【倉重宜弘×後藤寛勝×市野喜久】はたらくがもたらす「地方創生」とは ~個人、企業、行政の役割を考える~

パーソルグループは、はたらき方やはたらく価値観が多様化するいま、あらゆるはたらく個人がより幸せに生き、自分らしくはたらくための一歩を踏み出すきっかけづくりを目的として、どなたでも気軽に参加できるオンラインセミナー「今、ニッポンのはたらくを考える会議」を今年の7月より開催しています。

11月23日、勤労感謝の日には、特別版として「今、ニッポンのはたらくを考える大会議 ~勤労感謝の日に、これからのはたらくを考える~」を開催しました。
本記事では、5つのKeynoteとSessionのうち、Session2「はたらくがもたらす『地方創生』とは ~個人、企業、行政の役割を考える~」について、一部を抜粋してご紹介します。

目次

登壇者紹介

<モデレーター>
倉重 宜弘/ネイティブ株式会社 代表取締役

金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手掛ける。
2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。地域移住・関係人口創出のプラットフォーム「Nativ.media(ネイティブ.メディア)」を運営。瀬戸内と沖縄を中心に、地域マーケティング事業を展開している。



<登壇者>

後藤 寛勝/Flags Niigata代表/プロデューサー

1994年、新潟市生まれ。中央大学経済学部卒。18歳から若者と政治をつなげる活動を始める。2016年、NPO法人の代表理事として政治教育カリキュラム「票育」を立ち上げ、3つの地方自治体で事業化。2017年、日本のどこかで数日だけオープンする野外レストラン「DINING OUT」を主催する、博報堂DYメディアパートナーズグループONESTORYに入社。2020年5月、新潟出身の20-30代をつなぐコミュニティプラットフォーム「Flags Niigata」を設立。地域資源の再編集と発信、価値創造に取り組んでいる。
*共著書『18歳からの選択』(2016年 フィルムアート社)



市野 喜久
/パーソルホールディングス株式会社 グループ営業本部 地方創生セクター 担当部長

茨城県在住。1994年創業5年目の株式会社インテリジェンスに入社。新卒採用支援、人材派遣、人材紹介、再就職支援、人材育成、官公庁案件とさまざまな人材サービス立ち上げ、事業拡大・変革に従事してきたHRエキスパート。2016年パーソルホールディングス株式会社へ転籍。地方創生など社会課題解決を目指し、中央省庁や自治体、地域経営支援団体や地銀との連携推進を担当。「地域と都市の知識格差を無くす」ため、3,000社を超える地域企業向けワークショップの講師実績を持つ。



コロナうつから若者を救った新潟コミュニティ


折しものコロナ禍により、人々の生活やはたらき方は大きく変わりつつあります。これにより、地方自治体が抱える課題にも変化が生じていると、後藤・市野両氏は言います。

倉重氏:このコロナ禍ではたらき方は大きく変化しましたが、市野さんはそれ以前から遠隔地に住まいを移していらっしゃったんですよね。

市野:そうですね。5年ほど前に親との同居を決め、まったく地縁のない茨城県に移住しました。周囲からは「なぜわざわざそんな遠くに?」と言われましたけど(笑)、テレワーク全盛のいまになってみれば、むしろ「最先端のはたらき方ですね」と言われることの方が多くなってきました。

倉重氏:一方、後藤さんは新潟にゆかりのある若い世代の皆さんを600人も集めて、「Flags Niigata」というコミュニティを運営されています。このコロナ禍でなにか変わったことはありますか?

後藤氏:そもそも「Flags Niigata」を立ち上げたのは、緊急事態宣言の発令後なんです。僕は普段、東京の広告代理店に勤めているのですが、在宅ワークになって孤独を感じることが増え、精神的にキツい時期が続きました。

そんな中で心の拠り所になったのが故郷・新潟の存在で、これはきっと同じように苦しんでいる人も多いだろうと、コミュティ運営を思い立ったんです。実際、若い世代のコロナうつが問題になっていますしね。

倉重氏:すると、短期間のうちに600人もの規模になったわけですよね。具体的にはどのような活動を?

後藤氏:僕たちは新潟出身の人に限定したコミュニティで、「上手に東京を離れよう、上手に新潟に近づこう」をコンセプトに、新潟でやりたいことを日ごろから「Slack」を使って議論しています。たとえば新潟県内の飲食店をサポートするために、前払いのクーポンをつくって販売したり、新潟でラジオ番組を配信したり、コミュニティの中で生まれたアイデアを具体化していくのが主な活動になります。

倉重氏:なるほど。その点でいうと、市野さんは地域と連携して動く機会も多いと思いますが、同じくコロナ禍となり自治体の対応にはどのような変化があったでしょうか。

市野:影響はやはり大きいです。たとえばコロナ以前は、地盤の中小企業の人手不足が大きな課題で、自治体も採用活動を積極的に後押ししていました。ところがコロナの発生でそれどころではなくなり、採用はいったん棚上げして、給付金を必要な企業にしっかり届くようケアするなど、企業を守る方向にシフトしています。

倉重氏:企業を守るという意味では、テレワークの浸透は後藤さんの「Flags Niigata」のように、ほかの地域からでもローカルにアプローチしやすくなった恩恵がありそうですね。


「出身地」は誰もが持っている有力な資格


都市圏と地方を繋げる取り組みが多数存在する中、後藤氏は「実は出身地とは、誰もが努力せずとも持っている有力な資格」であると語ります。そしてそれは、きっかけ一つで新たな挑戦に導いてくれることも――。

市野:内閣府はここ5年ほど地方創生に注力し、年間1,000億円ほどの予算を投じています。各自治体もさまざまな施策を講じていますが、それでも東京は転出超過に至りませんでした。ところが、コロナ禍となって一発で転出超過に転じましたから、影響の大きさがうかがえます。

私たちも地方創生の難しさを目の当たりにしてきました。ある県では、若い世代が県外に流出していくのを止めようとしていない、と伺ったこともありました。都会で結婚し、子を持ち、家族として人数を増やしてからUターンで戻ってきてくれるから、と説明を聞いたときは驚きました。マーケティングだ、戦略だ、と言っても必ず成功するわけではないことを、地域の皆さんから学ばせていただくことも多々あります。

倉重氏:たしかに、若者を呼び寄せる施策はどこも頭打ち感があり、コロナが期せずして潮目を変えた側面はありそうです。後藤さんはまさにアーリーアダプターの1人で、地方自治体にとってはありがたい存在でしょう。

後藤氏:おそらく若い世代の多くは、それほど深い考えがあるわけではないと思うんです。行動力の伴った優秀な人はすでに自ら動き始めていますが、全員が同じように自発的に行動できるわけではないと思います。それが同郷という繋がりを持てたことで、動き出すきっかけが得られたのではないかと思います。

倉重氏:なるほど。その場合、皆さんを突き動かしているモチベーションはなんでしょう?

後藤氏:個人的に感じているのは、「○○出身」という属性は、努力をすることなく生まれ持っている超有力な資格である、ということです。その誰もが持っている資格の有用性に気付き、それを生かしてチャレンジすることに喜びを感じているのではないかと思います。

市野:まさしく、行政が推し進めてきた関係人口の拡大に、若い人々が自発的に取り組んでいるモデルですよね。素晴らしいことだと思います。


「地方創生」をさらに進めるために必要な視点とは


オンラインから生まれた取り組みを、リアルに移行して経済をまわす。これからの地方創生を推し進めるためには、さらなる環境整備が必要となります。

後藤氏:先日、自治体が制作した新潟県のポテンシャルをまとめた冊子を、メンバーの一人が見つけてきたんです。ところが、皆で目を通してみると米とか酒とか、県外にいる人でも想像が付くようなものしか載っていなくて、僕たちは大きな違和感を覚えました。

実際には、県外からやってきた人たちが新しい取り組みをたくさん行なっていて、それこそが僕たちが考える新潟県の魅力です。そうした、まず人ありきで事が起きるという見方は、僕らの世代のスタンダードになっていると感じますね。

倉重氏:そうですよね。コロナによって「はたらく」ことと「場所」が切り離して考えられるようになったいま、いろいろな人がビジネスや地域活動に参加しやすくなっていますし。

後藤氏:それに、コロナ発生以前は若者が自治会や消防団などの地域活動になかなか参加しないことが問題視されていましたが、そうした地域の寄り合いはオンラインで十分実現できることが、すでに実証されたと思います。今後の課題は、交流がより多世代を横断できるよう、オンラインとオフラインをいかに融合させるか、でしょう。

市野:問題はその世代差で、オフライン中心の世代といかに取り込むかですよね。直接顔を合わせなければ信用できない、という人はまだまだ多いです。でも、だからこそこのコロナ禍というピンチをチャンスに変える取り組みは必要だと思います。

たとえばDXという言葉を使うと、過剰に小難しく思われてしまうかもしれませんが、採用面接をオンラインで行なうこともDXの事例だと思います。こうしたITの活用を地域の人々にも勧めていかなければなりません。パーソルも貢献できると思っています。

倉重氏:その通りだと思います。これだけオンラインサロンが盛り上がっていて、コミュニティをベースに活動を広げていく人が大勢現れているわけですからね。

後藤氏:そして理想は、コミュニティとしての居心地の良さを守りながら、オンライン上の活動をオフラインの人の流れに繋げ、経済をまわすところまで持っていくことだと思います。

市野:地方創生にもっとお役に立つよう、我々のような民間企業も、本当の意味での地方創生を実現するための座組づくりを官公庁に働きかけていくべきです。たとえばものづくりのための補助金はあっても、人材採用のための補助金が出ないのはひとつの課題です。

施策も整えていただいて、民間企業が地域の課題解決により貢献しやすくなるような環境づくりも大事だと考えます。そうなれば地方創生の在り方も変わっていきます。まだまだできることがたくさんあると感じています。

コロナ禍によってはたらき方が変わったことで、地方創生の在り方もいま、大きくバージョンアップしようとしています。お三方によるセッションのすべてをご覧になりたい方は、以下から視聴してください。

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