生き方や仕事の形は、変化したっていい ─ 私たちが選んだ「主夫」というスタイル

柔軟な選択が、夫婦の在り方、そして生き方の形を変えていく。

「はたらく」の形が時代によって変化する中、生き方や、それをともにする家族の形も、少しずつ変化を遂げています。本連載では、その中でも”夫婦”に注目。さまざまな選択のもと、自分たちの生き方や「はたらく」の形を見つけ出した4組の夫婦をご紹介します。

初回は、結婚15年目の村上さんご夫妻のインタビューをお届けします。
会社ではたらく妻と、家事・育児・介護を担う主夫業と仕事の両立を選択した夫。祖父、長男、次男、3世代で暮らすこのご夫婦は、はたらき方や役割をアメーバのように変化させることで、子育てと介護を両立させてきました。夫はフリーランスのグラフィックデザイナーから父親支援のNPO活動にシフト。妻はITベンチャー企業での激務を経て、夢だった子ども向けの英語教室を開き、小学校で外国語活動指導員としても活躍しています。

そんな村上さんご夫妻の「はたらいて、笑おう。」とは?


僕は「育児も介護も嫁がするもの」とは思っていない―
自由業の夫が、主夫業と仕事を両立

村上 誠さん(以下、夫):結婚した当初は、同居していた僕の両親が子どもの世話を手伝ってくれたり、夕飯をつくってくれたりしていたけど、母が2008年に脳出血で倒れて介護が必要になってからは、僕が兼業主夫になった。

村上 康子さん(以下:妻):そのころの私は、ITベンチャーの広告代理店ではたらいていて、まさに仕事漬け。夜8時とか9時まで仕事をしていたし、本当に忙しいときは、夜11時ごろに帰宅して…。ほとんど家にいなかった。

夫:長男を産んだときも、1歳になる前に復帰したしね。

妻:その会社で産休後に復帰したのは私がはじめて。社内の制度も風土も整っていなくて、育児をしながらでもはたらきやすい環境をつくりたいと思って、社内のビジネスプランコンテストで「ワークライフバランス改革」を提案したら、まさかの優勝。プロジェクトリーダーになってノー残業デーや社内のママ会の立ち上げ、ワークライフバランスの推進をし、くるみん(仕事と子育ての両立に取り組む企業を認定する制度)を取得した。2016年に退職するころにはママ会メンバーも50名ほどになったよ。

夫:それまでも育児に関わってきたし、両親も孫育てに協力してくれたのでリソースにゆとりがあったけど、母が倒れて急に育児と介護のダブルケアが必要になってからは、生活が大きく変わった。何度も家族会議をしたよね。僕はもはや「育児も介護も嫁がするのが当たり前」の性別役割分業に縛られる時代ではないと思っている。そのときママは、会社で責任もやりがいもある仕事をしていた。それなら、フリーランスで家で仕事をしている僕が家事や育児を主に担当した方が融通が利くし、自分の親の介護だから。それに母親のメンタルヘルスは子どもにも大きな影響がある。ママが自分の人生を諦めずに、外で輝いていてくれた方が、家族にとっていいだろうと。それで、僕の方からこのスタイルを提案したんだよね。

子どもの寝顔を見られない日々…
葛藤の末に選んだ「自分がやりたいこと」

妻:でも、キャリアアップするたびに責任は増えて、ストレスを抱えながら家に帰る毎日は辛かった。忙しさに加えて、年齢的なこともあって二人目の子どももなかなかできず、不妊治療をするために、フルタイムから時短に戻して仕事をしていた時期もあったし…。

夫:二人目を妊娠して出産した後は、また次男が1歳になる前に復帰して。最初は時短だったけれど、仕事量や責任も重くてフルタイムに戻したら、もっと忙しくなってしまったね。

妻:1週間、子どもの寝顔しか見られないこともあったね。キャリアアップしたい30代は出産、子育て期と重なって、すごく葛藤した時期。ライフステージで後回しにしてはいけないことを、キャリアアップと同時進行で考えていかないといけなかった。

夫:ほとんど家にいなかったから、子どもがママ宛によく手紙を書いてくれていたよね。

妻:そうそう。家族からのサポートは何より心強かったし励まされた。子どもにも何度も支えられたなあ。ベンチャーのハードなはたらき方は高齢になったら続けるのは難しいと思って、将来のライフシフトのためにも資格の取得に向けて勉強をしてきた。

夫:本屋で、僕が「子どもに英語を教える」ことについて書かれていた本を見つけて、勧めたのがきっかけだったね。育休中に目の前の子育てに追われる日々の中で、子育てが落ち着いた先の人生を考えることは気分転換にもなるかなと思って。

妻:私は幼少期から海外生活の経験があって、英語が好きだったから「得意なことを活かしたはたらき方をしたい!」ってずっと思っていた。自分が体験した生きた英語を学ぶ楽しさを伝えたくて、夫が見つけてきてくれた本をきっかけに長男の育休中に小学校英語指導者資格を取った。地元で児童英語サークルをはじめたけれど、「子どもに教えるには、英語だけではなくて子どもとの関わり方も勉強しないと」と痛感して、次男の育休中から保育士の勉強をはじめ、3年越しで資格を取った。
いまは、近隣の小学校で外国語活動指導員としてはたらき、家で英語教室を開いていて生徒が40人くらい集まるようにもなった。やりたい仕事ができるのはとてもうれしい。

夫:ママが住職近接ではたらくようになって、家事の分担もまた変わったなあ。これまで子どものお迎えは全部僕がやっていたけど、行ける方が行くようになったし、掃除はお互いがするようになったし。

妻:キャリアや生活スタイルが変化したら、その都度夫婦で話し合って、そのときの自分たちに合った形に変えながらやってきているね。

夫:そうだね。でも、主夫はマイノリティだから、なかなか周囲に理解してもらえないこともあったよ。日中にスーパーに買い物に行くと、仕事していないように思われて…。女性からは「男はどうせ家事・育児できないでしょう」という目で見られたり。

妻:面白いよね。女性活躍が外では問われているのに、地域では男性活躍がしにくい。ただ、うちはこういうスタイルだと周りが理解して、それに慣れてくると、徐々に打ち解けてきたけどね。

夫:長男が生まれた2006年ころは、男性が子どもを連れている姿はとても珍しかったけど、それから「イクメン」が流行り、いまでは抱っこひも姿の男性もたくさんいる。

妻:時代が変わったなあと思うよね!10年前はほとんどいなかったけど、男性が出勤前に子どもを保育園に送る姿もよく見かけるようになったしね。

生き方、仕事の形は変化させていってもいいし、
変化できるようになった方がいい

妻:もともと私は、母が専業主婦だったから、“専業主婦”になることが当たり前だと思っていて、子育てしながらはたらく姿を想像していなかった。

夫:(笑)。反対に、うちは両親が共働きだった。母が美容室を経営していたから、母親がはたらいている姿を見て育ったし、それが当たり前だった。店のタオルの洗濯を手伝ったり、お腹が空いたら自分で何か料理したり、はたらく母親をサポートして家事をするのも日課だったしね。

妻:主夫の英才教育だよね…(笑)。

夫:ワンオペ育児が問題になっているけれど、核家族化が進む現代では、仕事と子育て、さらに介護も同時進行で行うとなると、性別役割分業では、何かあったときに対応しきれない。臨機応変にバランスを変えられるようにしておくことはリスクヘッジになる。

妻:アメーバのように、その時々で、スタイルを変えていけると良いよね。得意なことを、得意な方がする。

夫:そうそう。夫婦によっては男性の方が几帳面、凝り性、きれい好きということもある。女性だからといって家庭全般が得意だろうと押し付けられても困ると思う。そこは、適材適所でいい。

妻:家族ってチームみたいなものだと思う。チームワークで成り立っていて、攻守の役割や担当は自由自在に形を変えていけばいい。生き方、仕事の形は変化させて良いし、むしろ、変化できるようになっていった方がいい。将来のために、いろんな勉強をしておく、経験をしておく、はたらき方を変えられるようにしていく、それを夫婦で助け合いながら、ライフシフトしていくことが必要なのかなって思う。

夫:そのためにも、夫婦でのコミュニケーションは大事。忙しかったときでも、意識して月1回は夫婦の時間を持っていたよね。外に美味しいものを食べに行って、そこで将来のことや前向きになるような話をして。お互いに仕事の話も良くしたし、良く聞いていた。「家庭に仕事は持ち込まない」の考え方の人もいるけど、共有できるようにしておかないと、なぜ大変なのかも分からないから。仕事や将来のこともいっぱい話して、共感したり共有したりすることが大事だと思う。

妻:ストレスが溜まるから、仕事の話を聞いてもらえるのはうれしいな。

夫:お互いに話し合って、役割分担をしながらはたらくことは、子どもにもいい影響があると思う。とくに僕たちは家で仕事をする時間も多いから、子どもにどんなはたらき方をしているのか見せることができるのも大きい。昔は僕の親のように家業があったり子どもが家職を継ぐことも多かったけど、いまは会社員が増えて、親のはたらく姿が見せにくい時代。

妻:子どもに将来の夢を聞くような統計を見ても、スポーツ選手、タレントやユーチューバー、保育士や学校の先生が人気だよね。親のようになりたいって子は少ないのかな。

夫:身近な大人や輝いて見える大人が、親よりもそのような職業の方になっているんだと思う。教育も学校や塾任せになりがち。じゃあ親が子どもに何を見せられるかというと、それは「コミュニケーション」なんじゃないかな。教育でも社会でもいままでの知識偏重の認知能力よりも、コミュニケーション能力といった非認知能力が重視されてきている。どんなにテクノロジーが進化しても、人と接することはどんな仕事でも変わらず必要だし、AIに代替されないスキルを養うことが大事。それは、親がどんな仕事をしていても、夫婦の関係性を大切にしたり、仕事やはたらくことをもっとオープンにすることで、子どもに伝えることができるだろうなと思うよ。


Q. 最後に… お二人にとって「はたらいて、笑おう。」とは何ですか?

妻:私にとって、はたらくとは「発信」することです。英語の楽しさを教え、英語を使って世界と子どもたちを繋げたいと思います。前職でもいつか英語に携わる仕事をしたかったから、やっと発信できることがとても楽しくて、自然と笑顔になれます。

夫:僕がやっているのは「ライフを楽しむ」こと。父親支援事業は「笑っている父親を増やそう」がテーマです。笑う父親が増えれば、「あのお父さん、楽しそうにしているぞ」と興味をもってもらえて、共感して楽しむ父親が増えていく。そうすれば家庭に笑顔が増え、会社にも社会にも笑顔が増えていくのだという思いでNPO活動をしています。だから、自分が楽しんで、妻がお話したようにそれを「発信」していくことで、「はたらいて、笑おう。」に繋がっていくのではないかなと思います。


●村上 誠さん・康子さんご夫妻 プロフィール

誠さん(写真右):東京理科大学理工学部建築学科卒。フリーランスのグラフィックデザイナーとしてはたらきながら主夫業を担当。NPO法人「ファザーリング・ジャパン」「NPO法人孫育て・ニッポン」、NPO法人「いちかわ子育てネットワーク」の理事、「秘密結社主夫の友」総統を務める。

康子さん(写真左):幼少期よりインドネシア、アメリカ、クウェイト、フランスに在住、青山学院大学在学中にアメリカへ留学し、コロンビア大学にてAmerican Language Programを受講。IT企業の役員秘書を経て小学校の外国語活動指導員に。自宅で幼児~中学生向けの英語教室「Bridge to English」も開講中。

>>第2回記事はこちら

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