エンジニアからマネージャーへ。その難しさと手応え―わたしとDEI(14)林 麻未―

パーソルグループは、すべてのはたらく人たちが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会の実現を目指し、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)を推進しています。
本連載では、生まれた場所や育った環境、年齢、性別、経験、価値観などの違いを可能性と捉え、多様なキャリアを歩む社員を紹介します。
第14回目は、パーソルクロステクノロジー株式会社の林 麻未です。

「エンジニアから、チームリーダー、アシスタントマネージャーを経て、マネージャーになる女性って、私の周りでは珍しかったんです。だから、そういう人がいたら面白いかなと思ったんですよね」

2022年4月からマネージャーを務める林は、穏やかな笑顔でそう振り返ります。所属は、パーソルクロステクノロジーの技術開発統括本部 第2機械設計本部 第4設計部です。

林は、2004年に中途でエンジニア派遣事業に特化したテンプスタッフテクノロジー株式会社(現パーソルクロステクノロジー)に入社してから長らく、エンジニアとして勤めてきました。エンジニアから管理職への転身。その戸惑いや難しさ、やりがいと新たに抱いた目標について聞きました。

目次

「製図を書きたい」からエンジニアの道へ

高校時代、伊勢神宮を訪ねたのがきっかけで、建築に興味を抱いた林。進学した短大のインテリアデザイン科でパース(建物や部屋の立体図)や平面図、間取り図などを描いているうちに、「製図」が好きになりました。

就職活動では、「図面さえ描ければいい」と、地元の愛知県豊田市にある設備設計の会社に入社。自動車工場で使うプレス機を作るための機械を設計する仕事に就きます。
「社内で話されている言葉の意味が何も分からないというところから始まりました。工業高校出身の同い年の女性社員がいたので、彼女から高校のときに使っていた教科書をもらって勉強しましたね」

はたらいているうちに、「もっと仕事の幅を広げたい」という想いが湧き、2年で退職。経験を積むため、派遣社員として半導体を冷却する機械を作る会社で5年ほど勤務しました。

自動車の内装部品を作る会社に移った後、1年ほどで結婚、出産を機に退職。専業主婦になりますが、子どもが3歳のときに離婚したため、正社員を目指して就職活動を始めます。いくつかの会社を受けて、入社を決めたのが当時のテンプスタッフテクノロジーでした。

「給与面と、図面を設計するCADの研修を受けることができたのが決め手でした」

自らチームリーダーを降りた理由

会社から派遣された常駐先は、自動車のサンバイザー(フロントガラスの上部に取り付けられている部品)を作る会社。そこで、エンジニアとして設計業務に就きました。時間に追われるシングルマザーとして意識したのは、生産性を高めることです。
「納期が設定されると、それよりも2日ほど前を自分の納期にしていました。スピードと正確性を両立させて、どうやって早く業務を終わらせるかを工夫していましたね。具体的には、とにかく現場である常駐先の工場に足を運ぶようにしていました。設計者として後工程を担う方が困るポイントはどこか、手戻りが発生しないようにするポイントはどこかを事前に押さえておけば、その分生産性は上がるので」

そのはたらきぶりが評価されたのでしょう。3年目、「エンジニアをまとめてほしい」とチームリーダー(TL)に抜擢されました。もともと人と接するのが好きだった林は、「サポート役は合っているかも」と感じたそうです。

しかし、子どもが小学生になったタイミングで、一度、自らTLを降りました。仕事に一生懸命になるあまり、子どもから「どうせお母さんは仕事ばかりでしょ」と言われてしまったのです。「子どもとの時間を大切にしよう」という判断でした。

「子育てや家庭の事情でポジションを手放したことで、次にチャンスは巡ってくるのかなという怖さはありました」

そのチャンスが訪れたのは、再婚し、二人目の子どもの産休から復帰して間もなく。復帰前と同じ会社に常駐する中で再びTLに就き、それから2年後の2016年には、「アシスタントマネージャー(AM)に」と声がかかります。

「当時のマネージャーから、『林さんだったらできると思うから』と声をかけていただきました。こんな私でもそう見てくれる方がいるんだなとうれしかったです」

林のパートナーが描いてくれた家族の似顔絵(左)と、「ありがとう」と描かれた絵(右)。「このイラストを見ると元気が出るので、スマホで写真を撮りちょっとパワーが欲しいなという時にいつも見ています」

エンジニアを辞めて目指したマネージャー

AMの役割は、チーム全体のマネジメントや、TLのサポート、マネージャーへのつなぎ役。会社側の目線を持つことを求められ、新たな役割にやりがいを感じました。仕事と家庭を両立させるために大切にしたのは、「割り切り」。平日は仕事に集中し、週末は家族の時間と決めました。

それでも当時はまだ、保育園や学校の行事などで有休を取得するときや、子どもの急な体調不良で早退する際に周囲から遠回しに苦言を呈されることがあったそうです。そういうときは、はっきりと意思を伝えました。

「何事も口にしないと伝わらないと思っているので、自己開示をした上で、分かってほしいと言いました。ただ、こちらの意思を押し付けるだけじゃなく、これからは夫に協力してもらえるように調整しますね、という形で納得してもらうように工夫しました」

AMを2年ほど務めたあと、林は一大決心をします。自らの意志でエンジニアの仕事を離れ、マネージャーのサポートを中心としたバックオフィスの業務に切り替えたのです。

「もともと、エンジニアとして仕事を極められるのか不安があったんです。当時はまだ私の周りには女性で定年までエンジニアとして勤め上げる人がいなかったこともあって、自分自身がエンジニアとしてさらにキャリアを積む想像がつきませんでした。AMを経験したということもあり、メンバーのサポートをするほうが向いているんだろうなって実感したんです」

社会人になってからずっとエンジニアとしてものづくりに携わってきた林は、しばらくの間、寂しさを感じていたそうです。その気持ちも落ち着いた2021年、マネージャーに直訴しました。

「私、マネージャーになりたいです!」

マネージャーを目指そうと思ったのは、冒頭のコメントの通り。当時、エンジニア出身の女性マネージャーが社内にいなかったため、「私にしかできないこと」と感じたのです。

元エンジニアだからこそできること

パーソルクロステクノロジーでは、マネージャーを育成するために、その手前の段階の社員に向けてさまざまな研修プログラムが用意されています。それらの研修を受けながら、昇格試験の準備も進めました。

「当時の部長がコンスタントに1on1で面接の練習をしてくれました。マネージャーとして求められること、市場感の理解などを含め準備をする時間をつくってくれたんです。自分の想い、ビジョン、今までの実績を自分の言葉で伝えないといけないので、練習ができたのは大きいですね。感謝しています」

このころ、林は実家で両親を介護しており、心身ともに余裕がない時期でした。しかし、準備のかいもあり、マネージャー昇格試験を通過。2022年4月、入社から18年目にして、技術部門の管理職に就きました。

2025年10月に開催されたイベント「ファクトリーイノベーションWeek 2025」での一枚(林は前列中央/写真上)。以前自分のチームにいたメンバーの仕事ぶりを見学。「いろいろと話を聞かせてもらい、成長を感じられて感慨深かったです」

AMと大きく異なるのは「数字を持つこと」。予算を達成するためにどうすればいいのか、自分の責任のもとで考えなくてはいけません。

限られた資源で会社の方針・目標に向かい最大の成果を出すための施策検討をしていきます。エンジニアのキャリアを支援し、成長ができる企業へのポジションチェンジを検討することや、単価交渉、新規顧客開拓もその一つです。

AMまでは基本的にエンジニアの側に立って物事を考えていた林は、視点の切り替えに苦労しました。エンジニアが経営側からの要望に対して難しいと感じる気持ちを理解できる林は、入社したばかりのころ、工場に足を運んで現場の工員と改善策を話し合ったように、エンジニアたちと向き合いました。

「こちらの要望を伝えた後、あなたはこの話を聞いてどう思った?あなたの気持ちを教えてほしいと聞いています。時間がかかると言われればそうなんですけれど、時間をかけた分、理解を示してくれるエンジニアが増えるという実感があります」

普段、林が意識しているのは、エンジニアのタイプに合わせて対応を変えること。合理的、効率的な志向が強く、簡潔なやり取りを好むタイプと、柔らかで、「ほんわか」したコミュニケーションを好むタイプに分かれるそう。それが分かる強みを活かして、話し方やメールの文面を変えていると言います。

70名のチームを率いるマネージャーの目標

入社してから15年間、自動車のサンバイザー設計業務に就いていた林は、ほかの領域の知見が少ないという弱みを自覚していました。しかしそれを克服する努力も欠かせません。

「分からないことは就業先にいるエンジニアや営業担当者に業務内容を聞きますし、お客さま先で正直に伝えることもあります。『すみません、こういう知見がないので教えてください』『よろしければ現場を見せてもらえませんか』って」

マネージャーになって1年目、慣れない業務に必死だった林は、360度評価(多面評価)の際、自分に対して低い評価を付けました。それを見た部長から受けた指摘は、今も心に留めています。

「『林は、自分はやれてないと思っているかもしれないけど、周りはそう感じていないと気付いてほしい、そういう自信がないマネージャーの下ではたらくのはどうなのかって思われてしまいますよ』と言われました。それは確かにそうだなと思って、周りが評価してくれたことは素直に受け止めるようにしました。そうしたら、もうちょっとこうした方が良いんじゃない?と言われたとき、本当にそうなんだろうなって思えるようになりましたね」

マネージャーとして4年目の現在、70名のチームを率いる林。チームは自分一人では成り立ってはいないので、自分のチームのエンジニアが顧客から評価をされたり、成長をしている姿をみたりするのはもちろん、チームを離れたエンジニアが評価されていることを耳にすると素直にうれしいですし、マネージャーとしてのやりがいを感じます。

今、林のチームで女性のエンジニアは約20名。この10月に、新たにエンジニアからマネージャーに就任した女性が誕生しました。時代は大きく変化しています。その中で、林は新たな目標に向かって歩んでいます。

「男女関係なく、エンジニアがエンジニアとしてパーソルクロステクノロジーで定年まではたらいてもらえるような環境をつくりたいです。それが幸せというエンジニアのためにも、実現したいですね」

パーソルクロステクノロジー エンジニアリング事業管掌 技術開発統括本部 第2機械設計本部 第4設計部のメンバーと(林は右側の列、前から3番目)

<プロフィール>
林 麻未(はやし あさみ)
パーソルクロステクノロジー株式会社 エンジニアリング事業管掌 技術開発統括本部 第2機械設計本部 第4設計部 5グループ マネージャー

愛知県みよし市出身。短大卒業後、地元の設備設計会社に入社しメカ設計者としての一歩を踏み出す。派遣社員などを経て2004年に中途でテンプスタッフテクノロジー(現パーソルクロステクノロジー)に入社。入社後、自動車サンバイザー設計業務を15年経験。エンジニア時代にアシスタントマネージャー、チームリーダーを経験し、2019年エンジニアからバックオフィス業務にシフト。2022年4月にマネージャー昇格。現在に至る。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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