世界11拠点に展開し、イノベーションを加速させるさまざまなプログラムを提供するコミュニティ「Venture Café Tokyo」は、12月24日(木)に、オフライン&オンラインイベント『Thursday Gathering #133 Thank you 2020! Bring on 2021! – 豪華ゲストと共に2020年を振り返る -』を開催しました。
パーソルホールディングス株式会社 取締役副社長であり、パーソルイノベーション株式会社の代表取締役社長も務める高橋 広敏が、本イベントに登壇。各界を代表する多彩なゲストとともに、2020年にあったさまざまなイノベーション・エコシステムやオープンイノベーションの推進などについて振り返ったほか、2021年の展望を語りました。
本イベントの様子を一部ご紹介します。
■登壇者 各務 茂夫氏/東京大学 大学院工学系研究科 教授、産学協創推進本部 副本部長、日本ベンチャー学会会長 石井 芳明氏/内閣府イノベーション創出環境担当 企画官 竹内 麻衣氏/米Babson college MBA生、マカイラ株式会社 コンサルタント 高橋 広敏/パーソルホールディングス 取締役副社長執行役員、パーソルイノベーション 代表取締役社長 Todd Porter氏/ Venture Café Tokyo Advisory Board, Edmund Hillary Fellow 梅澤 高明氏/ Venture Café Tokyo Advisory Board, CIC Japan 会長, A.T. KEARNEY 日本法人会長 山川 恭弘氏/ Venture Café Tokyo Executive Director, CIC Japan President, バブソン大学准教授, 東京大学教授 |
未曾有の疫禍で見出した2020年のキーワード
世界中が混沌と混乱に満ちた2020年。しかしこの1年にも、次の時代に繋がる学びや発見は多数あったはず。登壇者それぞれの目線から、まずは1年間を振り返ります。
山川氏:本日は「Thank you 2020! Bring on 2021!」と題しまして、2020年を振り返りながら、新しい1年をいかに生き抜くかをテーマに、各方面でご活躍の皆さんにお集まりいただきました。まずは振り返りから参りましょう。皆さんお一人ずつ、2020年を象徴するキーワードを教えていただけますか。
石井氏:私は内閣府でスタートアップ支援政策に携わっていますので、2020年は「スタートアップ・エコシステム」の盛り上がりが象徴的に感じられました。まず、都市・地域の盛り上がり。東京、関西、名古屋、福岡など自治体や大学のトップが動き、地域の若い世代を巻き込んで、いい形でコミュニティが機能し始めていると思います。政府としてもいくつかの拠点都市を集中支援先として選定しました。
また、政府内も盛り上がってきました。文部科学省、経済産業省、総務省、国土交通省、農林水産省、環境省、厚生労働省、防衛省、内閣府で新しいSBIR制度(中小企業技術革新制度)をスタートする枠組みができました。省庁横断でスタートアップによるイノベーション促進をサポートする仕組みが整備されたことにより、2021年はいっそうスタートアップ・エコシステムが注目されるのではないかと思います。
Porter氏:私も同感です。そのうえで2020年のキーワードを挙げるなら、“キキ”です。これはコロナ禍による「危機」という意味はもちろん、ガジェットなどを示す「機器」にもかかる日本語で、テクノロジーとスタートアップ・エコシステムのコラボレーションにより、2021年はさらなる発展に繋がるのではないかと思っています。
竹内氏:私は非常に個人的なことも含みますが、2020年のキーワードは「シェア」です。シェアリングエコノミー関連のビジネスが数多く登場・発展したこともそうですし、私自身、MBA取得のため米バブソン大学に進学するにあたり、多くの方に経験や知識をシェアしていただくなどのサポートを受けたことで実現できました。また、個人・法人が知見やニーズをシェアすることで多くの人に想いが届き、結果としてさまざまな人や企業・団体が助け合って新しい価値を生み出すことができるということも、自身の経験とビジネスの動き双方からの2020年の大きな学びでした。
高橋:やはりコロナ禍ということもあり、「関わり」というキーワードをことさら意識させられた1年でした。生き方もはたらき方も、自分にとって本当に必要なものは何か、誰しもが考えさせられる機会だったのではないかと思います。2021年は我々パーソルグループとしても“いい関わり”をたくさんつくりながら、さらなるイノベーションに繋げていきたいですね。
各務氏:コロナ禍ということで、本来はトレードオフの関係にあったはずの社会性と経済性の問題が目に付きました。つまり感染拡大の防止と経済活動の維持をどう両立するかという問題で、従来の経営学では社会性や公益性を追求すると、経済性が下がってしまうというのがセオリーでした。
ところが現代の起業家は、その両立を目指してクリエイティビティを発揮することが求められています。いわば“二兎を追う”ことが2020年以降も重視されるはずで、その意味から「アントレプレナー(事業家・起業家)の変革」がキーワードになるのではないかと考えています。
梅澤氏:私のキーワードは「再発見」です。折しものコロナ禍により、はたらくことの意味や家族、生活などについて、多くの人が半ば強制的に考えなければならず、その結果としてさまざまな気付きを得たことと思います。個人的にとりわけ大きな発見だったのが“リアルの価値”で、ステイホームやリモートワークの定着により、リアルで人と対面し、触れ合うことの大切さをあらためて思い知らされました。
山川氏:皆さん、建設的でポジティブな振り返りをありがとうございます。ちなみに私の2020年のキーワードは「絆」。コロナ禍という危機に直面したことで人々の間に共感が生まれ、それによって個の絆が深まりコミュニティの質が高まることを、あらためて実感した1年でした。
イノベーションを起こす確率を上げる方法とは
では、私たちは2021年に、何を生み出すことができるのか?登壇者の皆さんのキーワードから、今後の日本のビジネスシーンに必要なこと、そしてイノベーションを創りだすために必要なことを紐解いていきます。
山川氏:先ほどの皆さんのキーワードを受けて、2021年の課題として考えられることはありますか。
石井氏:梅澤さんがおっしゃっていた“リアルの価値”というのは、私も同感です。すでに関係性のでき上がっている人とはオンラインでもいいのでしょうが、新たに出会う人と新しいことをやろうとする場合には、やはりリアルが欠かせません。これが国境を跨いでいれば尚さら。日本のスタートアップ・エコシステムの重要項目はグローバル化ですが、オンラインとリアルでどう進めるかが喫緊の課題なのです。
山川氏:なるほど。リアルでの関係があればこそ、オンラインというツールが生きるわけですよね。
竹内氏:たしかに、自由な発想を巡らせるためには、心理的安全性が必要だと思います。オンラインではどうしても、その心理的安全性が損なわれてしまうので、いかに免疫を高めていくかは個々の課題なのかもしれません。心理的安全性のハードルを上手に下げる工夫をすべきというか。
各務氏:それに、せっかくオンラインツールのようにサイエンスの社会実装が進んでも、異なる意思や知識を持つ人同士の交流が、日本ではまだまだ欠けていますよね。たとえば、いつまでも文系・理系と分けて考えていては、新しいものは生み出せません。
梅澤氏:そうですね。私も新しい掛け算が必要だと常々感じていて、CIC Tokyoが目指すのはそうした機会が得られる場所です。いわばタテ・ヨコの交点がたくさんあれば、イノベーションに繋がりやすいはずで、ホリゾンタル(水平)な要素技術を持った人と、バーティカル(垂直)なユースケースを持った人たちが、幅広く集まる場づくりをしていきたいですね。
山川氏:交点は多いほどいい、というのは言い得て妙ですね。それぞれ自分が持っている要素をいくつ掛けてもいいし、あるいは足したり引いたり割ったりすることで、その人ならではのイノベーションが起きる可能性はあるわけです。
石井氏:そうした掛け算を個人対個人が起こした際、大切なのはその個人が組織に戻ったときに、受け入れてもらえる土壌が組織内にあるかどうかです。スタートアップ支援やイノベーション促進で、突出して動きのいい自治体、たとえば福岡市や神戸市は、個人がもたらす外部からの刺激を受け入れる土壌があり、それゆえに新たな掛け算を起こした個人の力を組織で活かしやすい環境が整っているんですよね。
Porter氏:私の立場から付け加えると、客観的に見て日本のビジネスパーソンは、リスクの概念やスピード感がまだ不足している印象が、正直なところ拭えません。こうした課題を解消しなければ、グローバルでさまざまなパートナーと効果的に協業していくことは難しいでしょう。
梅澤氏:ただ、私はコンサルタントという立場で見たときに、大手企業の中にも、社内のコア事業から外れたアイデアに対しても、外部からリソースを調達してきてでも取り組んでみようという動きが、ちらほら見られるようになってきたことも実感しています。今後、大企業からカーブアウトした人材や知財を、新しい起業のシードにするような動きが浸透すると、俄然面白くなりますよ。
高橋:その点、2020年は事業のアイデアもそうですし、仕事との向き合い方もそうですが、いろんなことを考え直せる時間を確保できた1年間だったように思います。そこで自律的に思考を巡らせて、なんらかの気付きを得た人たちにとって、2021年は新たなパートナーと新たな協業関係をつくる時代になるのではないでしょうか。
各務氏:その意味ではここ2~3年、大企業のスタートアップを見る目は確実に変わりつつありますよね。大企業の中にも新たなアイデアや技術に対するレセプターが、着々と増えていることをひしひしと感じます。
山川氏:つまり良い兆しが生まれつつある、ということですね。2021年、登壇者の皆さんはもちろん、世のプレイヤーの皆さんのご活躍に大いに期待したいです。
コロナ禍によって人と人の交流が大きく制限される昨今。それでも新たなイノベーションを起こすためにできることはたくさんあるはず。皆さんもぜひ、今回の座談会からそのヒントを探してみてください。