パーソルグループでは、多様な人材の新たなキャリア支援として、紛争などを理由に他国から逃れて日本へ来た方々を対象としたキャリア支援活動を開始しました。本記事では、その多角的な取り組みを紹介する後編です。
後半では、海外人材の採用支援を専門とするPERSOL Global Workforce株式会社のメンバーが進めているJICA(国際協力機構)の「シリア・平和への架け橋・人材育成プログラム(Japan Initiative for Syrian Refugee:通称JISR)」を支援する取り組みと、2024年2月19日に発足し、パーソルグループも参加した「難民包摂市場」を創造するビジネスリーダー・企業コミュニティ「Welcome Japan CxO Council」について紹介します。
JICA-JISRサポートチームと協働でシリアからの留学生の就業を支援
JICA(国際協力機構)が行っている「JISR」は、2016年5月に日本政府が表明した中東支援策の一つで、シリア危機により就学機会を奪われたシリア人の若者を、技術協力の枠組みの中で留学生として受け入れる事業です。
その留学生の就職活動の伴走に2023年からPERSOL Global Workforceも加わりました。そこで、本プログラムへの参加についてPERSOL Global Workforce 代表取締役社長の多田 盛弘と、メンバーの鍋島 詩織、杉田 純一から、話を聞きました。
──まずは、どのような形でみなさまが参画されているかを教えてください。
多田:私は過去20年間、JICAや世界銀行などでODA(政府開発援助)に携わっていました。世界30カ国以上を支援してきた中、2016年に日本語を学ぶベトナム人の実習生に出会ったことがきっかけで海外人材の国内活用へ関心を持ち、PERSOL Global Workforceを立ち上げました。
そんな私たちの基幹事業は海外の方に日本で就業できる語学力をつけ、資格取得ができるよう支援し、マッチングすることです。2019年の創業より、技術者と中間管理職レベルの人材について、就労支援を行ってきました。そこで、難民にも同じ支援ができるのではないか?という視点から、このプログラムへの参加が始まりました。
仕事でのスキルを活かして社会貢献する「プロボノ」として取り組ませていただければ、就業がうまくいくのではないかと考え、シリア難民の就業支援を始めています。
他方、難民にはもともと一次産業を生業にされていた方も多くいらっしゃいます。今後はそういう方へも研修を実施し、就業できる機会をお届けしたいですね。
日本独特の採用プロセスへ並走し、スムーズな内定獲得へ
──シリアから逃れてきた方を採用されたとのことですが、これまでにも実績があったのでしょうか。
杉田:シリア難民の方を支援するのは、今回が初めてです。私たちが担当するのは、シリアの方に伴走して、日本の独特な採用プロセスをくぐり抜け、内定を得られるように支援することです。
多田:日本には、採用の背景に理解すべき文化や慣習があります。たとえば、協調性の高さや、謙遜する文化、稟議申請といった根回しなどです。こういった文化・慣習を知らなくては、海外人材は日本企業での就業でうまく組織になじめないケースが出てきます。そこで、なぜこういった文化を持っているのか解説し、腹落ちしてもらうプログラムを就業前の海外人材向けに用意しています。
また、紹介事業では、海外人材を活用したい法人さまへ向けて、異文化を理解するプログラムも実施しており、難民の採用向けにも今後実施をしたいと考えています。たとえば今回のケースでいうなら「シリアはどういう国か」「難民とはどういった方なのか」といったオリエンテーションが必要になるかと思います。
鍋島:今回はすでに留学生として日本へいらしている方を支援しているので、日本のことをゼロから教える必要はありません。ただ、日本の学生コミュニティしか知らない状態ですから、「社会人の常識」や就職活動の仕方を知らないまま大学院で研究をされています。
そこで、エントリーシートや面接の対策を実施予定です。また、何から手をつければいいか分からない方へは、就活の仕組みから解説します。
総合職、採用ページにエントリー……、すべてが海外人材には斬新
──日本で就職される上で、海外の方がとまどうことがあれば、教えてください。
杉田:前提として、海外から来た方は、日本で仕事を探す方法を詳しく知りません。日本の新卒一括採用も新鮮に映りますし、企業と出会う方法も分からない方が多くいます。ですから、まずはどういうアクションをとるべきか指南していきます。いわゆる新卒就活サイトへの登録や、エントリーの手順ですね。
特に海外の方が疑問に思われるのは「志望動機」ですね。日本では志望動機が重要視され、ときにハードスキルが高い方よりも、志望度が高い方を採用します。これが、海外の人材から見ると謎の風習に見えています。ですから、なぜ日本企業が志望動機を重視するのか、その背景にある採用に関する考え方や慣習などを解説することで、納得していただいています。
日本に限らず、難民が活躍できる場を世界につくりたい
──今後、みなさまが実現したいと考えているビジョンを教えていただけますか。
杉田:日本でも、海外人材の就業機会が増えてきました。そのため、高度海外人材を支援する裾野を、今後広げていきたいと考えています。海外人材の存在によって新しい知見も増え、日本のビジネスチャンスも広がります。
まずは今回のチャレンジをもって、どこに課題があるかを明確にしたいです。海外人材が会社へ適応するためだけの支援ではなく、組織として企業がどう海外人材をサポートすべきかの知見もためていきたいと思います。
鍋島:私としては「まず内定」という、目標を持っています。単にやってみました、課題はこれでした、ちなみに学生さんは内定しませんでした……、といった結果にしたくないのです。
たとえば日本国内にいる日本人の学生同士でも、都心と地方で情報格差があり、内定する企業に差が生まれています。海外人材では、このギャップがさらに大きくなると想定していますが、差をなるべくなくしていきたいです。
多田:今後の大きなビジョンでいうと、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの国際機関と連携し、海外人材を受け入れていくスキームを持てたら理想的です。
まだ最初のチャレンジをしている段階ですから、確実に実行できるとは言い難いかもしれません。しかし、こういった支援はかつて、私も他社で海外、国内を問わず行っていました。
たとえば、シリア難民でトルコに逃げた方も多いのですが、こういった方は言語の壁ではたらけず、貧民になってしまうケースが見られます。日本に限らず、ある国から別の国へ逃れた方を支援するスキームができれば、国際機関とも連携できるはずです。
「難民包摂市場」を創造するビジネスリーダー・企業コミュニティ「Welcome Japan CxO Council」が発足
最後に紹介するのは、2024年2月19日に発足した「難民包摂市場」を創造するビジネスリーダー・企業コミュニティ「Welcome Japan CxO Council」です。パーソルグループからは、パーソルホールディングス、パーソルクロステクノロジー、PERSOL Global Workforceの3社が参加しています。(2024年4月4日時点)
「Welcome Japan CxO Council」の事務局運営も務めるパーソルキャリア株式会社の伊藤 剛から話を伺いました。
──難民包摂市場を日本に作るうえで、どのような参画をされていますか。
伊藤:2023年12月、スイス・ジュネーブで世界最大の難民関連国際会議「第2回 グローバル難民フォーラム」(共催:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、スイス)が開催されました。この国際会議では、NPO/NGO団体、企業、政府・自治体などが「難民に関するグローバル・コンパクト」の理念に基づき、実施中/計画中の長期的支援を「宣言(Pledge)」として公表するのですが、今回は、日本政府が共同議長国を務めていることもあり、日本国内のさまざまな担い手から「宣言(Pledge)」が出されました。パーソルグループも「Welcome Japan」の活動を支援する中で、いくつかの難民の就労に関する「宣言(Pledge)」策定に関わりました。その中の一つが、「産業界とのオープンイノベーションを通じた難民包摂」です。
この「宣言(Pledge)」では、難民の支援から、日本らしい共生社会の実現と日本経済の持続的な成長の両立を模索する新たなコミュニティ活動を宣言しています。
そして、その宣言を実行するべく生まれたのが「難民包摂市場」を創造するビジネスリーダー・企業コミュニティ「Welcome Japan CxO Council」です。このコミュニティでは、日本国内を基軸とした難民・避難民の支援と包摂を推進する役割を担い、難民と日本社会のたくましい共生の実現に向け、日本における難民や避難民の方々の経済的自立と社会的包摂を促進する市場(難民包摂市場)を創造することを目指します。
発足時には、すでに大手企業からスタートアップまで20名のビジネスリーダーが名を連ねています。今後、さらにより多くのさまざまな業界で難民・避難民支援や社内の多文化共生、イノベーションを推進するビジネスリーダー(CxO)と現場の推進者の方々が集い、意見交換やベストプラクティスの共有を通じて、取り組みを学び合い、自社の実践に活かし、共創を促進していく予定です。パーソルグループとしても“はたらくWell-being”創造カンパニーとして、このコミュニティが難民の経済的自立と社会的包摂に貢献する新しいビジネスやサービスを生み出すきっかけになればと期待しています。
「難民から人材へ、人材から隣人へ」総合人材サービス会社であるパーソルグループに期待されること
──今後、実現されたい未来図を教えてください。
伊藤:2月19日に行われた「Welcome Japan CxO Council」発足発表会では、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)伊藤 礼樹 駐日代表も出席し、「CxO Council」への期待を述べられました。その中で長期的な期待として、大変印象に残ったのが「難民から人材、そして人材から隣人へ。」という言葉です。コミュニティの一員として難民が、難民ではなく隣人として普通に暮らせる社会を目指す。そのステップとして、難民の経済的自立、すなわち「難民から人材」がある。
“はたらくWell-being”創造カンパニーと自らを定義している総合人材サービス会社であるパーソルグループに期待いただくことは多くあります。今回紹介したパーソルグループの取り組みは始まったばかりです。これからもパーソルらしい難民包摂の活動の輪を社内・社外で広げていきたいと思っています。
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。