兵庫県神戸市との公民連携による地域交流・地域活性、雇用創出の取り組みとして、パーソルテンプスタッフ株式会社では「神戸名谷ワークラボAOZORA/ジョブシェアセンター神戸名谷」を運営しています。
取り組みの概要
郊外在住の方や子育て・介護などの事情を抱える方の中には、都心部のオフィスまで通勤に1時間以上かかったり、勤務時間が週5日フルタイムで固定されていると、はたらきたい意思はあっても叶わないというケースが多く存在します。
そこでパーソルテンプスタッフでは、はたらきたいと願う人々に雇用の場を提供するため、子育てや介護などと両立できる「“職住近接”ではたらく」場として、全国4か所で「ジョブシェアセンター」を運営しています。
●ジョブシェアセンターとは
子育てや介護などの事情により就業時間が限られる方が、都心へ通勤することなく職住近接ではたらくことができるオフィススペースのこと。パーソルテンプスタッフが全国の自治体や民間企業から外注業務を受託し、地域の方に仕事を提供します。(現在、全国4か所で運営中)
(詳細はこちら:https://www.tempstaff.co.jp/client/itaku/jsc/)
神戸名谷においては、2018年に閉園した幼稚園の建物を活かし、地域交流施設「神戸名谷ワークラボAOZORA」および、「ジョブシェアセンター神戸名谷」を2019年12月に開所しました。
「神戸名谷ワークラボAOZORA」では、『新しいコミュニティデザインを創造する』を基本方針として、カフェ、家庭菜園、セミナー・イベントを開催するコラボレーションスペースを設置。
その中に地域の雇用の場として「ジョブシェアセンター神戸名谷」もあり、住宅地の真ん中に「はたらく場」と「集う場」の両立を実現しています。
はじまりは、2018年11月。
神戸市が公募した「閉園した幼稚園の活用事業者募集」に、パーソルテンプスタッフの犀川(さいかわ) 幸秀が手を挙げたのがきっかけでした。
開所までの軌跡
┃ 「閉園した幼稚園でできることは?」付箋に描いた未来
神戸市からの要望は、幼稚園の跡地活用を通じて、人口流出と高齢化が進む名谷地域を活性化したいというもの。アウトソーシング事業のマネジャーを務める犀川は、この課題をなんとか解決したいと考えました。
「他県で運営していたジョブシェアセンターの様子を見て、『職場が家から近ければ、もっとはたらける人がいる』ということを知りました。住宅地における事業のポテンシャルを感じていたので、もともとニュータウンとして開発され多くの住民がいるこの名谷地域でも、はたらきたい潜在層がいるのではと考えたのです」(犀川)
提案の準備を進めるにあたり、犀川は社内の仲間探しを開始。そこで、当時パーソルテンプスタッフの営業として勤務し、地域活性事業を経験したことがあった仲宗根 望(現在の同施設センター長)に打診をしました。
「ある日、犀川さんから、オフィスで『こんな話があるんやけど』と急に打診されまして……(笑)。聞いた瞬間、これは面白そうだと思いました。私はそれまで派遣事業や採用領域での経験しかなかったのですが、新しい挑戦へのわくわく感もありましたし、地域のエネルギーをつくっていく活動ということで、取り組む意義を感じました。」(仲宗根)
仲宗根は、犀川からの打診を受諾。開所プロジェクトの担当者として、提案の検討を開始します。
このとき神戸市から渡された提案書のフォーマットは、なんとA3用紙一枚の“白紙”だったそう。
通常、官公庁への提案では、記載項目が指定された数十ページに及ぶ書類を提出することが一般的です。しかしこの白紙一枚のフォーマットでは、コンセプトを端的に、そして魅力的にまとめる必要がありました。
どのようにして、自分たちの想いを伝えるべきか──。頭を悩ませた仲宗根は、プロジェクトメンバーとしてアサインした新卒1年目の後輩社員を会議室に呼び、机に付箋を並べます。
「この施設で、どんなことができたらわくわくするのか、付箋に書き出し、会議室の壁一面に貼り出しました。『夢』『人との交流』『婚活』『スキルアップ』など、いろいろな単語が出てきましたね。500~600枚ほど並んだ付箋を仕分け、そこから言葉を絞り込んでいきました。『考えた』というよりも、感性をつなげていったという方が近いと思います」(仲宗根)
そうして導き出したのが、現在の運営コンセプトでもある「新しいコミュニティデザインの創出」でした。
事業理念の言語化によって目指すべき方向性が明確になり、想いや事業プランをまとめて提案した結果、見事受注が決定。開設に向けた工事がスタートします。
┃ 地域住民とともに歩むために
「新たなコミュニティデザインの創出」の実現にあたり仲宗根たちがもっとも注力したのは、地域住民の方々とのコミュニケーションでした。
しかし、工事が進む中で、地域住民の間では「どうやら新しいことが始まるらしい」「託児施設ができる?」など、さまざまな噂が飛び交っていたそう。
「このプロジェクトは、地域の方々の理解と応援があってこそ、初めて成り立つ事業です。だからこそ、自分たちの話をするだけではなく、地域の方が何を欲しているのか、何に困っているのかを知ることが必要でした。神戸市や、地域のふれあいまちづくり協議会にもご協力いただきながら、何度も足を運び、対話を重ねていきました。」(仲宗根)
公民館で開催した住民説明会には当初の想定を大きく上回る数の住民が訪れ、地域のエネルギーと期待を感じながら、地域の人々と向き合う日々が続きました。
また、幼稚園のリノベーション工事という仕事も、犀川、仲宗根、両者にとって初の経験でした。ファシリティ整備に知見のある犀川を中心にインフラ環境や工事手配などを進めましたが、現場では、想定外の出来事の連続だったそう。
「中には、通常のオフィス整備では絶対にない『園庭の工事』などもありました。『ここは地下に水道管があるので掘り返して家庭菜園にはできない』など、考えたこともないようなことの連続で、想像以上に分からないことだらけでしたね」(犀川)
自ら長靴を履いて雑草刈りをしたり、あるときには防草シートが風で吹き飛んで周辺の学校の校庭に落ちてしまい、先生に頭を下げながら撤去作業をしたり……。想定できなかったことの一つひとつに対応しながら、準備を進めていきました。
そうして2019年12月14日、ついに「神戸名谷ワークラボAOZORA」と「ジョブシェアセンター神戸名谷」がオープン。事前に行われた開所式には、多くの住民が駆け付けました。
┃ 地域ではたらく、それぞれの理由
現在は、ここで延べ200人を超える方が就業しています。その大半は同じ区内に住む方で、お子さんを持つ母親の方も多いそう。時間や場所の制約によって就労が叶わなかった方々が、徒歩や自転車で通勤できる場所ができたことで、新たにはたらくことが可能になったのです。
そして、この場所ではたらくのには、人それぞれの理由があります。
「勤務されている方の中に、ご自身がこの幼稚園の卒園生だという女性がいらっしゃいました。
なぜ応募されたのか、その背景をお聞きしたところ
『私は、子どもを病気で亡くしています。
闘病中、長期にわたって、地域の人に支えていただきました。
結果は残念なものでしたが、このような場が名谷にあるのなら、自分がはたらくことで、今度は自分が地域に恩返ししたいと思ったんです』
とお話してくださいました。
私も子を持つ父であり、言いようのない気持ちで一緒に泣くことしかできませんでしたが、皆さんそれぞれにここではたらく理由と、地域への愛着があることを知りました。名谷ではたらけること自体がモチベーションであり、エネルギーになっている方が多くいらっしゃるので、私はそんな方々が一緒に頑張ることができる場所をつくりたいと思っています。」(仲宗根)
また、カフェや菜園には地域住民の方も訪れ、交流の場としても機能しています。昨年行われた開所1周年イベントでは、近隣住民の方やお子さんも参加し、元の幼稚園を思い出させるような、賑やかな時間が訪れました。
一枚の白紙の提案書からはじまった、未知のプロジェクト。
地域活性にもつながる取り組みにもなっていますが、仲宗根はこう話します。
「もともと、そんなに大それたことは考えていませんでした。私たちが小さなつながりをつくる中で、地域の方が『もっと良いものに』と活動してくださった。結果として、自分たちが想像した以上のものになっていると感じます。これはやってみてはじめて体感できたことですし、これからの発展を考えると、とてもわくわくしますね」(仲宗根)
最後に、二人に今後の意気込みを語ってもらいました。
「ここまでは想像していた以上の成果を出せてはいますが、まだまだやるべきことは多く、特に施設の認知度をどう上げていくかは喫緊の課題です。また、事業であるからには、気持ちだけではなく、利益も生まなければいけません。そういったテーマに、これからしっかりと向き合い続けていきたいです」(仲宗根)
「神戸市とパーソルテンプスタッフは、このほかにも「はたらき Factory KOBE 」の開設など、時間と場所にとらわれないはたらき方を広げるための取り組みを進めています。まだ道半ばですが、こういった取り組みを積極的に進めていきたいです。また、神戸市だけでなく、ほかの地域・自治体でも、新たなチャレンジができると良いですね」(犀川)
TRY!Points
・実現したい姿を、共有できる言葉にした
・未経験の仕事の一つひとつに向き合い、自ら汗を流した
・地域の方々の声を聞き、一緒になってつくりあげた