タイヤの溝の深さ、規定値以上ありますか?ハンディ型タイヤ溝計測器「みぞみるくん」(仮称)開発ストーリー

パーソルAVCテクノロジー株式会社は、日本初(※1)のハンディ型タイヤ溝計測器「みぞみるくん」(仮称 以下、みぞみるくん)を開発しました。2021年3月に発売を予定しています。
(※1)計測精度±0.1㎜のレーザー光による位置読み取り方式を使用したハンディ型タイヤ溝計測器として、日本初(2020年12月当社調べ)。

タイヤ溝計測器とは、タイヤにある溝の深さを測るもの。この作業は、安全性確保のために非常に重要で、日常点検(※2)や定期点検(※3)で、接地面に偏摩耗(※4)などの異常な摩耗がないか、溝の深さが規定値以上あるかどうかを確認しなければなりません。
従来の方法ではタイヤの点検に膨大な時間と労力がかかるなど、さまざまな課題がありました。そうした課題を解決すべく開発されたのが、「みぞみるくん」です。
(※2)「自動車点検基準」第1条
(※3)「自動車点検基準」第2条
(※4)道路条件や使用条件により、タイヤが部分的に異常に摩耗する現象

今回は、パーソルAVCテクノロジーの自社製品「みぞみるくん」の開発プロジェクトメンバーの中から、下記の3名に、開発に乗り出すきっかけから今後の展望までを聞きました。

梅澤 和泰(第五技術部 第三設計課)
担当は、家電から業務用の製品まで、電気回路の設計開発。「みぞみるくん」では、電気関係の設計を主に担う。

小寺 欣和(第六技術部 第一設計課)
担当は、製品の形や製品内部の構造などを設計する機構設計。「みぞみるくん」でも、外装と製品の中の構造関係を担当。

本間 奈美(第二技術部 第六設計課)
担当は、ソフトウェア設計。家電など、お客さまの要望を実現するためのソフトウェアのプログラムを組む。「みぞみるくん」では、本体のソフトウェアを開発。


お客さまの「困っている」の声からはじまった開発。
小型化が大きな壁に


タイヤの溝はさまざまな環境条件下において、車が安全に走行するために重要な役割を担っており、日常点検や定期点検は欠かせません。
そんなタイヤの溝計測で、「困っている」というお客さまの声をまず聞いたのは梅澤でした。それは、1年半ほど前のこと。定期的にトラック数十台のタイヤの状態をチェックしているというタイヤメーカーからでした。

「従来の計測器デプスゲージには、測定子と呼ばれる突起があり、それをタイヤの溝に押し当てて溝の深さを測ります。でも、この方法では1本のタイヤにつき数か所を測定しなければなりません。車1台につきタイヤは最低4本あるので当然その分の工数がかかりますし、作業員によって誤差が生じてしまうことがあり困っているというお話でした。」(梅澤)

この話を聞いたとき、梅澤は「この課題を解決したい」「我々の知見や技術を駆使すれば、もっと簡単でスピーディに測定でき、誤差も少ない測定器がつくれるはず!」と思ったといいます。こうして、梅澤の確信のもと開発プロジェクトがスタート。しかし、順風満帆とはいきませんでした。

プロジェクトメンバーでイメージをすり合わせながら、まずは試作機を製作。できたのは、約W100㎜×D100㎜×H70㎜の大きさの箱に棒がついているようなもので、棒を持ってトラックのタイヤのボディの隙間に機器を入れ、タイヤの接地面に沿わせて機器をスライドさせながらレーザーで溝の深さを測定するというもの。そして計測データは自動的にパソコンやタブレットに送られるようにしました。これなら、計測をスピーディに行え、作業員によって計測に誤差がでることもなく、データの活用も可能。

しかし、これをお客さまのところに持っていった梅澤は、機器がタイヤとボディのすき間に入らないうえに、たとえば車が密に駐車している場所では持ち手の棒が隣の車に当たるため『大きさと形状がネック』という指摘を受けます。

ここから小型化への試行錯誤がはじまります。
目指した大きさは、手のひらサイズ。実現できれば、持ち手も不要。機器を片手で持ち、トラックのタイヤとボディの狭い隙間に腕を入れて、タイヤの接地面にスライドさせて溝の深さを計測できるので、車同士が密接していても、一人で簡単・正確に計測できるからです。

この小型化の実現に奮闘し、尽力したのは構造担当のメンバーでした。

「センサーや電子回路基板に加えて、乾電池駆動なので電池を入れるスペースも必要でした。そのほかにもICタグを読み取れるようにしなければならないなど、入れるものはたくさんあります。それらをどう手のひらサイズの箱に詰め込もうかと本当に悩みました。さまざまな仕掛けをつくったり、無理をいって基板を小さくしてもらったりもしました」(小寺)

小型化するために、小さい部品などを集めてただ詰め込めばいいというわけにはいきません。小さくても高価なものを寄せ集めてはコストがかかり、販売価格が上がってしまいます。さらに、実際には工場で業者の方が組み立てるため、その作業性も考える必要があります。こうした課題をクリアした上で、薄さを当初の試作機の100mmから35mmまで圧縮、薄くて持ちやすいハンディタイプにまで縮小することに成功しました。

量産し販売するには、小さくても機能性に優れ、使い勝手がよくなければなりません。この分野で持てる技術力を駆使し、汗を流したのはソフトウェア設計担当のメンバーです。

「ソフトウェアの設計は、製品の仕様も考えながら進めていきます。たとえば、『みぞみるくん』には操作スイッチが3つしかありませんが、こうした限られた部品の中で、実際に使う皆さんが求める機能を使いやすいように設計していきます。乾電池駆動なので、箱の中にたくさんある機器に、適切に機能制限をつけるなどして消費電力も極力抑えています。」(本間)

設計しては方向転換し、また設計しては方向転換する――、それを幾度となく繰り返し、机上では10パターンほど設計したのち、いまの「みぞみるくん」の形状と機能を持つ試作機が完成したといいます。
お客さまは、大きく改良された機器をみて、かなり驚かれたそう。そして『これならいけると思う』というお墨付きをいただいたのでした。そのときの気持ちを梅澤はこう話しました。

「うれしかったですね。いまの『みぞみるくん』の形になるまで本当に試行錯誤したので、お客さまにお持ちするときも『これで受け入れてもらえるかな?』と不安でした。実際はかなり喜んでいただけたので、ホッとしましたし、やって良かったと心底思いましたね」(梅澤)

そして、開発発表後は、大手タイヤメーカーや運送業者などから問い合わせが続々と来ているそう。中にはサンプルの貸し出し依頼もあるといいます。この多くの反響に、開発担当の3人は、「予想以上の反響をいただき、驚いています。とてもうれしいです。」と声を弾ませます。
そんな「みぞみるくん」の特徴や計測のイメージは下記です。

詳しくはこちらをご覧ください。


一からつくる「モノづくり」の楽しさを実感
「あったらいいな」をもっと世に出したい


開発をはじめてから約1年半、奮闘を続け『みぞみるくん』を無事世に送り出したプロジェクトメンバーの3人は、今回の経験を通して感じた自社製品開発への想いと展望を下記のように語りました。

「私は今回はじめて自社製品の開発を手がけました。はじめに決まっていたのは、タイヤの溝を測りたいという方針だけ。操作ボタンを押したときにどう作動させるかなど、すべて自由でした。自由な反面、考えなければならないことが多く大変ではありましたが、仕様をみんなで考えながら決められるのは楽しいし、面白いと思いましたね。
自社製品ができるまでの流れも経験できて、本当に良い勉強になりました。」(梅澤)

「これまで私は家電など身近なもののソフトウェア設計に携わってきたのですが、タイヤの溝を測るという特殊な機器開発にも自分の技術が役立つことに驚きました。
今回は、一から自分たちで考えたので、本当に『モノづくり』をしている、『自分たちがつくった!』と感じることができました。私の入社理由は、『モノづくりができる』というところに惹かれたから。そんな初心を改めて思い出しました。自分たちの技術を使って、一から自社製品などをつくる『モノづくり』をこれからも楽しんでいきたいと思います」(本間)

「『こういうのがあったらいいな』というのは世の中にはきっとたくさんあって、今回のタイヤの溝計測器はそんな中の一つだったと思っています。パーソルAVCテクノロジーには、電気、機構、ソフトといった開発に必須な3軸に精通したエンジニアが揃っています。『みぞみるくん』は、実際、我々がこれまで培ってきた技術を使ってつくることができました。ですから、ほかにももっと、世の中の役立てることがある、『あったらいいな』の実現ができると、思っています。
いまは、『みぞみるくん』が発売された後、どのような反響があるのか、それが楽しみでもあり、少し怖い気持ちですが、それもモノづくりの面白さ。今後もさまざまな自社製品を開発していきたいと思っています。」(小寺)

パーソルAVCテクノロジーは「みぞみるくん」の提供を通じて、タイヤの溝計測の正確性向上、作業の効率化による生産性向上に貢献し、より安全な自動車社会実現への一助となることを目指します。また今後も、IoT、モビリティなどの分野において、新たな技術の導入や開発にも積極的に挑戦し、顧客企業の抱える課題や社会のニーズに対し、多様なソリューションを提供して、「はたらいて、笑おう。」の実現を目指します。

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