パーソルグループは、7月17日よりウェビナーイベント「今、ニッポンのはたらくを考える会議」をスタートしました。新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響を受け、ニッポンの「はたらく」が大きく変化しているいま、私たちは、一体何に備え、どのような行動をとるべきなのか。そんなこれからの「はたらく不安」に答えるべく、毎回、各領域の専門家をお招きし、さまざまな業界・職業の今後や私たちが自分らしくはたらくことができる未来について考えます。 |
8月7日(金)20時から行われた第4回目のテーマは、「『“フクギョウ”したいけど、できない』あなたへ。いま何をすべきかを考える」。法政大学 教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中 研之輔氏をゲストスピーカーにお招きし、“フクギョウ”の実態やいまの環境で何をすべきかを考えていきます。モデレーターはパーソルプロセス&テクノロジーの宮崎 将が務めました。一部を抜粋してご紹介します。
登壇者紹介
田中 研之輔氏
法政大学 教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事
UC.Berkeley元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD、東京大学 博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論。専門社会調査士。社外取締役・社外顧問を20社歴任。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』など、著書は25冊を数える。
宮崎 将
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
2013年にインテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。地方創生関連事業、テレワーク推進事業などに従事し、現在はワークスイッチ事業部 事業開発統括部複業促進アドバイザー。パーソルグループ内での複業者コミュニティを運営。自らも複業にて、プロジェクトデザイナー/事業推進テレワーク/キャリアコンサルタントなども行う。
フクギョウの“関心”は高まっている。しかし、進まないモヤモヤ
フクギョウへの関心は高まっている一方で、まだ半分以上の企業がフクギョウを認めていない現状があります。まず、マクロでみたフクギョウの現状について語り合いました。
宮崎:前提としてはたらく人の平均給与はここ10年、ほとんど上がっていない現状があります。2008年が430万。2018年が441万と2.5%の上昇。日本は経済が停滞しているといわれていますが、この数字に如実に出ていますね。そして、特にここ最近は、コロナ禍で残業が減っています。テレワークの推奨により、在宅ではたらく人が増えました。結果、残業時間が30%近く下がっていて、残業代も25%ほど減っています。
田中氏:この影響は大きいですね。特に支出は変わらないのに、収入だけ減っている。キツいですよね。
宮崎:コロナ禍ではたらき方が変わり、収入を補填する意味でフクギョウに関心を持った人も多いと思います。もう一つデータがありまして、日本人は9割以上の人が「仕事がつまらない」と回答していますが、転職はしないという。なかなか、はたらき方を変えようとしないというのが日本人の実態ともいえますね。
田中氏:新卒時にメンバーシップ型で雇用され、新人研修を受け、組織内だけで生きてきた人が大半です。それがいま、ジョブ型に変わろうとしています。しかし、ずっと同じ環境にいたわけですから、そう簡単に動けない。どうしても保守的になります。同じ組織にいて、年収が上がらないのも分かっているし、組織での昇進も頭打ち。だからといって、思い切って転職しようという勇気は出ない。それが日本のリアルだと思いますね。
宮崎:企業側に目を向けると、そちらにも問題がありそうです。そもそも、企業側がフクギョウを認めていません。全面的な禁止が半分。企業の人事担当に聞いても、「これから考えていきたいのですが……」という回答が多いですね。
田中氏:政治の世界でも、フクギョウ・兼業は重要なトピックです。これまで、フクギョウの問題点というのは、本業の規定に抵触する懸念がありました。特にいわれていたのが、勤務時間。本業の勤務時間がフクギョウで圧迫されることが問題視されていました。しかし、今後は自己申告制に変わります。本業の会社は、労働者の自己申告に対して責任を追わなくていいことになりました。つまり、企業側がフクギョウにブレーキをかける理由がなくなったんです。とはいえ、本音では企業側もフクギョウをさせたくないというのはあるんじゃないかと思いますね。
宮崎:結局、会社が変わらないから、自分も踏み出せないというのがモヤモヤの原因だと思います。そうして、会社内で鬱鬱としていくのはもったいない。今回は、そういった方々に変化のチャンスを与えられるのでは、と思っています。
変わり続けるキャリア論・プロティアンの考え方こそいまの時代に必要
フクギョウを是とする社会においてフィットするのが、新しいキャリア論である「プロティアン」という概念。これを提唱する田中氏から、その必要性を語ってもらいました。
田中氏:いまはまさに、フクギョウ時代の幕開けだと思っています。2019年にトヨタ自動車の豊田 章男会長と経団連の中西宏明会長が、終身雇用の限界を発言しました。そして、2020年にコロナがきた。いまこそはたらき方を考えるときです。
宮崎:そのうえで必要なのが、「プロティアン」という新しいキャリア論ですね。
田中氏:そうですね。キャリア論の最先端の理論です。「プロティアン」とは、変化に適応する能力を持ち、自分のキャリアを主体的に変幻させるキャリア論であり、組織任せのキャリアではなく、自分主導のキャリアをつくっていこうという考え方です。「プロティアン」の語源は変幻自在の神「プロテウス」です。コロナによって、初対面でオンラインでの打ち合わせが失礼でなくなったように、すごいスピードで価値観が変わった。変わることはいいことで、私個人としては、むしろ変わらないとつまらないと思っています。
学びと自己変革、パラレルキャリア、フクギョウでも、正社員へのシェアリングでも、地方への移住でも、変化に対して恐れない、というのをキャリア論の知見から裏付けてくれるのがプロティアンです。一度本を読んでいただけたらと思います。
“フクギョウ”の第一歩は、自分のキャリア戦略を明確にすること
闇雲にフクギョウをするのではなく、まずは自分のキャリア戦略を定めることが、その第一歩だといいます。カタカナに込められた意味を紐解いていきます。
田中氏:企業側から見ても、フクギョウは有効な選択肢として用意しておくべきだと思います。以前、ある企業の方たちに調査をした際のことですが、やはりミドルシニアの方が、はたらいていくうえでモヤモヤに陥っていました。同じ仕事が続き、「いつまでこの仕事をやるのか」とこれからのキャリアに不安を抱えていても転職はできない。結果、はたらくことがつまらなくなる。キャリア論でいうところの「プラトー(停滞)状態」に陥ります。頂に登る途中で停滞しちゃう。目標を失ってしまう。ここでどうやって、自分を再活性化していくか、そのトレーニングが必要で、それに適しているのがフクギョウだと思っているんですよ。転職だと一歩を踏み出さなくてはいけませんが、フクギョウなら半歩でいい。ピボットでいいんです。
宮崎:「はじめの一歩」に対して、半歩というのがいいなと思っていて、転職のように一歩大きく踏み出すのは勇気がいりますからね……。そういえば、私がボランティアに参加した経緯もマンネリからの脱却でした。本業で毎日同じ人たちと顔を合わせていて、刺激が足りないと思っていて……。実際にボランティアをして、はたらくことに関して大きく価値観が変わりました。
田中氏:越境学習的効果は大きいですよね。これまでのキャリア形成の中では得られなかったネットワークに身をおいて、新しいチャレンジをする。フクギョウをカタカナにした意味は経済的還元だけじゃなく、そういった学びもあるからなんですよね。
宮崎:そうですね。会社に申告すると、フクギョウの労務時間を気にするんですけど、正直こちら側からすると「楽しいからやっている」だけ。だから、会社とはまったく違う軸でやっていることを理解してもらいたいですね。
田中氏:それは本当に重要なことだと思いますね。フクギョウはこれからのキャリア開発に必須のビジネス機会だと思います。宮崎さんであれば、パーソルでやったことをベンチャーで応用できるし、大学で教えることもできますよね。場所を変えることで、価値が生まれる。まずは、自分のキャリアと向き合って、収入が必要なのか、新しいネットワークを育むのか……、キャリア戦略を明確にするべきだと思います。これまではたらいてきたビジネス経験から蓄積される「キャリア資本(career capital)」があるはずですから、それをどこで活かせるのか?どういうフクギョウで活躍ができるのかを一日30分でいいので考えてもらえるといいと思います。
●本セッションのまとめを、グラフィックレコーダーのまりんさん(@_okinawaa)に描いていただきました!