万博会場で開催「第7回 日経Well-beingシンポジウム」で“はたらくWell-being”とキャリアオーナーシップについて議論を展開

パーソルグループは、日本経済新聞社が主催する「日本版Well-being Initiative」(※)に参画しています。その一環で、10月6日、7日の2日間にわたり、「第7回 日経Well-beingシンポジウム」が大阪・関西万博会場内で開催され、1日目のパネルディスカッション「従業員のWell-beingと企業価値向上」にパーソルホールディングス株式会社 執行役員CHROの大場 竜佳が登壇しました。本記事では、その様子の一部をご紹介します。

(※) 「日本版Well-being Initiative」は、株式会社日本経済新聞と株式会社電通が主宰し、公益財団法人Well-being for Planet Earthおよび有志の企業や有識者・団体等と連携し2021年3月に立ち上げた企業コンソーシアムです(オフィシャルサイトはこちら

<パネリスト>
佐々木 達哉氏(味の素株式会社 取締役執行役専務 コーポレート本部長)
1986年味の素入社。2011年健康ケア事業本部ニュートリションケア部長、2013年経営企画部長、2017年執行役員。2019年に常務執行役員 ラテンアメリカ本部長、ブラジル味の素社社長、2021年執行役常務 ラテンアメリカ本部長、ブラジル味の素社社長、2022年執行役専務 グローバルコーポレート本部長、コーポレートサービス本部長、2022年取締役 執行役専務 グローバルコーポレート本部長、コーポレートサービス本部長、2023年より現職。

篠田 真貴子氏(エール株式会社 取締役)
社外人材によるオンライン1on1を通じて、企業の組織改革を支援している。2020年3月のエール参画以前は、株式会社日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマ株式会社、ネスレ日本株式会社を経て、2008〜2018年株式会社ほぼ日取締役 CFO。慶應義塾大学 経済学部卒、米ペンシルバニア大学 ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大学 国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。株式会社メルカリ 社外取締役、経済産業省 人的資本経営の実現に向けた検討会委員。『LISTEN──知性豊かで創造力がある人になれる』監訳。

大場 竜佳(パーソルホールディングス株式会社 執行役員CHRO)
大手生命保険会社を経て2007年にインテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)入社。人事企画、人材開発、労務労政など各領域を担当。2016年パーソルホールディングスに異動・転籍。人事企画領域を担当しグループ横断の人事施策を立案・推進。2020年4月より人事本部長に就任、2025年4月より執行役員CHROに就任。

<モデレーター>
小林 暢子氏(日経BP総合研究所 主席研究員 チーフコンサルタント)
東京大学 文学部 心理学科卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、1991年日経BP入社。『日経情報ストラテジー』『日経コンピュータ』などのIT専門誌の編集に携わり、2013年から『日経情報ストラテジー』編集長。17年から人事室長を務め、2020年4月から現職。DXとHRの2分野で取材を長く行い、HRでは実務も経験した。パネルディスカッションのモデレーターとして多くの実績を積む。Well-Beingについても幅広く取材し、カンファレンスのモデレーターを多く務めてきた。最近の関心は、企業の社員のキャリアオーナーシップとHR分野でのAI活用。

目次

Well-beingの認知度は上がったが、実際に推進している企業はまだ少ない

氏:パーソルグループも味の素グループも、Well-beingを経営の中核に据えています。まず、大場さんにお伺いしたいのですが、パーソルグループではありたい姿に「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を掲げています。“はたらくWell-being”という価値観を広げようと考えた背景や想いについて教えていただけますか?

“はたらくWell-being”とは、はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感のことです。私たちのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実現するためには、一人ひとりの“はたらくWell-being”が満たされていることが不可欠です。そこで私たちは、自らのありたい姿を「“はたらくWell-being”創造カンパニー」と定めています。

パーソルグループの理念体系図

その一環として、私たちは世界的な調査会社であるGallup社と協業し、世界約150の国と地域を対象に、「はたらいて、笑おう。」の実現度を測定・可視化するための年次調査「はたらいて、笑おう。」グローバル調査を2020年から継続して実施しています。その中で、“はたらくWell-being”を測るための3つの設問を設けています。

1つ目は「あなたは、日々の仕事に、喜びや楽しみを感じていますか?」
2つ目は「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか?」
3つ目は「自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?」というものです。
このうち、特に1つ目の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じているか」という設問に対する日本の順位は、世界と比較して高いとは言えない状況にあります。まずはこうした現状を可視化し、どのようなはたらきかけを行えば“はたらくWell-being”が向上するのか──、さまざまな団体・企業とも協働しながら研究・活用し取り組みを推進、社会への浸透を図っています。

大場 竜佳

氏:味の素グループは2023年に「『アミノサイエンス®』で人・社会・地球のウェルビーイングに貢献する」をパーパスとして定められたと思います。このパーパスを掲げた意図や背景を教えてください。

佐々氏:味の素グループの創業の志は、「食を通じた社会への貢献」です。昆布だしに含まれるうまみ成分(グルタミン酸)を発見した池田 菊苗博士の思いに共感した鈴木 三郎助が1909年に世界ではじめてうま味調味料を製品化したことから、当社の事業は始まりました。当時から、「うま味の力で日本人の栄養を改善したい」という強い想いがあり、この「食を通じた社会への貢献」という志は、現在に至るまで脈々と受け継がれています。
この志を体現するため、私たちは「事業を通じた社会価値と経済価値の共創」、すなわちASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を軸に企業活動を展開してきました。そして2023年には、味の素グループの理念体系「OUR Philosophy」を刷新し、以下の3層構造へ整理しました。

創業の志を改めて見つめ直した上で、私たちはWell-beingという概念を掲げ、人・社会・地球に対してより良い価値を創出することを企業としての根幹に位置付けました。その実現を支える重要なドライバーとして、味の素グループの独自性である「アミノサイエンス®」を据え、社会価値と経済価値をともに創り出す取り組みを進めています。

氏:篠田さまはこれまでさまざまな企業で仕事をしてきた中で、Well-beingの推進がうまくいっている企業の共通点についてお感じになることはありますか?

氏:Well-beingという言葉は、いまや日本の大企業の経営において知らない人はいないほど広く浸透した概念になっています。しかし、その「推進」の段階に入ると、企業によって温度差があるのが正直なところです。「会社として本気で優先度高く取り組むのか?」という問いに対して、明確にイエスと言い切れる企業はまだ多くありません。パーソルグループや味の素グループのように、Well-beingを事業戦略の中核に据えて推し進めている企業はむしろ少数派です。多くの企業にとっては、「良いことだとは理解しているものの、ほかにも優先すべきテーマが多く、意思決定に迷いが生じている」——そんな状況が続いているように感じます。

篠田 真貴子氏

“はたらくWell-being”は「キャリアオーナーシップ」発揮や「人財資産」を豊かにする取り組みでかなえられる

氏:最近、企業の取り組みが企業の価値創造にどうつながっているのかを示す「価値創造ストーリー」を示す企業が増えています。パーソルグループや味の素グループは価値創造ストーリーとWell-beingというものを絡めてお考えなのでしょうか?

小林 暢子氏

パーソルグループでも、中期経営計画において価値創造ストーリーを示しており、その中で従業員エンゲージメントの向上を重要なテーマの一つとしています。具体的には、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査で使用している3つの設問を取り入れたエンゲージメント指標を、組織の状態を把握するための指標として活用しています。この指標は、パーソルの役員評価制度において主要な評価項目の一つとして設定されており、従業員のエンゲージメントを上げることを最も重要なミッションとして位置付けています。

パーソルグループの人的資本インパクトパス

佐々氏:味の素グループでは、無形資産が企業価値の向上やイノベーションに大きく貢献していると考えていて、非常に重要視しています。私たちは無形資産を4つと捉えています。
1つ目は組織資産。先ほど触れました、志、パーパス、ASVといったものがそれに該当します。2つ目は技術資産。「アミノサイエンス®」に関するさまざまな技術や知的財産のことです。3つ目は顧客資産。味の素グループでは世界中で多くのお客さまとの関係性を築いていて、お客さまとの関係性そのものが資産であると考えています。そして4つ目の最も大切な資産が「人財資産」。お客さまと技術をつなぎ、組織資産を主に形づくる非常に重要な存在だと考えています。

味の素グループが考える4つの無形資産

氏:Well-beingと価値向上についてお話しいただきありがとうございます。それでは従業員のWell-beingを向上させるために具体的に何をしているのでしょうか?

従業員の“はたらくWell-being”やエンゲージメントに、どのような要素が最も影響を与えるのかについて、パーソルグループでは経年的な分析を行ってきました。その中で明らかになってきたのは、個人が自分のキャリアに主体的に向き合う「キャリアオーナーシップ」が、大きな効果を持つという点です。
この知見を踏まえ、ここ数年は社員のキャリアオーナーシップを高めるための施策を段階的に拡充してきました。
たとえば、公募型異動制度の「キャリアチャレンジ」や、月の一定時間を使って他部署の仕事を体験できる「ジョブトライアル」など、社員が自らキャリアを考える機会や、可能性を広げる仕組みを整えてきました。さらに2023年には、募集部署が直接社員をスカウトする異動制度「キャリアスカウト」も導入しました。この制度については、他社の方々から驚きを持って受け止められることも多く、日本におけるキャリア支援のあり方に新しい選択肢を提示できたのではないかと考えています。

キャリアオーナーシップ支援施策

佐々氏:味の素グループでは、無形資産の一つである「人財資産」を豊かにする取り組みの中で、従業員一人ひとりが自分自身の志を言語化する活動を進めています。
味の素グループ全体で約3万5千人がはたらいていますが、その全員を対象にワークショップを実施することを目指し、取り組みを進めています。自分の志と会社の志に少しでも重なる部分があれば、それを軸にキャリアを築いていけば良いですし、重なりがなければ、新しい事業を提案するなどして接点をつくりにいくこともできる——。そんな考え方に基づいたワークショップを2023年から継続しています。
また、「味の素グループではたらいていると自然と健康になれる」状態を目指し、健康に関する取り組みも強化しています。2025年度までに延べ10万人の従業員へ栄養教育を実施する目標を掲げていましたが、2024年度中に前倒しして達成しました。加えて、健康診断の結果をもとに個人に合わせた改善目標を設定するなど、健康増進に向けた取り組みを多角的に展開しています。社員食堂では、栄養バランスに優れた「My Healthランチ」の提供も行っており、「このランチがあるから出社したい」という声が上がるほど好評です。

佐々木 達哉氏

氏:私自身、今のお話を聞いて強く感じたことが2つあります。
1つ目は、キャリアというと将来どの部署に行きたいか、どの役割を目指すのかといった中長期の話が中心になりがちですが、それだけではないという点です。日々の仕事の中で、自分が何を大切にしているのか、自分はどんな価値観を持ってはたらいているのかといったことを語ることが、結果として「次にどんなことに挑戦したいのか」につながっていくのだと、改めて感じました。そして、その「自分を語る機会」をどうつくるかという点について、両社がさまざまな工夫をされていることが印象的でした。
2つ目は、社員一人ひとりを「個のユニット」として丁寧に捉え、施策を講じているということです。多くの歴史ある日本企業では、新卒一括採用や年功序列型の運用が根付いてきた背景から、個を見る文化や仕組みが十分に整っていないケースが少なくありません。階層管理の枠組みで組織運営をしてきた企業が多い中、両社は歴史を持ちながらも、そのあり方を大きくつくり変えてきたのではないかと感じました。一人ひとりをきちんと見える状態にしていくというのは、単なる掛け声で実現できるものではなく、制度も文化も含めて相当大きな改革が必要です。その変革を実際に進めてこられており、非常に有意義な取り組みだと強く思いました。

氏:本日はたくさんの示唆に富む話を聞かせていただき、ありがとうございました。こちらでセッションを終了いたします。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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