製作したのは、障害のある社員たち。
「On Silk」をキャッチフレーズに、障害者雇用と養蚕業をサポート。
障害者雇用を手掛けるパーソルサンクス株式会社が運営し、養蚕業を行う「とみおか繭工房」は、新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大によるマスク不足をきっかけに、3月よりシルクを使用したマスクの製作・販売を開始しました。現在、群馬県内の道の駅2カ所(富岡市「みょうぎ」、甘楽郡下仁田町「しもにた」)、食の駅1カ所(北群馬郡吉岡町・吉岡店)で販売しています。
「とみおか繭工房」は、高齢化が進み縮小を余儀なくされている群馬県の伝統ある養蚕業の活性化と、障害者の新たな就労の場の創出を目指し、2017年より桑園管理から蚕の飼育、和紙づくりなどを展開する事業を行っています。
今回は、「とみおか繭工房」の開設当時から運営責任者を務める原田 大に、マスクを製作するに至った背景から、今後の展望までを聞きました。
※障害のある社員(以下、メンバー)、障害のある方をサポートする社員(以下、スタッフ)
原田 大(パーソルサンクス 事業本部 群馬事業部 とみおか繭工房 マネジャー) 一貫した現場主義と強い意志でキャリアを積み、2016年より「とみおか繭工房」の現場責任者に。試行錯誤で養蚕業を行いながら、障害者の成長、養蚕の伝統や技術を守ることに精力を注ぐ。地元出身で実家は養蚕農家。
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製作の背景
メンバーの想いからはじまったマスクづくり。生地は地元群馬県産シルクを使用。
コロナの感染拡大により、2月下旬、日本中がマスク不足に陥りました。とみおか繭工房では畑での作業も多くあり、通常時でもマスクは必需品。困り果てていた原田が「私たちでつくりたいね」と話すと、手先の器用なメンバーが「私、つくったことありますよ」と挙手。その型紙をもとに製作することが決定しました。しかし、とても生地から製作する時間的余裕はありません。ならば、「せめて群馬県産のシルク生地を使いたい」と、原田は地域の生地業者に相談。原田が群馬県産のシルクにこだわったのは、群馬県の養蚕業を守りたい、課題を解決したい、という「とみおか繭工房」の理念とスタッフやメンバーの熱い想いからでした。
マスクの概要
チームで試行錯誤し、完成したマスクは4枚構造に
マスクはガーゼ2枚、シルク2枚の4枚構造。ガーゼとシルクの間はポケットのようになっていて、抗菌フィルターが入るようになっています。耳にかける部分は綿100%のバイアステープからつくられています。好みの長さに調整できるため長時間使用しても痛くならないようにという工夫の一つです。
「『ガーゼを2枚重ねにしよう』というと案を出したのはメンバーなんです。ほかにも眼鏡がくもらないように、繭の毛羽(繭の出荷前に取り除く繭表面のフワフワした糸)を使ってノーズピローを付けたらどうかと、実際につくって『原田さん、見てください』と持ってきたメンバーもいましたよ」と、誇らしげに話す原田。
とみおか繭工房では、「スタッフとメンバーの間に壁をつくらない」がモットー。これは、障害の程度はさまざまで、得意・不得意も人それぞれあるけれど、それは健常者の個性と同じという考えからです。最終的にはノーズピロー案の採用は見送ったものの、マスクの構造には、皆から出た数々の意見が取り入れられています。
1枚1枚心を込めて手づくりしたマスクは即完売
「マスクの製作は、はじめ手先が器用な3名にお願いしました。でも、スタート時にミシンを使えたのは、型紙を提供してくれたメンバーのみ。急遽、もう一人にミシンの使い方を身につけてもらうとともに、ミシンがけ前の工程を細分化し、製作メンバーを増やすことに。いまは5人体制で1日10枚程度はつくれるようになりました」
道の駅でテスト販売をスタートしたのは3月30日。あっという間に完売し、4月7日から正式販売をはじめたといいます。お客さまからの問い合わせも多かったそう。
「『知人にすすめられたのですが、どこで買えますか?』『購入してよかったので次の日また買いに行ったけど売り切れ。いつ入りますか?』といったお電話をいただいたりしました。一般的に販売されている国産シルクを使ったマスクの相場より低価格だったので、それも魅力だったのかもしれません」
「肌ざわりがとても良かった」といった感想も多く、原田は「もっとつくれれば、もっと地域に貢献できたのに」と思い、今度はより多くの夏用マスクを製作しようと決意しました。
夏用マスクは、ガーゼは使わずシルク生地で涼やかに!
7月からは、とみおか繭工房でつくられた繭から採れた糸を100%使用した、夏用シルクマスクを販売予定。生地織りから縫製までを外注し、メンバーは耳の紐部分(コットン100%)の縫製やパッケージ化を行い、600枚生産するといいます。
「夏用は、暑い中で使用することを一番に考えました。比較的薄めの2枚構造で、口呼吸をしたときにも布が口に張り付かないよう、上下部分にマチがある3D立体型になっています。内側は、通気性のいいオーガンジー生地シルクです。シルクは、吸・放湿性に優れ、UVカット効果、静菌効果も期待できるといわれる素材。夏用マスクにはぴったりだと思います」と原田。
夏用マスクは、現在テスト販売中
外側に使用するシルク生地は、1,000年以上の歴史があり、伝統工芸品として認められている柔らかな感触と光沢が特徴の桐生織。ここにも、伝統ある養蚕業を残したい、というとみおか繭工房の強い想いがあります。
原田は、今後の展望を下記のように語りました。
「養蚕業を残していくには、多くの方にシルク製品を使ってもらい、その魅力を感じてもらうことが重要。また、日本の衣食住の衣における自給率は1%未満と言われています。ほとんどの衣を海外に頼っているからこそ、マスク不足にもなりました。シルクマスクは当初必要に迫られて製作しましたが、今後は『On Silk』というキャッチフレーズで、新しい生活様式の中にシルクを取り入れてもらえるよう、さまざまな提案を行い、とみおか繭工房のシルクから、日本の衣の自給率1%未満の脱却を目指していきます」
パーソルサンクスは、とみおか繭工房をはじめ、地域と連携しながら、その街でできることを自治体とともに考え生み出した工房のほか、さまざまなオフィスにおける業務支援やカフェ、リフレッシュルーム、清掃など、障害者の個性をいかしたはたらき方による自立および成長を広く支援し、「はたらいて、笑おう。」の実現を目指します。