マネックス清明氏×パーソル喜多が対談。金融グループ初の女性トップが語る、DEIへの想い

パーソルグループは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みを通じて一人ひとりが活躍できる組織・社会を目指しています。

今回は、マネックスグループ株式会社の代表執行役社長 CEOを務める清明 祐子氏と、パーソルグループ・ジェンダーダイバーシティ委員長の喜多 恭子が対談。清明氏は2023年6月に、マネックス創業者でありカリスマ経営者と言われた松本 大氏から引き継ぐ形で、金融業界において初となる女性トップに就任したことが注目を集めました。

DEI推進を担う2人のキャリア、M&Aを通して多文化が融合する中でのDEI推進の施策について話しました。

<プロフィール>

清明 祐子氏
マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO

京都大学経済学部卒業後、株式会社三和銀行(現在の株式会社三菱UFJ銀行)を経て、2006年プライベート・エクイティ・ファンド「MKSパートナーズ」へ。ファンド解散決定後、2009年マネックス・ハンブレクトに入社。2011年には同社代表取締役社長に就任。2019年にマネックス証券 代表取締役社長、2020年1月に持ち株会社であるマネックスグループ 代表執行役COOを経て、2022年4月マネックスグループ 代表執行役 Co-CEO兼CFOに就任、2023年6月より取締役兼代表執行役社長CEO(現任)。また、マネックスグループとマネックス証券が2024年1月NTTドコモと資本提携したことに伴い、マネックス証券取締役社長執行役員に就任(現任)。

喜多 恭子
パーソルキャリア株式会社 執行役員、パーソルグループ・ジェンダーダイバーシティ委員会 委員長

1999年、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に入社。派遣・アウトソーシング事業、人材紹介事業などを経てアルバイト求人情報サービス「an」の事業部長に。中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、2019年に執行役員・転職メディア事業部事業部長。2022年4月より人事本部長。2023年4月よりdoda事業本部長に就任。

目次

社長への打診は突然だった。リーマンショックを経て築かれたキャリア

喜多:清明さんのマネックス証券社長就任は、金融業界初の女性社長としても注目を集めていましたよね。打診を受けたのは、いつごろだったのでしょうか。

清明氏:2019年3月中旬のことでした。前社長の松本(現マネックスグループ 代表執行役会長兼取締役会議長)から、なんの前触れもなく突然「4月から社長をやってほしい」と言われたんです。ただ、最初はすぐに辞退の意向を伝えました。というのも、これまでのキャリアが投資銀行業務やコーポレートファイナンスで、インターネットビジネスはもとよりネット証券についての知識がなかったから。加えて、創業者である松本の後任を務めるのは難しいと感じていました。

清明氏:しかし松本から、「知っているからできるわけでもなければ、知らないからできないわけでもない。やってみたらどうか」と背中を押されました。2014年ごろから私は、松本と二人三脚でグループの企業価値向上のためのM&Aなどに携わり、2018年には暗号資産大手のコインチェックの買収を主導しました。その経験から、企業規模が大きくなるタイミングで経営リソースの最適化を実現できなければ、我が社の成長が止まってしまうとも感じ、翌日には覚悟を決めて受諾の返事をしたんです。

喜多:もともと、どういったキャリアを歩まれてきたのかお伺いしてもいいですか。

清明氏:私は2001年4月に三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、営業職としてキャリアをスタートしました。当時は大阪の街を自転車で走り回る、泥臭い営業の日々を過ごしていましたね。その後、ストラクチャードファイナンス部に異動となり、企業へのプロジェクト融資を担当する中で、事業拡大や意思決定のプロセスに興味を持ち、2006年12月にプライベート・エクイティ・ファンドへ転職しました。ですがリーマンショックの影響を受けてファンドが解散することになり、そのタイミングでマネックスグループの子会社でM&Aアドバイザリーを担っていた会社に入社しました。

喜多:金融・証券業界は、女性が少ないイメージがあります。ジェンダーギャップで悩むことはあったのでしょうか?

清明氏:おっしゃる通り、この業界はまだまだ旧態依然の部分があります。ですが、私自身はジェンダーギャップや性差で悩んだことはそれほどありません。マネックスグループ社内がとてもフラットな環境だったのでそれが当たり前だと感じていました。マネックス以前には振り返れば心ないことを言われた経験もありますが、あまり気にしていませんでした(笑)。喜多さんはどういったキャリアを歩まれてきたのですか?

喜多:実は私も、家族の影響や大学で中小企業論を学んでいたことから、就職活動では金融業界を志望していたんです。ところが当時は就職氷河期。今よりも女性のキャリアの選択肢が広くなかった時代背景もあってか思うように道が開けず、方向転換を余儀なくされました。

「まずは企業に入って経験を積み、いつか独立しよう」と考え、旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社を決めましたが、気付けばやりがいを感じ夢中になっていましたね。さまざまな経験をさせていただく中で、経営資源であるお金と人はどちらもその動きが企業価値の向上につながっていく点で似ていると気付きました。その後、事業や人事の責任者を経験し、再び事業側に戻ってきたことで、今では企業が持続的に成長していくためにDEIが欠かせないと考えています。

性別も年齢も関係ない、実力主義の登用文化

清明氏:御社は、DEIを推進するためにどういった取り組みをされているのでしょうか?

喜多:パーソルグループでは、DEIを推進するために「トップのコミットメント」「制度・環境整備」「風土構築」の3本柱を掲げています。中でも私は、「トップのコミットメント」を特に重要視しています。2021年4月に和田が代表取締役社長 CEOに就任し、その年にジェンダーダイバーシティ委員会を発足。当初から委員長を務めています。具体的には、女性管理職比率の向上を目指し、2030年度までに女性管理職比率を37%にすることが目標の1つ。2024年10月時点では26.8%です。

当社は2010年以降、M&Aを通じて国内だけでも50社以上の会社が集まり、2016年にパーソルグループとなりました。御社もM&Aを通して企業規模を拡大されているとお見受けしますが、どのようにDEIを推進されているのか気になります。

清明氏:マネックスグループ全体の取り組みとして、2021年に日本、米国、クリプトアセット事業の主要3セグメントのメンバーからなる「DEIグローバルステアリンググループ」を発足しました。各社の人材が十分に能力を発揮できるよう、年に2回グループの報告会を開催しています。また、職位者を対象にDEIに関する研修の実施や、執行役員の個人評価制度にDEIの項目を組み込んでもいます。

喜多:数値目標などは設定されていますか?

清明氏:当社は形式的な「数」のKPIを設定せず、数値を追いかけることはしていません。その代わり、DEIの中でも「Equity(公平性)」をもっとも重要視していることが特徴です。フェアであること、これをとにかく大切にしています。そのために、メリトクラシーに基づいた登用を推進してまいりました。

これは若いうちから裁量のある業務を積極的に任せ、個人の属性に関わらずアウトプットや実績に基づいて人材を登用するというもの。弊社の社風の1つであり、私が証券社長の打診をいただいたのも、実績や能力を評価された結果だと考えています。賃金格差(ペイギャップ)についても、一人ひとりの評価結果や職種の違いによる差はありますが、ジェンダーによる格差は生じません。職種や職位、ジェンダー、年齢、勤続年数に関係なく、実績が伴えば誰にでもチャンスがある。そのことを私自身感じましたし、今は組織風土として私が伝えていく立場だと思っています。

対話・コミュニケーションを基礎としてDEIを推進する

喜多:風土構築は重要ですよね。当社でも全マネジメント層を対象としたDEI研修を実施し、その上で全社員向けのe-learning研修を年に1回実施しています。さらに、インプットとアウトプットの場として「みんなでDEIを考えるかい(以下、みんでぃ)」というイベントを月に1回ほど開催しています。

みんでぃは、グループ社員が多様性に関するテーマで対話と交流を行う場です。研修を通じて得た学びを内省し、一人ひとりが言語化することではじめてカルチャーとして根付いていく。より深い学びや多様性への理解を追求するだけではなく、「自分はどう思っているのか」「周りにいる人はどう考えているのか」を互いに共有し、異なる価値観に触れることで多様性を理解し受容するきっかけをつくる、という意味合いもあります。

清明氏:良い取り組みですね。私自身、マネックスグループという持株会社のトップとしても、異なる組織文化を持つグループ各社が同じ方向を目指すために、何よりもコミュニケーションを大切にしています。というより、価値観や考え方の多様性はコミュニケーションでしか埋められないと考えているんですね。私が掲げた目標に対して、強制的に「こっちを向いて」と指示を出すのではなく、相手と膝を突き合わせ「何を考えているのか」「どうしたいのか」「どのような在り方が理想なのか」をしっかり話し合うことが重要です。対話の中では、私から各社への期待を伝えることもあります。

喜多:シンプルですが、とても大切なことですよね。

清明氏:そう、シンプルなんです。ビジネスは数字やパソコンと向き合うだけが本質ではありません。特に金融・証券は、社会情勢や社会の方向性に大きく影響を受ける業界です。マーケットは、今日も明日も、今この瞬間も変動し続けている。その変化の中で、組織としてDEIを推進していくためにはコミュニケーションが必要不可欠。私は、できるだけ頭の中で考えていることをオープンにしようと意識しているところです。

喜多:とても心強いお言葉です。はたらく社員一人ひとりが能力を最大限発揮できるようにルールや規則で縛るのではなく、相手の希望とこちらの期待をすり合わせることが大切ですよね。

清明氏:AIが進化している今、どれだけ想像力を持てるかが人間にとっての勝負だと思います。そのためには、一人ひとりの中に多様な視点や役割を持つイントラパーソナル・ダイバーシティを育んでいく必要がありますよね。

喜多:そうですね。今日は清明さんのあふれるエネルギーを感じました。ありがとうございました。

※役職はインタビュー時点のものです。

パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
さまざまな事業・サービスを通じて、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会を創造します。

このページをシェアする
目次
閉じる