多拠点生活で叶える、自分らしいはたらき方。「ADDress」を通じて、新たな人生体験を手に入れる

リモートワークの普及など、はたらく環境が劇的に変化する中で、「自然の中で過ごしたい」「地方ではたらきたい」という人が増えています。今年6月の内閣府の調査(※)では、東京23区に住む20代の約35%が「地方移住への希望が高まった」と回答。一般的に理想とされてきた「職住近接」というあり方が、大きく変わりつつあります。

これまで、都市に住む人が地方ではたらくには「移住」「転職」という、高いハードルがありました。しかし、もっと柔軟に地方と関わることができる、新たな選択肢がいま生まれつつあります。今回の連載では、「多拠点生活」「デュアルライフ」「地方複業」「オンラインコミュニティ」という4つのスタイルを紹介します。
(※)「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年)

第一弾として紹介するのは「多拠点生活」。その名の通り、複数の拠点をめぐりながら過ごすスタイルです。
この多拠点生活を定額制で活用できるサービスとして、「ADDress」というサービスがいま人気を博しています。ADDressは「はたらく」にどんな影響をもたらすのか。運営元である株式会社アドレス 取締役の桜井 里子氏に、お話を聞きました。

◆ADDressとは
月4万円からの定額制で、全国約70箇所の多拠点生活を提供するライフプラットフォーム。会員は、事前に専用サイトから空き状況やアクセス方法を確認して、好きな家の個室やドミトリーを自由に予約する。神奈川県や千葉県などの関東圏を中心に、北は北海道、南は沖縄県まで、全国各所に拠点を展開中。


気分に合わせて、はたらく環境を変える
多拠点生活というライフスタイル


――どのような方が、ADDressを利用されているのでしょうか?

桜井氏:一番多いのは会社員の方です。昨年までは、はたらく場所の自由度が高い自営業やフリーランスの方が多かったのですが、現在は会社員の割合の方が高くなり、全体の4割強を占めます。
また、営業や人事といった職種の方の登録も増えています。商談や面接のときには個室にこもって仕事をできますし、疲れたら気分転換に散歩をしたり、夜は地元の美味しいお店に食事に出たり、ときには会員同士でご飯を食べたり。自分のスタイルに合った過ごし方を楽しまれています。

――会員数がこの数カ月で急増しているようですが、テレワークの普及が大きなきっかけに?

桜井氏:はい、これを機に、新しいはたらき方に挑戦したいという方が多いですね。また、趣味と両立した暮らしがしたいから、という方も多いです。たとえばADDressは海が近い拠点も多いのですが、そこにはサーファーの方も多くいらっしゃいます。

――ADDressを利用したはたらき方は、どのような点が良いのでしょうか?

桜井氏:同じ場所でずっと仕事をしていると、気が滅入ることもあるじゃないですか。ADDressのような多拠点生活のスタイルだと、自分の気分に合わせて、環境を変えられるのが大きなメリットだと思います。
誰かと話したければ、会員同士の交流が活発な拠点に滞在してご飯を食べる。集中したければ、静かな拠点で個室にこもって作業する。人の気分って仕事の状況で変動するので、仕事の生産性向上のうえでも、気分に合わせて環境を変えられるというのは、多拠点生活の良い点ですね。

――拠点の特色もそれぞれですよね。温泉がついている家もあれば、秘密基地のような場所もあります。

桜井氏:仕事に疲れたら、自然と触れ合ったり、温泉に入ったりと、ワーケーション(※)としての楽しみ方もできます。
また、旅に行く前って気持ちがわくわくしますよね。日常でその感覚を味わえるのも、ADDressの特徴だと思います。そのようなわくわく感だけでも、自分の気分を明るくしてくれますから。
※workとvacationを組み合わせた造語。観光先などで、休暇を取りながらテレワークするはたらき方。


観光でも移住でもない「住まい」だからこそ、
人生に新たな体験を提供できる


――2018年に立ち上げ、急速に会員が増えています。そもそも、なぜこのサービスを立ち上げようと?

桜井氏:いろいろなきっかけがあり、個人的なお話でいいますと、もともと私は伝統工芸に興味があって、ネット販売などwebマーケティングの仕事で伝統工芸に携わっていました。「東京の人に地方の文化を知ってもらうには、どうすればいいか?」を考えていくと、やはり、現地で手づくりの生の商品や職人の仕事姿を見てもらうことが必要だなと。そのためには、地方に来てもらう動機をつくらなければいけません。
そこで目を付けたのが、地方で増えていた空き家の存在です。空き家をシェアハウスのような形で運用できないかと考えました。人々の生活拠点が地方にも増えることで、人はその地域の「特産」や「ブランド」にも興味関心を抱き、日本の伝統文化を見つめ直すきっかけが生まれ、新しい商品開発のアイデア創造にも広がるのではないかと期待しています。

――観光型のホテルではなく、「住む」ということにフォーカスしたのは?

桜井氏:教育、文化、交通、食など、生活に紐づくテーマっていろいろあると思うんですけど、そういったものの中には、観光だけではできない体験がたくさんあります。住まいを通じて、それを提供できればいいなと考えました。

――たとえば?

桜井氏:教育面でいえば、いま一部の地域で「デュアルスクール」という制度が生まれています。この制度を使えば、都市圏の小中学生が、住民票を移動させずとも、一定期間地方の学校で学ぶことができます。実際にADDress拠点がある多良木(熊本県多良木町)邸でも、会員のお子さんがデュアルスクールを体験されました。そのほか、文化面でいえば、益子(栃木)邸には益子焼の工房や登り窯が併設されていて、実際に職人さんの窯焚き作業の風景などを見たり、最新作の作品を直に購入することができたりもします。
このような体験って、住まいがあるからこそだと思うんです。単なる観光だと生まれないような、いろいろなテーマでの地域の繋がりを見つけられる。これが、ADDressが目指す「ライフプラットフォーム」の姿です。


多良木でデュアルスクールを体験している会員のお子さん(ADDress Webマガジンより)

――サブスクリプション型のサービス体系をとった理由は?

桜井氏:これまで「住む」となると、「移住」しか手段がありませんでした。特に現代は大都市近郊で生まれた人が多くなり、地方にふるさとを持つ人が減少しています。そのような人々にとっては、いくら自然の美しさに惹かれたとしても、移住には抵抗があると思います。
だからこそ「気軽に行ける選択肢」をつくりたいなと。普通は行かないような地域だとしても、予約可能な拠点一覧の中にあるだけで、そこに出向く動機になります。そして、住まいがあれば、そのほかにも新たな受け入れの仕組みが生まれていきます。先のデュアルスクールが、その好例ですね。


“ゆるい”繋がりこそ、
これからの社会には必要


――どんな人が、多拠点生活には向いていると思いますか?

桜井氏:人と交流することが好きな方には、向いていると思います。先ほども申し上げたように、拠点によっていろいろな特色があるので、必ずしも交流ばかりではありませんが、ADDressは一軒貸し切り型ではないので、必ずどこかの拠点で誰かと出会います。その出会いを楽しめると良いですね。

――人と人との繋がりをつくるサービスでもあると。

桜井氏:そこは大切にしているポイントです。ADDressの拠点の中には、80歳を超えるおじいちゃんのような存在の方が家守(物件を管理する人のこと)をされていたり、会員同士でも「おかえり」と挨拶をし合う関係性があります。これって、今後の社会のあり方の一つだと思うんですよ。家族でも会社でもなく、利害関係もない、ゆるく繋がっている居場所。ADDressとしては、そんな居場所を、住まいを通じて提供したいと考えています。

株式会社アドレス 取締役 桜井 里子
新聞などのメディアで12年間取材編集やディレクターを経験後、2016年に一般社団法人日本ふるさと手しごと協会代表理事に就任、同年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会の立ち上げに参画。2017年よりポート株式会社にて地域共創コンサルタントとして、地方に雇用をつくるプロジェクトに携わる。2018年より株式会社アドレス取締役に就任。現在は自身もADDressの二子玉川邸の家守を務める。

次回は、「デュアルライフ」編をお届けします。

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