中山秀征氏も挑戦!視覚障害者が手で触りながら楽しむ「触覚書道」体験イベントを開催【パーソルサンクス30周年】

パーソルグループで障害者雇用を手掛けるパーソルサンクス株式会社は2021年12月12日に創業30周年を迎えました。それを記念して2021年12月13日から2022年1月31日の間、「わたしにとっての笑顔」をテーマにしたアート作品をグループ社員やその家族から募集。
3月23日から30日の1週間にわたり、パーソル南青山ビルにて集まった作品の展覧会を、パラリンアート世界大会を運営する一般社団法人 障がい者自立推進機構(※1)の協力のもと実施し、3月29日には、パラリンアート理事を務めるタレントの中山 秀征氏をお招きして「タレントの中山 秀征氏と視覚障害者が手の先で楽しむ『触覚書道』体験イベント」を開催しました。
(上写真:左から、パーソルホールディングス 代表取締役社長 CEOの和田 孝雄、中山 秀征氏、パーソルサンクスの竹井 真紀子、パーソルサンクス 代表取締役社長の中村 淳。手にもっているのは、竹井がこの日のために作成した触覚書道の作品)

今回のイベントを行うきっかけとなったのは、パーソルサンクスに勤務する視覚障害のある竹井 真紀子が応募した「触覚書道」の作品でした。この「触覚書道」は、書道・刻字家の池山 光琇先生(※2)が考案し、竹井も先生に案を出すなど研究に携わっています。

触覚書道は、刻字の技法をもとに生まれた新しい書道スタイル。刻字は、“書”を木に写してノミで彫り、そこに着色をしたり、箔を貼るなどして芸術作品として仕上げるもの。それに対し触覚書道は、筆にオレンジの皮から採取し精製した「リモネン」という発泡スチロールを溶かす性質をもつ天然オイルをつけて、発泡スチロールを溶かしながら文字を書き進めていきます。オイルが乾いたら最後に凹んだ文字部分に色を付けて完成です。
この書道スタイルは、視覚障害者が自ら手でなぞりながら毛筆書道が体験できるよう、また、指先であらかじめ書かれている書の世界を楽しんでもらいたい、といった想いのもとで考案されました。

展覧会会場に飾られていた竹井の作品。作品タイトルは「夏の湖」

本記事では、イベント当日の様子と竹井のショートインタビューをお届けします。

当日の様子

イベントが行われたのは、壁面にたくさんのアートが飾られている展覧会会場です。

まずは、パーソルホールディングス 代表取締役社長 CEOの和田 孝雄がグループビジョンや今回の展覧会の趣旨を説明。次にパーソルサンクス 代表取締役社長の中村 淳がパーソルサンクスの30年の歩みを含めた事業説明を行いました。

その後、障がい者自立推進機構の「パラリンアート」理事でもある中山 秀征氏が登場!「30周年おめでとうございます!」という祝辞のあと、次のようなメッセージが贈られました。(一部抜粋・編集)

「パーソルグループさんには、障害者の皆さんが自分の作品を多くの人に見てもらえる場面を作っていただいていることに、パラリンアートの理事としてすごく感謝をしております。回を重ねるごとに大会も大きくなり、さまざまな国からたくさんの方に参加していただいています。
また、私は群馬県出身で、故郷のとても近いところに富岡製糸場があります。パーソルサンクスさんは、富岡市に工房があり、そこで蚕の飼育や繭の生産をされていると聞きました。養蚕産業は、地元の老齢化が進む中、後継者不足ではたらき手がどんどん減っています。
パーソルサンクスさんのこういった取り組みは、障害者の皆さんがはたらく場を提供するとともに地域貢献にもつながっていると思います。
これからも、多くの方がはたらける場面、笑顔になれる場面をつくってくださることを期待しております!」

目次

特殊なオイルを使って書く、「触覚書道」を体験!

続いて今回のメインプログラム、触覚書道体験が行われました。体験したのは、中山氏、和田、そして竹井の3人です。

まずは、パーソルサンクスの竹井による実演が、書道の池山先生による触覚書道の説明とともに行われました。竹井が書いた字は「人」。「パーソルから連想してこの字を選びました」と竹井。

竹井の実演中、このあと体験をする中山氏は竹井の手元を真剣に観察。また、筆につけるオレンジの皮から精製した「リモネン」が入った小瓶の蓋が開けられると、「柑橘のいい香りがする!」とも。

続いて、中山氏と和田も触覚書道に挑戦!視覚障害者が触覚書道を行う際の感覚をリアルに感じてもらうために中山氏と和田にはアイマスクをしてもらいました。
アイマスクを付けた瞬間、中山氏は「もう不安です……」と一言。竹井も含め、それぞれが好きな漢字1文字を発泡スチロールに書きました。

小学生のころから書道を続けている中山氏も苦戦。書き終えた後、中山氏と和田はアイマスクを外し、自身の作品を見ながら感想を次のように述べました。

中山氏:筆の走りの感覚はあるんですけど、サイズ感がないし、バランスが難しいですね。こぢんまりしてしまいました。

和田:福笑いを思い出しました。思っているのと全然違うところや、発泡スチロールからはみ出たところに筆先を置いてしまうんではないかと不安になりますね。

中山氏と和田が書いた字は、偶然にも同じ「心」。竹井は「川」と書きました。
そして、オイルに反応して溶けて凹んだ部分がしっかりと乾いてからマーカーで色をつけ、作品は完成!

こうして触覚書道を通じて視覚障害者の感覚を体験しながら書道を楽しみ、最後にフォトセッションを行いイベントは幕を閉じました。

ショートインタビュー イベント終了後に直撃取材!

竹井 真紀子に聞きました。~触覚書道との出会い、魅力、これから~

――作品が展示され、イベントプログラムとしても触覚書道の体験が行われましたが、今、どんなお気持ちですか?

竹井:今日初めて展覧会会場に来たのですが、皆さんが触覚書道について話しているのを聞いて、「やったー!みんなの心をつかむことができた!」と感じています。30周年という記念のイベントで取り上げていただき、体験もしていただけて、本当にうれしいです。

――パーソルサンクス30周年記念のアート作品募集に応募しようと思った理由を教えてください。

竹井:アート募集と聞いたときは、絵じゃないから応募できないんだろうな、と思ったんです。でも、募集作品に「書道」も入っていて。それなら、絶対興味をもってもらえるだろうな、って思って応募しました。

――応募された作品は「湖」という字でしたが、なぜこの字を選ばれたのですか?

竹井:募集テーマに「笑顔」という言葉があったので、私が一番落ち着いて幸せを感じることができる場所を考えました。

昔、まだ少し見えていたときに家族と一緒に行った湖が、深い青色や淡い水色に輝いてとてもきれいだったのを覚えていて。その時のことが良い思い出となっているので、「湖」という字にしました。色は先生と相談しながら、そのときの湖を思い起こすようなブルー3色にしました。
今日、イベント内で「川」と書いたのは、湖と水つながりの字にしたいと思ったのと小川のせせらぎが大好きだから。そして「川」には書道の基本(筆の入れ方や線のはらいかた、筆の止め方や抜き方等)がつまっているので、触覚書道でも細かな違いを感じることができるということを皆さんにもぜひお伝えしたかったからです。

――触覚書道は池山先生が考案し、竹井さんも一緒に研究をされているそうですね。きっかけを教えてください。

竹井:先生との出会いは2年ほど前です。夫の知人に絵を描く人がいて、その方から『触って楽しめる書道を考えたいと言っている先生がいるのだが、視覚障害のある人でそのようなことに興味がある人はいないだろうか……』と相談を受けたのがきっかけです。
それならば私たちでもお役に立てるのではないかと思い、さっそく先生と引き合わせていただきました。
触覚書道の方法は今もまだ先生と一緒に研究中ですが、ここに至るまでも試行錯誤の連続でした。

――どんなことが大変でしたか?

竹井:触って分かるためには凹凸を付けなくてはなりません。先生から発泡スチロールを溶かす処理剤として用いられているリモネンオイルなら柑橘系の匂いだし、手についても安全なのでこれを使ってみたらどうかとのご提案をいただき、今、これを使って触覚書道をしているわけですが、そこにたどり着くまでにいろんなアイディアを出し合いましたね。板にゴムを張り付けて印鑑のように押して凹凸を出してはどうかとか、文字を書くとその部分がぷくりと浮き上がってくるペンを使ったらどうかとか……。

――最終的にリモネンオイルを使うことにしたのはなぜですか?

竹井:リモネンオイルなら従来の墨汁を使う書道と同じ小筆を使えます。
それに視覚障害者は文字を書くとき、筆を持っていない手を筆先に添えて文字を書いたりしがちです。そうしたときでも、リモネンオイルは透明な天然オイルなので安全ですし、手が汚れることもありません。またすぐに発泡スチロールがへこんでくるので、手で確認しながら文字を書いていくことができます。
それに、書いた後は2~3分で乾くので完成までの時間がかかりません。すぐに誰かと書いた字を見せ合うことができるのもこのリモネンオイルと触覚書道の魅力の一つです。

――最後に、今後の意気込みを教えてください。

竹井:今、先生と一緒に展覧会に向けて4回1クールのワークショップを行なっています。もっとたくさんの人に楽しんでもらえるよう、触覚書道を広めていきたいです。また、作品によって素材を選べたらさらに楽しいと思うので、もっと重厚感のある素材とか、いろいろ探して試していきたいなと思っています。
私自身のことでは、書道の基本を学びきれていないので、引き続き学び、バランスの良いきれいな字を書けるようにがんばっていきたいと思っています。
最終的には先生のように、いつか自分の書で刻字作品を作ってみるのが目標です。周囲は「危ない」と止めるのですが、学生時代にはノミや彫刻刀も一通り使ったことはあるので。ぜひ挑戦してみたいです!


(※1)パラリンアートは、障害者アーティストと一つのチームになり、社会保障費に依存せず、民間企業・個人の継続協力で障害者⽀援を継続できる社会貢献型事業を⾏っています。2019年からは毎年世界各国の障害者からアート作品を募集して行うコンテスト「パラリンアート世界大会」を開催。パーソルホールディングス株式会社は第一回目の大会から4年にわたり協賛しています。

(※2)池山 光琇(KOUSYU)先生

13才より書道を始め、書道歴、刻字歴40年以上。東京都世田谷区にて”光栄書道会”を開設し、初心者から有段者まで個々に応じて親身な指導。刻字部も併設し、刻字に興味のある方には、作品制作のみの講習も提供しています。
自らも毎日書道展、東方書展、日本刻字展などの全国展への出品、銀座鳩居堂画廊でのグループ展に参加するなど精力的に創作活動を展開する傍ら、生徒を毎日書道展刻字部門入選、日本刻字展入賞に導くなど指導者としての実績も積んでいます。
さらに2021年からは、視覚障害のある方にも刻字・書道の世界を楽しんでいただけるようなグループ展やワークショップを開催し、より多くの方が書道芸術の体験を通して、心豊かになっていただける活動をライフワークとしています。

*パーソルサンクスの「30年のあゆみ」はこちらからご覧いただけます。

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