はたらき方の前に、生き方を考える ─ “車中泊スタイル”で全国を旅する

好きな人と、好きなときに、好きな場所へ!バンライフで手にした、二人ならではの「はたらく」。

「はたらく」の形が時代によって変化する中、生き方や、それをともにする家族の形も、少しずつ変化を遂げています。本連載では、その中でも”夫婦”に注目。さまざまな選択のもと、自分たちの生き方や「はたらく」の形を見つけ出した4組の夫婦をご紹介します。

本連載は、今回が最終回。最後は、出会って2カ月で結婚したという菅原さんご夫妻へのインタビューです。
「夫婦で旅をしながらはたらく暮らし」を目指す二人は、夫婦で同じ会社に採用され、軽自動車に乗って全国を巡りながらはたらいています。夫はwebデザイナーとして、妻はwebマーケター&ライターとして、互いのスキルを組み合わせ、新しい仕事をつくり出しているといいます。拠点を持たず車中泊をしながら、自由な場所で仕事をするはたらきかたとは、どんな生活なのでしょうか。
そんな菅原様ご夫妻の「はたらいて、笑おう。」とは?


お金と安定より、やりたいことをしたい―
軽自動車で日本一周しながらはたらく

菅原 拓也さん(以下、夫):出会う前に、Twitterで繋がったんだよね。

菅原 恵利さん(以下、妻):そうだね。私はもともと東京でスタイリストとしてはたらいていたけど、店舗に集客するためのSNSの運用とか、そういうwebマーケティングの分野でたくさんお仕事をいただくようになった。パソコンとスマートフォンがあればどこでも仕事ができるし、家賃を払うのが惜しくなったから、31歳のときに家を捨てて、東南アジアを巡りながら仕事をしていたな。

夫:確か、歯医者に行くために一時帰国したんだよね。「日本にいるので、もし会える人は会いましょう」ってツイートを見て、すぐにDMを送った。旅をしながら仕事をするなんて、とても興味深いと思っていたから。

妻:そこで出会ってからは早かったよね。出会って5日後に付き合って、1カ月後に婚約。2カ月で結婚。

夫:そのとき、お互い抱えている仕事をゼロにした。恵利はあちこちに出向いていく仕事だったし、僕も出張があった。それだと結婚してもバラバラになるし、夫婦一緒にいて、かつ旅をしながら仕事をするには、二人で一緒に仕事をすれば良い。だから、結婚の条件として「一緒に新しい仕事をつくって、一緒に頑張っていきませんか」と伝えた。

妻:割り切ってお互いこれまでの仕事は手放したけど、怖さはなかったよね。それより、このままの状態で、この先何十年も続けていくほうが怖かったかな。変わっていきたかったし、たくちゃん (*夫)は常に変化を楽しめる人だと思ったから、結婚した。

夫:で、結婚してすぐ、スズキの軽自動車ハスラーで「旅する2人暮らし」をテーマに車中泊をはじめた。

妻:収入は、ゼロ(笑)。

夫:うちの両親は、結婚届のサインを拒否するほど反対していたよね(笑)。「結婚するなら、ちゃんと職に就きなさい」って…。結婚当初は生活のために何でもしていたよね。

妻:夜勤のバイトをしたりね。あのときは、もやしばかり食べていた(笑)。でも、お金のためにはたらくばかりでは、移動生活する意味がない。「仕事」じゃなくて「志事」をしようって、何度も話し合ったね。

夫:安定もお金もなくてもいい、極限の状態だからこそ、好きなことやりまくろうぜ!って。

妻:ブレイクスルーは、2019年の春。Twitterでマーケター募集の応募を見つけたこと。ちょうど企業側が求めていることと、私のwebマーケティングとライティングスキル、たくちゃんのweb制作スキルを掛け合わせたら、ぴったりマッチングした。

夫:夫婦採用で雇ってもらえたね。安定した収入になった。

妻:拠点を持たず移動しながらはたらくスタイルも、もうすぐ1年になる。暑い時季は北、寒い時季は南を目指して、行ってみたい観光地や食べたいものに合わせて移動しているよね。家計簿には大きな違いがあって、それは家賃や光熱費がないこと。その代わり、ガソリン代とカーリース代、温泉代、それからコインランドリー代がかかる。あとは、仕事は基本的にカフェを使うから、その代金くらいかな。

夫:僕たちはグルメが好きだから、食費も大きい。冷蔵庫もないし。それでも、出費は月15万円くらい。

妻:収入は波があるけど、十分生活できて貯金できるくらいは稼げるようになったね。
住民票はたくちゃんの実家に置かせてもらっているから、いろんな申請や税金の支払いも、不自由なく手続きできているよ。

結婚パーティは“フォトバスウェディング“のスタイルで開催(写真提供:PhotoBus Japan

好きなことを仕事にするために
メリットを最大限に活かす「夫婦採用」

夫:一人ではできないはたらき方だなぁと思う。夫婦ではたらいているから、企業側も「面白い」と思って雇ってくれているし。

妻:私は一人旅もしていたけど、二人で旅をしながら仕事をするようになって、仕事の幅が大きく広がったよ。私ができないことでも、あなたができたりするし、その逆もある。

夫:責任感も強まるよね。リモートワークの場合、クライアントと直接会わずにメールや電話だけのことが多いから、急に連絡が取れなくなってフェードアウトしたりされたりするリスクがある。その点、夫婦採用は、僕だけ急に辞めたり途中放棄したりしにくい。企業側も安心だと思う。

妻:生活も仕事も同じだと「大変じゃない?」って聞かれることがあるけど、反対に、もっと時間を共有したいけどできないという夫婦も多いんじゃないかな。だから、私たちが先駆けになって、夫婦採用をもう少し広めてもいいと思う。

夫:僕たちは、たまたま仕事上のスキルの相性が良かったけどね。

妻:仕事の相性が良ければ、夫婦で仕事も共有する生き方もあるということだね。両親は私が3歳のころに離婚したんだけど、父は仕事ばかりで家にあまりいない生活だったし、過労でイライラもしていた。

夫:そうだね。子どもにも良くない。うちの両親は共働きで、どちらもいつも疲れていたし、大学時代に母親から「あなたのために、イヤな仕事も頑張ってる」と言われたことがある。あのころは学生で、仕事のことは何も考えていなかったけど、お金のために仕事を選ぶと、そんな考えになるのかなぁと思った。

妻:うちは反対に、好きなことだけして生きていきなさいという家庭だった。片親でも母の実家はとても裕福で、約10年前に母が亡くなるまでは何不自由なく芸事だけして育てられてきた。

夫:正反対だね。でも、うちの両親も僕たちがなんとか生活しているのを見て、応援してくれるようになってきた。

妻:それでもいまだに、義父から「そろそろ会社に入らないの?」って、心配されてるけどね。

夫:よく言われるよね(笑)

妻:会社に所属しているようなはたらき方ではないから、ご両親もよく理解できないんだと思う。きちんと稼いで、二人で楽しく生活できるところを見せていけば、きっとこういうはたらきかたもあるんだと理解してくれると思うよ。

好きなことを、とことん突き詰める
毎日違う景色を見ながら仕事をする生活

夫:今後は、大きな車に乗り換えて移動販売をしてみたいな。

妻:地方創生のお手伝いとかもしてみたい。いろんな仕事でいろんな会社や人と携わりながら、影響力を持って、人と地方の架け橋になるような仕事をしたいと思う。旅をしながらはたらく、ではなくて、旅そのものを仕事にできたら良いな。こうやって目標を持ちながら、夫婦で一緒に仕事をするのはワクワクするよ。

夫:日々新しい場所で、新しい人に出会えるのは、このスタイルならではの楽しみだよね。行く先々でアイデアも仕事も生まれるし。

妻:毎日見る景色が違うから、気分転換しながら仕事をする感じ。

夫:そうだね。旅をしていたほうが、生産性が上がる。

妻:でも、決してこのスタイルを万人に勧める訳でもないよね。私たちは、とことんやりたい仕事をやった先に、こういうスタイル・はたらき方になった。大事なのは、自分は何がしたいかということ。「どうはたらきたいか?」の前に、「どう生きたいか?」を考えることが大事。その結果が、私たちは旅というスタイルになった。
それに、私たちはクリエイティブな仕事をしているから、新しい情報も入れていきたい。旅をしていると勝手に入ってくるから、表現も豊富になっているよね。

夫:そうだね。僕の周りにはwebデザイナーとしてすごく稼いでいる人は何人もいる。でも、好きな仕事が出来ずに大変そう。それに比べて僕は全然稼げていないけど、人生の楽しさでいえば、一番羨ましがられている。楽しいことの中で、自分たちが何ができるか、探し続けて、いまに至ったという感じだね。


Q. 最後に… お二人にとって「はたらいて、笑おう。」とは何ですか?

妻:はたらくとは「社会貢献」だと思っています。どれだけまわりを幸せにしたか、役に立ったのか、笑顔にしたのか。その見返りが報酬だと思うんです。「貢献したとき、人間は幸せを感じる」と聞いたことがあります。仕事は社会貢献だから、はたらけばはたらくほど幸せを感じて笑うことができます。

夫:仕事は「自分のやりたいことをしっかりやる」ことだと考えています。僕の仕事は主にwebサイトをつくることですが、やりたいことを追求し、相手の必要なものをしっかり制作することで受け取った側が笑ってくれる。その笑顔を見て、僕もうれしくなって笑うことができる。安定を求めて仕事をしていた前のほうが稼げていたけど、なんだか不安ばかりの日々で、笑えていなかった。いまは地方をまわりながら、さまざまな生き方をしている人と出会い、やりたい仕事をして、不安もなく楽しく笑えている生活をしています。


●菅原拓也さん・恵利さんご夫妻(えりたく夫婦)プロフィール

拓也さん(写真右):東洋大学ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科卒。マラソンで実業団を目指していたが、足のケガをきっかけに独学でwebデザインの勉強を始め、大学卒業後webデザイナー・エンジニアとして独立。結婚後、「夫婦で旅をしながらはたらく暮らし」を目指し、車中泊をしながら全国を移動。

恵利さん(写真左):東京音楽大学声楽演奏家コース卒業。幼いころから舞台子役として活動。2014年、新宿にイメージコンサルティングサロンをオープン。SNSアドバイザーとしても活躍し、東南アジアを中心に旅をしながら仕事をするスタイルを確立。2018年、結婚をきっかけに夫婦ではたらく。夫婦採用で「株式会社MOVED」と契約(現在は「えりたく夫婦」のスポンサー企業)。2社目に契約した「Carstay株式会社」では、車中泊・バンライフ情報「VANLIFE JAPAN」の編集長に就任。ハフポスト日本版ライター。

「えりたく夫婦」 YouTubeチャンネルはこちら

連載「うつりゆく夫婦のはたらく」 全4回・完 (文・児玉 奈保美)

第1回記事はこちら
第2回記事はこちら
第3回記事はこちら

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