パーソルホールディングス株式会社では、パーソルグループの全社員を対象に、社員の主体的な変化・成長とキャリア自律支援を後押しするための公募型研修「@(アット)」を実施しています。
12月5日、この「@(アット)」の新たな試みとして、日本の伝統話芸の一つである「落語」を通じて自身の価値観を見つめ直し、学びを深める研修プログラムを、オンラインで開催しました。
『落語で“生き方と多様性”を考えるワーク』
本研修プログラムは、講師として、落語家の桂 やまと氏にご登壇・講話をいただきました。
桂 やまと氏
1974年東京都荒川区生まれの落語家(真打)。都内各寄席をはじめ全国の落語会、講演会で活躍中。
生粋の東京っ子らしい明るく闊達な口調、リアルな人物描写を持ち味として古典落語を語る。目指すのは演じる自分自身がいつしか噺に溶け込み、登場人物たちそのものがお客さまの目の前に表れるような表現。江戸時代から先祖代々住んでいる東京の下町・尾久を愛する。
やまと氏が落語に出会ったのは、19歳の時。初めて観た寄席に感動し、中央大学では落語研究会で活動。落語家になることを志し、卒業とともに、桂 才賀師匠に弟子入りしました。
入門時、やまと氏が才賀氏からかけられた言葉は「学生時代に覚えたことは、すべて捨てなさい」。それまでの知識や感覚のすべてをゼロにすることから始まった修行の過程は、大変厳しいものでした。時には、“理不尽”に感じるようなしきたりもあったといいます。
そのような修行から、落語家は何を学ぶのか──。当日の研修の様子を、一部抜粋してご紹介します。
研修の様子
(1)落語に触れる
やまと氏から、落語の歴史や楽しみ方などについて説明を受けた後、代表的な演目である『時そば』を披露いただきました。
研修参加者にとって、オンラインで落語を観るのは初めての機会。画面越しからでも伝わってくるやまと氏の噺(はなし)の面白さと熱量に、全員が惹き込まれました。
(2)落語家の修行について知る
続いて、やまと氏から「落語家の修行」について、ご自身の体験をお話いただきました。
修行を始めてすぐ、やまと氏はいくつかの“理不尽なしきたり”を知ることになります。
「師匠の意見は絶対。自分がどんなに違うと思っても、師匠の意見に反対すればその場で破門になってしまうような世界でした。明らかに『白』のものでも、師匠が『黒』と言えば、それは『黒』なんです。
(やまと氏の講話より抜粋・要約)
また、弟子は師匠の前では『はい』『いいえ』などの返事か、必要最低限の用件しか口にすることはできませんでした。ずっと師匠の後ろに付いて、師匠がほかの芸人やお客さまと交わす会話を、ただじっと聴いているしかないのです」
「先輩の着物を畳んだり、お茶を淹れたりすることも弟子の重要な役割です。しかし、ただやっているだけでは駄目。お茶であれば、人によって好みの熱さや濃さがまったく違います。人の細かな好みに合わせて淹れることが求められました」
話すことが好きで落語界に入ったのにも関わらず、雑談が許されないどころか、自分の意見や好みはさておく修行の日々が続いたやまと氏。
しかし、入門から一年半ほど経った日のこと……。
ある落語会と歌謡ショーの舞台転換の際に、師匠から突然「おい、つないでこい」(当場面においては、ショー開始までの時間に観客を退屈させないため、舞台で10分程度雑談をしてくること)と命じられます。やまと氏は恐る恐る観客の前に立ちますが、いざマイクを持つと、不思議なことに、自身の口からは次から次へと話が出てきたそう。観客の反応一つひとつを確かめながらトークを繰り広げ、その場は大いに盛り上がったといいます。
「師匠が普段しているような、観客の雰囲気に応じた話し方を、自然と体現できたのです。ずっと師匠に付いて、話を聞いたり、人の観察を繰り返してきたからこそ成し得たことでした」
(やまと氏の講話より抜粋・要約)
「修行では、自由な発言が許されなかった分、他人のことを考えるクセがつきました。人の好みに合わせてお茶を淹れるのと同じように、『自分』ではなく『人がどうすれば喜ぶか』を考える。“自分を捨てる”ことで、新たに気付けることがあるのです」
(3)対話する
その後、やまと氏と研修参加者との対話の時間が設けられ、参加者からは、活発な質問や意見が飛び交いました。
ある参加者からは「雑談をしてはいけない理由について、師匠からあらかじめ説明はないのでしょうか。意図を理解して修行に臨めた方が、弟子にとって納得感があるのでは?」という意見も。
これに対し、やまと氏は「確かにそうかもしれません。しかし、師匠が考えていることを先に知ってしまうことで、自分から何かを感じ取ろうとする姿勢が失われるという側面もあります。『教えない』からこそ、気付けることがあると感じます」と、自身の考えを共有しました。
また、ほかの参加者からの「落語家として大切にしている『笑う』とは?」という質問には、「自分が話したいことを話すのではなく、お客さまに笑ってもらうことが第一。でも、だからといって自分らしさを捨てるような“滅私奉公”ではありません。会場のお客さまがつくる雰囲気を感じ取り、そこに合わせながら自分がやりたいことができた時、お客さまに喜んでもらえます。そこで、初めて私自身も笑うことができるのです」と解説しました。
予定時間を超えるほど盛り上がった対話会も、終わりの時が訪れます。やまと氏とは、ここでお別れ。
このあと、研修の参加者同士で、改めて自分の大切にしたい生き方やキャリア観、価値観などを見つめ直すワークを実施しました。
やまと氏の体験や対話会の内容を経て、「自分自身は何を大事にしながら生きていきたいのか」や、「自分の拠り所として育み続けたいことは何か」などを、ペアワークなどを通じて探求していきました。
研修の参加者からは、以下のようなコメントが聞かれました。
今までの自分は、キャリアを考えるときに「こうあるべき」と肩ひじを張りすぎていたのかなと感じました。
自分の意見・考えを持ち伝えることは大切なことではあると思いますが、その一方で、一度立ち止まり客観的に自分を見てみることや、持論を脇に置いて考えてみることも大切なのだと感じました。
ポイントは「過去の考えや価値観を取り払う」こと
公募型研修「@(アット)」の担当者であるパーソルホールディングスの樋浦 武志は、このプログラムの狙いを次のように語ります。
激しい環境の変化に対応するために、今、一度従来の知識や概念を捨てさる「アンラーニング(学習棄却)」が注目されています。やまと氏も、一度それまでの自分の考えや価値観をリセットし、落語の徒弟制度の中でただひたすらに「感じる」という体験をし、それがご自身の落語家としての仕事に大きな影響を与えました。人には、知らず知らずのうちに妄執している価値観や考え方があります。それを一旦脇に置いたときに新しく変わることができることはあるのか。また、ありたい自身を描いていく上で拠り所として育み続けたいことは何か。研修参加者はこのような問いを起点にして、自分のありたい姿を描いていく上で、今後大切にしたい生き方やキャリア観、創り出していきたい価値やその意味などについて探求を深める機会にしていただきました。
公募型研修「@」について
自分の“はたらく”を見つめ直すきっかけに
※「@(アット)」:「Adventure Training Program」を略した名称。
日常と異なる経験を通じた内省と対話を取り入れた、アクティブラーニング型の研修プログラムです。参加者は、パーソルグループに所属する社員から有志で募っています。
日々の仕事や取り巻く環境、考え方や価値観の慣習などから離れ、普段とは異なる視点でキャリア観を見つめ直すことができるよう、2021年度からは「ワークショップコース(先進的でユニークなワークショップをベースにキャリア自律の気付きを得る)」と、「越境学習コース(NPO協業、産学連携等の協働を通じた社会課題解決の体験をベースにキャリア自律を育む)」の2つのコースを用意。社員が自身の大切にしたい生き方やキャリア観・価値観などを見つめ直し、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実感できる機会を提供しています。