AIは“はたらくWell-being”をもたらすのか?「第5回 日経Well-beingシンポジウム」に登壇

パーソルグループは、日本経済新聞社が主催する「日本版Well-being Initiative」(※)に参画しています。2023年9月25日~26日には、「第5回 日経Well-beingシンポジウム」がオンラインとオフラインのハイブリット形式で開催されました。

今回のテーマは「世界に発信 持続可能な未来のビジョン」。このうち、初日に行われたパネルディスカッションでは「AI時代の企業経営と人材価値〜AIは従業員をWell-beingにしうるのか〜」について議論が展開されました。本記事では、当日の模様をご紹介します。

第4回の模様はこちら

(※)「日本版Well-being Initiative」
Well-being(実感としての豊かさ)を測定する新指標開発やWell-being経営の推進、政府・国際機関への提言、Well-beingをSDGsに続く世界的な政策目標に掲げることを目指す。国内企業26社が参画。

■登壇者(冒頭の写真右から
株式会社SoW Insight 代表取締役社長 中条 薫氏
株式会社シナモン会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO) 加治 慶光氏
パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO 和田 孝雄
<モデレーター>株式会社パーソル総合研究所 井上 亮太郎

目次

マクロな視点で見たときの「AIの現在地」

井上:まず始めに、グローバルマーケティング調査を行うイプソス株式会社が、2023年に世界31カ国を対象に行ったAIに対する意識調査についてご紹介します。

「AIにワクワクしますか?」という質問に「ワクワクする」と回答した日本人は51%。しかし、「AIの使用が増えることで、自分の仕事が良くなると思いますか?」という質問では、「良くなる」と回答した日本人は19%と、数字が一気に下がっています。

井上:この調査結果から、多くの日本人は自分の仕事にAIがどのように影響してくるのか「イマイチよくわかっていない」という現状があると言えるでしょう。

そこでまずは「AIの現在地」からお話できればと思いますが、加治さんいかがでしょうか?

加治氏私はAIだけにフォーカスするのではなく、ここ十数年間の社会の動きも視野に入れて考えることが重要だと考えます。

「政治」「経済」「社会」「技術」の4つの視点から見てみましょう。
まず「政治」においては、Society5.0やSDGsや、働き方改革の登場。「経済」では、我が国の現状であるインフレや株高の継続。「社会」では、いわゆるY・Z世代などと呼ばれる若い世代の登場。この世代はデジタルネイティブといわれ、社会課題に対しても非常に感度が高いです。そして「技術」ではリモートワークの普及に、文章や画像を生成するAIの勃興でしょう。このように戦後以降、日本のはたらき方は大きく変わっています。

井上:世の中が変わってきている中で、AIという技術が入り込んでいることが分かりますね。中条さんはいかがですか?

中条氏:私からは、日本企業の中でどのくらいAIが使われているか、という現状をお話させていただきます。2023年3月、監査やコンサルティング事業を行うPwC Japan合同会社が行った調査によると、約半数の企業でAIが導入されています。導入検討中の企業を加えると、約65%もの企業でAIの導入が進みつつあるとの結果です。

中条氏:ただ、この調査はAI導入済または導入検討中の企業を対象にしています。つまり、日本国内全体でみると、既にAIを導入している企業の割合はもっと少なくなるでしょう。となると、日本のAI導入の進み具合は、まだまだと言わざるを得ません。AI導入による費用対効果の明確化やAI人材の育成、AI特有のリスク対応などの課題に積極的に向き合っていく必要があると感じます。

井上:ありがとうございます。マクロな視点で「AIの現在地」が少しイメージできましたね。では、もう少し具体的にAIが仕事にどう関わっているのか議論を展開できればと思います。和田さんはお仕事の中でAIを使われていますか?

和田:私はもともとテクノロジーに疎かったのですが、実は最近毎日ChatGPTを使っています。たとえば、国際的な場でのスピーチ原稿の構成を考えてもらったり、英訳をしてもらったりなど、さまざまな場面で実験的に使っています。

現在パーソルホールディングスでは、社員に社内専用の生成AI「PERSOL Chat Assistant」を積極的に使ってもらい、業務の中でどのように使えるのかを探っています。当社は多様な事業展開をしていますので、最適なAIの使い方はきっと事業ごとに異なっているはず。だからまずは社員にこの「PERSOL Chat Assistant」を使ってもらい、どのようにしたら効果的に使えるのか、さまざまな角度で試行錯誤をしています。

リスキリングでWell-beingに。そのために企業に求められること

井上:仕事でChatGPTやAIの活用が盛んになると、AIを利用するわれわれに求められる能力にも変化があるような気がしますが、そのあたりはいかがでしょうか。

加治氏一般的には手動、判断、創造、共感の4つが関わる仕事は、AIに代替不可能な人間の仕事になると言われています。このあたりはNLP(神経心理学プロフェッショナル)の資格も取得されている中条さんのご意見もお伺いしてみたいです。

中条氏:恐らくこれからは、自分の軸でキャリアをデザインしなければならない時代に突入するのではないかと私は考えています。ただそうは言っても、いきなり自分のキャリアをデザインするのは難しいですよね。まずは「自分はどうありたいのか」考えてみると良いと思います。その時のポイントとして、感性、美意識、好奇心の3つの要素があると考えています。

まず感性は、AIと人間が共生する社会において、自分のやりがいや幸せを増やしていくために豊かであることが大切です。次に美意識は、人間らしい価値を生み出していく原動力となり、AIが導き出した答えの中で何が正しいか、考える軸になるともいえるでしょう。そして好奇心は、外で受けた刺激を摂取する、人生におけるビタミン剤のように思っています。

井上:新しい何かを学ぶことが、さらなる好奇心を育むことになりそうですね。リスキリングについて、加治さんはどうお考えですか?

加治氏リスキリングは労働移動の円滑化と密接に関係があるんですよね。転職すると報酬が上がると言われていますが、そのためには個人の能力・スキルが重要視されており、スキルへの投資は必要な構造だと考えます。

和田:加治さんがおっしゃるとおりなのですが、現状、転職をして報酬が上がる人は約3割程度と言われています。

ただ、最近は転職をせずとも、兼業や複業を推奨している企業も多いですよね。当社でも兼業や複業をしている社員が2,000人ほどおり、そのためにリスキリングしている社員もいます。複数の企業とつながりを持つ中でやりがいを見出す、そしてスキルの向上も自主的に行っていく、こういった循環ができるといいですよね。

井上:こちらはパーソル総合研究所の「学び直しを続けることの効果」についてのデータです。

これによると、学び直しを3年以上続けると報酬と幸福感が上がるという結果となっています。つまり学び続けることはWell-beingを実現するために効果的だと言えます。

和田:われわれとしては、個人の学び直しが仕事と結びつき、やりがいに変わる環境づくりも丁寧に行っていきたいところです。「学び直す必要があるのか?」と考えている人や「なかなか報酬が上がらない」と悩む人も、少なからずいると思います。学び直すことで未知の領域にチャレンジできるかもしれないですし、報酬アップのチャンスがあることを実感してもらえる環境にしていかなければなりません。

AIは“はたらくWell-being”を高めうるのか

井上:では最後に、「AIは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感、“はたらくWell-being”を高めうるのか」という質問です。

加治氏私は、完全に「YES」だと思います。これからの社会では反復したり、分析したりといった業務はAIが代替してくれます。その一方でわれわれは、学び直しのような“はたらくWell-being”につながる取り組みを、一人ひとりが探す必要があるのではないかと思います。

中条氏:私も、加治さんと同じように「YES」です。ただ、“はたらくWell-being”を高めるために、企業が着手しなければならないことが3つほどあると思います。

1つ目は、人とAIの役割分担を戦略的に考えること。そのために、手間がかかるかもしれませんが一度業務を因数分解することをおすすめします。
2つ目は、人の能力を引き出すために、人の脳や心理を理解すること。人間の行動の9割以上が無意識下で行われているからこそ、AIとの共生にはそういった分野の理解が重要です。
そして3つ目。これまでは、従順さや勤勉さ、専門性が重視されていましたが、これからは主体性・創造性・情熱を引き出す人材を育成することがポイントです。

和田:ちょっと言いづらいですが、私は「NO」ですね。というのも「人は、AIを使って“はたらくWell-being”を高めうるのか」ということを考えなければならないと私は思います。

これからの時代で大切なのは、生き方や仕事の仕方、何を学ぶかは「自分で決める」ということ。AIにおいては「この分野をAIに代替してもらおう」と、その業務を担う人が主体となって決める、そういったことが重要です。するとその人にしかできない仕事がどんどん広がり、AIを使った新たな仕事が生まれてくるでしょう。

和田:人が人にしかできない仕事にフォーカスできれば、付加価値が高まっていく。こういったことが循環していけば、自ずと“はたらくWell-being”は広がっていくと私は信じています。

AIが台頭したとしても、あくまでもパイロットは人。AIをどう活用するか考えなければならない時代がすぐそこまできています。はたらく一人ひとりがAIをうまく使いこなしながら、自らの幸せを見つけることが、“はたらくWell-being”の第一歩になるのではないでしょうか。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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