パーソルグループは、はたらき方やはたらく価値観が多様化するいま、あらゆるはたらく個人がより幸せに生き、自分らしくはたらくための一歩を踏み出すきっかけづくりを目的として、どなたでも気軽に参加できるオンラインセミナー「今、ニッポンのはたらくを考える会議」を定期開催しています。
3月1日に行われた回のテーマは「はたらく人々のWell-being」。近年、話題になっているこのテーマですが、企業ではたらく人にとって、本当の意味でのWell-beingを実現するために大切なことは何なのでしょうか。
リンクトイン・ジャパン株式会社の代表である村上 臣氏を迎え、パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CHROの美濃 啓貴とともに、その本質を紐解いていきます。
<登壇者紹介>
村上 臣 氏/リンクトイン・ジャパン株式会社 日本代表
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社入社。2011年に一度退職した後、再び2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月に7 億2200万人が利用するビジネス特化型ネットワークのリンクトイン(LinkedIn)日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。
美濃 啓貴/パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CHRO
1976年、東京都出身。1999年、中央大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。2013年より、同社 HITO本部 本部長就任。人事部門の組織改革から、育成、採用、制度の改革を実現し、理念経営を推し進める。2017年、テンプホールディングス(現パーソルホールディングス)執行役員(人事担当)就任。2020年4月より現職。
なぜ今、Well-beingが重要なのか?
村上氏:はたらく人々にとって、なぜWell-beingが重要なのかというと、これはひとえにモチベーションに通じているからです。高いモチベーションを保つ人材ほどハイパフォーマーであることは、すでに数々の研究で実証されていますからね。ただ、パーソルさんが掲げる「はたらいて、笑おう。」を実現している人が実際にどのくらい存在するかというと、残念ながら日本にはまだまだ少ないのが実情だと思います。
美濃:そうですね。パーソルでもいままさに、「はたらいて、笑おう。」の実現度をいかに測るのかが、経営課題の一つになっています。そこで今年から、世界最大の調査会社である米Gallup社の協力を得て、世界118カ国・約12万人を対象に、どのくらいの人がはたらいて笑っているか、調査を始めているんですよ。
村上氏:なるほど。それにしてもなぜいま、これほどWell-beingやはたらいて笑うことが重視されるようになったのでしょうね。
美濃:雰囲気としては、1990年代に環境問題への関心が急速に高まったころと、非常によく似ていると感じています。当時は92年に地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)が開かれ、97年に京都議定書が採択され、環境対策が一気に社会的なアジェンダとなりました。それと同様にここ数年、はたらく人々の健康が重要視されるようになり、たとえば平均寿命と健康寿命の差分が問題視されたり、70歳まではたらかなければ社会システムが維持できないとの指摘があったりしました。人材ビジネスに携わる側からすると、やはりこれは看過できない問題です。
村上氏:リンクトインでも、たとえばマインドフルネスのプログラムを用意したり、人材同士の交流を図るためのイベントが企画されたり、グローバルでさまざまな施策を準備していますが、直近でいえばコロナの影響も大きいのでしょうね。かれこれ1年以上、弊社も全員が在宅で仕事をしていますが、どうしても運動不足になりますし、精神的にも不安が生じますから、会社としていかに支援すべきか議論する機会が増えています。
美濃:パーソルでも、社員のストレスチェックの結果は、だいぶ改善されているのですが、それでも運動不足による不眠や、仕事面以外での不安が影響しているのか、メンタル面での不安を抱える割合は増加傾向にあります。企業としては、これを個人の問題と割り切るのは難しくなってきていると感じます。
村上氏:ZoomやTeamsなどを使ったオンラインでの打ち合わせが定着したことで、在宅ワークでも他人と話すことはできますが、雑談が減っているのは大きな弊害でしょう。おそらく、上司やマネジャーにわざわざコンタクトを取るほどではないけど聞いてほしい悩みを抱えている人というのは、大勢いるはずです。
そこで弊社では、ノーアジェンダでなんでも話していいミーティングの機会というのを、定期的に設けるようにしているんです。ささやかな取り組みかもしれませんが、それまで仲間と毎日リアルで対面していた機会がまるごと失われてしまったことを踏まえれば、会社側はそれを意識して補う工夫をしなければならないと思います。これは私自身、この1年間の重要な学びでした。
美濃:おっしゃる通りだと思います。ただ、パーソルでも各部署がそれぞれオンラインでの雑談に取り組んではいるのですが、一体どういうやり方がベストなのか、なかなか正解が見つけられずにいます……。
村上氏:大切なのは接点を増やすことでしょうね。在宅ワークを続けていると、直接の上司やマネジャーなど、明確な用件のある人としか話す機会がありません。でも、オフィスに出勤していると、たまたますれ違った人と「最近どう?」と言葉を交わす機会が自然にあるわけです。つまり上下左右だけでなく、斜めの接点をいかに用意してあげるかがポイントではないでしょうか。
美濃:実際、飲み会などがオンラインになったことで、小さなお子さんのいる女性社員が参加しやすくなったというメリットもありますからね。そうした接点をつくるために、まだまだ工夫できることは多いでしょう。
村上氏:そうなんですよ。エンジニアなどもそうですが、これまでどうしても時間帯が合わなかった人たちとコミュニケーションが取りやすくなった面は間違いなくあると思います。これを利用しない手はないでしょう。
Well-beingのために必要なことは?
美濃:場づくりについては、パーソルでもリアルの場を含めていろいろな施策を用意しているんです。たとえば希望者を募って地方へ行き、農家さんをお手伝いしたり、ローカルの方たちと対話をしたりしながら、自らのはたらき方を内省するような取り組みとか。オンラインでもこうした取り組みを体系的に実現できるといいですよね。
村上氏:面白いですね。そうして他人との接点を持つ一方で、一人で集中したいタイミングもあるわけで、要はいかにメリハリのある環境を用意できるか、ということなのでしょう。
美濃:たしかに、そのあたりのバランスはちゃんと考えなればなりませんね。僕や村上さんはおそらく、1人で完結する仕事はほとんどないと思うのですが、エンジニアの方などはずっと1人で作業をしています。それが在宅になったことでより孤独になってしまっているという話は、パーソル社内でもよく耳にします。リンクトインさんはエンジニアも多いでしょうし、なおさらなのでは?
村上氏:うちの場合、開発はアメリカ本国やインドでやっているので、実は日本にはエンジニアはいないんです。そのアメリカでも、そもそもリモート前提で環境設定がされていることもあって、在宅ワークへのシフトはわりとスムーズだったと聞いています。ただ、向こうのオフィスは大学のキャンパスくらい大きくて、カフェテリアのようなスペースで雑談しながらアイデアを育むようなことがベースにあったので、その点ではやはり相当苦労しているようです。
美濃:なるほど。そのあたりの事情は日本と同じですね。
村上氏:ただ、リモートが悪いことばかりということではなくて、とくに日本人にとってはいいことも多いと思うんですよ。たとえば従来の日本社会では「まず会いましょう」という儀礼的な文化が色濃く根付いていましたが、これができなくなったのは生産性や効率の点ではプラスでしょう。
また、個人的にはイベントやセミナーがやりやすくなったことも大きいと感じています。オンラインセミナーをやれば普通に100人くらいの方がアクセスしてくれますが、リアルの会場に100人を動員しようと思ったら、準備も運営も大変ですしね。
美濃:同感です。何より、立場や環境に関わらずはたらけるようになったことは、間違いなくメリットですから。
村上氏:ちなみにパーソルさんでは、Well-beingを保つために何か特別な取り組みは行なわれているんですか?
美濃:これまでは国内におよそ40あるグループ会社が、それぞれ個別にストレスチェックを実施していたのですが、最近これを統合し、メンタルの状態を一元で可視化できる仕組みをつくりました。チェック項目も、ストレスの度合いはもちろん、エンゲージメントやモチベーション、あるいは健康診断の結果など、メンタルとフィジカルを包括的に管理するようにして、まずは現状把握を行なっている段階です。
また、このあとの課題としては、パーソルは平均年齢が約35歳と意外と若い会社なので、20代の若い世代のケアをどうするか、ですね。メンタル面の問題は、世の中の平均値を見ても若い人に多く見られます。
村上氏:それは大切なことですね。まだ若いから大丈夫……なんて考えてしまいがちですが、健康管理は早くから手を打っておくに越したことはありません。
美濃:いまのうちからできるかぎりの対応を考えていきたいですね。
村上氏:私や美濃さんのように経営に携わる者としては、社員のWell-beingは業績に直結する課題です。そして他方では、実務面から健康面までマネジャーが管理すべきことが拡大している中、マネジャー自身がWell-beingをいかに担保するかも重要な課題です。理想を言えば、自分のWell-beingを高めながら、身近な人たちのWell-beingを考えるという姿勢が大切で、それがより良いチームワークに繋がっていくのではないかと思います。
美濃:そうですね。マネジャーは本当に大変だと思いますが、だからこそバックオフィスとしてはそこをできるかぎり支援していきたいですし、何より我々自身が楽しく、前向きに、このテーマに取り組みたいと思います。