「D&I AWARD 2023」受賞のLIFULLと対談。本質的なDEIを目指す2社の挑戦とは

パーソルグループは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の取り組みを通じて一人ひとりが活躍できる組織・社会を目指しています。その一環として2021年にジェンダーダイバーシティ委員会を立ち上げました。

今回、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業を認定する日本最大のアワード「D&I AWARD 2023」でD&I AWARD賞を受賞した株式会社LIFULL 執行役員 CPO(Chief People Officer)・羽田 幸広氏と、パーソルグループ・ジェンダーダイバーシティ委員長・喜多 恭子の対談を実施。

多様な人材がそれぞれの能力を活かし活躍できる環境を整えるために、2社はどのような取り組みを行っているのか、取り組みを進める上で直面したリアルな葛藤も語ってもらいました。

羽田 幸広
株式会社LIFULL 執行役員 CPO。人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。2008年からは有志社員を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年〜2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。

喜多 恭子
パーソルキャリア株式会社 執行役員、パーソルグループ・ジェンダーダイバーシティ委員会 委員長。
1999年、インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社。派遣・アウトソーシング事業、人材紹介事業などを経てアルバイト求人情報サービス「an」の事業部長に。中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、2019年に執行役員・転職メディア事業部事業部長。2022年4月より人事本部長。2023年4月よりdoda事業本部長に就任。

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「あらゆるLIFEを、FULLに。」という想いのもと、DEIを推進

喜多:早速ですが、羽田さんのCPOという肩書きは珍しいなと思ったのですが、何かこだわりがあるのでしょうか?

羽田:CPOという肩書きを日本で最初に取り入れたのは、おそらく楽天の小林 正忠氏(現在は、CWO=Chief Well-being Officer)だと思われます。それを参考に、当社では「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げており、社内外関わらず“人”にコミットする姿勢を持つという想いから、CPOとしました。

喜多:まさに、DEIへの姿勢が表れている肩書きですね。御社は、2023年に「D&I AWARD 2023」を受賞されましたが、どのような取り組みをされているのでしょうか?

羽田:LIFULLは、Diversity、Inclusionに加え、「Equity」や「Belonging(一体感・帰属意識)」なども重視しており、D&Iにさまざまな要素を取り入れるという意味で「D&I+(ディーアンドアイプラス)」と総称して取り組みを推進しています。具体的にはD&I+委員会を設置し、年2回のD&I+アンケートの実施や全社員に向けたアンコンシャス・バイアス研修などを行っています。また、社外への発信も積極的に行っているところです。

喜多:D&I+の取り組みをスタートしたのは、何かきっかけがあったのですか?

羽田:D&I+委員会は2021年に設置しました。当社では有志の社員が会社を良くするためにさまざまな活動をしてくれる文化があります。DEI関連につきましても、有志社員による子育て中の社員への支援活動やLGBTQ支援活動などが行われていました。経営陣の議論の中で、今後海外展開をさらに推進していくことを考慮すると、会社主導でDEIに取り組んでいくべきだという結論となり、委員会を設置して本腰をいれて推進を始めました。

喜多:有志社員の方々の支援活動がスタートだったのですね。ボトムアップの活動が盛んな点は、パーソルグループと共通しています。

女性活躍は数値だけ変えても意味がない。本質的なアップデートを目指す

羽田:御社は、どのような取り組みをされているのですか?

喜多:パーソルグループは大きく3つの柱を設けていて、1つ目が「トップのコミットメント」、2つ目が「制度・環境の整備」、3つ目が「風土構築」です。ボトムアップの活動に加えて、上位管理職層がトップダウンで方向性を示していくことも重要だと考えているため、DEIの取り組み柱の1つに「トップのコミットメント」を組み込んでいます。

現在は向かうべき目標として、女性管理職比率を2030年3月期までに37%、男性育休取得率を2026年3月以降100%にすることを目指しています。

羽田:現在のパーソルテンプスタッフの創業者は女性ですよね。創業当時から女性のはたらき方や女性活躍には寛容だったのではないですか?

喜多:実は、思っていた以上に伸びしろがありました。数値的には女性社員比率と女性管理職比率には乖離があり、男女の離職率にも差がありました。女性のライフステージの変化に合わせた環境づくりも、十分ではなかったと考えています。

さらに、2010年以降はM&Aを通じて国内だけでも最大50社以上の会社が集まり、2016年にパーソルグループが誕生しました。まったく異なる企業文化、価値観を持つ会社が一つになったことで、意識統一に手をつけていかなければならないと、DEIの取り組みが本格化していきましたね。まずは男女の数値に乖離があることを示し、まだまだ改善の余地があると経営陣に自己認知してもらうところから始めました。

羽田:それほど多い社数の意識統一はなかなか骨が折れそうな印象です。現時点での成果はいかがですか?

喜多:数値だけでいうと、徐々に目標に近づいてきているのかなと思います。2024年3月期で女性管理職比率は25.6%になり、男性育休取得率は73.0%になりました。男性育休取得率に関しては想像以上の上がり幅で、女性に限らず男性への支援の重要性も感じているところです。

羽田:さすがの実行力ですね。

喜多:個人的にはもっとスピード感をもって推進したいのが本音です。ただ、数値はあくまでも目標に過ぎません。それ以上に、社員一人ひとりと向き合い、希望や理想をお互いに理解しあって本質的に進めていきたいと思っています。

羽田:社員一人ひとりと向き合うために、何か取り組まれていることはありますか?

喜多:パーソルグループでは、対話量を増やすようにしています。上長との1on1の機会はもちろん、人事部が主導の対話の機会や、キャリアも年齢も異なる他者とのワークショップなど、対話の場を多く設けています。また、社員のキャリアオーナーシップを育む制度設計にも力を入れています。たとえば、公募型異動、グループ内の他部署の業務体験ができるインターンシップ、グループ内複業、ダイレクトスカウト型異動、各種キャリア研修など、自身のキャリアオーナーシップを育みながら、自分以外の多彩なキャリアを尊重していける環境づくりをしていますね。

社員一人ひとりの「LIFEをFULLにする」ために、力を存分に出しきってほしい

喜多:御社は、D&I+を進めるにあたって目標などはありますか?

羽田:年2回、全社員対象にD&I+に関するアンケートを実施しており、その中に「インクルージョンスコア」という指標を設けています。これは「あなたにとって、今の職場は誰もが持ち得る力を最大限発揮できる環境だと感じますか?」という質問に、社員は5段階で回答し、「4 まあ発揮できる環境」「5 発揮できる環境」の割合を85%以上にするのが2024年9月期の目標になっています。2024年3月末時点では83%という結果でした。

喜多:それほど高いインクルージョンスコアは、どのようにして獲得できたのでしょうか?

羽田:D&I+の観点での施策というよりは、社員が内発的動機に基づいて挑戦できる機会を提供することに注力してきたのが効いているのかもしれません。たとえば、新規事業の提案制度やキャリフルという社内副業制度などです。

経営理念を実現するためには組織の成果を最大化していく必要があり、そのために社員にどんどん挑戦してほしい。制度や機会を整えることで、社員は「会社は自分の意見を取り入れて挑戦させてくれる、力を発揮できている」と感じられる。そういう循環が生まれているように思います。

先ほど、女性だけでなく男性にとってもはたらきやすい支援を、とのお話がありましたが、性別、年齢、属性、バックボーンではなく、とにかくみんなに力を出しきってほしい。

喜多:外部の私から見ても、御社は「〇〇だからダメ」「〇〇しなきゃいけない」といった固定概念があまりないなと感じています。

羽田:ありがとうございます。とは言いつつも、インクルージョンスコアは100%を目指していますし、ほかにも課題はたくさんあると思っています。

年齢の壁を超え、何歳になってもキャリアを築ける社会へ

喜多:そういえば、御社の新しい取り組み、65歳以上のシニア層向け採用活動「老卒採用」を拝見しました。「年をとったら引退しなきゃ、なんてない。」というコピー、すごく素敵ですよね。

羽田:ありがとうございます、うれしいです。「老卒採用」は、まさに多様な人材を活用していく取り組みの一環で、今回は“年齢”に着目しています。
目的としては2つあります。1つは、長いキャリアの中で「超経験」を積んだ人材の力を当社で活かしていただきたいということ。
もう1つは、長いキャリアの中でさまざまな経験を積まれた方は、年齢に関係なく社会から求められていること、年齢に関係なく社会で活躍してもらうべきであることを弊社から発信できればと思っています。何歳になっても「LIFE」を「FULL」にしていける社会への第一歩として、こうした取り組みが広がっていけばと考えています。

喜多:私が本部長を務めているdoda事業本部でも、直近2年は50歳以上の方の登録が増加している傾向があります。セカンドキャリアを描くミドルシニア層が増えているのは、実感としてありますね。
ただ、人材を受け入れる企業側にまだまだバイアスがあることも事実です。一人ひとりではなく、「シニア」という大きなくくりで見てしまっている印象を感じます。なので、今回の御社の取り組みは企業側の姿勢としても、社会に新たな風を吹かせてくれるのではないかと期待しています。

羽田:きっと多くの人が、60代以降のキャリアについては関心が高いのではないかと思っています。弊社で50歳以上の社員を対象に実施している、60代以降のキャリアについて考える「elFULL(エルフル)」という研修プログラムでも、「年齢を重ねた先で仕事を見つけられるのか?」との不安の声が多く挙がりました。

喜多:定年後のセカンドキャリア、サードキャリアについては気になるところですよね。パーソルグループでは、自身のキャリアの棚卸しと今後のライフプランを見据えた上でキャリアカウンセリングを行う再就職支援サービスも展開しています。ミドル世代、シニア世代を含めて、何歳になっても活躍できるように、こういったサービスの認知度をもっと広げていきたいと思っています。

羽田:すでにサービスを展開されていたんですね。労働人口が減少していく中で、何歳になってもはたらける社会づくりを目指していきたいものです。

喜多:先日、事務派遣を中心に展開しているパーソルテンプスタッフの派遣社員の平均年齢が41.5歳だと聞きました。一昔前であれば、派遣社員は20代から30代前半の若手がホットな市場でしたが、今や派遣社員も年齢の壁が少しずつ取り払われているのかもしれません。

羽田:時代が変わってきていますね。DEIのゴールは、DEIという言葉そのものがなくなることなのかもしれないですよね。

喜多:おっしゃる通りです。本日は、ありがとうございました。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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