世界を旅し、楽しみながらはたらく ─ 夫婦で自由な生き方を手にできた理由

世界の観光地で弁護士業務!? テクノロジーの力と、互いの強みを活かす生き方。

「はたらく」の形が時代によって変化する中、生き方や、それをともにする家族の形も、少しずつ変化を遂げています。本連載では、その中でも”夫婦”に注目。さまざまな選択のもと、自分たちの生き方や「はたらく」の形を見つけ出した4組の夫婦をご紹介します。

今回インタビューに答えていただいたのは、結婚4年目の藤井さんご夫妻。IT企業の正社員ではたらきながら副業を3つ掛け持つ妻と、家事・育児を担いながら、弁護士としてはたらく夫。今年、第一子が生まれたばかりのこの夫婦は、ITサービスをフル活用し、効率的に業務をこなすことで、子育てと同時進行で世界を旅しながらはたらいています。好きな仕事をしながら、年100日以上を海外で過ごす生活を手にした背景には、専門性を高め、得意分野と苦手分野を上手に補い合う夫婦の姿がありました。

「仕事は趣味の一つ」と話す、藤井さんご夫妻の「はたらいて、笑おう。」とは?


ITサービスを駆使して業務を効率化
ノートパソコン一つで世界中を旅しながらはたらく

藤井 総さん(以下、夫):一週間前に帰国したばかりだけど、来週はカナダのバンクーバーでキャンプの予定だね。

藤井 香苗さん(以下、妻):その後はタイのチェンマイ。総くんはここ数年、年に100日以上海外にいる生活だね。私は会社があるけれど、そのうち半分は一緒に旅行している。

夫:2015年に僕が法律事務所を開設したタイミングで、同棲するために引っ越しをした。海外に行き出したのは、そのあたりからだよね。

妻:そのころの私は、製薬会社ではたらいていて、早朝から深夜まで仕事詰め。

夫:いつも香苗さんは家にいないし、引っ越したばかりだから、近所に友達もいない。開設した法律事務所にはスタッフもいなかったのでオフィスに行く必要がない。そうなると、1日中、誰とも話さないし、誰とも会わない。それで、香苗さんから「気分転換に海外旅行にでも行けば?」って言われたことがきっかけで、世界中を旅しながらはたらくようになったんだよね。

妻:だって、話す相手が私しかいないからって、家に帰ったらずーっと話しかけてくるんだもん(笑)。私は大学生時代にバックパッカーで世界を回っていたから「総くんなら海外旅行しながらでもはたらけるんじゃない?」って提案した。

夫:そうそう、そしたらハマっちゃって(笑)。世界を旅すると、視野も広がる。新しい価値観に触れることで、より人生が豊かになった気がするな。

妻:海外旅行の醍醐味だよね。

夫:それに僕の場合、効率化のためにクライアントとのやり取りは面談や電話を廃止してチャットを利用しているから、ノートパソコンがあればどこでも仕事ができる。紙ベースのやり取りも止めて、クラウド上で資料を管理しているから、必要なときにすぐクライアントと共有できるしね。

妻:普通はクライアントにトラブルがあれば、お電話をいただいてから面談の日を決めて、出向いたり来てもらったりして解決策を探る。それならチャットで連絡して、その場で解決策を探った方が早いよね。

夫:そう。だから効率よく、場所を問わずに仕事ができる。これまでも、アンコールワットやフィリピンの無人島とか、いろんな場所で仕事をしてきた。

妻:観光地に溶け込むように仕事をしているよね(笑)。

夫:旅行中に、急な対応を迫られることがあるけど、その場で対応したり、無理ならカフェやホテルに戻って仕事をすれば良いだけ。先日は台湾で、マンゴーかき氷を目の前にした直後にクライアントからトラブルの連絡が入って、バーッと食べてホテルに戻って対応したよ(笑)。

妻:海外にいるときは、無理な旅行計画を立てず、柔軟に対応できるようにしているしね。

夫:計画を立てても、予期せぬことが起こる可能性はある。最近は、旅行も人生も、あまり細かく計画立てる必要はないかなと思っているよ。

仕事は、唯一お金が稼げて、社会の役に立つ
やりがいのある「もっともプライオリティーが高い趣味」

妻:2010年に出会って、もうすぐ10年だね。

夫:お互い、はたらき方も随分変わったよね。

妻:出会ったとき、私は大学生だったけどね。2013年に製薬会社にMR(医薬情報担当者)として入社したら、朝7時から夜中まではたらき詰め。結婚後、平日はほとんど一緒に夕食をとれなかったね。これはまずいと思って、2015年に総くんに紹介してもらったIT企業への転職を決意したよ。

夫:副業として、僕の法律事務所でもはたらいているよね。

妻:昨年から副業としてもう2社追加して、月8時間契約でコンサルタント業務などをしながら、4社ではたらいている状態。

夫:香苗さんと出会ったとき、僕は転職して横浜の法律事務所ではたらいていた。最初に在籍していた法律事務所は、業界では有名な東京の企業法務系の大手。ただ、実態としては超激務。僕は「おかしくない?」って思った。最難関の司法試験に合格してやっと弁護士になれたのに、なぜこんなに生活を犠牲にして仕事をするんだと。それでそこを辞めて、比較的緩やかに仕事ができる法律事務所に転職したんだよね。

妻:独立するまで4年ほどはたらいたのかな。そういえば、なんで弁護士になったんだっけ?

夫:最初に興味を持ったのは、父のはたらく会社で起きた“社員革命”。独裁的な経営者に社員一同が体制変更を迫り、顧問弁護士がそれをバックアップして成功した話を父から聞いたこと。企業を法の力で支える「企業法務弁護士」ってカッコいいなと思ったからだね。

妻:わたしは親が早くに離婚して母子家庭だったから、男性に頼り切る生活より、女性でもしっかり稼げる仕事に就きたいと思って、MRを選んだ。それに、親戚に肉屋やお茶屋さんなど自営業が多くて、はたらきながら生活するのは当たり前だった。自分が専業主婦をしているイメージは、もとからなかったよ。

夫:もし、仕事を「お金を稼ぐ手段」として考えるなら、僕は十分に稼いでいるから(笑)、香苗さんがはたらく必要はないよね。

妻:そうだね。それ以上の意味がある。はたらいた方が「インプット」が増えて、人生の幅が広がるし。

夫:幅が広がるといえば、結婚してよかったのは、視野が広がったこと。海外に行くようになったのもそうだし、香苗さんの仕事仲間を紹介してもらうことで、人脈も広がった。結婚当初は「藤井先生の奥さん」だったけど、最近は「藤井さんの旦那さん」になった(笑)。

妻:好きだから仕事をしているという側面もあるよ。副業先の会社には、産休中は仕事を休んでもいいよといわれたのに、出産翌週から仕事をしていたくらい仕事が好き。

夫:仕事は楽しいから趣味みたいなものだよね。僕もいろいろ趣味はあるけど、仕事は唯一お金が稼げて、社会の役に立てて、やりがいがある「もっともプライオリティーが高い趣味」。そして僕は、自分が応援したいITサービスを提供している企業と顧問契約を結ばせてもらっているから、仕事=応援したい企業のサポートになっている。僕自身も、ITサービスに恩恵を受けて、楽しく生きている。そして、そんな素晴らしいITサービスを世の中に広めたいと思っている。そのサポートができるのが、本当に楽しいよ。

得意と不得意を、夫婦で埋め合う
子どもがいても、はたらき方は変わらない

妻:出産後に一度大きな喧嘩をしたよね。

夫:そうそう。僕の方が家にいる時間が長いし、料理以外の家事は香苗さんよりも得意だから、基本的に僕の仕事。でも、香苗さんが外出中に、ギャン泣きしている子どもをあやしながら、クライアントから次々来る相談に対応しつつ、掃除や洗濯、それに名もなき家事も回していたら、さすがにてんぱっちゃって。僕が“名もなき家事”に時間を取られ、疲弊しているか、共感してほしくなった(笑)
でも、やっぱりこれまで通り料理が得意な香苗さんが料理をすればいいし、効率的で気付くのが早い僕が家事をすればいいと思っている。

妻:うん。言いたいことは言って、ちゃんと分かり合えた方が良い。家事もきちんと話し合って、得意な方や余裕がある方がその都度担当できると良いよね。

夫:「家事は五分五分で分担するもの」とか、「私の収入はあなたより多いから、その分あなたは私よりも家事をする必要がある」とか考えるのは違うと思う。もともと、「家事や子育ては女性がするもの」という考えもないし。子どもの世話をするのも楽しいしね。

妻:なんでこんなに楽しいのに、みんなやらないんだろうって、よくいっているよね。

夫:やってあげるとか、やらざるを得ないというよりも、お互い得意なことだからやっているだけ。僕たち夫婦は、その分野が微妙にずれているから、お互いの得意と不得意を上手に補い合えているんだと思うよ。

妻:そうだね。ちなみに、2年間の不妊治療の後、待望の子どもが産まれて、私は仕事に対する価値観が大きく変わった。これまでは自分のキャリアのため、やりたいことをするためにはたらいていたけど、「家族のために」という思いが強くなった。子どもにも、はたらいている姿を見せたい。

夫:僕は子どもが生まれて何か変わったかなぁ。はたらくのは好きだから、子どもが生まれてより楽しくやっている。

妻:工夫しながら子連れで海外旅行もしているし、相変わらず世界を旅しながら仕事をする生活は変わらないね。

夫:旅をしながらはたらくことは、やろうと思えば誰にでもできると思う。いまLCCで海外が身近になっていて、チケットもそこまで高くない。アジアだったら週末に弾丸で行ける。まずは「気軽にできるんだ!」という体験をしてみてから、そのうえで、専門性を高めて、より自由なはたらき方を実現していけばいいのかもしれない。


Q. 最後に… お二人にとって「はたらいて、笑おう。」とは何ですか?

夫:はたらくことは「趣味」だから楽しい。好きなことをしながら、楽しく笑っている、そんな感覚ですね。だから、毎日はたらいて笑っています。

妻:私にとっても、はたらくことは「趣味」です。さらに、子どもが産まれたことで、「自分のためにはたらく」から、「家族のためにはたらく」に変化してきました。強い想いが加わったことで、はたらくモチベーションが上がり、より楽しく、笑顔が増えるはたらき方になりそうです。


●藤井 総さん・香苗さんご夫妻 プロフィール

総さん(写真左):2005年慶應義塾大学法学部在学中に司法試験に合格。2007年大手法律事務所で激務を経験、09年「ワークライフバランス」を実現できる法律事務所へ転職。15年に独立し、弁護士法人ファースト法律事務所開設。18年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所に名称変更。現在顧問弁護士を務めている企業数は約70社。ITツールを活用した業務効率化で、世界を旅しながらはたらいている。

香苗さん(写真右):東京薬科大学卒。外資系大手製薬会社でMRとして活躍。2015年Chatwork株式会社に転職。事業推進本部 マーケティング部で展示会やセミナー業務を担当。同年、夫の法律事務所で広報・PR担当も務める。18年、月8時間契約でIT企業2社とコンサルティング契約を交わし、計4社を掛け持ちしながらはたらき、夫の海外旅行にもたびたび同行している。

>>次号は近日公開予定です

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