パーソルグループでは年に1回、グループ内表彰「PERSOL Group Award」を実施しています。「PERSOL Group Award」とは、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を象徴するパーソル社員とその仕事の成果に贈られる、グループでもっとも栄誉ある賞のこと。各SBU、およびユニットに貢献し、提供価値を創出した社員を表彰しています。
本連載では、2021年度の「PERSOL Group Award」を受賞した社員のキャリアストーリーと、受賞の舞台裏をご紹介します。第13回目は、パーソルR&D株式会社の山本 浩二です。
見た人に強烈なインパクトを与える、大型車の車輪脱落事故実験の舞台裏には、「どんな難題でも引き受ける」と語る山本のエンジニア魂がありました。
溶接作業に夢中になった少年時代
「子どものころから機械いじりが好きだった」と語る山本にとって、開発職に就くのは自然な流れだったと言えるでしょう。
「父が溶接関係の仕事をしていて、家と職場が近かったんです。そのため幼少期はよく仕事について行って、作業を見せてもらうのが楽しみでした。火花がバチバチ出る様子は迫力があって子ども心に面白かったし、それで鉄と鉄がくっついてしまうのが、なんとも不思議で興味深かったんですよ」
もともとはメーカー系の自動車製造会社に入社したのがキャリアの始まり。幾度かの組織改編を経て、山本は現在、パーソルR&D株式会社でトラックの開発プロセスの一つである安全性や機能の実験事業に携わっています。
とりわけパーソルグループの一員となってからは、取り扱う車種としてはトラックから乗用車まで、扱うエンジンとしてはディーゼル車からガソリン車、さらには電気自動車まで、業務の幅は大きく広がったと言います。
「開発というと設計をイメージする人が多いかもしれませんが、私の担当領域は“実験”です。要は、製品が世に出る前に品質や安全性を確認するのが役割で、何年もかけて入念にテストを重ね、改善を繰り返すのです。当然、まだ誰も知らない自動車製品にいち早く触れられるわけですから、これはこの仕事ならではの役得だと感じています」
そう言って屈託なく笑う山本ですが、一つの製品と何年も向き合い続けなければならない、地道で厳しい仕事でもあります。とりわけ自動車の場合は、安全性が人命に直結するだけに、重責を伴う業務です。
国交省からのオーダーで映像制作に着手
そんな山本が、まったく畑違いの「映像制作」を担当することになったのは、2019年末のことでした。昨今の相次ぐトラックの車輪脱落事故を受け、国土交通省から啓発映像の制作を依頼されたのです。
「走行中のトラックから外れたタイヤは、慣性の法則によって猛スピードで転がっていきます。それが通行人を直撃して死亡事故に至るケースも多く、あらためて運送会社や整備工場などの関係者に啓発を促す映像を作ってほしいというのがオーダーでした」
その直後にコロナ禍になったことで、1年ほどのペンディング期間が生じたこともあり、2020年9月に再開後は納品までわずか3カ月というタイトな進行。何より、その短期間で映像の内容を1から考案しなければならないのは、山本をはじめとするチームの面々にとって、暗中模索ともいうべき日々でした。
「我々はものづくりには長けていても、撮影して映像データを作成するというのは完全に専門外ですからね。走行中のトラックからタイヤを飛ばす実験は得意でも、それを見る人に分かりやすい形で映像化しなければならないのが最大のネックでした。そこでまず手をつけたのは、ストーリーづくりです。何度も話し合った結果、構造的な説明をするよりも、脱輪後の危険性をストレートに表現すべきだろうとの結論に至りました」
具体的には、ダミー人形に向けて実際にタイヤを飛ばすシーンを映像化すること。といっても、実際に試験場内を走るトラックから、意図的にタイヤを脱輪させることはできません。よりリアリティを追求するためにさらなる検討の結果、車体の脇にタイヤを格納したラックをセットし、走行中に急ブレーキをかけ、慣性の法則によって飛ばす手法をとることが決まりました。
1体500万円のダミー人形。求められるのは一発必中の精度
「また、ダミー人形のリアリティにもこだわっています。ただ人間の形をしたものが突っ立っているだけでは説得力に乏しいので、より現実味を感じてもらうために、ベビーカーを押す人間を模した人形を用意しました」
つまり、試験場内に設置されたダミー人形に向けて、実際にトラックを走らせてタイヤを飛ばし、直撃する瞬間を映像で捉えようというのがプロジェクトの全容。山本は目指すシーンを作り出すために、トラックの走行速度やブレーキのタイミングなどを計算し、はじき出しました。
「しかし、これがまた大変なんです。角度が1度でもずれると、タイヤはまったく違う方向へ飛んで行ってしまい、想定している映像が撮れません。おまけにダミー人形には直撃時の衝撃を測るため、複数のセンサーが内蔵されていて、一度タイヤをぶつけると修繕に約500万円ものコストがかかります。そのため、撮影は一発勝負。予定通りの方向にタイヤを飛ばすために、50回以上もトライアルを重ねました」
求められるのは一発必中の精度。そのために限られた時間の中で、できる限りの検証を重ね、さらには並行してカメラの台数やアングルなど、映像制作の準備を進める怒涛の日々でした。
そうして迎えた撮影当日は、社内外の関係者が勢ぞろいしたほか、NHKの取材も入るなど、多くの人が試験場に集まりました。注目度も高くミスの許されない緊張の瞬間です。
「いっそ狙いとまるっきり違う方向へ飛んでいってくれれば、人形が無事なのでやり直しが利くんです。一番困るのは、中途半端にタイヤが人形をかすめて、撮りたい映像が撮れていないのに人形が破損するケースですよね(苦笑)。だからドライバーにも、『少しでも危ないと感じたら、まったく違う方向にハンドルを切ってください』と指示を出していました」
そしてついに迎えた本番当日、実験と撮影は見事に大成功。インパクトは絶大で、この際の6分間の映像は今も繰り返し活用され、多くの人々の目に触れることとなりました。
次は裏方で――見据えるのは後進の育成
「無事に終えた瞬間は、まさに感無量でした。何よりうれしいのは、他社が軒並みオファーを断ったというこの難題を成功させたことで、国交省をはじめとする関係各所から、『パーソルに頼めば大丈夫』という信頼を勝ち取れたことです。逆に言えば、こういう仕事がやれるのも、パーソルグループではたらいていたからこそですよね。今回でいえば、メンバーにたまたまトラックにタイヤを添えるラックを設計できる人材や、この実験に対応できる運転技術を持った人材、ダミー人形のセンサーが計測したデータを扱える人材などが、身近にちゃんと存在していたわけですからね。私はそれを取りまとめただけです(笑)」
そう謙遜する山本は、今回のアワード受賞についても、決して自分だけの手柄ではないことを強調します。そしてこう続けます。どのような無理難題に直面しても、「断らないのが基本スタンス」である、と。
「与えられたのが到底できそうもないオファーなのであれば、どうにかそれを実現する方法を提案するのが、エンジニアとして、そしてチームとしてのプライドです。実際、社内のメンバーと膝を突き合わせて考え続けていると、道は開けるものなんです」
そんな山本に、今後の目標を聞いてみました。
「もう定年が見えてきましたからね。大きなことは何も考えていません。ただ、さまざまな知見を積んできましたので、それを継承していくことが今後の自分に課せられた使命ではないかと思っています。特に私が長年携わってきた実験の領域は、マニュアルがあればこなせるものではなく、経験に基づいた勘所が非常に重要です。そうした技術の継承は、企業や組織にとって絶対に不可欠なものだと私は考えています」
それでも、「もしまた、今回の映像制作のような難しい案件が与えられたら?」と訊ねると、「やりたいですね」と即答する山本。
「ただその場合、今度は裏方にまわって後輩たちのサポートにあたるつもりです。山本がいるから大丈夫と思ってもらえるのはうれしいですが、私が去った後のことも念頭に置いておかなければなりません。そしてそれが、パーソルグループの価値につながっていけば理想的ですね」