誰もが幸せになれる、優しい社会。その実現を目指して、地方から障害者雇用を変えていく ― PERSOL Group Awards2024受賞の裏に(19)瀧 綾乃 ―

パーソルグループでは年に1回、グループ内表彰「PERSOL Group Awards」を実施しています。「PERSOL Group Awards」とは、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を象徴するパーソル社員とその仕事の成果に贈られる、グループで最も栄誉ある賞のこと。各SBU、およびユニットに貢献し、提供価値を創出した社員を表彰しています。

本連載では、2024年度の「PERSOL Group Awards」を受賞した社員のキャリアストーリーと、受賞の舞台裏をご紹介します。
第19回目は、パーソルネクステージ株式会社の瀧 綾乃です。

就労継続支援A型のオフィスを、3年間で10拠点開設。さらに、開設費用によって累積された赤字を黒字化する。そんなほかには類を見ない快挙を達成したパーソルネクステージの瀧。
その根底にあったのは「人の人生に関わりたい」という希望、そして「誰もが幸せになれる、優しい社会を実現したい」という想いでした。

目次

障害者就労支援事業で圧倒的な黒字経営を確立の異例の快挙

2020年9月に設立されたパーソルネクステージ株式会社は、就労継続支援A型の新しい会社です。就労継続支援A型の会社では、障害のある人や難病の人がはたらく中で就労に必要な能力の習得などの支援を受け、一般企業への就業を目指します。
パーソルネクステージは、障害者一人ひとりが自分に合ったスタイルのはたらき方を選び、PC業務を中心にした業務に就ける環境を提供しています。目標は5年後に一般企業に就職すること。そのため、パーソルネクステージで手がける業務は、一般企業から受託したアウトソーシングの業務が主となります。障害者の方が「自分に合ったスタイルではたらきながら、一般企業に就職するためのスキルと経験、自信を身につける」ことを目指しているのです。

「就労継続支援A型のビジネスには、多くの企業が進出していますが、約51%は赤字経営だと言われています。経営がうまくいかず、スタートした事業から撤退することになれば、一般企業への就業を夢見てはたらいている障害者の方を裏切ることになる。そもそも給与を支払うこともできません。そうならないよう、黒字化する事業計画をしっかりと練り、マイルストーンとして『3年間で10拠点の開設』を掲げました」

瀧にとって、障害者の方のためのオフィスの設計や計画、事業所の開設は、はじめて手がける業務でした。一般企業の通常のオフィス開設であっても、3年間で10拠点のオフィスを開設し、はたらく人を採用するというのは、かなりのスピードを要する業務。しかも、今回は障害者の方がはたらくオフィスをつくります。労働環境に配慮しながら計画を練り、さまざまな設備を採用しなければなりません。瀧は開設するエリアの条例やルールを調べ、自治体と交渉しながら、障害者の方が安心してはたらけるオフィスを1つずつ計画していきました。そうして十分に配慮して設計したオフィスであっても、国のルールや地方自治体ごとに定める条例に適合しない場合もあり、計画変更を余儀なくされたケースもあったと言います。

「給付金を利用して開設を行う福祉事業という位置づけなので、行政の定めるルールが厳しく、遵守するために苦労しました。オフィスの立地や広さ・レイアウトをはじめ、必要設備の条件から支援スタッフの勤務方法や配置人数、膨大な書面の管理方法までもが決められているのです。それに、売り上げの使用用途も限定されていました。さらに提出して認可を得ないといけない書類は約40通。クリアしてもクリアしても、次々と強敵が立ち塞がってくるという感じの3年間でしたね」

そう、瀧は苦笑いして話します。それでもチームで力を合わせ、行政書士など社外のプロとも協力しながら、予定の3年で10拠点の開設を完遂したのです。それだけでなく、オフィス開設に大きな費用がかかり、3年間で赤字が積み上がっていましたが、2023年に10のオフィスで10億の売り上げを達成して、赤字を解消。黒字化も果たしたのです。これは障害福祉業界では異例の快挙。パーソルネクステージはその勢いを止めることなく、現在も次々と日本各地に拠点を開設し、現在では13拠点あります。

「弱い誰かのため」ではなく「いつかの自分のため」と考えることが社会を変えるヒント

「優しい社会になれば、みんなが幸せになれる」
両親のそんな言葉がすべてのきっかけ、と瀧は話します。それは日常の、何気ない会話の中のフレーズでした。ですがその言葉が、瀧の心を大きく動かしたのです。

「学生のころ、散歩をしていたときでした。高いところへ上がるためのスロープや手すり、エレベータにある障害者や高齢の方、妊婦さんのための優先マークを見て、『あれは決して弱い人のためだけにあるものじゃない』という話を両親がしてくれたのです。ついつい健常者は『自分は強い立場だ』と思い込み、自分以外の障害者や高齢者、妊婦さんなどを弱者として捉えてしまいがち。すると、健常者が自分以外の弱い人のために、補助や介助のツールや場所を“提供してあげている”と勘違いしてしまうことがある。でも、明日にも自分がケガや病気で、それらの設備を利用する側になるかもしれない。そう考えると、設備は自分たちのためにも提供されていると言えるのです。であれば、もっともっと補助や介助のための設備があった方が、誰にとっても生きやすい世の中に近づくはず。そういう視点を持って、生きやすい世の中を実現するための行動に移せる人が増えれば、社会は優しいものになる。みんなが幸せになれる。そう話してくれたのです」

そこから瀧は社会の抱える課題に興味を持つようになり、学ぶ中でさまざまな社会問題にも興味が派生して広がり、解決のためにはたらきたいと思うようになったと言います。
大学卒業後は、地域の活性化に携わりたい、多様な人に旅行の楽しさを味わってほしいという想いで、旅行会社に就職。さまざまなお客さまのご要望に合わせ、快適な旅行をお手伝いする中で「もっと人の人生に関わりたい」と思うようになりました。そして「人に合う仕事を紹介できるなら、より人生に関われるはずだ」と、パーソルキャリア株式会社に転職するのです。
求人広告の仕事を手がける中で、仕事に就きたいと願う求職者一人ひとりの人生について深く考えるようになった瀧は「もっと個人の就業のサポートはできないだろうか」と思うように。その時に改めて「障害のある人たちに、最適な仕事を紹介できる仕事がしたい。そのことで優しい社会を実現していきたい」と自身の原点に立ち返ったのです。それが、今回のパーソルネクステージ立ち上げプロジェクトへの参加の動機となりました。

「支え合う」ことは「相手の価値を認め、真摯に向き合うこと」

経営企画室に配属され、どのような会社にするか、会社のコンセプトや経営の方針、戦略についても考えてきた瀧。瀧個人が目指したのは「支え合う」ことだと話します。
瀧にとっての「支え合う」とは、「心からお互いを認め、正面から向き合う」ということ。それは愛情がなければできないことだから、と瀧は話します。

「同級生たちも、バイト先の上司も、何より両親も、私が間違ったときには、まっとうに叱ってくれた。それがうれしかった。私にちゃんと向き合ってくれている、と感じるのです。価値があるから大事にするんじゃなくて、居てくれるだけ、生きてくれているだけでうれしいから、その存在を認めて大事にしてくれている。だから向き合って、良いことは良い、悪いことはすぐにしかって軌道修正してくれる。そのときに『愛情を注いでくれている』と感じたんです。その愛情に、私はいつも背中を押され、勇気をもらってきた。だから私も同じように会社ではたらくみんなに向き合い、愛情を注ぐようにしてきました。それが『支え合う』ということだと信じてきました」

障害者の方に、はたらきながら愛情を感じてもらえる場所にしたい。そのために「存在するだけで価値があるんだ」という考えがベースにある会社にしたかった、と瀧は言います。

「5年間はたらいてもらい、パーソルネクステージを卒業して一般企業に就業するときには、障害者の方に『自分は価値がある人間なんだ』と自信を持ってほしい。それが実現する会社を目指しました」

社会のインフラとなるような人材ビジネスを目指して

パーソルネクステージでは、「障害者の方が安心して職業訓練を果たし、5年後には一般企業に就職できるように」という目線で、これまで同業他社がやってこなかった取り組みも多く始めています。たとえば、クルー(※)が手がけているのは、都心やオフィスがあるエリアの企業から受託した業務がメインです。
(※)パーソルネクステージ内ではたらく障害者の方のこと。

「多くの企業が“障害者を雇用しなければいけない”ため、軽作業や単純作業を“わざわざつくって”雇用した障害者に任せているという現実があります。それでは『支え合い』にはなりません。そこでパーソルネクステージは営業スタッフを採用し、アウトソーシングの業務を受託する営業活動をしています。業務はどれもクライアント企業にとって重要な『手が回らなくて困っている作業』や『やってもらわなければ本業が立ち回らない作業』。パーソルネクステージではたらく障害者の方々のためにつくった仕事ではありません。だから多くの企業さまから『委託して良かった。助かった』と喜びの声をいただけています。それがクルーの励みや自信になりますし、何より5年後に一般企業に就職したときのための訓練となり、就業後に確実に活きてくるのです」

また、クルーが安心してはたらけるように同業他社よりも高い時給設定、在宅勤務の取り入れや産業医のサポートなどの環境整備も徹底し、クルーを支援する社員の90%は、精神保健福祉士、看護師、キャリアコンサルタントなどの資格を保有者です。ビジネスとしてしっかり収益を上げ、黒字経営を確立できたからこそ、サポートを充実させ、配慮の行き届いたオフィスがつくれるのです。これがパーソルネクステージが確立した「新たなビジネスモデル」です。

現在パーソルネクステージは地方都市に限定してオフィスの開設を進めています。そこにも「支え合う」という想いが込められています。

「障害者雇用は、社員数に対しての割合で雇用すべき障害者の人数が決まります。東名阪にはたくさんの企業があり、大企業も多い一方でなかなか雇用率が上がらないという現状があります。一方、地方は企業も都市部と比較すると少ないため、はたらきたくてもはたらく機会が少ない。障害者を雇用したい企業とはたらきたい障害者双方の課題を解決したい。そう考え、地方に限定してオフィスの開設を進めています。パーソルグループは人材に特化したビジネスを行っています。そうして社会のインフラになるような人材ビジネスを創ろうという意志も強い。だから、パーソルグループが、障害者の方の就業支援を行うことは当然の使命でもあると私は思っています。パーソルネクステージのような会社がもっと増えれば、より多くの方がさらに活き活きとはたらける社会になると思うんです」

そうなれば、本当に「はたらいて、笑おう。」が実現する。瀧はそう信じ、一歩さらに一歩と前へ進み続けるのです。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

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