女性の活躍推進を担うポーラと対談。オープンな姿勢でDEIを推進する2社の目的とは

パーソルグループは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みを通じて一人ひとりが活躍できる組織・社会を目指しています。

今回、化粧品事業を通じて、創業当初から女性の社会進出に取り組まれている株式会社ポーラのコーポレート室 室長であり、ポーラ幸せ研究所メンバーの佐藤 幸子氏と、パーソルホールディングスのグループ人事本部 本部長 大場 竜佳の対談を実施。

女性管理職比率と男性育休取得率の向上に注力しているなど、DEIにおいて共通する部分がある2社で、社内に留まらず日本社会を見据えたDEIの推進について話をしました。

佐藤 幸子氏
株式会社ポーラ コーポレート室 室長 ポーラ幸せ研究所メンバー

1994年、ポーラ化粧品本舗(現:株式会社ポーラ)入社。営業、販売企画、プレステージ事業、組織開発、人事、経営企画を経て、現在はコーポレート室 室長に就任。会社の社会的価値向上に向けて、コーポレートブランディング、及び秘書長としてトップサポートを行う。

大場 竜佳
パーソルホールディングス株式会社 グループ人事本部 本部長

大手生命保険会社にて人事業務に携わった後、2007年株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。人事企画や人材開発、労務労政など各人事領域に関わる。2015年にイギリスのHR研究機関へ留学し、復職後はパーソルホールディングスに異動・出向。2020年4月にグループ人事本部の本部長に着任し、グループ全体の人事機能を管轄している。

目次

ポーラは男性創業者、パーソルテンプスタッフは女性創業者から始まった

大場:御社は、2020年に及川 美紀氏が代表取締役社長に就任されるなど、創業当初から女性の社会進出を支援し、積極的に女性の登用をされてきた印象があります。

佐藤氏:化粧品という事業上、女性が多い印象を持たれがちですが、現在の総合職の男女比はほぼ半分です。さらに、ポーラの創業者は科学者の鈴木 忍という男性です。彼が「妻の手荒れを治したい」という一心でハンドクリームをつくり、量り売りを始めたことがポーラの源流です。もっといえば、1929年の創業当時は営業担当者もほとんどが男性でした。しかし、1937年に京都出身の女性が「女やったらあきまへんやろか」と、男性の中に飛び込んできたことで初の女性営業が誕生しました。

大場:現在のパーソルテンプスタッフの創業者は篠原 欣子という女性で、女性の雇用創出のために人材派遣事業を始めたことがパーソルグループの始まりです。創業当時は女性社員のみでしたが、事業の成長に伴って、より多様な価値観や考え方を活かしていこうと男性の雇用も始めました。現在はジェンダーだけでなく国籍も年齢も、多彩な社員が在籍しています。

佐藤氏:御社は7万人を超える社員が在籍されていると思いますが、DEIはどのように進めているのでしょうか?

大場:パーソルグループは、2010年代後半からグループ横断でDEIの議論を始め、2019年にDEIポリシーを策定しました。
現在は女性管理職比率と男性育休取得率で数値目標を掲げています。2026年までに女性管理職比率は30.8%、1日以上男性育休取得率は100%を目指しています。DEI推進を始めてすぐに女性管理職比率の数値目標を設定したのですが、それだけではDEIは実現しないと男性育休取得率も数値目標を掲げました。

現在の女性管理職比率は25.6%。男性育休取得率についてはオフィシャルに目標を公表したことで活用に向けた心理的なハードルが下がったのか、徐々に取得する社員が増加し、目標達成に近づいています。現時点で、グループ全体の1日以上男性育休取得率は73.0%、1カ月以上男性育休取得率は36.2%。取得者の平均取得日数は61.2日になっています(2024年3月期)。

佐藤氏:ポーラが大切にしている項目も、御社と同じです。女性管理職比率は、創業100周年を迎える2029年までに50%を目指しています。総合職社員の男女比から見て、この数値を設定しています。

大場:パーソルグループも同様に国内グループ全社における総合職の女性従業員比率を見て、女性管理職比率の目標値を30.8%としています。

佐藤氏:ポーラは2023年の達成率でいうと31%ほどです。というのも、一度目の管理職試験が30代半ばまでにあることが多いのですが、ライフステージの変化に直面する女性社員が多く、昇進を躊躇するケースがあります。そのため女性管理職比率50%という数値は粘り強く追い求めなければなりません。

ポーラでは、ライフステージが変わってもはたらき続けられる環境づくりに力を入れています。たとえば男女ともに産休・育休が取得しやすかったり、リモートワークやフルフレックスを導入したり、時間や場所に制約なくはたらける環境を整えています。

男性育休のリアルな声、社内研修の無償公開など社外への発信を

佐藤氏:一方で男性育休取得率は2029年までに3カ月以上の取得が100%という数値目標を設定しており、ポーラも2023年時点で1日以上の取得が75%となっています。御社と同様に、男性育休取得率の方が実現の可能性が高い状況です。

大場:私も、3年前に3週間の育休を取得しました。育休を取得したことで、「育休」と言いつつも実際は「休み」ではないことを痛感しましたね。育休期間中、妻には「家事はすべて私がやるから」と主夫宣言をしましたが、想像していた以上のやるべきことの多さに驚き、3週間はあっという間でした。

佐藤氏:ポーラの男性社員からも似たような声がありました。「佐藤さん、育休は休みではなく、育『業』だよ」と。そのせいか、育休から復帰した社員はどこか雰囲気が変わり、タイムマネジメントがスムーズになり、仕事の生産性も上がったとの周囲から評判になるメンバーもいます。

大場:そうかもしれません。育休中、限られた時間の中でやるべきことをいかに効率よく終わらせるかを考えていたため、仕事にも生かされているように思います。

佐藤氏:ポーラでは、大場さんのように育休を取得した男性社員のリアルな声をまとめ、公式チャンネルで動画を配信しています。

私らしく生きるためのヒント ー男性育児休業を考えるー | ポーラ:https://www.youtube.com/watch?v=fF4oihB5Uvs

佐藤氏:この動画は社内の推進も兼ねていますが、社内外誰もが視聴できるようにしています。こうしてオープンに育休取得者の生の声を発信することで、日本社会全体が性差に関わらず、主体的に育児に向き合うことができる環境づくりにもつながってほしいと考えています。

大場:パーソルグループも御社と同様に日本社会全体のDEIを推進したいとの想いを持っています。そのため、2019年度から実施している国内グループ全社員を対象としたDEIの理解を深めるための社内研修「DEIリテラシー研修」の資料を無償公開(https://www.persol-group.co.jp/sustainability/diversity/topics/topics23/)しています。公開後には700件近いダウンロードをいただき、活用された社外の方から「勉強になった」「わかりやすい」といった明るいお言葉をいただきました。

佐藤氏:研修資料の無償公開ですか。御社の見える化は、とても勉強になります。

大場:ありがとうございます。2024年には、性的マイノリティに関する社内研修資料の無償公開(https://www.persol-group.co.jp/sustainability/diversity/topics/topics25/)も行い、現在も当社Webサイト内にてダウンロードいただけます。「はたらいて、笑おう。」を掲げている我々は、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として多様な“はたらく機会”を創出したいと思っています。社会の構造上の問題など解決できない要因もあると考えていますが、我々は、世の中が何十年、何百年かけて築き上げられてきた慣習や社会的構造の変革にチャレンジしてこそ、多様な“はたらく機会”の創出につながるのだと信じています。

創業の精神が会社の核。経営層から現場まで一体となってDEIを推し進める

佐藤氏:加えて御社は、役員報酬設計に人的資本経営へのコミットメントが組み込まれているのを拝見し、気になっておりました。

大場:ありがとうございます。パーソルグループの役員報酬は、財務指標のウェイトが60%、非財務指標のウェイトが40%であると公表しています。非財務指標の割合が半数に近いのは特徴と言えるかもしれません。女性管理職比率の目標達成も、この非財務指標のうちのSTI(※1)評価指標として含まれています。ですが、役員報酬設計はあくまでも経営層を巻き込む一施策に過ぎません。

DEIの実現には経営層を含めた一人ひとりの「DEIを実現したい」「DEIの推進が必要だ」という能動的な気持ちが重要です。売り上げや利益などの数値と同じくらい、追い求めるべき目標であると認識してもらうことが推進力につながっていくのだと思います。

佐藤氏:まさにそうですね。一人ひとりのコミットメントは欠かせません。

大場:パーソルグループでは「どのような状態がDEIの実現なのか」「それをどのようにして追い求めればいいのか」との声もあがるようになり、現場レベルでも関心が高まってきています。人事は人の心に向き合う仕事だと思っており、社員の多様な声に耳を傾けているところです。

佐藤氏:とても共感します。一人ひとりの能動的なコミットメントでいうと、ポーラは2021年、創業100周年を迎える2029年を見据えた「2029年ビジョン(https://www.pola.co.jp/special/o/wecaremore/)」として「We Care More.」というスローガンを掲げたことが大きな転機となりました。創業の精神である「Care」をより発展させ、「人をケアする」「社会をケアする」「地球をケアする」という非財務項目に指標を定めたのです。

佐藤氏:当初は「あまりにも壮大すぎる」という社内からの意見もありましたが、実際は多くの社員が「We Care More.」のスローガンと3つのアクションに共感し、主体的に「何ができるんだろう」と考えるきっかけになりました。

大場:「We Care More.」、御社の創業からの想いを感じさせるスローガンです。
パーソルグループでも、DEIを現場レベルで浸透させるためにルーツを大切にしています。篠原がテンプスタッフを創業したのは、はたらきたいと望むすべての女性が活躍できる社会にしたいという想いが始まりです。雇用を創造することで人々の成長を促し、社会貢献を目指すことがパーソルグループの核となりますからね。

その上で、リアリティも大切にしています。DEIの推進が必要不可欠であると理解してもらうために、たとえば今はどのくらい達成できているのかを数字で示すジェンダーダイバーシティレポート(https://www.persol-group.co.jp/sustainability/diversity/topics/topics24/)を制作したり、「みんなでDEIを考えるかい(みんでぃ)」というDEIを自分事に感じてもらうイベントを開催したりすることで、DEIの推進に対する納得感を得てもらえるようにしています。

日本社会全体を見据え、DEI推進のショーケースになる

大場:パーソルグループでは今後の目標として、まずは定量的に定めている女性管理職比率と男性育休取得率の達成を目指しています。そしてその先で、日本のはたらき方をより良いものに変革していくことも視野にいれています。我々がDEIの目標を達成したらOKという話ではなく、日本の「はたらく」を担う企業としてパーソルグループの取り組みをショーケースにしてもらいたい。そのような想いから、グループ人事本部では「ADVANCED HR SHOWCASE」という人事ポリシーを掲げています。パーソルグループが行ってきた施策やデータを社内に閉じるのではなく、我々にはフィットしなかった取り組みも含めて開示し、日本企業の人事の取り組みに役立ててもらえればと考えています。

佐藤氏:私たちもその考えに賛同します。育休取得者の声を集めた動画配信も然り、施策やデータを見える化して公表することで、他社とともに日本社会を前進させたいと考えています。もしかしたらポーラではうまくいかなかったことが、他社にとっては成功につながる可能性もあるはずですから。

佐藤氏:ポーラの今後の目標は、来たる2029年の創業100周年に向け、「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」というビジョンをより実現することです。私自身この言葉がとても好きで、人と社会の可能性を信じています。数値目標の達成も含め、我々もDEIの推進に対してリアルでありたい、等身大でありたいと考えています。

実は、及川が社長に就任した後、「化粧品大手初の女性社長」と取り上げていただいたことが何度かありました。及川は「女性だから社長になったわけではない」と違和感を抱いていたのですが、帝国データバンクが2023年に行った調査によると日本の女性社長の割合はわずか1割未満です。そうした背景もあり、女性のエンパワーメントにつながるのであればと、及川は積極的にメディア出演や登壇を行っています。ポーラにできることは積極的に取り組み、女性に限らず個性活躍の一端を担っていければと思っています。

大場:DEIが一企業内だけの取り組みになるのではなく、日本社会全体のムーブメントになったらいいですよね。

佐藤氏:おっしゃる通りです。DEIには正解もなければ、100点もない。ひたむきに信じて前進していきましょう。今日はありがとうございました。

(※1)Short-term Incentive の略

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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