「ニューノーマル」への適応が鍵 転職サービス「doda」新編集長に聞く、これからのはたらき方

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大の影響を受けて私たちの生活様式が急速に変化する中、転職市場も大きく変わりつつあります。
今回は、6月1日より転職サービス「doda」の編集長に新たに就任するパーソルキャリア株式会社の喜多 恭子に、現在の転職市場の状況や、法人と個人それぞれに求められる変化、これからのはたらき方について聞きました。


売り手市場が終わる?
コロナによる転職市場の変化


――まず、コロナ禍での転職市場の現状について教えてください。

喜多:今年3~4月に出た求人数は、全体として昨対比で減少しています。特にコロナの影響を大きく受けている外食・観光・交通・ホテル業界などで求人数の減少幅が大きくなっています。一方、職種でいえば、ITエンジニアや建築・土木などの技術職は、引き続き積極的に採用を進める企業が多く、将来を見据えて管理職クラスの採用を活発に行っている企業もあります。

――個人側の動向は?

喜多:コロナによる経済不安を受けて、個人の登録数も減少傾向にありますが、現在活動されている個人の方は転職意向が高く、数多くの求人に応募されています。特に販売・サービス系職種の方の転職意向が高く、未経験で挑戦できる営業職やITエンジニア職などの求人の人気が高いですね。

――転職市場は、長らく売り手市場が続いてきました。コロナが一つの転換点となりそうでしょうか?

喜多:中途採用に慎重になっている企業が多く、売り手市場の構造は変わりはじめてきていると思います。一方で、多くの企業が中途採用をストップしたリーマンショック時とは異なり、現在も、必要な採用は継続して行われています。一部では現状を採用の好機と捉えて募集を活発化させている企業もありますし、選考も最終面接までオンラインで完結させるケースも増えてきました。コロナ禍が一定長期化するだろうという見立てのもと、賢く採用を行っていこうという風潮に変化していると感じます。

――法人側は、変化が問われる環境ですね。

喜多:採用においても「ニューノーマル(※)」が進んでいくと思います。選考方法一つ取っても、web面接を取り入れられているかどうかで、採用成功の可否が大きく左右される環境になってきました。
また、これから日本の労働人口が確実に減っていくといわれている中、個人から選ばれようと努力しなければ、企業成長は成し得ません。どれくらいのスパンで成長をして、どんな会社でありたいのかという、企業としての「軸」を持つことが求められます。そうしたことを見直したうえで、その軸に沿った制度や給与、福利厚生などを整備していく必要があります。

(※)新たな状態や常識。コロナによって、私たちの生活様式などに、構造的な変化がもたらされている。


環境変化よりも
まずは「自分」を理解せよ


――ニューノーマルへの移行が進むと、個人側にはどんな変化が求められますか?

喜多:企業が採用力を高めるためにニューノーマルなはたらき方や採用の刷新を進めると、個人はそれに適応しなければなりません。より自立自走したはたらき方が求められると思います。

――具体的には?

喜多:たとえば、オンラインでの仕事環境が普及すると、自分で日々仕事のミッションやテーマを決めて、精神的にも自立してはたらくことが必要になります。また、自分に何ができて、どのように組織に貢献できるかを説明できる力も求められるでしょう。
逆にいえば、裁量が広がって自分のやりたいことが実現しやすくなる環境でもあるので、これをチャンスに変えようというマインドでいた方が良いですね。

――「自分のやりたいこと」といっても、それがわからないというケースも多いのでは?

喜多:わからないことが大半だと思いますし、個人的には、別にやりたいことがなくても良いと思っています。ただ、「いま何ができるのか」は、明確にしておいた方が良いですよ。たとえば営業職の方であれば「ヒアリングがうまい」「クロージングが強い」などですね。

――どうやって見つければ良いのでしょうか。

喜多:社内の同僚と比較したり、キャリアアドバイザーに相談したり、プロにコーチングしてもらってスキルの棚卸しをしたり、他人の力を借りてみると良いと思います。健康診断と同じように、キャリアにおいてもいまの自分の状態を正しく理解することは、とても大切。それが分かれば、「〇〇のようなはたらき方がしたい」という漠然とした気持ちでも、それを実現するためにいま何をすれば良いのかを、具体的に考えることもできます。

――未来の環境ではなく、あくまで「自分」に焦点を当てるのですね。

喜多:アフターコロナの世界がどうなっているかって、誰にも分らないですよね。コロナは一例でしかなくて、AIやテクノロジーの進化でも、同じことがいえます。環境の変化よりも、自分自身に焦点を合わせたほうが、より幸せな人生を歩めると思いませんか?


いまの求人票にはない
はたらき方を表現していく


――これまでの転職市場については、どのような課題感をお持ちですか?

喜多:もっとも強い課題意識を持っているのは、採用時の「情報の非対称性」です。個人が、本当に必要な情報を、就業前に取得できていないということです。

――詳しく教えてください。

喜多:転職者は、求人票などに書いてある「職務内容」で会社選びをしているのがいまの状況です。でも、私たちが実際にはたらくうえでは、職務内容だけでなく、一つひとつの仕事の進め方や、その時間軸がどうなっているかって、すごく大事なポイントじゃないですか。いまの求人票や求人広告では表現しきれていない情報がたくさんあり、それを応募者が理解できていない限り、本質的なマッチングはなかなか進まないのかなと……。

――入社後の、組織へのフィット感にも、大きく影響しますよね。

喜多:私は約13年間、人材派遣事業を経験してきました。スタッフの方の就業の様子を近くで見てきて、その方がどれだけ組織にフィットして活躍できるかどうかは、社風や仕事の進め方のマッチング度合に大きく左右されると感じています。就業前にコーディネーターが介在する人材派遣事業ですらそのような課題を感じてきたので、求人票と面接だけで情報のやり取りが行われている転職市場において、情報の非対称性はより大きな課題だと考えています。

――ありがとうございました。最後に、doda新編集長としての意気込みをお願いします。

喜多:いま申し上げたような「情報の非対称性」を改善するサービスづくりを通じて、法人・個人双方にとってより最適なマッチングを実現していきたいと思っています。また、個人の方に対しては、いまの自分の状態を正しく知っていただいたうえで、未来にはいろいろな選択肢があることを示し、それに向かうプロセスに伴走できる存在として、dodaを育てていきたいです。法人・個人ともに「はたらく」に対する成熟度が上がり、個人が自分自身で人生を選択できるようになれば、「はたらいて、笑おう。」の実現にぐっと近づくと考えています。

喜多 恭子 パーソルキャリア株式会社 執行役員
1999年、株式会社インテリジェンス(現社名:パーソルキャリア株式会社)入社。
派遣・アウトソーシング事業にて、法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティング等を経験した後、人材紹介事業へ。法人営業・キャリアアドバイザーのマネージャーとして組織をけん引。その後、派遣事業の事業部長として、機械電子系の派遣サービス立ち上げやフリーランス雇用のマッチング事業立ち上げなどを行う。アルバイト求人情報サービス「an」の事業部長を経て、中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、2019年10月より執行役員・転職メディア事業部事業部長に就任。2020年6月、doda編集長就任。

(注)本記事に使用している写真は、2019年に撮影を行ったものです。

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