「あなたの大事にしたいものは何?」 海の街ではじまった、生き方の“実験”とは。
「はたらく」の形が時代によって変化する中、生き方や、それをともにする家族の形も、少しずつ変化を遂げています。本連載では、その中でも”夫婦”に注目。さまざまな選択のもと、自分たちの生き方や「はたらく」の形を見つけ出した4組の夫婦をご紹介します。
今回インタビューに答えていただいたのは、新婚2年目の羽田さん夫妻。
大手証券会社のプロジェクトチームで、ともにはたらいた二人。結婚後、妻はキャリアアップを選び、夫は独立を選択。将来を見据え、夫婦でどんなはたらき方ができるのか、実験の最中だといいます。
現在は、住まいをWAREHOUSE(ウェアハウス)=倉庫に見立て、「生きる、はたらく、笑う、人と飯を食う」がともにある生活を実現させています。妻は二人目の産休に入り、もうすぐ4人家族に。再びはたらく環境も変化するのでしょう。
そんな羽田さんご夫妻の「はたらいて、笑おう。」とは?
「結婚は最高の“M&A”」
互いを尊重し、強みを伸ばし合う
羽田 隆也さん(以下、夫):出会ったのは前職のときだね。僕は新卒で入社した証券会社から一度ベンチャー企業へ転職したのだけれど、1社目の証券会社に戻ったときだった。
羽田 裕紀子さん(以下、妻):同じ部署で、同じプロジェクトに関わっていたから、お互いのことは結構分かっていたね。
夫:思えば、すごいスピードで物事が進んだ気がする。会社を辞め、逗子に引っ越して家を建てて、その家の一部を開放して「WAREHOUSE(ウェアハウス)」を設立したのが昨年の9月。仲間と立ち上げた「逗子葉山ベンチャー協会」のキックオフが10月。昨年の5月には子どももできた。独立したばかりで少し不安でもあった。
妻:そうなの?私は、結婚してから安心感が増したよ。私が稼げなくなっても隆也が稼ぐし、隆也が稼げなくなっても私が稼げばいい。結婚していた方が自由に挑戦ができるし、リスク分散ができるから最高だと思ってる。お互いやりたいことをしながら、高め合える環境だしね。
夫:僕はまだどこか古い考えで、「“男”だから稼がないと」「大黒柱として」という気持ちがあるから、よく怒られるよね(笑)。無理して仕事をして疲れていると、「そんなはたらき方をするなら、やめてもいいよ。私が稼ぐから。」と返される。もしかしたら、5年後はゆきさんが稼いで、僕は主夫になっているかもしれない。
妻:不安がないのは、お互いよく話して、はたらき方とか、生き方をすり合わせているからかな。仕事をしながら子育てすることに自信がなかったから、育児を手伝ってほしくて、姉の夫婦と横並びで家を建てたし。やりたいことをやる環境を整えつつ、計画的にできていると思う。隆也が独立して自由度の高いはたらき方をしているのは、がっつり仕事をしたい私にとっても都合が良かったし(笑)。
夫:結婚は最高の“M&A”だよね(笑)。僕らのベースにあるのは、平等かつ対等。お互いの強みがあって、それを尊重して伸ばし合っていく。そして、互いの強みを生かし合える場として、いまのWAREHOUSEをつくりました。
何を大事にして、生きたい?
はたらき方、そして人生を話し合う“定例ミーティング”
夫:すり合わせといえば、結婚前に、自分たちがどんな夫婦になりたいのか「結婚に求めるもの、大事にしたいもの」をお互い3つずつ出し合った。
妻:やった。たとえば、「結婚して一緒になるなら、互いに介入し合った方が良くない?」とか、「互いに高め合える存在でありたい」とか、そういうものを3つずつ出した。そしたら、言葉尻は微妙に違うけれど、3つのうち2つが共通していた。
夫:結婚して、そのあとすれ違ってばかりじゃ嫌だし、大事なところはすり合わせておきたかった。たとえば「私は仕事をしたいから、子どもが0歳から保育園に入れたい」「いやいや、小さいころはできるだけそばにいようよ」とか、あとからそういうズレが出てくるのは辛いし、危険だと思ったから。
僕は一生懸命に楽しいことをやっていたら、そこに自然と成果が生まれるように、仕事と生活の時間の境目がなくなる人生がいい。「笑っている生活の方に、仕事を引きずりたい」と思っている。
妻:私は少し違っていて、「人生の大半の時間を使う仕事そのものが生きるということで、人生そのもの」と思っている。没頭してはたらいているから、「そこに家族が入っておいでよ」っていう感じ。
夫:プロセスは少し違うけど、ゴールは同じだと思っている。とにかく、こういう風にお互いに自分の考えをアウトプットした。結婚時にたくさん話し合って、その後も、夫婦で月1で定例ミーティングをしていた。一番多いときは週次で棚卸をして、月次、四半期、年間でもそれぞれやっていた。でも、最近は、やれてないね。(笑)
妻:ここまでくると、あまりズレもなくなってきたよね。大きな「夫婦二人の目標」を幾つか決めているし、話し合いの過程も”議事録”で残して、それをチャットアプリのメモに入れて、あとから読み返すこともある。
夫:こうやってホワイトボードに書きながら話し合う光景を他人が見ると、社内会議?それとも喧嘩?と言われる(笑)。
妻:もともと仕事を一緒にしていたのもあって、夫婦ミーティングに全然違和感はないよね。夫婦で定期的に目標を確認することで、私は自分の考えの棚卸にもなっている。これまで目の前の仕事が楽し過ぎて、将来の目標をあまり考えてこなかったから。
そこで今後の目標を改めて考えたら、そういえば海外でビジネスを立ち上げたいという夢を持っていたことを思い出した。一度立ち止まって、どう生きたいのか、どうはたらきたいかを考えられたから、とても良いきっかけだった。
仕事も生活も考えごとも、住まいの中にある。
「生きるようにはたらく」実験の場
夫:そういう、海外で仕事をするという目標も、夫婦計画に入れたね。
妻:思えば、結婚や出産を経て、やりたかったことができなくなったということは、まったく無いな。話し合っている10年スパンの目標の中で「海外に行くならこの辺だよね」というベンチマークがあったり、そこから「そう考えると、子育てはこの時期だよね」、という計画も逆算して夫婦で確認し合っていたり。だから、やりたいことを安心してやり続けられている。
夫:僕は、「生きる、はたらく、笑う、人と飯を食う」が1つの箱にあれば、絶対に幸せだと思っている。仕事という概念を取り払って、これは仕事の時間だからとか、これは生活の時間とかそういう境目がなくなる人生がいい。「生きるように、生活するようにはたらく」ことを実現するための実験場になる住まいであり、これからのWAREHOUSEはそれができる場になるといいなと思っている。
妻:WAREHOUSEという名前は、いろんな人が出入りしたり、いろんな人と笑って話しながら生きられる空間だったらいいよねというところから、私が“倉庫”を意味する“WAREHOUSE”を提案した。倉庫なら、なんでもそこに入れちゃおう、って。一つの箱に、仕事が入っていたり、遊びが入っていたり、アイデアが入っていたり。そういう大きな器だったらいいよね、という想いを込めて。
逗子は、都心への交通の便も良いし、時間がのんびりしているから、子育てもしやすい。WAREHOUSEにはぴったりの土地。
夫:いまのWAREHOUSEでも新規事業の企画や事業相談、ファイナンス支援をしたり、家の一部を貸してヨガ教室を開いたりと「人が集まる」ことをしているけど、まだまだこれから。面白い夫婦が住んでいるWAREHOUSEに、「何かを放りこんだら、面白いことが起きそう!」って思ってもらえる場所にしたい。
妻:この前も、一度しか会ったことのない私の友人の旦那さんが新規事業や事業相談をやっていると聞きつけてWAREHOUSEに来てくれて、「ボクシングジムをやりたいんだけど、どうすればいい?」と事業相談に来てくれたよね。私自身は会社員だけど、家にいろいろな人が出入りすることで、違う世界を知れたり、興味深い話を聞いたりできるのは、とても楽しいよね。
Q. 最後に… お二人にとって「はたらいて、笑おう。」とは何ですか?
夫:生活そのもの。ライフそのものが仕事になっているのが理想です。まだまだ実験段階ですが、生活と仕事が家族という箱に入っていて、楽しんでいれば自然と仕事も笑顔も生まれる、その中で生活したいです。
妻:私にとってはたらくとは、「人生の目標を達成するスキルを得るのに最適な手段」。もちろん辛いこともあるけれど楽しみながら、知識や経験を積めることができて最高だと思っているから、常に笑ってしかいない。もちろん困難も失敗も大変なこともいろいろある。でも、それを乗り越えるためにまたスキルを得られると考えているから、はたらいて笑っていられるんです。
●羽田隆也さん・裕紀子さんご夫妻 プロフィール
隆也さん(写真左):大手証券会社にて、投資銀行業務に従事。退職後はベンチャー企業に参画。のちに前職の証券会社へ再就職した後、現在は独立し、合同会社『WAREHOUSE(ウェアハウス)』を設立。『逗子葉山ベンチャー協会』、『株式会社バスユニット』代表などを務める。 裕紀子さん(写真右):大学時代に日中韓学生団体『LEAF』の創業メンバーとして、副代表を務める。日中韓での国際的な協働体験とグローバルリーダー輩出のために活動し、卒業後隆也さんと同じ大手証券会社へ入社。現在もうすぐ誕生する第2子の産休中。 |