【古川裕也×高橋広敏】はたらき方が変わる今、企業が描くべきミッションとは

今、社会環境の大きな変化とともに、「はたらく」の在り方が問われています。未来をどのように描き、そこで私たちはどのように生きるべきか。そして、その未来をどう創造していくべきか。
連載対談「はたらくのゆく先」では、人とテクノロジーの力で新たなはたらき方を創り出すパーソルイノベーション株式会社の代表取締役社長であり、パーソルホールディングス株式会社の取締役副社長およびSolution SBU長も務める高橋 広敏が、各分野の有識者たちとの対談を通して、創造すべき未来を捉えていきます。

今回のセッションテーマは「はたらき方が変わる今、企業が描くべきミッションとは」。対談相手は、国内外で400以上の受賞歴を持つ株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブディレクターの古川 裕也氏です。コロナを契機にはたらき方だけでなく、ひいては生き方はどう変わるか。そのうえで、企業に求められるミッションとは何か。それはどのようにして生活者から共感を得られるのか。さまざまなコミュニケーション事例をもとに、熱く語りました。

古川 裕也
株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブディレクター。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌ40回、アドフェスト・グランプリ、D&AD、広告電通賞、メディア芸術祭、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ等内外の賞を400以上受賞。2020年 D&AD President’s Awardをアジア人で初めて受賞。カンヌ審査員4回、クリオ審査委員長、ACC審査委員長、D&ADアドバイザリー・ボード等審査員多数。九州新幹線「祝!九州」、ポカリスエット「ガチダンス」「Neo合唱」、宝島社「死ぬときくらい好きにさせてよ」「嘘つきは戦争のはじまり」「次のジョブズも、次のケネディも、次のアインシュタインも、きっと、女」、GINZA SIX「目抜き通り」、リクルート「マラソン:すべての人生が素晴らしい」、新国立競技場opening eventなどを手がける。著書に『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』(宣伝会議)

 


これから、はたらき方・生き方が再構築される


高橋 広敏(以下、高橋):さまざまな仕事が自動化・効率化され、AIが代替できるものも増えてきたことで「人間がやるべきことはなんだろう」と問われている気がします。はたらき方や生き方を再構築する時期を迎えているな、と。

古川 裕也氏(以下、古川氏):人間ってなんだろう、人間の能力ってなんだろう。どういうことをしていると幸せなんだろう。そういうことの再構築を歴史から要請されている気がします。そのうえで、今までのような効率や利益の追求だけではない、新しいゴールを再設計する必要がありますね。


高橋:
はたらくことが生活の糧を得るための手段に留まっていることが問題の一つだと感じています。仕事のやりがいは、報酬だけでなく、好きや楽しいといった感情によって形成される時代です。はたらくことが単なる労働を飛び越えて、自分自身の社会活動や生産行動にまでなり、意味や意義、喜びを感じられるものにするにはどうしたらいいのだろう、と。なので、パーソルは「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げ、仕事の意味や意義を拡げて大事にする時代に変えようとしています。

古川氏:「笑って、はたらこう」や「楽しく、はたらこう」となりそうなところを「はたらいて、笑おう。」と「はたらく」を先に持ってきているのがいいですね。はたらくことによって、ほかでは得られない楽しさが獲得できる、とメッセージしているように聞こえます。日本の「働き方改革」は、労働時間を短くという量の問題になってしまって、一番重要なモチベーションの問題が後回しになってしまったように思えます。量ではなく質の問題です。成長が実感できる、意味のあることだと思える、ひたすら面白いなど、はたらくことのモチベーションが設計されていれば、多少つらい局面でもポジティブに考えることができると思います。


ブランディングとは「世界とのプロミス」


高橋:従来から続く仕事の中には、ときに価値を失い、社会から必要とされなくなるものもありますが、企業は未来に向けて何をしていくのかというミッションの再定義がより一層重要だとも感じています。

古川氏:おっしゃる通りで、これからは特に、企業のミッションを発見して内外に表明していくことがすべての出発点になると思います。それは、企業の存在意義を確定することでもあります。ブランディングとは、なんとなくいいイメージを持っていただく、というようなことではなくて、自分たちの存在意義を世界とシェアする運動のことです。いわば、世界とのプロミスと言っていいでしょう。ですから、今の状態の要約では意味がなく、すべて未来形で語られるべきだと思います。

高橋:企業のミッションをうまく表明できている事例はありますか?

古川氏:リーマンショックを機に、自動車産業の中心地であるデトロイトでは多くの人が職を失っていました。そのような中で、自動車メーカーのクライスラーがスーパーボウルのハーフタイムで1回だけオンエアしたCM『Halftime in America』がいい例です。「今はアメリカもハーフタイムだ。みんな傷付いている。でも、我々は倒れない。必ず復活する。さあ後半戦の始まりだ」というメッセージをクリント・イーストウッドが語ります。車のことは何も言ってないのに大きな反響を呼びました。企業広告なのに主語をクライスラーではなく自動車産業、そしてアメリカへと二段階高く広くしたことで、多くのアメリカ人の心を掴んだのです。クライスラーよりアメリカに関心のある人の方が多いですから。たとえば、「はたらく」の上位概念は、「どう生きるのか」とか、「日本人はどうなっていくのか」とかでしょう。もはや、「はたらく」は、「生きる」と同義です。「はたらく」を豊かに語るために、より大きな視座から語りはじめるべきだと思います。

高橋:パーソルとしても「はたらく」の意味を広げたいという想いがあり、労働のイメージを与えないようにあえてひらがな表記にしています。家事も⼦育ても勉強も「はたらく」で、会社のためじゃない「はたらく」もあるだろう、と。企業から報酬をもらうことだけが「はたらく」だと定義してしまうとつまらないじゃないですか。企業や組織にとらわれず、自分の意思で何かに参加して、納得してアクションを起こしている。そういう素直な選択をできることが⼤切です。


古川氏:
「はたらく」とは、何かに「参加」するということかもしれませんね。コミュニティも同じ。さまざまな「参加」を介して自分の成長、幸せが実現していき、その人にふさわしいGood Lifeが形づくられていくんだと思います。やはり「はたらく」が重要なのは、そういうコンテキストにおいてですね。


企業の存在意義を社会課題と繋げることから「for Good」が生まれる


古川氏:ご承知のように、ここ10年くらい「for Good」ということが言われています。ただ、中には、本業とは無関係のアイデアだったり、リアルな仕事なのかあやしいものもありました。僕は、社会課題を解決するものは、本業と連結していないと意味がないと思います。自分の会社だから、この業種だから、こういう能力があるから、こういう課題解決ができる、という形であるべきです。CSRの文脈ではもうなくなっています。


高橋:
本業とまったく関係ない「for Good」を提供するのは、ときに見当違いだったり、傲慢になったりしますよね。

古川氏:そうなんですよ。2015年、世界的に評価された自動車メーカーVOLVOのキャンペーンがあります。自転車が原因の夜間の交通事故を減らすために、クルマのヘッドライトに反応して光る夜行塗料スプレーを開発して、自転車とクルマが引き起こす交通事故の減少に寄与しました。これについても先程と似ています。自動車メーカーなのに自転車のためのプロダクトを開発しているんです。ですが、VOLVOのブランド・ミッションは、「地球上から交通事故をなくす」こと。自分たちの存在意義やフィロソフィーを社会課題と結びつけることで世界からトラストとリスペクトを獲得する。それが本来の「for Good」なんです。


フィロソフィーを具現化するということ


高橋:掲げたミッションを武器に、どうコミュニケーションしていくのが望ましいでしょうか。

古川氏:言葉だけでなく強い態度や行動で示すことだと思います。アメリカのアウトドアショップのREI(レイ)は、アメリカ人が一番たくさん買い物をするブラックフライデーに、あえて全店舗を休業しました。彼らにとってアウトドアショップの存在意義は、「一人でも多くの人に自然に親しむ生活をしてもらう」ことです。せっかくの週末に買い物なんかしてないで、自然をもっと楽しもう。というメッセージで、人々を都会から自然へと向かわせました。企業の哲学によってヒトの行動を変容させたことになります。VOLVOもREIも共通しているのは、哲学の具現化が最優先でまずあり、それによって利益を得るという考え方です。

高橋:フィロソフィーの体現ですね。

古川氏:はい。それは、自分たちがどの高さまで行こうとしているかをメッセージにすることになるので、社外からの期待値を上げるだけでなく、社員の皆さんのモチベーションを高めることにもなると思います。

高橋:社員の皆さんには、やっぱり、誇りを持ってもらえるように努めなければなりませんね。会社の中でも、私がそこに一番こだわらなくてはいけない。私たちの仕事にどれだけの意味や意義をつくることができるか。それを社員一人ひとりが実感できる形で、生活者の皆さんに届く形で、さらに具現化していきたいと思います。


「はたらく」におけるすべてのコストを下げる


古川氏:やはり、「はたらいて、笑おう。」の一歩先が次の主戦場となりそうですよね。「生きる生き方」と言うと変ですけど、はたらくの先にある「どうやって生きていこう」という問いに対する答えがパーソルさんのフィロソフィーになっていくのだろうと思います。それはアメリカや中国のように量を誇るようなものではないだろうし、北欧みたいに超福祉国家になれるわけでもない。かと言ってジャポニズムのような特殊性にこだわる必要もない。Own Wayというか、日本独自の生き方を見つけなきゃいけないタイミングに来ているのだと思います。その一つとして、「はたらく」というものがある。

高橋:これからの「はたらく」や「生きる」の再構築にあたっては、チャレンジをトライに変えていくという姿勢が重要になると考えています。ああしたい、こうしたいという考えがあったとしても、いざ実行に移すとなると往々にしてそこには難しさが立ちはだかります。そのために必要なものが多かったり、想像以上のお金がかかったり、なにかを諦めなければならなかったり。要するに、コストが高いということです。だから僕たちは、アイデアとテクノロジーを武器に、「はたらく」におけるすべてのコストを下げにいく。一人ひとりがもっと気軽に、さまざまな可能性や選択肢を持ち、それを掴むことができる環境をつくらなければいけないと考えています。
そのためにも、まずは僕ら自身でトライアンドエラーを繰り返していきたいです。このコロナ禍においては多くの社員が新しいはたらき方に挑戦し、試行錯誤してくれました。その中で感じた痛みや気付きをきっかけに、社会に向けて良い変化を起こしていきたいと考えています。


古川氏:
はたらくは、Lifeの根幹ですからね。世の中にはいろいろな企業がありますが、「はたらく」から社会を再構築していくことは、ポストコロナの未来に向けて、本当に重要な仕事だと思います。

文:秋 カオリ

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