IT業界に働き方改革をもたらしたSCSKと対談。DEIが加速した2社の転換点とは

パーソルグループは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みを通じて一人ひとりが活躍できる組織・社会を目指しています。

今回、「夢ある未来を、共に創る」を理念に掲げ、IT業界の中でもいち早くDEIを推進してきたSCSK株式会社の執行役員 人事分掌役員補佐・河辺 恵理氏と、パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer)を務める美濃 啓貴の対談を実施。

2社それぞれがDEIの推進をするに至ったきっかけ、そして変化のための成長痛まで、赤裸々に話をしました。

<プロフィール>
写真右:河辺 恵理氏
SCSK株式会社 執行役員 人事分掌役員補佐(DEIB・Well-being推進担当)
住商コンピューターサービス株式会社(現SCSK株式会社)入社、SE職。流通、金融等の大企業向けシステム開発、営業、プロジェクトマネージャー、ライン職を歴任。2013年4月より3年間、人事へ異動。「働きやすい、やりがいのある会社」づくりを担当。D&I、人材開発、健康経営、等のさまざまな施策を推進。2016年4月より現場へ戻り、グローバル、リソース戦略センター等を担当。2023年4月より人事へ再び異動。執行役員(現職)、Well-Beingの推進を担当。

写真左:美濃 啓貴
パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CHRO
1999年、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に入社。2013年より、同社HITO本部(人事本部) 本部長就任。人事部門の組織改革から、育成、採用、制度の改革を実現し、理念経営を推し進める。2017年、パーソルホールディングス(旧テンプホールディングス)執行役員(人事担当)就任。2020年4月より現職。

目次

「入社後10年で退職する女性社員が7割」、そこから『DEIB』はスタートした

美濃:DEIに関して、御社はどのように推進しているのでしょうか。

河辺氏:当社は、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包含性)に加え、Belonging(共に働く)を含めて「DEIB」という表現のもと推進しています。ポイントは、Belongingを一般的に言われている帰属意識とするのではなく、「ともに働く」と捉えていることです。社員一人ひとりが「働きやすさ」と「働きがい」の両方を実感した上で、価値創出を通じた社会への貢献を目指し、2021年からWell-being経営の推進をスタートしています。

美濃:パーソルグループの2030年に向けた中長期戦略方針でも、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現のために「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を目指すことを目標として掲げています。表現の仕方に違いはあれど、御社と当社は同じ方向性だと感じます。それゆえに、DEIを推進するに至ったきっかけはどういったことだったのか気になりました。

河辺氏:DEIBの最初の取り組みは、2006年に「入社後10年で退職する女性社員が7割いる」という事実が判明したことがきっかけでした。当社の大半を占める社員はIT技術者で、育成に5年以上かかります。育成した人材が入社後10年で辞めてしまうことが会社にとって大きな損失であることに気が付き、なんとか離職を食い止めようと女性がはたらき続けられる会社に向けた「女性活躍プロジェクト」がスタートしました。

河辺氏:まずは全女性社員を対象に、複数回に渡る公聴会に集まっていただき、生の声をヒアリングしました。出産にまつわる支援制度が弱いこと、育児をしながら活躍し続ける環境が必要なこと、女性社員の育成についての意識が弱いことなどが課題として上がったことを受け、仕事と家庭の両立支援策の整備を進めました。たとえば、通勤のしやすさのために会社近辺に転居するなら引っ越し手当として費用の50%負担、子育てサポートのために祖父母が転居をする場合、その費用を負担するなどです。

美濃:結果はいかがでしたか?

河辺氏:とても好影響をもたらし、2012年には入社後10年の女性の退職率は3割まで引き下がりました。これは、男性社員と同じ数値です。
当時はまだDEIBという言葉もありませんでしたが、今振り返ると「女性活躍プロジェクト」が今日に至るまでのDEIBの一歩目だったと感じます。

異なる文化、価値観を持った社員の融合を図るために

河辺氏:御社は、どういったきっかけがあったのでしょうか。

美濃:パーソルがDEIについて構想を始めたのは、2017年ごろです。大きなきっかけとしては、2016年にパーソルグループが誕生したことですね。当社は、2010年以降からM&Aを行い、国内だけでも最大50社以上の会社が集まりパーソルグループとなりました。
ちょうど2016年に、私はグループ全体の人事を任されることになり、まずは人事データを統合するなど人事ガバナンスの整備から始めました。その中で、個社ごとに異なる文化や価値観を持った社員たちがお互いを尊重し合いながら、パーソルグループとしての融合を図っていくことが大切だと考え、DEIが構想されるようになりました。なので、御社の起点である「女性活躍」という観点とは異なり、M&A後の統合プロセスの中で社員たちの一体化を図るというPMI文脈でDEI推進をスタートしました。

河辺氏:たしかに、DEIスタートの動機に違いがありますね。

美濃:2019年にDEIポリシーを策定し、個社ごとはもちろん、社員一人ひとりにも個性や強みがあり、多様性があることを理解し認め合える文化をつくろうとリテラシー教育を始めました。全社員を対象としたeラーニングによる研修や、全マネジメント層向けのDEI研修などを行い、現在はそれらの資料の一部を無償公開しています。

その後、多様なはたらき方の選択肢を増やすために、属性・価値観・能力を活かせる環境整備としてドレスコードの原則自由化、フレックスタイム制度によるはたらく時間の自由化、複業の自由化を図りました。

DEIの推進がギアアップした、2社それぞれの転換点

美濃:振り返ってみると、DEIを推進する中で大きな転換点が二つありました。一つ目は新型コロナウイルスの存在です。ドレスコードの自由化、はたらく時間の自由化、複業の自由化に加え、リモートワークや在宅勤務を推進したことではたらく場所も自由化されました。仕事と家庭の両立がしやすい環境の整備が、奇しくもコロナ禍だったことで加速したように思います。コロナ禍が落ち着いたあとでも、当社はハイブリットワークを継続していくことをポリシーとして掲げました。

美濃:二つ目は、2021年4月に和田が代表取締役社長 CEOに着任したことです。経営層を含むトップのコミットメントが強く意識され、2021年にジェンダーダイバーシティ委員会を発足しました。現在は、2030年3月期までに女性管理職比率37%、2026年3月期までに男性育休取得率を100%にすることを目標にしています。
ジェンダーダイバーシティ委員会では、4つのテーマで分科会を設置しています。経営トップ層の意識や行動を変えていく「経営から変わろう」というテーマ。そして制度や仕組みの当たり前を変えて環境を整備する「はたらく基盤の当たり前を変えよう」。職場におけるはらたきづらさ、特に労働時間に関わる風土を変えていく「さらば“○○にくい”」。そして意見交換をしやすい組織風土をさらに高める「安心して言える文化を育てよう」です。各SBU(戦略ビジネスユニット)の人事責任者がこの分科会のオーナーとなり、各テーマにおける施策の企画・実行を推進しています。

河辺氏:当社は、2013年から始めた「スマートワーク・チャレンジ」という働き方改革の推進が大きなターニングポイントでしたね。

というのも、先ほどお話した「女性活躍プロジェクト」では、いくつかの課題が残っていました。中でも大きな課題だったのは、IT業界の慢性的な長時間労働です。システムは24時間365日休むことなく稼働しているため、IT技術者も常に稼働しなければならないという実態があり、公聴会でも「この長時間労働がある限り、子育てをしながらはたらくのは難しい」との声も挙がりました。この課題を改善するために始めたのが「スマートワーク・チャレンジ」です。具体的には、月間平均残業時間20時間以下、年次有給休暇20日(100%)取得の取り組みを開始しました。

河辺氏:ただ、そういったトップの方針と現場の捉え方には乖離がありました。当時、私もSEの第一線にいたのですが、休まず稼働し続けるシステムがあるのに「どうすれば休めるのか」と。また、事業の成果に対して「がんばりたい」という意識が高いほど、残業が増えてしまい、有休が取得できなくなってしまう事実もありました。

美濃:おっしゃるように、経営層が求めることを現場に落とし込んだら齟齬が生まれてしまうのは理解できます。どのように対策したのでしょうか。

河辺氏:数値をもとにした賞与還元施策を実施しました。それぞれの組織、部署ごとに残業時間と有給休暇取得率を集計し、数値をまとめたレポートの見える化を行いました。そして「残業削減で浮いた残業代をすべて社員に賞与で還元する」と銘打ったのです。すると、他部署との比較で自部署の状況を客観視できるようになり、かつ、「賞与に関わる」と危機感を抱かせることで、働き方改革が自分事化しました。すべての部署のレポートを見られるようになっていたため、改善の余地がある部署は達成できている部署にその秘訣を聞きに行くなど、現場で自発的に学び合う姿勢も生まれました。

美濃:数値として可視化することで、どこを直したら良いのかが明確になり、改善に向かったのですね。

河辺氏:まさにです。現場のマネジメント層は普段から売上管理など数字を見ながら事業をしているため、数字で見えた方が自分事として捉えやすかったのではないかなと思います。

多様性のある会社、社会を目指すための点としての今

河辺氏:そういったことを踏まえ、2021年から推進しているWell-being経営においても、まずは意識調査を行い、数値を算出し分析したのちに現場にフィードバック、そのあとどのように変化しているのかをまた調査する、といったサイクルで進めていこうと計画しているところです。

美濃:Well-being経営においては、どのような数値を算出するのですか。

河辺氏:当社は、Well-beingをはたらき方、健康、ダイバーシティ、キャリア、組織、そしてやりがいと未来創造の7つの価値観で定義し、それぞれのバランスを取りながら、社員一人ひとりのWell-Being向上を目指しています。それら7つの価値観を25の指標にし、今年の3月にSCSK本体の全社調査を行いました。すでに結果を分析しており、「働きやすさ」「働きがい」の指標に何が寄与しているのかを見える化しています。今は、可視化された自分たちの状況を把握し、全員でWell-being向上を目指して取り組みを開始したところです。

図:SCSKにおけるWell-Beingの7つの「価値観」

河辺氏:また、SCSKはIT技術者の会社なのでもともと女性社員比率が低く、現状として組織によっては女性0人の上位役職者会議もあります。そのため、全社員の男女比率をもとに女性管理職比率の数値目標を定め、部長級比率は2025年に12%、2030年に20%、役員比率は2030年に20%とすることを目指しています。女性の課長育成・部長育成プログラムのほか、今年の4月から役員育成プログラムも導入しました。意思決定の場に、いかに多様性を持たせられるかが重要だと考えています。

美濃:パーソルグループも、御社の考えに同意します。やはり目指すべきは、「女性ならでは」といった枕詞すらなく、同様にジェンダー、LGBTQ、ハンディキャップ、人種などの属性も関係なく、一人ひとりの個性を生かして活躍できるような会社であり、社会です。とはいえ、そういう状態を目指すために今は、女性管理職比率の向上や障害者雇用など属性に着目してDEIを推進する、ある種のジレンマを抱えています。今の状況を点ではなく、長期的な目線でその先にある世界を目指して前進していけたらと思います。

実は、御社の働き方改革に関する書籍『当たり前の経営 常識を覆したSCSKのマネジメント』(ダイヤモンド社)を拝読したことがあり、お話をお伺いできることを楽しみしていたのです。裏側には、さまざまな葛藤や成長痛があったという貴重なお話をお伺いでき、とても勉強になりました。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

このページをシェアする
目次
閉じる