わせて雇用形態や働き方を選ぶことで、より広い意味での納得感のある状態に近づいていくのだと思いますし、そう願っています。

―― ありがとうございました。

次回は、派遣社員の働き方について、パーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員の正木 慎二が語ります。

正社員領域の働き方はこちらからご覧いただけます。


【プロフィール】
川合 恵太/パーソルキャリア株式会社 「an」編集長

1995年に大学卒業後、制作会社に入社。インターネット黎明期から、デザイナー、ディレクターとしてWebビジネスに携わる。1998年にはWebコンサルティング会社を設立し、九州地方でインターネットを活用した地域活性化プロジェクトに携わり、有田焼のECサイトの立ち上げなどをリードする。その後、2008年に楽天へ入社し楽天証券へ出向。スマートフォン向けのサービス企画部門を立ち上げ、証券業界でもっとも利用されるアプリの1つにまで成長させる。2017年パーソルキャリアに入社し、現職であるアルバイト求人情報サービス「an」のプロダクトマーケティング部門統括部長として従事。

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