攻めの経営を目指す県内企業と都市部のビジネス人材を副業でマッチング、「とっとり副業・兼業プロジェクト」の取り組みとは

鳥取県が県内企業の経営課題解決を目指して取り組んでいる、「とっとり副業・兼業プロジェクト」。
これまでに新商品開発、販路開拓、海外展開など、県内企業が成長型企業経営に転換していくため、高度な専門性や豊富な経験を有する都市部のビジネス人材を移住就職やプロジェクト的な副業・兼業により数多く誘致してきました。

パーソルキャリア株式会社が運営する地方特化型副業マッチングプラットフォーム「Loino」は本プロジェクトと連携。副業人材を受け入れて課題を解決したいという鳥取県内企業の求人をサイト上に掲載し、自らのスキルを副業で地方貢献に活かしたい都市部ビジネス人材の募集をサポートしています。
今年度は計4回に渡る募集期間を通じ、100社100名のマッチングを目標に設定。すでに第2次募集までを終え、11月22日から第3次募集を開始します。(詳細はこちら

本プロジェクトの狙いや、実際に副業を行った感想などについて、「とっとり副業・兼業プロジェクト」の中心的な役割を担う、とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点の戦略マネジャー・松井太郎氏(写真右)と、実際に東京都内の企業ではたらく傍ら、鳥取県内の企業で副業中の杉原正規氏(写真左)に、お聞きしました。

目次

都市部のビジネス人材を副業で受入れ、地域経済の活性化を図る

――2019年度から取り組んでいる「とっとり副業・兼業プロジェクト」。これはもともと、どのような課題意識からスタートしたものでしょうか。

松井氏:県内の中小企業を「攻めの経営」に転換し、成長を促すため、都市部からビジネス人材を誘致して地域経済の活性化に結びつけようという狙いです。地方版ハローワーク「鳥取県立ハローワーク」の全県展開に伴って、鳥取県と内閣府が協調して実施する「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」を一体化し、県立ハローワークの無料職業紹介と、プロ拠点の人材スカウト機能を組み合わせた全国初のビジネス人材誘致のプラットフォームを構築しています。

当初は移住就職によるビジネス人材誘致を中心に行っていました。ところが県内企業を訪問する中で、いくつかの疑問が湧いてきました。確かに経営課題を解決したいと望む企業は多いものの、都市部から来た人材をフルタイムで雇用するほどの余裕が本当にあるのかという問題です。また、それなりのキャリアがあり、生活基盤を持っている都市部の人材が、すべての環境を手放して地方へ移住するというのは、果たして現実的なのだろうかと。

それなら、副業や兼業の形をとったほうが現実的なのではないかと考えたことが、この「とっとり副業・兼業プロジェクト」の着想に繋がっています。

――副業・兼業は県内企業とビジネス人材の双方にメリットがあるとことですね。

松井氏:そうですね。今回のプロジェクトは「鳥取県で週1副社長」というのがキャッチフレーズで、都市部のビジネス人材の方々に副業・兼業で県内企業の経営者のカウンターパートになっていただくのが狙いです。そのために、まずは鳥取県を知ってもらうキッカケとして、県内にはどのような企業があり経営者は何を求めているのか、また、副業・兼業先として、さらには将来的な移住就職の候補先として、自分自身の専門性やスキルが発揮できそうな企業があるかなど、さまざまな角度から情報発信を行っています。

【募集】とっとり副業兼業の案件特集 〜鳥取県で週1副社長〜|鳥取県×Loino×INSPIRE

――杉原さんは、東京では大手百貨店に勤務されている中、「とっとり副業・兼業プロジェクト」への応募を決めた理由は何だったのでしょうか。

杉原氏:私は21年前に現在の会社に入社して以降、社歴の大半をマーチャンダイジング部門で過ごしてきました。ここ数年は企業を取り巻く環境の変化が激しいですし、年齢的にも自分自身の今後について考える機会が増えてきて、何らかの形でキャリアの“棚卸し”ができないかと思っていたんです。

すると、ちょうど2020年4月から会社が副業を解禁し、さらに同じころに知人からこのプロジェクトを教わったことで、「これはいい機会かもしれない」と、飛び込んでみる決意を固めました。今後のキャリアを考える上で、何か良いヒントが得られるのではないかと。

副業の業務内容としては、今年1月から、キャラクターグッズの企画・開発・販売を手掛ける企業のお世話になっています。

「経験」を持ち返ってほしい

――本業もある中で、杉原さんは現在、どのようなはたらき方をされているのでしょうか。

杉原氏:本業に差し支えのないよう、プライベートの時間の範囲内でと考えて、週に1度、23時間を上限に、副業の時間にあてています。家族もいますから、無理なくはたらけるペースを考えると、これは理想的なバランスだと思います。はたらき方はほとんどテレワークですが、一度だけ、副業先の企業様からお誘いいただき、鳥取まで足を運びました。

――副業先での具体的な業務内容は?

杉原氏:本業の経験も踏まえながら、外部の視点から事業全体を俯瞰して、気づいたことについてディスカッションさせていただきながら、貢献できる役割を探っていきました。

まずは商品分析からスタートし、収益性の評価や改善方法についてアドバイスをさせていただきました。その上で、商品分析を店づくりに反映しながら、店舗環境の改善にも取り組みました。今後は商品開発についてもお役に立てればと考えています。

松井氏:このあたりはケースバイケースですが、何らかの作業(タスク)を求めているというよりも、まずは「自分の話を聞いてほしい」、「悩み相談にのってほしい」という経営者の方が多いんですよ。しがらみのない社外の人にあれこれ話を聞いてもらえる機会を、意外と皆さん欲していたのだとプロジェクトを通して気付かされました。

――なるほど。そうしたローカルでの経験が、本業に活かされることもありそうですね。

杉原氏:それはあると思います。自分では当たり前と思っていたことにも価値があることに気がつきました。また、未知の環境に身を置き、ゼロからコミュニケーションを積み重ねるプロセスは、本業でのマネジメントを振り返るのに有益でした。
もともと時間を売って金銭を得るという発想はなく、外に出て経験を獲得することが目的でしたので、非常に有意義だと感じています。

松井氏:県内企業での副業・兼業を通じて、本業では得ることのできない経験を持ち帰っていただきたいという想いもあります。杉原さんのようなケースは、企業側にとっても、個人である杉原さんご自身にとっても、理想的な関係性にあると思います。

――都市部ではたらくビジネスパーソンが、このプロジェクトをより有効に活用するために気をつけるべき点は何でしょうか。

杉原氏:実際に経験してみて思うのは、最初から経営上の課題を個別具体的に明示されている企業ばかりではないということです。ジョブ型のマッチングにとどまらない可能性を感じたという意味では「週1副社長」というフレーズはまさに絶妙だと思います。副社長というのは特定のスキルが優先される立場ではないわけですから。むしろ、新しい視点を持ち込む意識や、丁寧な対話を心掛ける姿勢こそ、大事にするべきではないでしょうか。

地方創生の新たなアプローチに

――「とっとり副業・兼業プロジェクト」に対する、県内企業の反応はいかがでしょうか。

松井氏:ありがたいことに、大変ご好評をいただいています。県内企業からすると、仮に自社の経営課題を一から洗い出して解決しようとする場合、本来であればコンサルを入れる必要がありますが、杉原さんのケースのように、限られた予算でこうして具体的な改善策に繋げられるのは大きなメリットでしょう。

また、参加企業を募るにあたっては、とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点からさまざまな県内企業にお声かけしていますが、およそ半数がこのプロジェクトの活用を前向きにご検討いただいています。

――このプロジェクトの先には、県内企業にどのような変化が期待されますか。

松井氏:鳥取県に「外部人材を受け入れる企業文化」を醸成できればいいなと考えています。こうして外部の人材の力を借りることで、自分たちがまだまだいくらでも変わることができるという気づきを得て、よりチャレンジングな経営にシフトしてもらえれば嬉しいですね。

――副業を認められている割合が高いと言われる都市部の大企業との連携も、プロジェクトの拡大には重要な点かと思います。どのように連携に取り組んでいかれますか。

松井氏:2019年から3年連続で「副業兼業サミット」を実施しています。2020年からはオンラインで開催し、今年は508名の申込に対し366名が参加しました。単に「鳥取で副業してみませんか」と呼びかけるだけのイベントにせず、求人紹介はもとより副業をやる前提で、どのようなはたらき方をするのか、それをすることで何が得られるのかを、副業を実践している大企業連携先の方々にもご登壇いただき発信しています。

こうしたオープンなイベントのほかに、都市部の大企業の人事部などを通じて副業に関心のあるビジネス人材を本県にお招きし、県内企業を訪問して経営者との意見交換などを行うスタディツアーも実施する予定です。これにより、今まで出会うことのなかった県内企業と大企業人材の結びつきが生まれ、実際にマッチングが成立する可能性もありますから、まだまだ「とっとり副業・兼業プロジェクト」はこれから活性化していくのではないかと期待しています。

――テレワークが急速に浸透していることで、副業という選択肢をとりやすい土壌に繋がっているように感じます。こうした取り組みも今後いっそう盛り上がるかもしれませんね。

杉原氏:それはあるでしょうね。私自身、こうして鳥取の企業に参加させていただけるのは、テレワークの環境があればこそです。

松井氏:そうですよね。はたらき方がより多様化し、自身のキャリアアップを考えている人たちに新しい道筋を提案できるのはこちらとしてもありがたいことです。何より、本プロジェクトを通して鳥取県を知っていただくことが重要で、これは地方創生に通じる新しいアプローチだと思います。自治体として究極の目的である移住・定住も、まずは鳥取県のファンになってもらわなければ始まりませんからね。


*「とっとり副業・兼業プロジェクト2021~鳥取県で週1副社長」第3次募集の詳細はこちら

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