パーソルグループで障害者雇用支援事業を手掛けるパーソルチャレンジ株式会社は、ユニバーサルデザインのコンサルティングを行う株式会社ミライロとともに「企業で精神障害者の雇用を成功させるための研修“ユニバーサルワーク研修”」を開発し、2018年より提供を開始しています。
企業において障害者の受け入れ風土が整備され、精神障害者の離職率が減少し、障害のあるなしに関わらず皆が安心して能力を発揮することができる職場づくりを目指して研修を行っており、これまで団体や個人に向けに30回以上実施してきました。
●「ユニバーサルワーク研修」とは
ユニバーサルワーク研修は、パーソルチャレンジが株式会社ミライロと共同開発した、精神・発達障害者とともにはたらくための研修プログラムで、主に精神障害者の雇用についてのノウハウがない企業に向けた入門編です。
研修は90分。精神障害者の“不安”に着目したコミュニケーションのコツ、職場でのマナーに関する座学とグループワークを通じて、「自分とは違う誰かの視点に立ち、行動すること」を実践的に学ぶといった、障害者のみならず一般の社員も含めて皆がはたらきやすくなり、企業の人材価値を向上させるための向き合い方を多く取り入れています。
2018年4月からの障害者雇用率引き上げにより、企業での障害者雇用は大幅に増加しています。一方、障害者の就業定着率は低く、特に精神障害では49.3%(※1)で、定着促進が課題となっています。離職理由の第一位は「職場の雰囲気・人間関係」(※2)です。また、企業側の課題としては、精神障害者に「どう接していいか分からない」、「漠然とした不安や怖いイメージ」などネガティブなイメージを抱いていることが挙げられます。
こうした障害者雇用にめぐる課題を解決したい、――そうした想いから生まれたのが、ユニバーサルワーク研修です。
今回は、ユニバーサルワーク研修のプロジェクト発案者で、プロジェクトリーダーを務める中嶋 隆と、講師を務める自身も障害者の中津井 亨に、発案に至った経緯から、実施した際の手ごたえ、今後の意気込みまでを聞きました。
(本インタビューは、パーソルグループの“「障害のある人×はたらく」採用向けサイト『with』”に掲載した内容を再編集したものです。)
説得力があるのは“生の声” 。講師は精神・発達障害の当事者
――精神障害者に対してネガティブなイメージを抱いているケースは多いのでしょうか?
中嶋:多いと思いますね。障害者雇用義務に精神・発達障害者が加わり、採用を検討する企業が増え始めていた2017年ごろ、社員の育成・支援担当として障害者雇用に関する企業間の勉強会に度々参加していましたが、「精神・発達障害がある社員への対応が難しい」という声はよく聞きました。
中津井:多くの企業はまだまだ「障害者=難しいことやプレッシャーのかかることはできない」と認識しているように思います。私も精神・発達障害の当事者として、就活中によくそれを感じていました。
中嶋:でも、パーソルチャレンジでは約400名(2021年4月時点)の精神・発達障害者が、大きな問題もなく日々はたらくことができています。
いったい何が違うのか……。もしかしたらそれは、障害特性への理解や体制のノウハウを持っているかいないかではないか。そう考えて、障害者雇用関連の研修をいろいろ調べてみたら、具体的な事例や対応方法が聞けるものはほとんどなかったんです。これは私たちの知見が役立つかもしれない。そう思ったのが発案のきっかけです。
そして、そんなときに株式会社ミライロが実施する「ユニバーサルマナー検定※」に出会いました。ミライロさまは身体障害や高齢者などに関するカリキュラムが豊富ですが、精神・発達障害に関するものはありませんでした。そこで、「ユニバーサルマナー検定」のカリキュラムの一つとして、精神・発達障害をテーマにした研修を両社で共同開発することになりました。
――本研修は精神・発達障害の当事者が講師を務めていますが、そうした理由は?
中嶋:実は、ミライロさまの研修がまさにそうで、たとえば視覚障害のある方がパワーポイントのスライドを難なく使いこなしながら研修をします。それを最初に見たときにすごく驚いたし、説得力の高さに「これしかない」と思ったんです。それで講師役を中津井ともう一人のメンバーに打診しました。二人とも面談で「自分の障害や経験を誰かの役に立てたい」と語っていましたし。
中津井:そう考えている当事者は多いと思います。私もそう強く思っていたので、打診されてすぐに承諾しました。
でも、研修に向けた練習が本当に大変で……正直つらかった(笑)。
中嶋:かなりスパルタだったと思いますね(笑)。でも、研修は有料。質が高い研修を実施するのは当たり前なので、ここは妥協せずにしっかり練習を重ねないと、と思ってやっていました。もちろん無理と言われたらすぐにストップするつもりでしたが、二人とも本当に粘り強かったですね。そんな心配は杞憂でした。
研修は大盛況。障害者だけでなく、誰もが気持ちよくはたらくためのヒントになる
――研修での手応えはいかがですか?
中嶋:とても好評です。特にパーソルチャレンジで日常的に発生する問題や相談を例に出し、受講者に実際に対応したり考えたりしてもらう、本研修の特徴の一つであるグループワークは毎回とても盛り上がります。
中津井:初回では、話が盛り上がり過ぎて、時間内に終わらせるのが難しかったほどです。
それからもう30回ほど研修を担当してきましたが、受講された方からは「説得力があった」という言葉をよくいただきます。今では大手自動車メーカーが毎年の社内研修に採用してくださったり、市議会議員の方が「市政に活かします」と言ってくださったり、自分の障害を社会に活かせていると実感できます。
中嶋:最初のころは私も講師を務めましたが、やはり当事者が講師を行うほうが断然反応はいいですね。研修後には名刺交換待ちの列がずらりとできることもあります。
中津井:ほかにもよく受講者の方から言われるのが、「これって障害に関係ない話ですね」という言葉です。私もそう考えていて、職場でお互いが気持ち良くはたらくためには障害の有無にかかわらず配慮し合うことが必要ですし、それができればみんなが生活しやすい世の中になります。
本研修はその具体的なマナー、つまり「ちょっとした気持ちの余裕」を体感しながら学べるプログラムです。将来的には「精神・発達障害」に限定せず、より幅広く受け入れられていくことが理想的です。
障害者の夢や目標の実現につなげたい。しっかりと強みを活かした研修に!
――今後の意気込みを教えてください。
中津井:自分の経験を何かに役立てたいと思う障害者の方はたくさんいます。私は、本プロジェクトによってマイナスだと思っていた障害が、場合によっては価値になると分かり、自分に障害があることや体験したことをオープンに話せるようになりました。
同じように障害者の方が「自分だからできること」を見つけて自身の可能性の幅を広げ、夢や目標の実現につなげてほしい。その意味でも、今後は研修講師の後輩育成などに携わっていきたいと思っています。
中嶋:パーソルチャレンジの強み、本研修の価値、それは400名以上の精神・発達障害者がはたらいているという事実から得られる事例やノウハウがあること、当事者が講師として直接語ること。そして、人材・雇用分野での信頼や実績を持つパーソルグループという後ろ盾があることです。
こうした強みを引き続きしっかりと維持しながら、本研修を実施していきたいと思っています。
*「ユニバーサルワーク研修」について詳しくはこちら
※1:【出典】平成29年4月(独)高齢・障害・求職者支援機構/ハローワークの職業紹介により一般企業に就職した場合の1年後定着率
※2:【出典】平成29年9月20日厚生労働省職業安定局/障害者雇用の現状等(平成25年度障害者雇用実態調査:厚生労働省)
パーソルグループが目指す「障害のある人×はたらく」について紹介する採用向けサイト『with』では
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