連載|平成の「はたらく」とこれから【新時代に私たちが幸せに働き続けるための3つのヒント】

激動の平成時代の働く環境や意識の変遷を振り返り、新時代を生き抜くためのヒントを、
「正社員」「アルバイト・パート」「派遣」の3つのテーマで探していきます。

今ではさまざまな業種で活躍する派遣社員ですが、平成時代の始めには専門性の高い16業務でしか行うことができなかったことをご存知でしょうか。「労働者派遣法」の誕生と度重なる改正により、派遣社員の活躍フィールドは大きく変化してきました。そして、誰もが知るあの事件と「派遣=不安定」というイメージについても考えます。

第三回は、派遣業界一筋20年以上の経験を持ち、派遣サービスにおける業務革新担当も担う、パーソルテンプスタッフ株式会社で取締役執行役員を務める正木 慎二が、派遣社員の歴史を振り返り、テクノロジーとの関わりと未来の働き方を予測します。


【主なトピック】
・規制緩和、規制強化の歴史。そして、「派遣≒貧困」という誤解
・働く場所、働く時間、働く待遇を選択し、交渉を行う「自由」
・テクノロジーの波を、恐れることなかれ


■規制緩和、規制強化の歴史。そして、「派遣≒貧困」という誤解

―― 日本の「派遣」という働き方は、1970年代に生まれたと聞いています。そこから、取り巻く状況はどのような変遷をたどったのでしょうか。

正木 ¦ テンプスタッフ株式会社(現パーソルテンプスタッフ株式会社)の設立は1973年ですが、この年は日本における「派遣」の黎明期といえるかもしれません。この前後に人材派遣会社が多く誕生し、1980年代前半にかけて業界は拡大していきます。それを受けて「労働者派遣法」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)が成立し、1986年7月に施行されました。

当時は、ソフトウェア開発、通訳・翻訳など13業務に限り解禁となり、同年10月には機械設計など3業務が追加され、16業務となりました。その後1999年には対象業務が一部禁止業務を除き原則自由化。2004年には、大幅に規制が緩和され、3つの業務(港湾、建設、医療)を除き、ほぼすべての業務で派遣を行うことができるようになりました。

しかし、リーマンショック以降「派遣切り」や一部の業者による違法行為発覚が問題視され、規制強化に転じていきます。2012年には、日雇い派遣(30日未満)の原則禁止などが制定されました。

―― 施行当時の対象業務を見ると、かなり高度なスキルを持った方に限定されていたのですね。

正木 ¦ 当時は「派遣=超専門職」と見られていました。ターニングポイントとなったのは、1995年の「Windows95」発売です。そこから「Microsoft Office」が企業に普及し、そしてデファクトスタンダード(※1)となり、多くの方がパソコンを扱えるようになりました。さらに90年代はデフレが進行したことから、一般事務職を正社員から派遣社員にするという企業が増加してきました。テクノロジーの発展と普及、そしてデフレ経済が、派遣社員の働き方を変えていったのです。

―― 多くの業務で派遣社員は活躍していますが、全体の労働者に占める派遣社員の割合は意外と少ないですよね。

正木 ¦ 日本の雇用者(役員を除く)は、5,600万人です。その中で無期雇用の人は3,500万人、有期雇用は2,150万人、派遣社員は139万人です。つまり、全雇用者の約2%です。有期雇用と言われる労働者の中では、パート(1,030万人)、アルバイト(485万人)、契約社員(289万人)に次ぐ4番目の数ですね。

―― 「派遣」という言葉で想起されるのが、2008年の年末から2009年の年明けに日比谷公園に開設された「年越し派遣村」です。連日メディアでも報道され、日本社会に大きなインパクトを与えました。ここで決定的に「派遣」という働き方に、「不安定≒貧困」というネガティブなイメージが植え付けられてしまったような気がします。この「年越し派遣村」について、ご意見お聞かせください。

正木 ¦ 当時のことは、とても印象に残っています。仕事も住む家も食べ物もなく、公園で年を越さなければならない状況にある方が多くいらっしゃったことに、心が痛みました。ワーキングプアや若年貧困層といった社会課題が浮き彫りになった出来事だと思います。

しかし、「派遣村」というネーミングに対しては、強い違和感を覚えます。リーマンショック以降の不況の中で、仕事を失い貧困に陥った方は、派遣として働いていた方々だけではありません。先ほど申し上げたように、派遣社員は全雇用者の2%の「少数派」です。日比谷公園で年越しをした方々も、派遣社員に限らずさまざまな働き方をされていたはずです。それが、「派遣村」という限定的なネーミングによって、まるで派遣という働き方が貧困を招くかのような印象を植え付けられてしまいました。
少し古いものですが、データを基に比較してみましょう。厚生労働省の調査による「雇用形態別時給比較」では、正社員は1,912円、派遣社員は1,351円、契約社員等は1,198円、パートは1,026円です。非正規雇用といわれる雇用形態の中でも、派遣社員の賃金は高いということがお分かりいただけると思います。

あのとき、多くの方が日比谷公園に集まりました。その事実から取り上げるべき課題は「派遣社員」という1つの雇用形態の是非ではなく、労働者全体の格差だったはずです。我々は、課題の本質に目を向け、これからも格差の是正や待遇の改善に取り組んでいきます。

■働く場所、時間、待遇を選択し、交渉を行う「自由」

―― 次に、派遣社員としての働き方について伺っていきたいと思います。まず、派遣社員として働くのはどんな方々なのでしょうか。

正木 ¦ 20年ほど前は女性が9割を占めていました。それが規制緩和により製造派遣が解禁となり、男性も増えてきました。現在は女性:男性=7:3となっています。平均年齢は41歳(パーソルテンプスタッフ調べ)です。
家事や育児と両立して働きたいという方々が、時間をコントロールしやすく時給が高いといった理由で、派遣という働き方を選択するケースも増えています。特に最近は有効求人倍率1.63倍と高く、失業率2.5%で低い状態のため、労働者は自ら望む仕事を選ぶことができます。そこで、週5日6時間勤務など、労働者有利の条件設定がしやすい状況です。

―― 「正社員とほとんど同じ仕事に従事する非正規労働者」の増加など、昨今注目を集めている労働問題もあります。正木さんが考える解決方法はどのようなものでしょうか。

正木 ¦ 働き方や環境に「不本意」を感じる状況は、正規・非正規を問わず起こり得ることだと思います。ただ、派遣社員の方々がほかと違うのは、我々のような派遣元企業がエージェントとしてついていること。もし派遣先で仕事内容や人間関係、待遇などに不満なことがあれば、エージェントを通して交渉ができます。誰もが、自分の意思で働く場所、働く時間、働く待遇を選択し、交渉を行う「自由」があるのです。

一方で、派遣元の営業は、派遣社員と企業の間に立ち、調整や交渉を正しく行っていく「真のエージェント」としての姿が求められます。それができない派遣元企業は、今後の競争の中で淘汰されていくでしょう。

―― 労働諸問題について、ほかに正木さんが気になっているトピックはありますか。

正木 ¦ 「同一労働同一賃金」が、2020年4月に適用開始されます。このことが、問題を解決していくのではないでしょうか。福利厚生に関しては、同じ仕事をしているのであれば、正社員も契約社員も派遣社員も、同等でなければならないと定められています。もし違いがある場合は、企業が合理的な理由を提示しなければなりません。たとえば住宅手当の場合、転居を伴う転勤のある正社員と転勤のない契約社員の場合は、明確な条件の違いがあるため正社員にのみ適用できます。しかし、双方に転勤がなくほかに仕事内容も同等の場合は、雇用形態によって差をつけてはならないということです。今後は、無期雇用との理不尽な待遇の差を感じることは少なくなっていくでしょう。


■テクノロジーの波を、恐れることなかれ

―― 「令和」の時代にニーズが高まりそうな業種や、反対に少なくなっていきそうな仕事を教えてください。

正木 ¦ RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)により、定型業務がどんどん自動化されていきます。そのため、データ入力業務は完全に機械に取って代わっていくでしょう。一方で、そのRPAを使って仕事をするRPA事務の仕事は、今後ニーズが高くなる見込みです。もちろん、ゼロからの開発だけではなく、改修が必要なときに手を加えるなど、ロボットと共生して働いていくイメージですね。当社でも研修を実施していますが、非常に人気の高い仕事です。

―― RPAによる業務自動化の話題が出ましたが、今後テクノロジーの発展により、人間が担っている業務を奪われてしまうのでは…、と不安を感じる派遣社員の方もいらっしゃると思います。正木さんはどう考えていますか。

正木 ¦ 一言、恐れることはない、と言いたいですね。テクノロジーの発展というのは今に始まったことではなく、昔から繰り返されていることです。振り返ってみれば、「労働者派遣法」が施行された1986年は、パソコン操作は非常に専門性の高いスキルでした。しかし1995年以降は「Microsoft Office」がデファクトスタンダードになり、誰もがパソコンを使って仕事をするようになりました。RPAも今は操れる方は多くありませんが、近い将来当たり前の存在となり、ちょっとした改修は誰もができるようになるでしょう。新しい技術が出てきて、最先端の技術を持つ方が受け入れて使いこなし、世の中に普及させていく。その繰り返しで世の中は発展してきました。そして私は、派遣社員の方々こそが、そういった最先端の技術を身に付け普及させる役割を果たしているのだと思います。

―― 派遣社員の方々が、新しいスキルを率先して身に付け、定着させてきた歴史。それはこれからも繰り返していくのでしょうね。

正木:自身のスキルを武器に、定期的に職場や環境を変えることができる派遣という働き方だからこそ、派遣社員の方々には、新しいことにチャレンジしようという意欲や、常に自分のスキルをアップデートしていこうという意識が強い方が多いと思います。

無期社員の10人に1人は副業をしている時代(※2)です。ライフステージによって自分らしい働き方を選べる時代はすぐそこに来ていると思います。宣伝に聞こえてしまうかもしれませんが、派遣という働き方は、同じ会社で一つの仕事やスキルを磨くのではなく、さまざまなスキルや経験という武器を身に付けられる、これからの時代に適した働き方だと思っています。

2020年の「同一労働同一賃金」施行により、時給も待遇も向上していくはずです。先ほどお話しした通り、派遣社員の方々には、我々エージェントがついています。ですから、派遣社員の方々はもっとエージェントを活用していただきたいと思っています。

―― ありがとうございました。

正社員領域の働き方はこちらからご覧いただけます。
アルバイトの働き方はこちらからご覧いただけます。

※1:結果として事実上標準化した基準のこと。
※2:「副業の実態・意識調査」(2018年)パーソル総合研究所


【プロフィール】
正木 慎二/パーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員

1997年大学卒業後、テンプスタッフ株式会社(現:パーソルテンプスタッフ株式会社)に営業として入社。
新宿オフィスマネージャー、バイオメディカル事業本部長、東日本第一営業本部長などを経て、2016年より現職。
派遣社員が働きやすい仕組みやサービスなど派遣サービスにおける業務革新を担当。

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