わずか2週間で、社員1万人以上のリモートワーク環境を整備した舞台裏

昨今の社会情勢に伴い、いま、世の中の「はたらく」が急速に変化しています。特集「はたらく見聞録」では、この時代を前向きに自分らしくはたらくためのヒントや、それを支える活動について連載でご紹介していきます。

今回は、社員の仕事を支えるIT担当者に取材。パーソルグループでは、社員がリモートワークを実施できるよう、現在約11,000名分が同時接続できるVPN(Virtual Private Network)の環境が用意されています。しかしこのITインフラは、実は今年3月に急遽整備されたもの。整備にかけた期間は、わずか2週間でした。
リモートワークを実施する裏側で、IT担当者はどんなことに悩み、取り組んでいたのか。このプロジェクトの一員として活躍した、パーソルホールディングス グループIT本部の飯田 康隆に聞きました。

飯田 康隆(パーソルホールディングス株式会社 グループIT本部)
IT業界で10年間 ヘルプデスクや運用保守、小~大規模案件のPJT推進・管理、カスタマーエンジニアを経て、別会社に転職し5年間IT企画業務に従事。
2017年4月にパーソルホールディングスに入社。入社後グループ標準PCのWindows10化、グループ標準無線、グループ標準VDIサービス等の企画から導入展開を行い、グループ全体のインフラをリード。2019年4月より現職。


※本取材は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためオンラインで実施しています(記事内画像は画面キャプチャを使用)。


「やるしかない」。
その気持ちを胸に、先回りして提案


――以前から、リモートワーク環境の整備を進めていたのですか?

飯田:はい。それまでも約600名が同時にVPN接続できる状態ではありましたが、2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピック競技大会時の交通混雑緩和に向け、より多くの社員にリモートワークをしてもらうため、5月中旬を目標にしてその環境整備を進めていました。

――実際に導入されたのは3月末なので、当初の予定より1か月以上も早めたことになりますね。

飯田:日々深刻化する新型コロナウイルスの感染状況を見て、「もっと早めに動かないと……」と思いまして。急速にITインフラ環境を整備するため、当初想定していた導入手法ではない新たなやり方を考え、事態が深刻化する前に、積極的に提案を行いました。

――自ら先回りして提案を行ったのですね。ちなみに、導入手法はどのようなものだったのですか?

飯田:リモートワークの環境整備とは別のプロジェクトで、社内のセキュリティ強化のために導入を進めていた「PulseSecure」というIT製品がありました。「PulseSecure」はVPNの機能も持ち合わせていたので、これを急遽活用することに決めたんです。
といっても、これが決して簡単なことではなく……。まったく別のプロジェクトとして進めていたものだったので、製品導入の目的も変わり、それに応じて、ここでは説明しきれないほどの不都合やリスクが生じます。しかし、そのような状況を考慮しても、社員のリモートワーク環境を短期間で整えるには、この手法しかないと考えました。

――当時の心境は?

飯田:ITインフラ担当をしていると、このような急整備って、決して珍しいことではないんです。だから、個人的には特段焦るようなことはなく、とにかく「やるしかない」という気持ちでしたね。


当時のプロジェクトチーム内の業務チャット。日々目まぐるしく変化する状況への対応が求められた


4名で進めたスクラム
付箋を使ってタスク管理


――短期間で整備するために、これまでと大きく変えたことはありますか。

飯田:プロジェクトの進め方は、これまでと大きく変えました。従来は、ゴールから逆算して作業工程をエクセル上で細かく分解し、毎週の定例会議で進捗を確認……、というような方法でプロジェクトを管理することがほとんどでした。しかし、今回の件は、それでは到底間に合いません。
そんなとき、グループIT本部の中で、「スクラム」という開発手法を取り入れているチームがあることを思い出しました。短期間で達成するにはメンバーのタスクが可視化され、トラブルや仕様変更にも臨機応変に対応できるこの手法しかないと思い、今回はこれを取り入れることにしました。

――これまでも、スクラムでのプロジェクト管理経験をお持ちだったのですか?

飯田:いえ、はじめてです。でも、怖気付いている場合ではなかったので……。
実際にやったことはないので、管理手法をすべて正しく実践できるはずもなく、ポイントをかいつまんで真似していました。周囲からは「これじゃ“スクラム”じゃなくて“スクランブル”だ!」なんて言われていましたが(笑)。

――具体的には、どのような進め方を?

飯田:すごく簡単に説明すると、タスクを付箋にひたすら書き出して、ホワイトボードの一番左に貼る。作業に取り掛かったときと、完了したときに、その付箋を右にずらしていく、というようなやり方でタスクを管理していきます。
また、全体の作業量を洗い出し、それをバーンダウンチャートというチャートで日々のタスク消化量と、理想線を照らし合わせ、進捗状況を可視化しました。ただ、この洗い出しが完璧でなかったり、遅れを取り戻すために無茶をするという部分が正確なスクラムではなく、スクランブルだといわれる所以だと思います(笑)。


イラスト:当時使用していたホワイトボードのイメージ。取り掛かったタスクは「To Do」から「Doing」に移し、終了すると「Done」へ移していく
グラフ:バーンダウンチャートのイメージ。理想と実績を照らし合わせ、進捗状況を可視化


――一番大変だったことは?

飯田:時間がない中で「何を実現するのか」をぶらさないことです。パーソルグループは多くの会社から成る企業グループなので、各社ごとにIT環境や事情が異なり、さまざまな制約が複雑に絡み合っています。各社ごとの事情に合わせたいのは山々なのですが、パーソルグループ全体のIT部門として各社と対話を行いながら、決めるところは責任を持って決め、サービスの標準を定めていきました。

――このような調整含め、何名程度でプロジェクトを進行したのですか?

飯田:主に4名です。そのほか、パートナー会社さまのサポートもいただいています。私は責任者という立場で、現場ではPMやPL、それぞれのメンバーが、本当に役割をまっとうして頑張ってくれました。ユーザーには、いろいろな立場や観点があるので、メンバー自身も多様な視点を持って臨まなければいけません。IT的な技術面以上に、そういう部分が大変だったと思います。


業務チャットでの、個社担当とのコミュニケーションの様子


――プロジェクト中のメンバーの様子は?

飯田:朝から晩まで、みんな死に物狂いでしたね……。でも、自分たちがやらないと、リモートワーク環境は整備されず、困る社員がたくさん出てきてしまいます。自分たちがやるしかないという気持ちだったと思いますよ。

――社員からの反応はいかがでしょう。

飯田:大変好評で、わざわざ御礼のメールをいただいたりもしています。普段はなかなか皆さんの目から見えにくい仕事なので、IT担当冥利に尽きますね。


自ら動き、提案するITインフラ部門に


――今回のプロジェクトを通じて、どんなことを感じていますか?

飯田:一つ感じているのは、今回スクラムを取り入れたように、世の中の変化に合わせてプロジェクトのやり方も変える必要があるということです。ケースごとに適切な手法は異なるので、選択肢は多く持っておいた方が良いのだと痛感しました。今回は、グループIT本部の中で知識を得る機会があったので、見よう見まねではありますが、対応しきることができました。

――今回の事態で、さまざまな会社でITインフラ担当者が対応に追われていると思います。何かアドバイスがあればお願いします。

飯田:「自ら動く」ということだと思います。やらされていると、自分のモチベーションも上がらないじゃないですか。自ら動いて、自分の意見を整理し、プロジェクトのメンバーとゴールを共有する。そして、そのゴールはぶらさずに、やり切る。どうしても諸々の調整ごとは発生するので、そういうときにぶれない軸を持っておけると良いのではないでしょうか。

――今後の意気込みを。

飯田:社員により良いはたらき方をしてもらうために、IT部門として、もっといろいろなことができると考えています。ユーザーにはストレスのない「はたらく」を提供して、その裏では厳重にセキュリティが担保され、また、IT部門自身の運用工数も下げていけるような世界観を目指していきたいです。

また、個人的な想いとしては、IT部門として一つのはたらき方のモデルをつくっていきたいです。いま世の中にはITツールが溢れていますが、オンライン上でどうコミュニケーションを取り合っていくかという点については、まだまだ未成熟だと思っています。最前線でいろいろなツールに触れるIT部門として、ほかの部門と連携しながら「こういうはたらき方はどうでしょう?」というものを提案していきたいですね。

(以上)

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