ロボットの台頭、バイオ研究領域の業務内容にも変化が!?研究結果を学会で発表!

パーソルテンプスタッフは、2021年9月に大阪大学大学院工学研究科と協業で「パーソル高度バイオDX産業人材育成協働研究所」(以下、研究所)を開設しました。

パーソルテンプスタッフ 研究開発事業本部から研究所に出向している大阪大学大学院工学研究科 特任研究員の桑原 寿江が、共同研究員(※1)とともに行った「バイオ研究領域のラボオートメーションと仕事の高度化」と題した研究結果を「第54回 日本労務学会 全国大会」(6月29日、30日に実施)にて発表しました。
(※1)労働政策研究・研修機構 研究員 小松 恭子氏、高松大学経営学部 教授・大阪大学大学院工学研究科 特任教授 松繁 寿和氏

■研究所(パーソル高度バイオDX産業人材育成協働研究所)とは
パーソルテンプスタッフと大阪大学大学院工学研究科が、理系人材の評価育成を目的に協業で設立した、人材開発を主眼に置いた文理融合型の協働研究所。人材の職能分析とキャリアの可視化による評価法を構築し、バイオテクノロジー(※2)分野にかかわる高度人材育成の実現を目指しています。
(※2)生物の持つ能力を利用し、社会に役立つものをつくる技術のこと。遺伝子や細胞、生命活動に関わるものなどを研究し、その成果を医療や薬品、農業や畜産、食品などさまざまな分野に応用する研究・技術。

■日本労務学会とは
1970年12月5日に「労務問題」の研究とその発展のために発足。「労務問題」の研究者相互の協力と便宜の促進、他団体との連携、交流を目的として活動し、研究の発表や討論を行う大会の開催、機関誌の編集、刊行なども行っています。

本記事では、パーソルテンプスタッフの研究員 桑原 寿江に聞いた、本研究実施の背景、研究結果から見えてきたこと、展望などをご紹介します。

——学会での発表が終わりました。今のお気持ちを教えてください。

桑原:今回、人的資源に関する報告が多くある日本労務学会で、私が携わる業界に関する調査報告を共有させていただきました。専門家の先生方にも大変興味を持っていただき、有意義な時間でした。

——発表された研究の概要を教えていただけますか?

桑原:今回発表した研究の論題は「バイオ研究領域のラボオートメーションと仕事の高度化」です。ここでのバイオとはバイオテクノロジーのことを指しています。また、ラボオートメーションとは、研究室・実験室で行われる作業を自動化(オートメーション化)することです。
バイオ研究領域のラボでの研究・業務は多岐にわたっており、複数の機器を用いて実験や分析、解析などが行われていますが、近年そうした業務の一部を代行できるロボットやシステムなどの開発・導入により、ラボオートメーション化が進みつつあります。たとえば、マイクロピペットマン(※3)を使った作業の自動化もその一つです。こうしてオートメーション化が進むと、従事者に求められるスキルや技能も変わってきます。
(※3)少量の液体の計量や移動に使用される実験器具

無菌状態でピペットを使う作業が発生するような「細胞培養」を行えるロボットも台頭してきている

今回の研究では、どのような業務過程でオートメーション化が進んでいるのか、オートメーション化が進むことで業務内容にどのような変化があるのかを調査し、新たに必要となるスキルや人材の育成方向を検討しました。

——なぜこの研究をしようと思われたのですか?

桑原:バイオ研究領域の職種は高い教育レベルが求められますが、オートメーション化が進むことで、人材育成方法も新しくする必要性が出てくるかもしれないと思ったからです。これまでとは違う新しいスキルを身につけなければならなかったり、逆に不要になるスキルが発生したり。これまで高レベルな知識が必要だった業務が少しの知識でできるようになったりする可能性もあります。そうしたとき、バイオ研究領域未経験者が参入できる余地があるかどうかも知りたいと思って研究をスタートさせました。

—未経験者が参入できるということは、バイオ研究領域に新しい雇用が生まれるということでしょうか?

桑原:その可能性ももちろんありますし、今バイオ研究領域内でどんな変化が起こっているかを理解することで、バイオ研究領域で人材を必要とされているお客さまに、より最適な方をご紹介できると考えています。バイオ研究領域のはたらき方や人材スキルに関する調査は乏しいので、調査をすることはもちろん、結果を公表することは、人材サービスを扱うパーソルグループとしても意義深いものだと考えています。

目次

調査内容と結果、そして展望

——どのような調査をしたのですか?

桑原:米国では誰もが閲覧できる職業情報ネットワーク(米国O*NET)があり、ここにはさまざまな職種に就業している方にアンケートをとった調査結果が定期的に更新され、載っています。まずは、ここで多くの職業に共通して使われている仕事に関するアンケート項目(41項目)を8つのタスク(※4)に集約しました。たとえば、意思決定と問題解決、仕事を整理・計画、目標・戦略の策定といった業務に関する内容の項目は「問題解決・目標設定」、機器装置の修理・保守、資源・財源の監視と管理といった内容の項目は「技術的活動」といったように。8つのタスクは、「情報の取得」「PC・データ活用」「問題解決・目標設定」「判断・適用」「人材育成・管理」「技術的活動」「対人関係」「身体的活動」です。
そして、今回、バイオ研究領域に関連する職種で業務内容に違いのあるバイオエンジニア(※5)とバイオテクニシャン(※6)において、2006年、2010年、2017年とで8つのタスクの重要度が変わっているか、経時的変化を調査しました。
(※4)8つのタスクを構成する各項目については、労働政策研究・研修機構(2024)を参照。参考文献:労働政策研究・研修機構(2024)「タスクの日米比較からみた日本の労働市場の特徴と変化—日本版 O-NET と国勢調査(1980~2020年)『JILPT 資料シリーズ』No.280
(※5)バイオテクノロジーを用いてつくられる製品の研究や開発を行う職種。
(※6)主にバイオ研究活動において指示者の下で実務的作業を行う職種。

——結果はどうだったのですか?

桑原:バイオエンジニアの職種で変化が大きく、中でも「PC・データ活用」「問題解決・目標設定」「人材育成・管理」の重要度が高まり、「技術的活動」「対人関係」「身体的活動」が下がっていました。

——日本でも調査されたのですよね?

桑原:はい、日本国内でもバイオエンジニアを対象とした調査を行っています。バイオ専門の協会の協力を得て、202名方にアンケート調査を依頼し、6人のバイオエンジニアの方にヒアリングを行いました。
その結果、バイオエンジニアの「技術的活動」のタスク重要性で大きな違いがあることが判明しました。米国では重要性が下がっているのに対し、日本では高まっていたんです。日本のバイオエンジニアへのヒアリングでは、このタスクに該当するトラブルシューティングや機器設定に関する業務が増えているというコメントが多くありました。

また、アンケートの「自動化機器や遠隔化・自動システムの導入を支える上での課題」は何かという質問では、「バイオとデジタル技術の両方に精通した人材の不足」が回答のトップに。そして、「自動化機器や遠隔化・自動化の活用状況」については、66.7%が「必要な人材を確保できていない」と回答しています。

こうしたことから、米日ともに重要度が年々高まっている「PC・データ活用」「問題解決・目標設定」「人材育成・管理」に加え、日本では「技術的活動」に関するスキルを高めると、より活躍の場が広がると考えられます。

—米国で「技術的活動」の重要度が下がっているのはなぜなのでしょう?

桑原:今回の調査では、この違いの理由までは分かっていません。米国では、「技術的活動」を補完する新しい職種が生まれているのか、ほかに理由があるのか……。そこを知ることができれば、日本国内で新しい職種ができたり、バイオ知識を持つ人材の活躍できる場が広がったりする可能性があると思っていて、これからぜひ調査していきたいことの一つです。

——ほか印象に残った調査結果はありますか?また、今後どのようなことがバイオ業界に必要だと思われますか?展望も教えてください。

桑原:アンケートで「ラボオートメーション化における自動化・システム導入」の有無や検討状況について質問したところ、企業によってオートメーション化に差があることが分かりました。また、人材の能力開発については、ラボオートメーションに向けた教育訓練やリスキリングを実施していないという企業が少なくないことも判明。しかし、リスキリングの取り組みをしている企業においては、56%以上が社員のモチベーションアップや業務の効率化・生産性の向上など、何かしらの成果を感じていると回答していました。そして、自動化機器・システムを導入した結果としては、「人による作業時間の短縮」「研究開発のスピードアップ」といった変化を実感しているという回答が多くあり、これは自動化を検討している企業の検討理由として一番多かった「実験業務の効率化・生産性向上」につながることでした。

こうしたことから、変化の激しいバイオ業界で世界と肩を並べ、さらに活性化していくためにも、日本国内の関係企業にいるバイオエンジニアやバイオ研究開発従事者が新しい知見を身につけるための教育環境を整備して、自動化など新しいことに取り込んでもらえるようにしたい、そう思いました。

そして、そうした流れをつくるためにも、国内バイオ業界の現状を調査し、調査結果を共有することは重要だと考えます。今回の発表でも実際に「現状を把握できるこうした調査は意義深い」「具体的なスキル可視化に関する調査は興味深い」という声もいただきました。引き続きバイオ研究開領域の皆さまに役立つような調査・研究を行い、共有していきたいと考えています。
*アンケート調査に関して、詳しくはこちら:「バイオ研究開発領域におけるラボオートメーション化および人材能力開発に関する調査」

パ ーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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