世界的フィギュアメーカー「海洋堂」が語るモノづくりの仕事とは?社内講演会を開催!

AVC(映像・音響・情報通信)分野の設計開発などを手掛けるパーソルAVCテクノロジー株式会社は、11月9日、世界的フィギュアメーカーである株式会社海洋堂の宮脇 修一氏と佐藤 哲郎氏をお招きし、社員向けのオンライン講演会を開催しました。

大阪に本社を構える企業同士のご縁で実現したこの講演会。テーマは、“モノづくりの仕事とは”。日本のフィギュア界をリードしてきた海洋堂のお二人から、モノづくりの発想方法や魅力について熱く語っていただきました。本記事では、講演の様子を抜粋してご紹介します。

講演のトピックス

宮脇氏の生い立ち~幼少期と海洋堂の歴史について~
●モノづくりの神髄とは?
●モノづくりの心得、エンジニアに対するメッセージ

宮脇 修一氏(写真右)
1957年生まれ。中学2年生のとき、祖母の介護で多忙になった両親の代わりに模型店を切り盛りすることに。
職場は愛好家たちがモデルづくりを競う場となり、ガレージキットの製造を手がける。
2006年から海洋堂社長に就任。ワンダーフェスティバル代表、大阪芸術大学 教授。20年に社長を退任し、取締役専務に就任。

佐藤 哲郎氏写真左)
1955年生まれ。1982年、株式会社オリエンタルランドに入社し、テーマパーク統括部長、運営本部長などを歴任。同社取締役執行役員、株式会社MBM代表取締役会長を経て「『日本発のコンテンツを発信したい』と挑戦を考えていた」ところに海洋堂を知り、20年から代表取締役社長に就任。


――宮脇さまは、幼少期からどのようにモノづくりと関わってきたのでしょうか。海洋堂の歴史とともに、お聞かせください。

宮脇氏:私が7歳のころ、父が海洋堂を起業しました。最初は模型屋だったのですが、のちにプラモデル屋として再スタートして戦車プラモデルをつくりはじめると、それがヒットしてこの分野で売り上げ日本一にまでなったんですよ。

でも、実は、父は商売がそんなに好きだったわけではなく(笑)。力を入れていたのはむしろ「コトづくり」でした。

当時「プラモデルをつくると頭が悪くなる」などという風潮があったこともあり、プラモデルをつくる過程でどんな能力が身に付くかということを伝えたり、いかにそれが楽しいものかを広める活動を積極的に行っていたのです。
たとえば、プラモデルづくりの青空教室を開いたり、夏には店舗の3分の2をプールにして子どもたちに楽しんでもらったり。次の写真がそのときの様子です。

私も幼いころから「コトづくり」活動に参加し、15歳のときには、全国の模型に触れる日本一周キャラバンまで経験しました。いい思い出ですね。
当時は「作る楽しさをすべての人に」というキャッチフレーズのもとで活動していました。その精神は受け継いでおり、現在も、海洋堂はフィギュアミュージアムや展示会といった場で、人々がモノづくりを見て、触れられる場を提供しています。

そして私が20代前半のとき、海洋堂は、フィギュアの制作・販売をはじめました。さらに円谷プロと東宝とともに商品の販売を開始してからは、瞬く間に海洋堂のフィギュアが世の中に広がっていきました。あらゆるものがフィギュアとしてつくり上げられ、日本にフィギュア文化が根付いていったのです。

その後、『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビ放送によってフィギュアブームは加速し、海洋堂は『北斗の拳』、『チョコエッグ』といった数多くのヒット作品を手掛けたことで、業界を牽引する企業となりました。

↑食玩ブームを巻き起こした「チョコエッグシリーズ」(※当日ご紹介動画より抜粋)

当時の私はというと、模型の原型づくり、企画、販売、陣頭指揮を執ることすべてを担当して、誰よりも楽しんで商売をしていたと思います。モノづくりのすべての工程に自分が関わっていたのを、いまでもよく覚えています!

――デザインやコンセプトは、どうやって生み出しているのでしょうか?

宮脇氏:直観といえば、直観ですね(笑)。
大事な心掛けはたった1つで、それは、常に「どこにモノづくりとしての仕事のネタがあるのか?」を探求し続けることです。この問いには答えがないので、私たちはこれから先も考え続けることになると思います。

従来のフィギュアはその再現度があからさまに低いものが多かったです。たとえば、恐竜に限っていえば、子ども向けにはこのくらいのクオリティでいいやと思ってつくられていたんですよ。
これじゃダメだと思ってつくったのが、『1/35の恐竜シリーズ」です。アメリカの美術館でリアルで繊細な展示物を見て驚き、自分たちもこんなものをつくりたいと思って、形にしました。

↑「1/35恐竜シリーズ」(※参照元:当日ご紹介動画より抜粋)


宮脇氏:
結果として、のちの映画『ジュラシックパーク』の美術担当の方にご参考にしていただいたくらい、クオリティの高いものができ上がりました。僕たち海洋堂の人間は、自分たちの目で見て刺激を受けたものを、そのままの素晴らしい形としてつくり出さないといけないという想いが出てきます。

まずはつくって、すべての人々に素晴らしいものを見せて、伝えていく。そういうことに生きがいを持って仕事をしていました。これが海洋堂スタイルでもあり、世界一素晴らしいものをつくってやるという想いです。

――造形や肌触りの良さなど「コレがいい!」と思える感覚があると思うのですが、それはどういったポイントで感じるのでしょうか?

宮脇氏:肌触りの良さに関しては、質感、手に持って触ったときの柔らかさ、伝わるものすべてがそうですね。

最近はデジタルテクノロジーで造形もデジタルに変わってきています。昔は粘土で指を汚しながらやっていたので、指先感覚が鋭くなり、やすりでこすっているときの質感、重さ、においすら感じ取ることができました。僕はそういう感覚的なところを大事にしたいので、まだまだ自分の手でつくり続けます。重さ、固さ、におい、そういった人間が感じ取ることのできる感覚的なものすべてがモノづくりだと考えています。

――宮脇さまにとっての、モノづくりの楽しさを教えてください。

宮脇氏:やっぱり自分のつくったものを自慢できるということがモノづくりの楽しさなのでは、と思いますね。「どや、こんな素晴らしいものつくったことないやろ、いままで見たことないやろ」と、言えますから(笑)。

――モノづくりの神髄とは。

宮脇氏:僕の好きなことは、モノづくりです。つまり、模型をつくることです。
それを仕事にしているから、趣味と仕事が同じなんです。

↑自身の書籍でも「好きなこと」だけで生きていくことを伝えている

神髄かはわかりませんが、モノづくりを担う人にとっては「好きなこと」だけで生きていくことが神髄になるのではないでしょうか。
要するに「模型の疲れは模型で取る」ということです。
自分の仕事を趣味にできている人は少ないと思いますので、ぜひ皆さんも、そうやって仕事をしていくことができると良いですね。

 

 

 


宮脇氏:
して、海洋堂はこれからもっと、模型やフィギュアが普通に受け入れられるように、自分たちが見てみたいもの、つくりたいものをつくり続けて、世の中のもっと多くの人々に届けていきます。
海洋堂の素晴らしいフィギュアを手に取ってもらえるように、いままで見たことない自分たちが思う「ええもん」をつくり続け、挑戦し続けたいですね。

 


このあと、パーソルAVCテクノロジーのエンジニア社員からの質問にお答えいただきました。その一部をご紹介します。

【質問1】
お客さまが使いやすいか(魅力的だと思うか)を考える一方で、いかに安くつくるかというところも大事にしていると思います。常に精緻性とコストがトレードオフな現場で、海洋堂はどういう考えを持たれているのでしょうか?

宮脇氏:最初から、値段を決めてつくるということはしません。まずはすごいものをつくって、あとからそぎ落としていきます。まず自分が良いと思えるものをつくるだけつくって、そのあとにそれがどうやったら商品になるかを考えるということです。
やりたいものは、とことんやってから考えるというのがポイントで、今後もその考えは変わらないかなと思います。高い安い関係なく、どの値段の商品にもニーズは常にあるので、ニーズごとに商品化を進めていきたいですね。

佐藤氏:社長の自分としては、利益率1%でも、デザイナーがつくりたいものをつくらせてあげたいですね。好きなものをつくり続けて発表する場を設けてあげるということを、これからも続けていきたいです。

↑常にコストと精緻性のバランスは考えていく課題だと語る佐藤氏(写真左)


【質問2】

お客さまに対する品質へのこだわりや、実践されている取り組みがありましたら教えてください。

宮脇氏:品質には、「魅力的品質」と「当たり前品質」があるといわれていますが、海洋堂は、前者の「魅力的品質」に振り切ってきました。どれだけ素晴らしいと思えるものをつくれるか、を大事に考えています。

佐藤氏:ただし、海洋堂がつくっているものは素晴らしいものだと世の中の人々は認めてくれているのだから、今後は「当たり前品質」、たとえば不良品がないかどうかなどにも、いままで以上に注力をしていきたいと考えていますね。

↑太陽の塔のフィギュアを例にとって品質について語る佐藤氏(写真左)


【質問3】

造形師にも、得意不得意や好き嫌いがあると思います。フィギュアをつくっていくときに、造形師の方々とどう向き合っているのでしょうか。

宮脇氏:造形師の方も、ジャンルによって向き不向きがあると思います。
かっこいい戦車がつくれる人は、美少女ものはつくれなかったりしますよね。つまり、それに向いたアテンドをしてあげることが大事です。
そのために必要なのは、みんながそれぞれの得意なものをつくれる文化づくりだと思います。

モノづくりの現場では、どうしても得意不得意はあるのですから、適材適所を自分たちが見つけていくことが大事だと思いますよ。


このほかにもエンジニア社員からは数々の質問が挙がり、講演会は盛況のうちに幕を閉じました。
モノづくりに向き合う人々にとって、どんな気持ちで仕事に向き合っていけばいいのかを考えるきっかけとして、貴重な時間となりました。

目次

参加した社員からの感想

・モノづくりに対する姿勢を改めて見直すきっかけとなった。(40代 ハード設計)

・仕事への愛情を思い出すきっけになった。(40代 ソフト設計)

・海洋堂、およびオリエンタルランドの「モノづくり」「コトづくり」に関する貴重なお話を聞くことができたので大変満足した。(20代 ソフト設計)

・我々を相手に親身に公演なさっている温かい公演でした。有料の講演会にありがちな商売的、ドライ、万人あての心に残らない公演とは違った。(50代 ハード設計)

・宮脇専務のお話を聞いて、ハッと初心に帰ったというか引き戻された気がした。いまもこの仕事が大好きという気持ちは変わりないと思っているので好きなことを仕事にできている幸せを噛み締めながら会社に貢献できるよう頑張っていこうと思った。(20代 ハード設計)

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