外国人材とどう向き合う?調査から見えた採用・定着、マネジメントのヒント

少子高齢化が進む日本。日本ではたらく外国人材は増えています。そんな日本において、企業はもちろん、はたらく個人にとっても外国人材との共生は不可避かつ喫緊の課題と言えます。
そこで、パーソル総合研究所は、2019年に外国人雇用プロジェクト「外国人材の採用・定着、共生を探求する」を発足。外国人材という社会的大テーマに対する調査を3つのフェーズに分けて開始しました。
新型コロナウイルスの影響により、プロジェクトも新たな局面をむかえているとのことです。

今回は、プロジェクトの始動の背景から第1フェーズの調査結果を踏まえ、実態や課題などをプロジェクトメンバーであるパーソル総合研究所 シンクタンク本部の小林 祐児、高月 和子、青山 茜の3人に話を聞きました。

目次

プロジェクトの立ち上げ背景

少子高齢化が進み、外国人労働に頼らざるを得ない日本。これから先、外国人材とどのような関係性を構築していくべきなのでしょうか?
現在、外国人材の採用・定着、共生については、いずれのフェーズにおいても客観的に状況を捉えたデータが不足している状態です。そこで、パーソル総合研究所は2019年に「外国人材の採用・定着、共生を探求する」プロジェクトを立ち上げ、調査を開始しました。
現在調査が終了した第1フェーズでは、「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査」「外国人部下を持つ日本人上司の意識・実態調査」「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」の3つを行いました。

3つの調査内容について、リサーチ部主任研究員の小林に聞きました!

外国人材雇用に対する企業のスタンスは二極化傾向。
外国人材の離職理由は、賃金とサポート体制

――企業は外国人材を積極的に採用していく方針なのでしょうか?

小林:二極化が進んでいますね。すでに外国人材を雇用したことがある企業は、42%が「外国人採用・活用強化」を考えており、優先度としてずば抜けて1位。一方、現在外国人材を雇用したことがない企業は、ミドル・シニアの活性化などが上位にあがり、外国人材の採用や活用の強化を考えている企業は、わずか9.2%で12位という結果でした。

――かなり差があるのですね……。なにか理由があるのでしょうか?

小林:雇用経験によるノウハウの蓄積があるかないかが大きいと思います。たとえば、外国人材の雇用に必要な制度や事務処理の煩雑さに対するノウハウ、外国人材の定着率をあげるためのノウハウなどです。

――外国人材が定着しない具体的な理由を教えていただけますか?

小林:一つは、賃金です。同職場、同職務内容ではたらく正社員の日本人と外国人材の平均月収をみると、外国人材の賃金水準は日本人よりも確かに低水準で、平均月給差は-4.6万円。でも、離職率が低い職場の平均月給差は-1.9万円ほどです。反対に離職率が高い職場では、なんと-10.6万円もの差がありました。これでは辞めてしまっても無理もありません。

――賃金以外には、どんな要因があるのでしょうか?

小林:企業のサポート体制の薄さも大きく影響しています。たとえば、外国人材と職場メンバーの理解を深める場の設定や、外国人材用のマニュアル・業務資料の準備などです。こうしたサポートを行うには当然コストがかかるのですが、ここをきちんとやらないと外国人材はもちろん、マネジメントをしている日本人上司の離職にも繋がりかねないことが明らかになりました。

外国人材に対するマネジメントは手探り状態。
「できれば辞めたい」と思っている上司が17.2%も!

――マネジメントする側も、離職危機にある訳ですね……。

小林:はい。外国人材をマネジメントしている社員に外国人材の受け入れについての指導や、定期的なヒヤリング面談を行っている企業は2割程度。そのため外国人部下を持つ日本人上司の30%が「ノウハウがなく、手探り状態である」と答えています。また、思っている以上に「自己主張が強かった」「日本の常識が通じない」といったといった、受け入れショック(想定外のネガティブなこと)を受けており、17.2%は「できれば今すぐにでも辞めたい」と回答しています。

――外国人材に対しても、現場の上司に対してもサポート体制を充実されることが喫緊の課題ということですね。

小林:その通りです。でも、マネジメントする上司側でも工夫する余地はあります。受容力、観察力、説得力、表現力、対話調整力、という5つの力でみたとき、日本人上司が得意なのは、受容力や対話調整力。つまり、「仲良くやりましょう」といった友好的なマネジメントです。そして苦手であり、足りないのが「表現力」です。

――そのような言葉を、言葉にして伝えることが大切なんですね。

小林:「暗黙の了解」など、日本の常識は、外国人材には通じません。また、言葉の壁があり、日本人上司が臆しているのだと思うのですが、外国人部下とのコミュニケーション量が、日本人部下と比べてとても少ないという結果もあります。

コミュニケーションの少なさ、文化の違い……。
日本ではたらく外国人材は、孤独感を抱いていた

――これまでのお話を勘案すると、外国人材の方は、とても孤独な心境にあるのではないでしょうか。

小林:はい。職場に外国人同僚が少ない正社員の場合は特に孤独感がより強く、「私は孤立している」と思っている人が30%以上もいます。そして、その孤独感がパフォーマンスや継続就業意向に悪影響を及ぼすことも分かりました。

――ほかにも外国人材が不満に思っていることはあるのでしょうか?

小林:明確なキャリアパスがないなどもがありますね。また、対上司への不満では「アイデアや意見を受け入れてくれない」「私の成果を自分の手柄にしてしまう」というものが1位、2位でした。
日本人部下からみた上司への不満でも、この2つの項目は上位にあがるのですが、これが一番になることはありません。個の成果が組織に吸収されるのは、日本人以上に外国人材には考えられないことのようです。

――文化の違いですね‥…。企業側は、そうした不満があることを知っているのでしょうか?

小林:マネジメントやキャリアパスへの不満、孤独感などは、上司に言えない、言わない「隠れ不満」であり、それを外国人材が抱えていると感じ取れている企業はとても少ないのが現状です。
「隠れ不満」は離職に繋がるだけでなく、採用にも影響します。なぜなら、そのような環境で仕事をした外国人材は、母国の人に日本ではたらくことを勧めなくなるからです。

――この3つの調査で見えてきたことをまとめると……。

小林:これまでの日本企業の雇用のあり方やマネジメント方法は、外国人材に合わないこと、そして現場ではたらく外国人材も日本人上司も苦しんでいることから、グローバルな労働力獲得競争の中で外国人材を得るには、外国人労働者と日本人、両方に対するサポートを充実させる必要があると感じました。

――最後に、プロジェクトで今後どのような調査をしていかれるのか教えていただけますか?

小林:いま、日本ではたらく高収入の外国人材へのインタビューを実施したり、日本を選んだ理由などを調査しています。今後は地域に暮らす日本人と外国人との日常生活を含めた共生について探っていこうと思っています。


調査を行った3人に聞きました! ――私が思ったこと、感じたこと――

小林 祐児(パーソル総合研究所 シンクタンク本部 リサーチ部 上席主任研究員)

外国人材が隠れ不満を抱いていというのは想像がついていたのですが、「孤独感」を感じているというのには気付いていませんでした。驚きましたね。孤独感は離職に繋がります。日本語が苦手だと孤独になりがちなので、メンターに母国語がわかる人をつける、定期的な面談をするという工夫が必要だと思います。実際にそうしたサポートを行っている企業での外国人材の孤独感は緩和されていますし、今後の施策として必要だと感じました。


高月 和子
(パーソル総合研究所 シンクタンク本部 リサーチ部 研究員)

外国人材の受け入れを「コスト」として考えるのではなく「投資」として考え、企業のサポート体制を整えたり、マネジメントをしっかり行っていく――、そうした経営側の覚悟が必要だな、と改めて感じました。もちろん、上司自身も変わっていく必要があると思います。マネジメントスキルは経験とともに上昇することも調査で分かりました。今後はスキルアアップのスピードをいかに早められるかが課題だと思います。


青山 茜
(パーソル総合研究所 シンクタンク本部 リサーチ部 研究員)

日本人上司と外国人上司のマネジメント行動についても調査したのですが、日本人上司は外国人上司より「変化を嫌がる傾向がある」「仕事の範囲を明確に指示してくれない」という結果が出ています。しかも、その差はかなり大きいものでした。この項目は外国人材が不満に思っているところですし、外国人材に活躍してもらうために、日本人上司が特に意識して改善すべき点ではないかと思いました。

●プロジェクトの調査結果など、詳しくは「特設サイト」でご覧ください。

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