
パーソルグループは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みを通じて一人ひとりが活躍できる組織・社会を目指しています。
今回対談したのは、パナソニック コネクト株式会社の執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデントを務める玉田 豊氏と、パーソルグループの執行役員 CGDO(Cheif Gender Diversity Officer)でありジェンダーダイバーシティ委員長の喜多 恭子です。パナソニックグループの中で、BtoB分野の機器・ソフトウェアの開発を行うパナソニック コネクトは、DEIの取り組みを経営戦略の柱の一つに据え、多様な価値観を持つ一人ひとりが活き活きとはたらける企業文化の醸成に取り組んでいます。
労働力不足が深刻化する中、テクノロジー人材の拡充が共通の課題となる両社。外国籍人材や女性技術職の活躍に向けて、どのような施策を講じているのでしょうか。2社が目指す、これからのDEIの姿についても議論を交わしました。

玉田 豊氏
パナソニック コネクト株式会社 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント
チーフ・リーガル・オフィサー(CLO) 兼 法務コンプライアンス本部 マネージングダイレクター、リスクマネジメント担当、DEI推進担当
2001年10月、西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)にて企業法務弁護士のキャリアをスタート。米国留学・豪州事務所出向を経て、2013年に丸紅株式会社に入社。2015年同米国会社でGeneral Counselとして3年間のニューヨーク駐在を経て、東京本社にて主に大型M&A・事業売却案件、大型紛争処理、米国当局対応等に従事。2022年にパナソニック コネクトに入社、現在執行役員シニア・ヴァイス・プレジデントおよびチーフ・リーガル・オフィサー(CLO)。2024年10月より当社DEI推進担当役員。

喜多 恭子
パーソルキャリア 取締役副社長 執行役員 兼 パーソルホールディングス執行役員 CGDO
パーソルグループ・ジェンダーダイバーシティ委員会 委員長
1999年、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)入社。派遣・アウトソーシング事業、人材紹介事業などを経てアルバイト求人情報サービス「an」の事業部長に。中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、2019年に執行役員・転職メディア事業部事業部長。2022年4月より人事本部長。2023年4月よりdoda事業本部長に就任。2025年4月にパーソルキャリア 取締役副社長 執行役員 兼 パーソルホールディングス執行役員 CGDO(Cheif Gender Diversity Officer)に就任。
人はそれぞれ違いがある。2人のDEIとの接点
喜多:玉田さんはDEI推進担当でありながら、チーフ・リーガル・オフィサー(CLO)として法務の担当でもいらっしゃいます。DEIとは、どういったつながりがあったのでしょうか。
玉田氏:DEIに本格的に携わるようになったのは、3年前にパナソニック コネクトに入社し、DEI推進チームに入ってからです。それまでは、大手法律事務所で弁護士を務めたり、総合商社の法務部に所属したり、私のキャリアのバックグラウンドはリーガルになります。DEIの観点でいえば、特に商社において海外M&A取引や事業売却案件、海外の当局対応などが多かったこともあり、常に多国籍の方々とやり取りする環境にいました。多様な方々と協働しなければプロジェクトは進行できませんでした。

玉田氏:また、法律事務所に勤めていたとき、1年ほどアメリカのロースクールに留学した経験があります。現地でコミュニケーションを取る中で、「自分の感覚だけが正しいわけではない」と気が付いたことも、DEIの原点だったかもしれません。喜多さんはいかがですか。
喜多:私は旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社して以来、派遣・アウトソーシング事業と多様な商材に携わってきました。2000年ごろ、関西でアウトソーシング事業を担当していた際、従業員の約8割が外国籍である外資系製薬メーカーに常駐するという経験が、DEIを考えるきっかけになりました。多国籍の従業員がはたらく現場では、「一人ひとり違う」というのが大前提。最初の打ち合わせで「まず、人とあなたは違います」と言われました。「違うということを理解した上で、どう貢献できるかを考えましょう」と。
それまで私は、社内でコミュニケーションがうまく噛み合わない場面があると、自分の語彙力や伝える力が足りないからだと思っていました。常駐先でのそのスタンスにカルチャーショックを受け、同時に「人はみんな違っていて、お互いを活かし合いながらはたらける」という安心感を得たことで、DEIの重要性を感じるようになりました。

喜多:現在、御社ではDEIの取り組みを経営戦略の柱の1つとして推進されていますよね。
玉田氏:はい。当社では、「人権の尊重」と「企業競争力の向上」という2本柱で、DEIを推進しています。2017年に、樋口が社長に就任して以降、取り組みが本格化しました。樋口は「企業競争力の高い“強い会社”になるためには、強固な風土づくりが土台になる」と語り、「カルチャー&マインド改革」がスタートしたのです。
体制としては、社長と、私を含めた3人の担当役員、CHRO(※1)、DEI推進室、そして各部門に「DEI Champ(チャンプ)」と呼ばれるDEIの推進リーダーがいるのが大きな特徴です。さらに今年度からは、HRBP(※2)部門内でもDEIを推進する担当者を明確化しました。月2回ほど、経営層とDEI推進室メンバーがディスカッションする機会を設け、よりスピード感を持って取り組める体制になっています。

喜多:素晴らしいですね。パーソルグループでは、「トップのコミットメント」「制度・環境整備」「風土構築」の3つを掲げてDEIを推進しています。当社も、2021年4月に和田が代表取締役社長 CEOに着任したことでDEIの取り組みが加速しました。同年にジェンダーダイバーシティ委員会が発足し、私は和田から委員長への就任を打診されました。和田と対話を重ねる中で、経営層の強いコミットメントの下でジェンダーダイバーシティに取り組んでいく覚悟を感じたことで委員長を引き受け、2025年4月からはCGDO(Cheif Gender Diversity Officer)を拝命しています。
数値の達成にとらわれない。現場とのフェアな環境づくり
喜多:パーソルグループはDEIにおけるKPIとして、女性管理職比率と男性育児休業等取得率の2項目を掲げています。女性管理職比率は、2030年までに37%にすることを目指しており、2024年度実績は27.6%です。1日以上の男性育児休業等取得率は、2024年度実績は84.3%でした。御社は、DEIの推進においてどのようなKPIを設定されていますか?
玉田氏:当社も女性管理職比率の向上に注力しており、2035年に30%を目標にしています。この30%という数値は、意思決定において影響を与えうる数値だという考え方から設定したものです。しかし、現状では社員に占める女性比率が17.7%と2割に満たず、女性管理職比率は8.5%と理想とはまだ乖離があります。
加えて、男性育休の取得にも力を入れており、2024年度実績では取得率が100%超、平均取得日数は48日でした。
喜多:それは本当に素晴らしいですね!
玉田氏:しかし、育休の取得が現場の負担増になってしまうという課題もあります。また、当社のビジネス領域上、テクノロジー人材をどう確保するかは喫緊の課題です。

喜多:テクノロジー人材の不足については、当社も同じように課題です。パーソルグループは経営の方向性として、「テクノロジードリブンの人材サービス企業」を掲げています。グループ各社へのデジタル化・DXに伴う積極的なIT投資をはじめ、マッチング高度化や、パーソナライズ、データ活用、開発内製化によるコア事業のサービス価値の向上などに力を入れているところです。御社のように数値目標と、現場の実務をどうつないでいくかは今後の焦点になると思います。
玉田氏:育休に限らず休暇の取得と現場での実負担・不満感をどうフェアな形で整えていけるかについては、現在議論を重ねています。また、注力するマイノリティギャップとしてジェンダー、LGBTQ+、障害、異文化理解、仕事との両立を設定し、多様な人たちに力を発揮してもらえるように取り組みを推進しています。今年度は特に外国籍、キャリア入社、ジェネレーションの3つを包括した異文化理解と、ジェンダーにフォーカスを当てていく方針を定めました。また育児、介護、治療といったライフイベントも加味した上で、公平な環境づくりを進めていきます。

喜多:なぜ、DEIの中でもジェンダーと異文化理解に特に注力しようと考えられたのでしょうか。
玉田氏:今向き合うべきは、多様な人材をどうインクルードしていくかだと強く感じているからです。テクノロジー領域の人材が限られている現状もあり、外国籍やキャリア入社の社員が増える中で、誰もが組織に参画できる環境整備は避けて通れません。今後の企業競争力を高めていく上でも、真剣に取り組むべきテーマだと考えています。
テクノロジー人材の拡充難の中で実施した、PE制度の導入
喜多:男女比率から見ると、女性の管理職登用に苦戦するとのお話がありましたが、当社もまさに同じ課題感を持っています。私たちはグループ会社に、機械・電子系やIT系のアウトソーシングの会社があるのですが、男女比で言えば約8割が男性で御社と同様です。加えて、従来の価値観やマネジメントスタイルが根強く残る側面もあり、女性の登用が進みにくい構造になっていました。そこで、国内グループ30社以上約4万人を対象にeラーニングによるリテラシー研修を実施し、DEIの考え方への理解を深めるとともに、アンコンシャスバイアスに対する気付きを促し、社内風土の醸成を図っているところです。
ほかにもテクノロジー人材を対象に「プロダクト・エンジニア制度(以下、PE制度)」を導入しています。

玉田氏:詳しく教えてください。
喜多:パーソルホールディングスとパーソルキャリアの2社で導入している、プロダクト開発に携わるテクノロジー人材を対象にした人事制度です。PE制度は、個人が持つスキルや、自らが設定した目標にどれだけ近づいたかなど、個人の成長や市場価値を意識して設計しています。テクノロジー人材は業務の特性上、半年、1年、時には数年にわたる長期プロジェクトにアサインされる機会が少なくありません。プロジェクトが長期間になるほど成果が出るまでに時間がかかり、旧来の成果中心の評価基準ではプロジェクト進行中に適正な評価を受けにくいという課題から、専用の人事制度をつくりました。評価に加えて特徴的なのは「居住地フリー」制度で、日本国内であれば居住地制限がなく、社員自身がはたらく場所を自律的に選択しています。遠方の実家の近くに住み介護と両立させたり、育児を手伝ってもらったりしている社員もいます。そして昨年、導入からちょうど1年が経ったタイミングで、パーソルホールディングスのプロダクト開発に携わるテクノロジー人材を対象にサーベイ調査を行いました。継続的な就労意向や、成長支援実感を示す項目を含む複数のエンゲージメント指標において向上がみられ、一定の成果も得られています。

喜多:また、現在パーソルキャリアの中で検証中の取り組みとして、部下の育成やメンタル面のケアを担うソフトマネジメントと、業績やプロジェクトの進行管理を担うハードマネジメントを分けて役割設計しようと試みています。従来のマネジメント職は、一人の社員に両方の役割が求められるため、その負担感から、女性や制約のあるはたらき方をしている社員がマネジメント職に手を挙げづらいという課題がありました。そこで役割を分担することで、マネジメント職への挑戦のハードルを下げ、より多様な人材がチャレンジできるようにしたのです。現在の課題としては、ソフトマネジメントとハードマネジメント、それぞれの担当者がどれだけ連携し、対話を重ねることで「人材成長の機会の促進」と「組織力の向上」という2つの軸を両立できるか、試行錯誤しているところです。
玉田氏:なるほど。ソフトマネジメントとハードマネジメントを分離するというアイデア、とても興味深いですね。着想はどのようにして生まれたのですか?
喜多:もともとは、HRBP部門とDEI推進チームの間で議論が始まり、その後、ジェンダーダイバーシティ委員会にも相談が持ちかけられました。私はジェンダーダイバーシティの委員長である一方、転職支援サービスの現場にもいたので、ちょうど外資系企業の多様な取り組み事例を知る機会があったんです。その中に、近い制度を導入している企業があり、それを参考に「まずは試してみよう」と導入に至りました。御社の取り組みはいかがですか?
玉田氏:当社も、女性社員が最大限力を発揮できるように多様な制度や取り組みを実施しています。たとえば、異業種で実施する、女性を対象とした越境研修の実施、女性技術者や女性営業のERG(社内コミュニティ)の発足、そして一人ひとりのライフステージに合わせた柔軟なはたらき方・キャリア形成を実現する仕組みも整備しました。
また、社内での取り組みに留まらず、2023年にはアデコ株式会社、株式会社ルネサンスの3社合同で女性のキャリア開発支援のための企業横断型「クロスメンタリング」を開催。「クロスメンタリング」とは、支援や助言を行う「メンター」と、それらを受ける「メンティー」がペアになり、キャリアについて考えたり、話し合ったりできる取り組みのことです。企業間や業種間の枠を超えることでメンターとメンティーともに視野を広げ、キャリアに新たな視点を得ることにつながります。2024年度は5社、2025年度は8社と徐々に参加企業も増えています。
そのほか、公益財団法人 山田進太郎D&I財団が提供する女子中高生に向けたSTEM領域(※3)の職場体験プログラム「Girls Meet STEM Career」に参画し2024年度は2回のオフィスツアー・4回のオンラインイベントを開催し、多くの学生の皆さんに参加いただきました。さらに、奈良女子大学工学部と共同で工学分野に興味関心を持つ女子学生を対象にした企業ワークショップ「女性エンジニア養成プログラム」を開催しました。
“なくなること”が、2社が目指すDEIのゴール
喜多:DEIにおける今後の目標があれば、教えてください。
玉田氏:私の最終的な展望としては、「DEI担当」という名前や、「DEI推進をしています」という状況をなくすことだと思っています。

喜多:素晴らしいですね。私も同じように考えています。
玉田氏:それを実現するために今、経営戦略の柱としてDEIを推進しています。ただ、社内だけの取り組みでは、いずれ施策に限界が生じてくる可能性もあるでしょう。さらに今後、テクノロジー人材の拡充が難しくなり、社会全体でも労働人口の減少が進めば、DEIの重要性はますます高まっていくはずです。性別だけでなく、年齢、国籍、障害の有無などにとらわれず、多様な人材にどう活躍してもらうか。DEIというテーマは非常に広く奥深く、これという明確な答えがあるわけではありません。前人未到のチャレンジだからこそ、やりがいがあるのがDEIだと私は思っています。
喜多:当社としても、ジェンダーダイバーシティ委員会や私の役割がなくなることが理想です。パーソルグループは総合人材企業のため、自社の変革を起点に、日本社会全体のDEIにも貢献していきたいと考えています。そのためには、成功例も失敗例も含めて当社の取り組みをオープンに発信し、さらにはパートナー企業やお取引先の事例も広く共有していく必要があると考えています。最終的には、誰もが自分らしくはたらける環境を社会全体に広げていきたいです。

(※1)Chief Human Resource Officer の略。人事最高責任者。
(※2)Human Resource Business Partnerの略。人事ビジネスパートナー。
(※3)Science, Technology, Engineering and Mathematicsの略。理系領域。
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。