約2万件の社員アンケートを元にDI&E研修・イベントを企画 ―多様性が生かされる風土構築に向けて

パーソルグループでは、「DI&E(Diversity, Inclusion & Equality:ダイバーシティ、インクルージョン&イクオリティ)」の推進に向け、2019年よりさまざまな取り組みを行っています。

(※)Diversity(ダイバーシティ):多様性。雇用の機会均等、多様なはたらき方。Inclusion(インクルージョン):包括・包含。個々を尊重すること。Equality(イクオリティ):等しいこと・同等・平等・対等。権利や利益が等しくあること。
(詳細はこちら:https://www.persol-group.co.jp/sustainability/diversity/

取り組みの概要

“はたらく”を取り巻く環境が大きく変化する中、企業が成長を続けるためには、多様な能力のシナジーを生かし、新しい価値を生み出していく柔軟性と創造性が求められています。

パーソルグループでは、その根源となるのは社員の多様性であると考え、あらゆる属性・価値観・能力をもつ社員一人ひとりが、それぞれの能力を発揮できる環境をつくることを目的としたDI&Eプロジェクトを発足。2019年1月にポリシーを発表し、4月より具体的な取り組みに着手しています。

取り組みのカテゴリは大きく分けて「トップのコミットメント」「制度整備」「風土構築」の3つ。「トップのコミットメント」では、女性管理職比率の目標の設定・モニタリングを、「制度整備」では、複業制度の導入、ドレスコードの原則自由化、フレックスの導入などを推進してきました。

そして「風土構築」は、社員にDI&Eを知ってもらい、実感してもらうための取り組みです。年に1回、社員向けのeラーニング研修として「DI&Eリテラシー研修(以下、リテラシー研修もしくは研修)」を実施しているほか、月1回、社内限定のオンラインイベント「みんなでDI&Eを考えるかい(通称、みんでぃ)」を開催しています。

これらを手掛けているのが、パーソルホールディングス グループ人事本部の本川 碧です。

これまでの軌跡

約2万人のアンケートに目を通し、改善点を抽出

本川は、2008年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、営業や営業企画の仕事に従事。2019年10月にパーソルホールディングスの現組織に異動し、すぐにDI&E推進の担当に就きます。

はじめに任されたのは、同年から開始されていた、リテラシー研修のアップデートでした。

リテラシー研修とは、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現に向けて、DI&Eの根幹である「多様性を理解して受容する(“属性”の多様性を理解する、“価値観”の多様性を受容する)」ことへの理解を、社員に促すためのもの。2019年度は、国内グループ29社、約2万5,000人を対象に行われました。そんな重要な研修の2回目以降の実施を本川は任されたのです。
その時の気持ちを本川はこう語ります。

「何をどうアップデートしていいのか……、本当に悩みました」(本川)

リテラシー研修の対象は、国内グループの全社員。つまり、2019年度に受けた人も2020年度の研修を受けるということ。資料全体の構成やページ内容が“まったく同じ”では、受講2回目の人の興味・関心は引けません。しかし、2020年度にはじめて受講する人もいます。

「大切にしたのは、内容をアップデートしながらも、はじめての受講者と2度目の受講者の間に情報格差を生まないこと。そして、2度目の受講者を飽きさせないようにすることです」(本川)

どのように研修を設計すべきか──。本川は2019年度の研修後に行ったアンケートの結果約2万件すべてに目を通しました。何日もかけてフリーコメントを一つひとつ丁寧に読み、改善するポイントを抽出していったのです。

「アンケートでは、『受講必須の研修という形だと共通認識がとれてありがたい』『どんな属性の方がどんなことに困っているかなど事例が出ていて分かりやすくて良かった』など、肯定的な意見を多数いただきました。でも、中には、『事例に作り手のアンコンシャスバイアスがある』『DI&Eといえばどんな多様性も認めないといけないのか』などの指摘もあり、アンケートを読んではじめて気付くことも多くありましたね。

2020年度の研修資料をつくる際は、指摘が多かった部分を改善点として、まずは自分のアンコンシャスバイアスがかからないように細心の注意を払い、チーム内でも入念にチェックしました。
また、属性については、性別、年齢などによる特徴や傾向の説明に加え、人と向き合うとき、属性はあくまでも人のベースになっていることで、最も大切なのは『一人ひとりにフォーカスし、その人自身への理解を深めていくこと』という想いを伝えられるように変更をしました。

さらに、多様な価値観を理解し受容することと同時に、その根底にあるグループ社員が共有すべき価値観であるグループビジョンや経営理念、行動指針についても再認識できるよう想いを込めました」(本川)

2020年度の研修スライドの1枚

こうした変更に加え、受講2回目の人を飽きさせないよう、紹介する事例はすべて新しくし、全体で2~3割程度をアップデートしたといいます。

本川の苦労や想いは受講者にしっかりと伝わりました。

「『ケーススタディが新しくなっていて良かった』『普段は目先の忙しさで忘れてしまうこともあるから、内容は似ていても継続的に学ぶことが大事だよね』など、手応えを感じる意見がアンケートにたくさん寄せられていて……。本当にうれしかったです」(本川)

そして、翌年度。第3回目となる研修資料をつくる際は、2回目にアップデートしたときにも意識した情報格差を生まないことや受講者を飽きさせないことに気を付けながらも、全体の構成を含め大きく変更。

「そのころ、世の中は“ダイバーシティ”よりも“インクルージョン”に注目が集まってきていました。それに伴い、チーム内でも議論になったんです。『理解も大切だけれど、“受容する”ことのほうが実は難しく、大切なのかもしれない』と。
それで、“理解する”の部分をできる限り減らして“受容する”の定義や考え方を共有するパートを増やしました。研修資料の半分ぐらいは刷新しましたね。」(本川)

この変更は、受講者の心を大きく動かしました。
アンケートには、「アンコンシャスバイアスによって誰かの何かの機会を奪ってしまったのかもしれない」という声や、「いろいろな価値観、特性、事情を認め合えるように、業務の進め方を見直してみようと思う」「考え方が違うからと距離をとるのではなく、人の考えに興味を持って向き合おうと思う」といった声も。
“受容する”ための行動へとつながるポジディブな気持ちがたくさん生まれたのです。

2021年度の研修で新しく加えられたスライドの中の1枚

┃「多様性の体感と仲間づくりをしてもらえたら……」。その想いでイベント開始!

“受容する”は、お互いを認め受け入れるという行動を伴います。その一歩を踏み出すには、知識のインプットのみならず、実際に属性や価値観の多様性を感じるといった“体感”ができたほうがいいのではないか、――本川は、DI&E推進室にジョインしたときにそう感じ、すぐにオンラインイベントの企画に動きます。

2回目の研修よりも前の2020年の3月には、「みんなでDI&Eを考えるかい(以下、みんでぃ)」(国内のグループ会社社員対象)を、月1回開催の頻度で発足させました。

「“みんでぃ”は、対話を通じて、多様な属性や価値観があることを知り、それをどう受け止め、どう生かしていくのかを、パーソルグループのみんなでポジティブに考えていく場として立ち上げました。

また、このイベントの場を通して、グループ横断で仲間づくりをしてもらいたい、という想いも強くありましたね。パーソルには、多くのグループ会社があり、DI&Eの浸透度合いも、男女比率もそれぞれです。所属会社には、同じような悩みや考えを持つ人がいなくても、ほかの会社にはいるかもしれないですから……」(本川)

そんな本川の想いが詰まった“みんでぃ”のコンセプトは「ポジティブ思考」と「仲間づくり」。登壇者も基本は社員で、これまでに15回開催されてきました(2021年11月末現在)。

「みんなでDI&Eを考えるかい」第一回「これからの時代と、女性管理職」イベント当日の様子

テーマは、セクシュアルマイノリティや女性といった属性に関するもの、イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内の多様性)や複業といったはたらき方に関するものなど、さまざまです。
いったいどのように決めているのでしょうか。

「最終的には事務局の意思です。考える上では、社員の興味関心がどこにあるかということと、会社として社員に伝えたい情報、その両方のバランスはとるよう心がけています」(本川)

社員の興味に関してはリテラシー研修のアンケートを参考にしているそう。また、世の中のイベントに合わせて、「●月は国際〇〇デーがあるから、〇〇をテーマにしよう」などと決めることもあると言います。
テーマや参加者へ伝えたいメッセージが決まれば、次は登壇者を決めなければなりません。2020年度の“みんでぃ”の担当者は本川一人。

「自分や周囲の人脈をフル活用して登壇してくれる適任者を探すのですが、難航することがほとんど。人手が足りないと思うことは常で、正直しんどいと思うこともありました。でも、初年度は定期的に開催することで社員への認知度を高めたかったので、絶対に期間は空けたくなかった。もう必死でしたね」(本川)

┃参加者数アップのために、各グループ会社の役員の年間スケジュールをキープ!

2021年度、“みんでぃ”は本川の手を離れ、担当者は3人に。そして、イベントもアップデートされました。

「“みんでぃ”は風土構築の施策の一つですし、役員にも、登壇者としてではなく、一般社員に混じって参加していただけないかと考えました。そうすることで、そのテーマに対して役員の方々がどう思っているかをざっくばらんに質問することがきるし、普段役員の方々と接する機会がない社員でもこの場で話をすることも可能です。また、役員の方々にも社員の考えや想いがリアルに感じていただけるのではないか――、そう考えたんです」(本川)

その想いを引き継ぐべく、現在の担当者は、イベント開催日時を年間通して決めて役員の方々のスケジュールを最初に押さえ、そして、イベント当日には社員の皆さんが会話をしやすいよう、参加してくださった役員の方々に突然話をふり、コメントをもらうように。すると、2020年度は最大90人ほどだった参加者数が、2021年度は平均150人ほどに増加。また、2020年度からあった参加者の「同じ悩みを持っている人がいて勇気付けられた」「イベントで知り合った人と一緒にボトムアップの活動を立ち上げました!」といった声に加えて、「役員の方々が参加するって、パーソルのDI&Eへの本気度が分かるね」といった声も聞こえてくるようになりました。

「役員の方々に『“みんでぃ”に参加して気付きがあったよ』、『役員会議のアイスブレークで、“みんでぃ”の話がでたよ』と教えていただいたりすることも。うれしいですね」(本川)

研修や“みんでぃ”を通じて、どんどん広がるDI&Eの輪。本川は、今後の意気込みをこう語りました。

「風土構築は、やり続けることが大切だと考えています。リテラシー研修も“みんでぃ”も、アップデートさせながら定期的に開催していけるといいなと思っています。また、“みんでぃ”は、これまで基本的に“対象者も登壇者もグループ社員”としてきたのですが、今後は社外の人たちともつながっていきたいと考えていますし、現在、海外のグループ会社との連携も進めているので、国外のDI&Eを知る機会もつくっていく予定でいるそう。
DI&Eが当たり前となって風土として根付くまで、さまざまな施策を考え、取り組んでいこうと思います」(本川)

TRY!Points

・約2万人のアンケートに目を通し、改善ポイントを抽出。アップデートし続けた
・受講者、参加者の指摘を真摯に受け止め、自分のアンコンシャスバイアスが施策に入らないよう注意をした
・イベントに役員を巻き込んだ

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