「さらなる高みへ」。新CHROが見据えるDEIの未来―わたしとDEI(13)大場 竜佳―

パーソルグループは、すべてのはたらく人たちが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会の実現を目指し、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)を推進しています。
本連載では、生まれた場所や育った環境、年齢、性別、経験、価値観などの違いを可能性と捉え、多様なキャリアを歩む社員を紹介します。
第13回目は、パーソルホールディングス株式会社の大場 竜佳です。

「ADVANCED HR SHOWCASE」。これは、2016年より掲げているパーソルグループの人事ポリシーです。この言葉には、「自ら実験的な人事を行い発信し、ショーケースとして社会をリードする」という想いが込められています。

2025年4月、大場はパーソルホールディングスのCHRO(最高人事責任者)に就任し、この挑戦的な指針をリードしています。二人の子どもを育て、母親の介護にも取り組んでいる大場は、人事のプロフェッショナルとしてどのような思いを抱きながら、キャリアを歩んできたのでしょうか?そして、CHROとしてどのような未来を描いているのでしょうか?

目次

意外な転職理由

大学院修了後の2003年、大手生命保険会社に入社した大場が配属されたのは人事部。そのころから、人事の仕事の面白さを感じていました。

「人事は総合格闘技だと思っています。法律学、経済学、心理学など関係する領域が学際的で、いろいろな学びを統合して取り組む必要のある専門職です。さらに、向き合う対象である人間って、どれだけ知識を広げても分からない深遠な存在なんですよ。それがすごく面白いなと」

勤めていた企業では人事領域のいろいろな仕事を経験させてもらい、特に不満があったわけではありません。転職を考えたのは、プライベートで起きた出来事がきっかけでした。

大場の父親は、小さな会社を営んでいました。しかし、体調を崩して会社を畳むことになり、思うように動けない父親に代わってその役割を担ったのが、長男の大場だったのです。想像以上に大変な思いをしながら手続きを進めているうちに、「苦しいけれど、自分で決めて、自分で前に進んでいる」と自らの成長を実感するようになり、それがやがて「もっと猛烈に成長したい!」という想いに変わります。

その気持ちを率直に転職エージェントに伝えたところ、紹介されたのが株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)。2007年に転職し、人事部に配属されました。

留学先のロンドンで感じた「普遍性」

新しい職場で大場が驚いたのは、任される仕事の大きさとスピード感でした。

「たとえば人事制度の改定のような、整った会社では何年もキャリアを積まないとタッチできないようなスケールの大きい仕事を任せてもらって、すごくやりがいを感じました。しかも、普通は1年から2年かけてやるような内容の仕事を『数カ月で』みたいなとんでもないスピード感だったんです。非連続に成長したいと思って入社したので、自分が望んだものがここにあると思いましたね」

前職とは異なる「ベンチャー企業の匂いがぷんぷんする」カルチャーに食らいつきながら、人事企画、人材開発、労務労政と幅広く経験を積んでいきました。しかし、年月を経る中でだんだんと「自分が持っている武器だけで戦えてしまっている」と感じるようになり、慣れ親しんだ環境を手放すことを決めました。

2015年、ロンドンに渡り、イギリス人材マネジメント協会(CIPD)に私費で通うことに。まだ幼い息子を育てる妻を日本に残すことになりましたが、理解を得て送り出してもらいました。

イギリス人材マネジメント協会(CIPD)へ通っていた時の1枚

「会社に相談したときは、当時の代表取締役社長だった高橋 広敏さんと上司の美濃 啓貴さんが背中を押してくれました。ただ、社費留学のような支援制度はなかったですし、長期間不在にすると妻の負担も大きくなるので、短期間で学べるコースがたくさんある職業専門学校のようなCIPDを選びました」

CIPDには、イギリス各地のほか、さまざま国の企業の人事担当者が集います。現地滞在中、ケニア、セルビア、ロシアなど普段なじみのない国の人たちと肩を並べてタレントマネジメントやHRビジネスパートナー(HRBP)などについて学びながら感じたのは、人事の仕事の「普遍性」でした。

「最初は、海外のHRというのは最先端で水準が高いんじゃないかと思っていました。でも、実際に話してみると、彼らもぼくらが悩むようなことで悩んでいたんです。世界中でみんなが同じ壁にぶつかっているんだなと相対化してみることができるようになりました」

「ADVANCED HR SHOWCASE」が生まれた背景

2016年に帰国後、パーソルホールディングスの人事企画部門へ異動。グループブランド「PERSOL(パーソル)」が新設され、50社を超えるグループ会社を一つのブランドのもとに統合していくタイミングで、人事として新たな仕組みを整える仕事に携わることになります。このとき、CHROの美濃の主導で定められた人事ポリシーが、「ADVANCED HR SHOWCASE」。この言葉は、どのようにして生まれたのでしょうか?

「大人の学びを科学する」というテーマで、企業における人材開発・組織開発を研究されている中原 淳先生(立教大学 経営学部 教授)から、『パーソルの人事は実験人事だね』と言ってもらったことが一つのきっかけです。実際、人事ってどれだけ考えてもやってみないと分からないことばかりなんですよ。だからこそ、チャレンジングなことをしてうまくはまればいいし、ダメなら潔く元に戻せばいい。そういうトライアンドエラーを重ねる中で、結果として社員にとっても会社にとってもいい人事施策が生まれてくると考えています」

この指針のもと、共通人事ガバナンスルールの確立、キャリアオーナーシップ支援制度の拡充、ドレスコードの原則自由化など、グループを横断するいくつもの取り組みが行われました。

パーソルがDEIに力を入れるようになったのは、2019年以降。すでにDEIを進めているグループ会社もありましたが、、全体戦略として推進していくことになるのは必然だったと言います。

「2020年前後から、はたらく人、一人ひとりのライフスタイルやはたらき方が変化する時代に対応して、「個人にフォーカスする」経営戦略が方針として定められました。それに合わせて、我々の人事戦略も社員のエンゲージメントやキャリアオーナーシップを高めていく方向にアクセルを踏みました。その中で、一人ひとりの属性、価値観、能力の多様性を生かす方向性になるのは、必然の流れだったと思います」

「はたらいて、笑おう。」の実現に向けて

DEIの分野で大場が特に手応えを感じているのが、キャリアオーナーシップに関する施策。これまで、グループ内の他部署の業務を体験する「ジョブトライアル」、グループ内の他部署への公募型異動制度「キャリアチャレンジ」、ダイレクトリクルーティング型異動制度「キャリアスカウト」などが続々と導入され、各制度の累計利用者数は5,200人を突破しています(2025年7月時点)。

「一人ひとりの属性や価値観に向き合い、能力を引き出そうという方針のもとで、会社が社員のキャリアを一方通行で決めつけるべきではありません。グループ内でどんどん自分のキャリアを選びとってほしいし、経営陣もそれがパーソルのグループビジョン『はたらいて、笑おう。』の実現やありたい姿「“はたらくWell-being”創造カンパニー」につながるだろうと期待して進めた制度です。それが今、すごい勢いで利用者が増えているのはうれしいことです」

ジェンダーダイバーシティに関する施策も、成果を上げています。2021年にジェンダーダイバーシティ委員会が設置され、先進的な事例を学ぶためのセミナーや女性の体の不調に関する勉強会の実施、ジェンダーダイバーシティレポートを通じて各拠点の状況を共有するなど人事部門と組んで数多くの取り組みを行ってきました。その結果、2019年度に18.6%だった女性管理職比率は2024年度に27.6%に、男性育休取得率も2019年度の11.1%から2024年度には84.3%に上昇しています。
(参考:https://www.persol-group.co.jp/sustainability/social/diversity/

さらに、障害者雇用の推進にも力を入れてきました。大場が役員を務める特例子会社のパーソルダイバースおよび、就労継続支援A型事業所のパーソルネクステージでは、現在3,000名を超える障害のある方々がはたらいており、この規模は国内企業の中でも上位に位置しています。

また、身体障害の方に加え、精神障害や知的障害のある方も安心してはたらけるように、業務の標準化・マニュアル化などの環境づくりをていねいに進めてきました。その結果、職場の定着率も非常に高く、長く活躍してくれる社員が多いのが特徴です。

さらなる高みへ

「ADVANCED HR SHOWCASE」の道に、終わりはありません。大場が所属する持株会社のパーソルホールディングスでは、新しい取り組みがまた始まっています。

「半年前から、『つながらない時間』として社員が相互に連絡できる時間帯を原則7時から20時までに限定しました。3カ月後にアンケートを取ったところ、常にスタンバイしておかなければと考える心理的な負担が減った、仕事により集中できるようになったという回答が多く、今も継続しています」

プレスリリースを出すような目立つ施策だけでなく、こういった小さな試行錯誤を地道に積み重ねていくことで、社員と会社がお互いにWin-Winになる制度が育つと考えている大場。自身も過去に3週間の育休を取得し、2021年からは母親の介護のため、週末、実家にサポートに入ることもあります。その経験を振り返り、「実際に体験してみてはじめて分かることばかりです。でも、自分が置かれた環境は何千、何万とある事例の一つにすぎません。人事として多くの人に一番インパクトがある施策ってなんだろうと考えていきたいですね」と語ります。

インタビューの最後、DEIに関してこれからの展望を尋ねると、「まだまだやれることがあると思います」と微笑みました。

「男女雇用機会均等法も労働者派遣法もなかった時代に、創業者の篠原 欣子さんが、女性のはたらく機会をつくろうという志を持って始めた事業ですからね。そのミッションが社会に必要とされて、企業として受け入れられて今がある。その原点に立ち返ると、もっと高みを目指したいし、目指すべきだと思います」

2025年6月、パーソルグループとして出展したLGBTQ+関連イベント「Tokyo Pride 2025」での一枚。ブースに訪れた社員は100名を超えました。大場は最前列の左から3番目。

<プロフィール>
大場 竜佳(おおば たつよし)
パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CHRO
2003年に大手生命保険会社に入社し、その後インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。人事企画、人材開発、労務労政など各領域を担当。2015年から学習のため1年間休職、ロンドンにあるHRの研究機関(CIPD)にて各国のHRプロフェッショナルと学ぶ。2016年パーソルホールディングスに異動・転籍。人事企画領域を担当しグループ横断の人事施策を立案・推進。2020年4月より人事本部長に就任、2025年4月より執行役員 CHROに就任。

グループのジェンダーダイバーシティ推進の進捗を社員に届ける「ジェンダーダイバーシティレポート」を発刊しています。経営層のコミットメントをはじめ、目標や実績、プロジェクトの現状などをオープンに開示しています。
*ジェンダーダイバーシティレポートはこちらからご覧ください。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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