新潟と東京を繋ぐ 首都圏の同郷コミュニティ「Flags Niigata」による、新たな地方創生の形

リモートワークの普及など、はたらく環境が劇的に変化する中で、「自然の中で過ごしたい」「地方ではたらきたい」という人が増えています。今年6月の内閣府の調査(※)では、東京23区に住む20代の約35%が「地方移住への希望が高まった」と回答。一般的に理想とされてきた「職住近接」というあり方が、大きく変わりつつあります。

これまで、都市に住む人が地方ではたらくには「移住」「転職」という、高いハードルがありました。しかし、もっと柔軟に地方と関わることができる、新たな選択肢がいま生まれつつあります。今回の連載では、「多拠点生活」「デュアルライフ」「地方複業」「オンラインコミュニティ」という4つのスタイルを紹介します。
(※)「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年)

第4回目で紹介するのは、「オンラインコミュニティ」。首都圏で生まれた同郷コミュニティによる地方創生の新しいスタイルです。
その中の一つ「Flags Niigata(フラッグス ニイガタ)」は、新潟県にまつわる企画や情報発信をするオンラインのコミュニティプラットフォーム。緊急事態宣言下の2020年5月1日に活動をスタートしました。新潟県出身の20~30代の若者をオンラインで繋ぎ、新潟エールチケット(新潟県内の飲食店に対する先払いが可能なチケットを発券するプロジェクト)やステイホームwith新潟(新潟の日用品や食材を簡単に購入できるECサイト)など、新潟にまつわるさまざまな企画や情報を発信しています。コミュニティを立ち上げたのは、代表の後藤 寛勝氏。新潟市出身で、現在は東京で生活をしています。オンラインコミュニティの在り方や、今後の都市と地方の関係について、お話を聞きました。


会員同士でアイデアを出し合う
新時代の同郷コミュニティが発足


――Flags Niigataを立ち上げたきっかけを教えてください。

後藤氏:新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかったです。社会人になって地方を飛び回る仕事をしていたのですが、在宅勤務が中心となり、自分のはたらき方自体も大きく変わりました。家に一人でいたとき、ふと、大好きな新潟のために何もできないいまの状況に絶望したんです。これまで散々政治のことについて偉そうなことをいってきたにも関わらず、蓋を開けたら何もできない無力感がありました。衝動的に、新潟県在住の友人や関係者に電話をして、いま困っていることやサポートしてほしいことなど聞きこみ、そこで得たニーズを参考にして、Flags Niigataについての企画書を数日で書き上げ、賛同してくれた15名で立ち上げました。

――たった数カ月でさまざまなプロジェクトを形にされていますね。

後藤氏:企画は、僕一人ではなく会員全員で生み出しています。現在550名ほど(2020年8月時点)の会員がいますが、「こんな企画をやりたい」「それなら私の会社で協力できるかも」といった自発的なやりとりが活性化して企画に繋がります。

――直近ではどのような企画やイベントを開催されましたか?

後藤氏:今年は、長岡花火大会が中止になってしまいましたが、Flags Niigataではオンライン上で長岡花火大会を開催しました。参加者が過去に撮影した長岡花火の写真や動画を、もともと予定していた開催日程に合わせて投稿することで、これまでの長岡花火大会を再現したんです。新潟が全国に誇る長岡花火大会を僕たち自身も忘れないよう、そしてまた来年、全国から多くの来場客で賑わってほしいという希望をこめて生まれた企画です。それぞれの想いとともにシェアされた過去の美しい花火の数々は、思い出の写真フォルダを覗かせてもらっているような気持ちになり、やっぱり長岡花火は新潟の資産なのだと再認識することができました。


「長岡思い出花火2020」の様子(Flags Niigata 公式twitter @FlagsNiigataより)


ふるさととの関わり方は、押し付けるものではない
気軽に立ち寄れる場所をつくりたい


――会員の皆さんはどのような動機で入会されることが多いのでしょうか。

後藤氏:「明確にこういうアプロ―チで新潟に貢献したい!」という人より、「自分にも何かできることはないか」と探り探り参加してくださる会員の方が圧倒的に多いですね。「上手に東京を離れよう、上手に新潟に近づこう」をスローガンにしているのですが、少しでも新潟に興味があると思っている人たちが、気軽に立ち寄れるような「緩やかさ」とか「なめらかさ」を大切にしたいと思っています。

――いわゆる「地方創生」に意志がある会員の方が多い訳ではないのですね。

後藤氏:若い人に対して副業の促進とか、移住とか、ワーケ―ションとか、流行りのはたらき方を押し付けてアジャストさせていくような風潮ってあると思うんですよ。でもそれを難しいと感じる若い人の方が圧倒的に多いはずです。みんな、複雑な人間関係やいろいろな制約がありながらもはたらいてると思うし、プライベートで過ごす時間もあるし、ある程度バイタリティがないと行動には移せない。はたらき方の流行を押し付けるようなコミュニティには絶対にしたくなくて、誰でも気軽に参加できるコミュニティにしたいと考えています。


「民間主導」で、地方の「都市化」を実現


――都市と地方の関係について、どのようにお考えでしょうか。

後藤氏:大前提、「地方」という言葉自体をつくらないことが重要だと思います。すべての自治体が「都市」であり、東京なら東京、新潟なら新潟で、それぞれが独自で機能できるようにならなければいけない。東京ありきの「地方」では地方創生など進みません。

――地方が「都市化」するためには何が必要ですか。

後藤氏:「民間主導」で物事を考えることです。要は一番最低限のところ、社会保障をはじめとしたセーフティネット機能を政治が担い、民間主導でもできることは、政治に任せず、民間企業や個人が完遂すべきという考え方です。そうすれば、地方が都市化・活性化するための本当に必要な予算が採択されることになります。また今後、地方が都市化するために大切な「観光」の在り方も大きく変わっていくと思います。パブリックに取得する観光情報より、友人や知人から聞いた観光情報の方がより深くて、狭くて味があると思いませんか?
Flags Niigataに所属する会員の経歴は本当に多種多様です。コミュニティを通して個人と個人との繋がりを蓄積していくことで、いずれは「観光」という観点でも、世界と新潟を繋いでいくハブになれると考えています。それぞれの地方が「民間主導」で魅力を発見、開発、発信していくことができれば、地方が主体的に都市化していき、地方という言葉自体が自然になくなっていくと思います。


Flags Niigataのオンライン飲み会(Flags Niigata Facebookページより)

――民間主導を促進させるために、Flags Niigataができることは?

後藤氏:民間主導を促すためには、個人が地域に参加しやすくするための導線をつくることが重要になります。そのときにFlags Niigataが果たすべき役割は大きく2つあると思っています。一つ目がオンラインとオフラインを横断する地域の寄り合い所になること。町内会や自治体のような既存の枠組みにとらわれないコミュニティをつくることで、誰もが気軽に地域に参加するきっかけを提供することができます。もう一つが、個人がボンヤリとやりたいと考えていることを、企画やプロジェクトとして具体化することです。我々若い人の中でも、「自分はやりたいことで溢れている!」なんて人はほとんどいないんじゃないかと思います。もしFlags Niigataをキッカケにやりたいことが見つかったら、それを実現する方法をコミュニティ全体で考える。会員が増えれば増えるほど、実現方法のパターンや活用できるリソースも増えていきます。これが個人の地域への参加を促すためのFlags Niigataなりのアプロ―チです。

――後藤さんの今後の目標は?

後藤氏:新型コロナウイルスの感染拡大は、地方出身の僕たちが「本当に東京にいる必要があるのか」を考えるキッカケを与えてくれました。「地方」という概念を一度捨て、すべての自治体を「都市」として考え直すチャンスが来たと思っています。現在、全国各地から「Flags 〇〇」をやりたいという声をたくさんいただいておりますが、それぞれの地方が民間主導で都市化を進めていくことで、日本全体がより活性化していくはずです。Flags Niigataを通して、同じ意志をもつ新潟県民が集まり、自分が生まれ育った新潟の魅力を改めて考え直すと同時に、新しい魅力をどんどん主体的につくり出していくことで、いずれは新潟を日本一魅力的な都市にしたいと考えています。

後藤 寛勝
1994年、新潟県新潟市出身。中央大学経済学部卒。18歳から若者と政治を繋げる機会と場づくりを行う活動を始める。2016年に政治教育プログラム「票育」を立ち上げ、3つの自治体で事業化。2017年4月より、日本のどこかで数日だけオープンする野外レストラン「DINING OUT」を主催する、博報堂DYメディアパートナーズグループ 株式会社ONESTORYに入社。地域資源の再編集と、価値創造に取り組んでいる。2019年10月に、東京都港区赤坂に20-30代限定の会員制スナック「3rd」を開業し、共同オーナーに(現在は休業中)。2020年5月に、新潟県出身の20-30代を繋ぐコミュニティプラットフォーム「Flags Niigata」を設立。
*共著書『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(2016年 フィルムアート社)
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