地銀の人材ビジネスへの挑戦―― 異領域参入を支えた担当者の奮闘

内閣府が力を入れている地方創生。地方活性化において人材の確保は急務ですが、まだまだ追いついていないのが実情です。そんな中、法改正の追い風を受けながら、地方金融機関が地元企業の人材採用支援に奮闘しています!
今回は、山形銀行の100%子会社であるTRYパートナーズ株式会社にてお一人で人材紹介業務を担当されている地域推進部 コンサルティングマネージャー永岡 睦さんに、これまでの取り組みや今後の展望についてお伺いしました。


ヒト・モノ・カネの「カネ」から「ヒト」へ


――山形銀行で人材ビジネスをはじめたとのことですが、きっかけは?

永岡氏:2018年の銀行法改正を機に、銀行業務だけではない事業の多角化の検討をはじめました。その中でも特に人材に関わることは、地元にとって大きな課題でもあり、最重要領域と捉えていたのです。いま、山形銀行のお客さまの6割以上が、後継者問題を抱えています。どの企業・どの職種でも人材不足は重要な経営課題で死活問題なのです。そういった企業を人材面で支援することに大きな使命感のようなものを感じてスタートさせました。

――当初銀行で行っていた人材業務を、子会社を立ち上げて移管したのはなぜですか?

永岡氏:山形銀行では2012年より山形県の雇用とGDPの底上げを目的に、「山形成長戦略プロジェクト」をスタートさせました。TRYパートナーズの「T・R・Y」は「Team・Rising・Yamagata」というキャッチフレーズからきていますが、これは同プロジェクト発足当初よりあるものです。このプロジェクトでは、地元大学とジョイントベンチャーを立ち上げ、独自性のある先端技術を使用した工業製品の製造・販売を行うスキームを確立してきました。いよいよ販売を拡大していくフェーズに入ったことから、山形銀行グループとして責任を持って国内外へ販路を拡大していくため、地域商社を立ち上げたのが弊社の背景です。
そういった「別会社で新しいことにチャレンジする」という使命を持っている弊社は、旧来の銀行のビジネスモデルに捉われない、新たな収益の確立を目標にしていることから、人材紹介業についても業務の幅が広がることを見込んで、弊社に移管する運びとなりました。

――子会社を立ち上げて変化はありましたか?

永岡氏:やはり、物事の意思決定は早まったと思います。我々のオフィスは、銀行の本店の一部にあるので、実態としては銀行と一体となりながらも、業務や経営判断のスピードは銀行より早いので、その分さまざまなことができるというメリットに繋がっています。
一方で、いまは親会社の銀行の名前を使ってお客さまへ提案していますが、今後事業を拡大していく中で、TRYパートナーズとして顧客開拓していく際には苦労するかもしれません。まだまだ知名度は低いので……。


銀行とはまったく異なる文化の会社での武者修行、そこで得たものとは


――立ち上げ前はパーソルキャリア株式会社へ出向されていたそうですね。

永岡氏:はい、「人材ビジネスとは」というものを3カ月間でみっちり習得させていただきました。とにかく職種の理解に注力して、キャリアカウンセリングにも同席し、どんなことをヒアリングするのか、どんな提案をするのかを直接知ることができました。求職者の方にも、キャリアカウンセラーの方がはっきりと自分の意見を伝えるのがとても新鮮に感じたのを覚えています。パートナーとしてお客さまと向き合っているのだな、と思いました。

――銀行と人材ビジネス、ギャップは感じることはありませんでしたか?

永岡氏:それが意外とストレスはありませんでした。そもそもパーソルキャリアの風通しが良くて皆さんとてもフレンドリーですし、若い方が多いので、そういった環境に身を置けたのがとてもよかったですね。
ただ、やはり文化の違いは結構ありました。銀行ではメモ等はほとんど手書きですが、パーソルキャリアでは概ねペーパーレスでPCでの入力が中心。しかも業務スピードがとても速いので、同じ期間に出向していた他の地銀の方と、「ついていけるかなぁ……」と不安に感じたのを覚えています(笑)。

――TRYパートナーズでは、人材業務をすべてお一人で担当を?

永岡氏:そうなんです。やりがいと責任、両方を感じていますね。
このまま銀行業務を忘れてしまうのではないかという不安も多少あるのですが、新たな専門性を高めるという意味でも、貴重な経験をできていると思っています。
何より、企業側だけではなく個人側もお客さまになるので、直接やり取りをしながらUターンの支援ができることなどをうれしく思っています。どうしても地方からの人材流出は進んでしまうので、そんな中でも山形県に人を呼んで、定着してもらうことに関わっているという自負を感じられることは大きなやりがいです。

――責任も感じているとのことですが、苦労されたことはありますか?

永岡氏:担当は自分しかいないので、私が発信・決定したことがこの会社でのスタンダードになってしまうことです。社内ではノウハウもないし、正解もないので、とにかくいろいろな人に相談しましたね。弊社の社長、銀行で人材会社とのアライアンスを組んだ経験のある上司、地元の人材紹介会社、出向時代に知り合ったほかの地銀の方、そして出向先のパーソルキャリアの担当の方。「これは合っているか」の物差しがないので、とにかく横の繋がりをフル活用して情報交換をしていました。
また、ゼロからスキームをつくることもはじめてでしたし、そもそも職種の理解が浅いので企業の求人情報のヒアリングポイントを掴むまでに時間がかかったり、苦労しました……。


地方金融機関が地方創生の狼煙を上げる


――立ち上げから半年、これまでの取り組みの成果はいかがですか?

永岡氏:最初は新型コロナウイルス感染症の影響で企業の人材ニーズも縮小したので、何も見えない状態が続きました。とにかく求人数も候補者の推薦数もある程度の量が必要になるので、法人・個人双方に提案する両手形で進めてきたところ、少ないですが決定事例も生まれて、いまのところ順調に芽も育ってきています。
やはり県外からのUターンニーズはハードルは高いものの根強くあるな、と肌で感じていますね。企業にとっても個人にとっても我々にとっても「win-win-win」な関係がつくれることは大きなやりがいです。

――今後どんなことにチャレンジしていきたいですか?

永岡氏:まずは「山形で人材の相談をするならTRYパートナーズ」といわれるような存在になることですね。そのためにゆくゆくは情報を揃えたプラットフォームの用意や、イベントやセミナーを通して我々から地域企業に人材採用の在り方を啓蒙し、業務の幅を広げていく必要があると思っています。
あと、最初の話に戻りますが、一番はやはり後継者問題。経営課題を解決する人材に山形県に来てもらう、または地域の有能な人材を県内で還流させることで、山形県の企業が今後も安心して存続できる状況をつくりたいです。
そうすることで、どんどん地元が良くなっていったらうれしいです。

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