社員とともにつくる企業内大学。「Temp University」はどのようにして生まれたか

めまぐるしく変化する社会の中で、今後必要となるスキルなどを取得する「リスキリング」や「リカレント教育」といった「社会人の学び」へのニーズが高まっており、社員への教育に力を入れる企業が増えています。そんな中、パーソルテンプスタッフ株式会社では、社員が自ら未来を切り開き活躍してもらえることを目指して、企業内大学「Temp University(テンプユニバーシティ)」を2022年4月に開学しました。

今回は、「Temp University」の概要と、本学を構想した古田 全人に、創設に至った背景から、「Temp University」に込めた想い、今後実現したいことまでを聞きました。

「Temp University」概要

パーソルテンプスタッフでは経営理念の一つである「人々の成長」のため、在籍する社員に対する成長支援としてさまざまな教育機会を提供しています。人事部門が階層別・職種別研修を提供するのはもちろんのこと、現場でも社員同士が積極的にノウハウや事例共有をするなど、ともに教え学び合う文化が根付いているのです。企業内大学「Temp University」は、この社内文化を活かして「教え学び合い高めあっていく」をコンセプトに設計しました。講座はオンラインを中心に提供し、現場の社員が講師として登壇できることが最大の特徴です。

目次

入社して気付いた「教え学び合う文化」

――「Temp University」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
古田:以前から、私の中で学びのプラットフォームをつくりたいという構想がありました。背景には、最適な社会人教育を探求してきた私のバックボーンがあると思います。

私は、新卒で教育業界に入り、予備校に通う生徒の育成や教室運営の仕事に従事した後、社会人向けの研修会社で講師として登壇したり、コンテンツ開発を行っていました。人材育成の経験を積んでいく中で、たった1度の研修、いわゆる点のお付き合いで人材を育てることは難しい、もっと相手と近い距離での息の長いアプローチが必要であると考えるようになったんです。そんなとき、パーソルテンプスタッフとご縁があり、2019年に人材開発推進室へ入社しました。

入社してすぐ、社員が教え学び合うという文化がすごく浸透していることに気付きました。社内でいろいろな研修が開かれている中、人事や外部講師だけでなく、現場の社員が講師として登壇している光景が当たり前のように見られたのです。一般的には、そのような社内講師を募集してもなかなか集まらないケースが多いのですが、パーソルテンプスタッフでは現場の社員が主導となって学びの場が展開されていたので、大変驚きました。

そういった社内文化のもと、社員が持つ知見を社内全体に波及することができれば、より一層充実した研修コンテンツを作り出すことができ、社員と会社の成長に寄与できると考え、企業内大学を創設したいと思うようになりました。マネジャー着任当初は3年後に創設準備ができればいいかな、と考えていたのですが、上長に話したところ『いいですね、来年には開学しましょう』というお話をいただき、すぐに本格的な準備が始まりました。

――開校に向けて、苦労したことや大変だったことはありますか?
古田:まず最低限決めておかなければいけないことを整理し、企業内大学としてのコンセプトやこれまでの人事研修との違いを明確にするなど、「Temp University」そのものの説明ができるように設計を進めていきました。外部の研修会社の方にも入っていただき議論を重ねていたのですが、それぞれの想いやイメージを一つにまとめていく過程は大変でしたね。

――具体的には、どのような点が議論のポイントになったのでしょうか。
古田:たとえば、「Temp University」で育てたいのは、社内で活躍できる人材なのか、もしくは違う会社に移っても活躍できる人材なのか、といった議論です。どういう人材に育成するか、そのイメージをどのように定めるかによってコンテンツの中身も変わってきますから、人事部門をはじめ関係部署ともコミュニケーションを重ねながら、方針を取りまとめていました。

――講師を集めることのハードルはなかったのでしょうか?
古田:特にこちらから社員講師の募集要項を定めずとも、想定以上に手を挙げてくださった社員が多く、いい意味で予想外でしたね。一般的には、研修に登壇するなんて、なかなか腰が重い話ですから。教え学び合う文化が浸透しているからこそ自然と手が挙がったのだと思いますし、私なりにパーソルテンプスタッフの良さを改めて実感できた経験です。

「学び」を主体的に選択できる場に

――現在、どのような講座が開かれているのでしょうか。
古田:講座の体系としては「技」と「器」の2つに分類されています。

「技」では、社会人に必要なスキルや技術に関連したコンテンツを提供しています。もう1つの「器」はいわゆる人間力を示していて、人として誠実でいるために必要なこと、内面を磨けるようなコンテンツを展開していて、今後時間をかけて強化したいと思っている領域です。

「器」コンテンツの強化に向けたアプローチの1つとしては、創業者である篠原が大事にしていた考えや、これまで培ってきたものを学べるコンテンツを作りたいと考えています。実は「Temp University」という名前にはこだわりがありまして、篠原が伝えてきたことを大切に忘れないよう、創業当時の会社名である『テンプスタッフ』の『テンプ』の部分を残しています。そうすることで、篠原のメッセージが社員だけでなく社会全体に伝わるのではないかと思っています。また2023年には創立50周年も迎えるので、パーソルテンプスタッフの良さや強みを失わないように、より一層「器」のコンテンツに力を入れたいと思っています。

――2025年までに講座数を200に増やすとのことですが、重点テーマはありますか?
古田:何かに特化したテーマや領域に力を入れるというより、コンテンツの設計に注力したいと考えています。前の研修会社では140テーマの講座が設けられていたので個人的にはそれを越えたいという想いもありますし、200講座もあれば社内で充実した学びの機会が得られると思うので、社員の希望に応えられる環境を目指したいです。

――講師として登壇されている社員は、どのような方が多いですか?
古田:講師はマネジャークラスの方がやや多めですが、最近はメンバークラスの方もトライしていただけています。開学以降、総勢20名。一部、人材開発担当や外部講師が登壇する講座もありますが、社員が講師を務める講座はかなり人気ですね。毎回予約開始と同時に定員人数はすぐ埋まってしまい、受講後アンケートも満足度が非常に高いです。

たとえば現役の財務部部長が講師として登壇した講座では、メール作成やパワーポイント資料の作り方といったビジネススキルだけでなく、過去のご経験や当時のメンバーとのやり取りなども含めてお話されていたそうで、とても好評でした。

――登壇された社員にとっては、どんなメリットがあるのでしょう。
古田:講師を務めた社員からは『これまで自分がやってきたことを言語化できる良い機会だった』といった声をいただけています。ご自身の経験やノウハウを伝えることで、自分の強みや得意領域を自覚できる機会は、ふだんの仕事では多くないですよね。また、オンライン開講ということもあり、北は北海道、南は九州まで自分が所属する部署以外の社員に対して語れることも魅力の一つだと思っています。

オンラインで開かれた講座の模様。

――実際に受講されているのは、どのような社員が多いのでしょうか?
古田:最も多いのは40代の社員です。もともと40代以上の社員向けに開かれている社内研修や講座は存在していませんでした。だからこそ、なのかもしれませんが『学ぶ機会が増えて良かったです』というポジティブな声をよくいただきます。この世代の社員が積極的に受講していること、つまり学びたい意欲が強いことは私にとって新しい発見でしたね。

これまでは講座を設計するとき『ベテラン向け』とタイトルに掲げてしまうと、受講者が限られてしまうのですが、そういった制限を設けず、誰もが学びたいものを選べる機会を提供できているのは、学びの風土をつくるいい流れだと思っています。

一方20代・30代の社員の受講率は少ないのですが、その理由は人事から提供されている階層別・職種別研修もあり、教育機会がかなり手厚く用意されているという背景があると思っています。ですので、若手社員の皆さんには『自分に必要なもの、面白そうなもの』から受講してもらい、加えて、フレッシュな知見を活かして社内講師にもトライしてもらいたいと考えています。教える側に立つことで自分自身の学びにもなりますし、登壇者として引っ張ってもらいたいなと期待しています。

――今後「Temp University」でどのようなことを実現したいですか?

古田:まずは社員の主体的な『学びたい』という意志に、応えられるような場を提供したいと思っています。
「Temp University」開学をきっかけに、ほかの企業から『企業内大学を立ち上げたい』というご相談をいただきますが、その背景には学びに対する温度感が社会全体で高まっていることが考えられます。そういった中で、私はどの社員にとっても等しく学ぶ機会が提供され、それを自ら選択できる状態が理想だと考えています。必須参加の階層別・職種別研修と並行して、自分で考え、選択し、実行できる、そういった社員の自律を「Temp University」を通じて実現したいですね。

「Temp University」は受講を強制するものではないのですが、社員が『こういうことをできるようになりたい』と思ったとき、その目標達成に向けたテーマや領域を選択できて、学べて、成長につなげられるように、広くあまねく学びを提供できる場を目指します。

また社員の皆さんには、「Temp University」という学びの場を一緒につくっていける仲間になってほしいと思っています。そのために、何かをやってみたいという想いを持ったなら、走りながらつくっていくようなやり方で、トライしていただけるといいかもしれません。形を整えることに固執しすぎず、まずは周りの人を巻き込みながらできるとより良いですし、「Temp University」もみんなでつくっていける場になったらいいなと思っています。

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