これまでの経験と技術を結集し、「人を笑顔にするロボット」の研究をしたい ― PERSOL Group Awards2024受賞の裏に(20)中野 宏城 ―

パーソルグループでは年に1回、グループ内表彰「PERSOL Group Awards」を実施しています。「PERSOL Group Awards」とは、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を象徴するパーソル社員とその仕事の成果に贈られる、グループで最も栄誉ある賞のこと。各SBU、およびユニットに貢献し、提供価値を創出した社員を表彰しています。

本連載では、2024年度の「PERSOL Group Awards」を受賞した社員のキャリアストーリーと、受賞の舞台裏をご紹介します。
第20回目は、パーソルクロステクノロジー株式会社の中野 宏城です。

中野の専門分野は「組み込みシステム」という機械製品のデバイスを制御するシステム。キャリアを歩む中でプログラミングやAIなどの知識と技術も習得し、ロボット研究まで手がけています。中野が今回挑んだのは「病院内で薬剤や医療物資を自律搬送するロボットの研究」という出向先でのプロジェクト。それは病院が抱える課題を解決するためのプロジェクトでもありました。

目次

「未来の医療現場」へと大きく近づく、自律搬送ロボットの研究

中野がPERSOL Group Awardsを獲得したのは「病院向け自律搬送ロボットの研究」というプロジェクト。
愛知県内にある病院が、新たな病棟のオープンに合わせて施設内で薬剤や医療機器を搬送する自律搬送ロボットの採用を計画。その院内で自律的に移動して搬送を行ったり、自動で充電ステーションに帰還したりするロボットの研究に、中野が率いるパーソルクロステクノロジーのチームが貢献しました。

「看護師の仕事で特に多いのが、調剤科に薬剤を取りに行ったり医療機器を搬送したりする『物を運ぶ』仕事です。ロボットが看護師の代わりに物を運ぶことができれば、看護師がもっと患者さまと向き合う時間が増やせるのです」

中野はパーソルクロステクノロジーで大手自動車メーカーを担当しており、過去に家庭内で自律移動するロボットの研究にも関わった経験がありました。そのため、病院という特殊かつ高度な条件の多い空間での自律搬送の難しさも痛感していました。

「病棟は一般家庭とはまず規模が違います。エレベーターを使って広大なフロアを移動したり、人とすれ違ったり所定の位置で止まったりと、複雑な制御が必要になります。また、最終的には24台のロボットを同時に稼働し、連携し合うようにしています。病棟内はロボットだけでなく、当然ながら医師や看護師、患者さまやその家族が常に往来。ロボットが人にぶつかったり、人の動線を塞いでしまったりすることは、危険な事故にもつながるのです。そういった環境の中でこれだけの数のロボットを、自律的にかつ安全に稼働させるのはとてもチャレンジングでした」

たくさん壁を乗り越えた先に、大きな可能性が広がっていた

プロジェクトが立ち上がって、中野がパーソルクロステクノロジー内のチームリーダーを任されてから、完成までにかかった時間は6年。その間、試行錯誤を重ねた中野は「一つの壁を乗り越えると、その先にはまた新たな壁が立ち塞がっている。その繰り返しだった」と振り返ります。

「これまでの経験から、ロボット研究は豊富な機能パッケージとシミュレーターを使えばスムーズに進められると予測していました。実際、シミュレーターは大きく活躍してくれました。新病棟は建築中なので、現地でテスト運用はできません。図面から起こしたシミュレーターの中で、ロボットを動かし、スムーズに動いて物を運べるか、いつも止まってしまうところはどこかなど、さまざまなシチュエーションを想定してシミュレーションを行いました。そうしてうまく動けない場面を洗い出し、原因を追究して、クリアしていく。そうすると、新しく『できない動き』や『止まってしまう場所』が見つかる。またその原因を追究して改善……という繰り返しでした。その中でも苦労したのは、ロボットの充電でした」

ロボットは移動範囲に制限があり、自由に動くことはできません。病院用自律搬送ロボットは横移動ができない仕様になっているため「縦横の位置を自分でアジャストしてコンセントにプラグを差す」というようにピッタリと充電器に納まるのが困難なのです。もし充電できず、病院内でロボットが止まってしまったら、人の移動の障害になります。さらに薬剤や医療機器が届かなければ、最悪の場合には患者さまの命に関わる事故にも発展します。
中野のチームは大手自動車メーカーと連携し、多少のズレがあっても充電ができる新たな機構およびシステムを提案。充電ステーションの一定範囲内にロボットが入れば、問題なく充電できるように仕様を変更しました。

この新しい充電機構以外にも、大手自動車メーカーと中野のチームが連携し、ロボットにさまざまなセンサを搭載したり、ロボットを制御するための新たなシステムを構築したりすることで、病院用の自律搬送ロボットは完成したのです。ただ、この完成は研究者が考える「理論上の完成」。実際に動かしてみないと、理論通りに稼働できるか分かりません。ですが、病院という場所柄「トライ・アンド・エラーで良くしていこう」は通用しません。新病棟竣工後に現地で行われる最終テストをクリアしなければ実稼働は認められないのです。

「病院側から課せられていた搬送成功率は、99%。圧倒的に高いレベルでした。命を扱う場所ですから、当然です。自律搬送ロボットは、なんとかその条件を満たすことができました。無事にロボットが稼働している様子を見たときは、ホッとすると同時に達成感が押し寄せてきて、本当にうれしかったですね」

こうして新病棟のオープンと同時に無事にロボットの稼働をスタート。その後も順調にロボットの搬送範囲を拡大させ、物の搬送をロボットに担わせることにより看護師と患者さまの向き合う時間を増せたという、大きな成果につながりました。

プログラムで物を動かす楽しさから生まれた「ものづくりをしたい」という夢

「私は、大学院まで進学し、デバイス周りの制御を行う『組み込みシステム』を中心に研究してきました。たとえばテレビのリモコン。ボタンを押すと、テレビの電源が入ったりチャンネルを切り替えたりできますよね。その制御をするためのシステムやアプリの研究です。ボタンを押すとその命令を受けとって、スムーズに機械が動く。自作のプログラムが初めてうまく作動するときは、何度体験してもうれしいですよ」

そう話す中野が、最初にそのうれしさを体験したのは、高校時代でした。遊んでいたゲームのプログラムが公開され、自分でプログラムを変更して、それを世界に発信できるようになるイベントがありました。中野は技術も知識もゼロの状態でそれに挑み、四苦八苦しながらプログラムをつくりあげたのです。自分が書いたコードに合わせてキャラクターが動く。その面白さの虜になったと中野は話します。

「当時は動画配信サイト黎明期。動画が注目されるとたくさんのコメントが寄せられ、そのコメントで画面が埋め尽くされるといったこともよくあり、『プログラムの力でこの楽しさが実現できているんだな』と感心していました。そういった高校時代の体験や興味から、プログラミングをキーワードとして大学を選んだのです」

大学でプログラミングを学ぶ中で、画面上のシステムの開発だけでなく「ものづくり」にまで中野の興味は広がります。理論の中、シミュレーターの中だけで完結せず、「ものに直接触れるのが楽しかった」と中野は話します。「いつかは自分の開発したシステムで動く製品をつくりたい」と考え、それができる仕事として、組み込み開発に強い現在のパーソルクロステクノロジーの前身となる日本テクシードに就職。そこで研究のためではなく、製品を動かすためのプログラムを学ぶのです。

「プログラムの開発手法や評価方法は社会人の最初の3年間で身につけることができました。ただ、プログラムを見たり変更したりという機会はありますが、ゼロからつくるチャンスは少なかったのです。やりたかった『自分が開発したシステムで動く製品づくり』からは遠かった。夢とのギャップと焦りがつのり、4年目に異動を申請しました」

成功を糧に、挑むのはパーソルグループ初の大きなプロジェクト

中野が異動して従事したのは、大手自動車メーカーでの病院用搬送ロボット開発業務。中野にとって、やりがいを感じられる環境でした。そこでさまざまなプロジェクトを通じてデバイスの制御アプリやシミュレーターの開発などを手がけ技術を磨いてきました。そして異動後3年目に客先業務と並行して、「オリジナルロボット(※)開発」プロジェクトのリーダーを任されます。
※)オリジナルロボット:パーソルクロステクノロジー独自で、技術力の向上・アピールを目的に開発しているロボット

「オリジナルロボットの開発は中野にとって念願のプロジェクトでした。制御やプログラム、AIなど、ロボット開発に必要な知識を持った、社内のエキスパートたちに声をかけてチームを組み、開発を続けました。展示会で発表するところまでは完成させたのですが、まだまだ納得のいくレベルの製品ではなかったです。ずっと手がけたいと思っていた仕事だっただけに、悔しかったですね。」

客先での病院用搬送ロボットの開発は、多くの知見を吸収できて刺激も多い時間。一つの壁を乗り越えてはその先に待ち受ける新たな不具合と戦いながらプロジェクトを進めつつも、中野は「これが成功すればオリジナルロボット開発に弾みがつく」と考えていました。

「病院のプロジェクトが成功に終わり、たくさんのメディアで取り上げられました。集まった注目は、想像以上でした。何より医師や看護師さん、患者さんたちの、『すごい!』という声がうれしかったし誇らしかったですね。」

中野の思い描いた通り、この成功でオリジナルロボット開発にも弾みがつきました。

「パーソルクロステクノロジーは、技術力が高い人材が集まっている会社です。その人材と力を結集して自分たちの意思を込めたロボットをつくる、そのタイミングがやってきたと感じています」

ロボット市場は今後ますます拡大されると予測されています。中野のチームが生み出すパーソルクロステクノロジー独自の技術で開発されたロボットが、世の中を動かし、人の心を動かす未来ももうそこまで来ているのかもしれません。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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