<還暦以降の私のはたらき方②>私がはたらき続けるのは誰かの明日を支え続けたいと思うから

人生100年時代に伴い、はたらく期間が今よりも長くなっていくと言われています。はたして自分は何歳まではたらくのか、何歳まではたらけるのか、はたらいた方がいいのか、不安を募らせている方もいるかもしれません。

そんな中、パーソルグループには、還暦を過ぎてもはたらき続けることを前向きにとらえ、現役で活躍し続ける社員がいます。彼らがはたらき続ける理由とは何か。3名の社員に聞きました。第二回は、パーソルキャリアコンサルティング株式会社の鳥居 和代です。

鳥居 和代
パーソルキャリアコンサルティング株式会社にて、キャリアコンサルタントとして従事。再就職支援サービスやグループ会社の登録スタッフの方や、企業の社員に対してのキャリアカウンセリングサービスなどを担当。現在68歳。

結婚しても当たり前のように女性がはたらけること。たとえ離婚したとしても、それは次へのステップとして寛容に受け入れられること。女性活躍の推進はまだ道半ばと言われていますが、鳥居の話を聞き進めるうちに、現代の女性は以前よりは生きやすくなったと感じさせられます。

2人の娘を必死で育ててきた鳥居には、キャリアの選択肢は多くありませんでした。それでも、その限られた選択肢の中から自分なりの嗅覚や判断軸をもとに、68歳の今もキャリアコンサルタントの仕事へ前向きに取り組んでいます。

目次

「失敗ばかりの人生だった」

鳥居は、高校卒業後に営業事務の仕事に就き、その2年後に寿退社をしました。その当時は家庭に入ることが当然の風潮の中で、家事と子育てに専念。しかし、結婚から12年後に結婚生活は終わりを迎えます。離婚後は、とにかく娘2人を食べさせなければならず、32歳の時、居住地の奈良県から通えるということが主な理由で不動産会社に就職。その仕事がやりたいか、向いているかなど言っていられません。ただひたすらに、経理や総務・人事など管理業務を一手に担当しました。その後、会社の方針で休日が減ることに。子どもとの時間をつくるため、それまでの管理業務を強みとしてなんとか高級輸入オフィス家具を扱う会社に転職。そこで一つの転機が訪れます。

「営業が足りない、という話になったので、『あ、じゃあ、私やります』って手を挙げました。営業経験なんてなかったですけどね。でも、その会社で扱う家具はとても好きだったので、これらをお客さまに紹介できるならと、喜んで飛び込み営業もしていました。仕事はとても面白かったです」

実は、仕事や子育てと並行して、通信制の大学にも通っていた鳥居。こんなに仕事に貪欲でバイタリティのある人が、なぜ当時はあっさり結婚と同時に家庭に入ったのか。鳥居は「失敗ばかりの人生だった」と冷静に振り返ります。

「暴力の絶えない家庭から早く抜け出したかったんです。その一番の近道が進学することより早くはたらくことであり、親や親戚が喜び、当時の女性の大半がそうであったように結婚することだと思ったのです。結婚してしばらくして『私、大変なことしちゃったなー』って内心では気付いていても、自分が選んだ道だと自分を納得させるしかなかった。そうこうしているうちに運よく子どもができ、その後は子育てに夢中になれたのですが、ふと落ち着いたころに『自分をだまし続ける生活をいつまでするのだろう』って我に返りました。これ以上自分に嘘をついているわけにはいかないと思って離婚に踏み切りました」

当時は「離婚は恥ずかしいこと」という風潮だったため、親戚からも心無い言葉が投げられました。それでも自分に正直に生きよう──、そんな決意が生まれたからこそ、その後、キャリアを積み重ねていく過程でも、自分が信じたことに対してまっすぐ向き合えてきたのでしょう。

家具メーカー時代の一幕。

自分に正直に、そして自信を持って進むことで拓けた道

とても好きな家具ではあったものの、「物の魅力を提案すること」よりも「人の魅力で提案すること」への興味が高まった鳥居。元来、知識欲も強いので、「人」を知るためにカウンセリングを勉強し始めたころに、パーソルとの出会いが訪れます。グループ会社のテンブロス(現パーソルフィールドスタッフ)で派遣スタッフのカウンセリング担当を未経験で募集していたのです。まさに興味を持っていた分野、しかも未経験でもチャレンジできることから入社。2001年のことでした。その後はコーディネーターとして派遣スタッフの方と向き合い続け、2009年に現業務であるパーソルキャリアコンサルティングへ異動となります。

「コーディネーター時代にキャリアカウンセリングの資格を取っていたことが一つのきっかけになったのだと思います。異動してからも、キャリアコンサルタントの国家資格や産業カウンセラー資格も取得しました。はたらきながら学ばせていただく機会に恵まれてきましたね」

わずかに芽生えた「人」への興味やカウンセリングへの想いを大事にし、その機会を鳥居自身が最大限に活かしていることが、プロのキャリアコンサルタントにつながっているのです。

資格の勉強にも夢中で取り組んだ

求めてくれる人がいる限り、辞められない

「還暦を迎えたとき、何か心境の変化はありましたか?」という質問に対しての鳥居の回答は実に気持ちのいいものでした。

「60歳?還暦?何それ?って感じでしたよ(笑)。だって自分は何も変わっていないんですもん。今も仕事を続けているのは、当然ながらお金の問題もあります。専業主婦の時代があったので年金が低いということもあります。でも、求職者の方が新しい会社に入社が決まって、無事に卒業していくじゃないですか。『何かあったら、また連絡していいですか?』っておっしゃるんですよ。『もちろんです』って返答しちゃうので、『これは辞められない!』ってなっています(笑)」

そして本当に連絡がくるのです。ちょっと話を聞いてあげるだけ、そう鳥居は言いますが、かつての求職者たちは鳥居がそこにいて聞いてくれるだけで、どれだけ心が安らかになっていることでしょう。

実は今、鳥居はグループ会社のパーソルテンプスタッフ、パーソルエクセルHRパートナーズに登録している派遣スタッフの方のキャリアカウンセリングも担当しています。

「純粋に楽しいということもありますが、つくづく感じるのは、皆さん話せる場がなかなかないんですよね。私はただただ話を聞いているだけなのに、自分で気付きを得られる方や泣き出してしまう方もいらっしゃいます。私にできることは大それたことではないですが、少なくとも適切な情報をお伝えしながら、話を聞いてあげることは大切にしていきたいですね。これまで生かされてきて、こうしてはたらかせてもらえていることに感謝しています。私は多くの人に支えてもらえたからこそ、ここまでこれました。だから私も多くの人を支えてあげたいのです。世の中を良くしていけるような機会があれば、何歳になってもぜひやりたい」

「ぜひやりたい」の言葉に、この人についていきたいと思わせる強さと優しさが凝縮されているのです。

頭だけではなく心で仕事をする。これが私の生きる道

鳥居には今、やりたいことや新たに始めていることが溢れています。その興味の先も実に多彩。一つは外国の文化に触れること。そのアプローチはユニークで、その国を取り上げる映画や絵画からさまざまな情報をインプットしています。福祉が進んでいる北欧は日本と何が違うのか、純粋な興味から始まったものが結果的にカウンセリングする際の話のネタにもなっています。美術館巡りは30年以上も続けているそうです。最近では絵を描くことが好きな小学4年生の双子のお孫さんとも出かけるようになっているとか。一つの作品を見ながら、お孫さんとじっくり語るそうです。そのほかにも……。

「実は以前から福祉にも興味があって、一時期勉強していました。途中で止まってしまっているのでそろそろ始めたいですね。やり方はまだ検討段階ですが、これまでの自分がそうであったように、あまりカチッと決めずにやっていこうと思っています。自分が思い続け、それから少し行動すれば何かにつながっていくというか。不可能なことでも奇跡は起きるだろうなって思っています」

興味あることから情報を吸収し、新しい視点を取り入れる。そして自分自身を俯瞰してチェックする。このことがここ数年間で習慣化されていることが、鳥居が「60歳になっても何も変わらない」と力説する所以なのです。

最後に、これから還暦を迎える人たちへ向けて、メッセージをもらいました。

「仕事って頭を使うことはもちろん大事ですけど、同時に心も使うべきだなってしみじみ思うんです。頭で論理的に進める場面も当然ありますが、結局、最後は人と人。心で感じて心で伝えることも忘れないようにしてほしいなと思います。あとは今をしっかり生きること!『人事を尽くして天命を待つ』ですね」

ちょっと喋りすぎちゃった、と照れる鳥居は本当にチャーミング。こんなふうに還暦以降の人生を過ごしたいと思わせることも、また鳥居の強みなのです。

趣味の美術館巡りで。画集や図録のコレクションはどんどん増えていく。
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