連載|平成の「はたらく」とこれから【新時代に私たちが幸せに働き続けるための4つのヒント】

激動の平成時代の働く環境や意識の変遷を振り返り、新時代を生き抜くためのヒントを、
「正社員」「アルバイト・パート」「派遣」の3つのテーマで探していきます。

「一流大学を出て大企業に正社員として就職する=幸せ」という方程式が通用したのは、はるか昔の話。
平成時代の「はたらく」は、「一流」も「安定」も、そして「幸せ」の定義すら
流動的で不確かなものとなりました。
そしていま、AIなどのテクノロジーの進化、グローバル化、企業と個人の関係性の変化が進み、
新たな時代に突入しようとしています。私たちの「はたらく」を取り巻く環境や意識は、
どのような変遷をたどり、どこに向かおうとしているのか…。

第一回は、これまで1万人以上の転職希望者の支援を行い、現在は「doda」編集長を務める傍ら、社外ではJHR(一般社団法人人材産業サービス協議会)キャリアチェンジプロジェクト、ワーキングメンバー、SHC(公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル)理事にも名を連ねるなどキャリアのプロとして活躍する大浦 征也に、新時代も幸せに働き続けるための心構えについて聞きました。


【主なトピック】
・仕事に対する価値観や制度は、どのように変わってきたのか?
・キャリアの「北極星」に恋に落ちる!?大浦 征也流、幸せに働くためのヒント
・いま、私たちに必要な「引き出し」とは?
・AIの発展、法律やルールの変化。―― 予測が難しい未来を生き抜くために


■仕事に対する価値観や制度は、どのように変わってきたのか?

―― 平成の30年間、企業などの組織と労働者との関係性は、大きく変化したと思います。まずは、その大きな流れについてポイントをお願いします。

大浦 ¦ 大きく変化を迎えたのは、バブル崩壊とリーマンショックの後でしょうか。バブル時代後期の平成元年(1989年)、世界時価総額ランキングでは日本企業がトップ5を独占しているような状況で、好景気だったこともあり、会社選びの基準は安定したキャリアを築くための「業界選び」が主流でした。
しかしバブル崩壊後、日本経済は深刻な状態となり、もはや安定した業界などないと誰もが痛感しました。一方で2000年前後から、インターネットベンチャーが続々と立ち上がりました。会社のビジョンや働く人の魅力を高らかに打ち出す企業が目立ち、個人の視点も「業界選び」から「会社選び」へと変化しました。
その後、リーマンショック、東日本大震災を経て、「誰と働くか」「何が身に付くか」「どんな社会課題に向き合うのか」といった、個人が自分の働く環境を重視する時代となってきています。

―― 私たち労働者の価値観にも変化がありましたか。

大浦 ¦ ありました。景気動向の影響で変わったこともありましたが、何よりやはり、東日本大震災まで、個人のキャリア意識や職業観は、企業の変化に翻弄されていたと思います。最近は、会社と個人の関係は随分フラットになってきました。個人が自分らしいキャリア意識や職業観を持ち、転職や異動も自分の意思で決定するようになってきたのです。

※平成の働き方や、働く環境の変化をファッションで振り返る「はたらくファッション振り返り年表」はこちらからご覧ください。

■キャリアの「北極星」に恋に落ちる!?大浦 征也流、幸せに働くためのヒント

―― 少し個人的な質問になりますが、この平成時代に働く中で、大浦さん自身の考え方や行動も変わりましたか。

大浦 ¦ はい。いま考えると私自身、入社当初は与えられたミッションに対して従順で、社内での評価や役職を強く意識していました。しかし、リーマンショックや東日本大震災を経て、意識が会社の外に向くようになりました。会社の肩書きに固執することはなくなり、外とのコミュニティを多くつくるなど、大きく変化しましたね。
外に目を向けることで、物事を見る「ものさし」を複数持つようになりました。尺度は単一ではなく、ある組織では大変なことでも、外に出れば取るに足らないことだったりします。一つのものさしに縛られる必要なんてないという思いに至ったとき、ある意味無敵になりました(笑)。

―― 縛られていたものから解放されたとき、働き方がハッピーになったのですね。

大浦 ¦ 仕事のストレスについてアドバイスを求められたとき、よく「耐震が制震となり免震になる」という話をします。「耐震」は、揺れに強く、タフ。しかし極めて強い複数回の揺れがあると、折れてしまいます。それに対して「制震」は、揺れを吸収してブレない強さ、レジリエンスや復活力を重要視します。そして「免震」は、揺れ自体を受けなかったり、受け流せたりする強さです。この境地で働けると楽になると思うんですよね。

―― その境地に至るには、どうすればいいのでしょうか。

大浦 ¦ 当たり前すぎると言われてしまうかもしれませんが、まずは目の前にあることを小難しく考えず、頑張り切ることだと思います。そうしているうちに、あるとき、自分のキャリアの羅針盤である「北極星」が見えてくるんですよ。

―― 「北極星」ですか。その「目の前にあること」というのは、人から言われた仕事ではなく、自分で見つけた目標という意味ですか。

大浦 ¦ 少し唐突ですが「能動態」と「受動態」の間、「中動態」という言葉をご存知でしょうか。仕事は能動的に「やりたい!」と思うことばかりではないですよね。一方、受動的にやらされていることばかりでもない。その間の自然とやっていることってありませんか?それが「中動態」です。
たとえば、恋は能動的か受動的か?自分で無理に好きになるわけでも、誰かに好きにならされているわけでもないですよね。つまり「好き」という感覚は、中動的なのです。気付いたらそうなっている。おそらく仕事やキャリアも同様に、自然とやっていることがあるはずです。「北極星」もその辺りにあって、いつしか恋に落ちているのかもしれませんね。
やりたいことを見つけて努力するよりも、気付いたら自然とやってしまっていることに夢中になる方が、もしかすると自分らしく力を発揮できる可能性もあると思うんですよね。

■いま、私たちに必要な「引き出し」とは?

―― 企業と労働者の関係が変化している中で、私たちがやるべきことは何でしょうか。

大浦 ¦ それはやはり「引き出しづくり」です。自分が関わったことを一定レベルの専門性として高めておくこと、さらにそれを複数持つことが重要だと思います。たとえば「営業」と「マーケティング」と「人脈」など、バラバラの引き出しを複数持ち、それらを組み合わせたり掛け合わせたりする、そんな力が現代人には求められています。
誰かに用意された画一的なキャリアプランを歩むことなんて、もはや不可能です。だったら引き出しを豊富に持ち、いろいろな組み合わせができるようにするのがいいですね。

――「引き出し」のテーマは、どのように見つけていけばいいのでしょうか。

大浦 ¦ 理想は興味を持った分野ですね。「やりたいこと」は、とことん突き詰めた方がいい。それでも仕事の中には、受動的にやらされることもあります。そんな自分では選ばない分野こそ、新しい引き出しをつくるチャンス。「やりたいこと」と、「やりたくないけど、やらなきゃいけないこと」、双方をそれなりに突き詰めただけでも、2つの引き出しができます。完璧じゃなくてもいいから、両方を同時に頑張ることが大事ですね。レベル10の専門分野を1つより、レベル8の専門分野を2つ持つ方が、掛け合わせたときにより大きな価値を発揮できますから。

■AIの発展、法律やルールの変化。―― 予測が難しい未来を生き抜くために

―― 未来の「はたらく」を考える場合、テクノロジーの進化が与える影響も大きいと思います。大浦さんが考えるテクノロジーの影響はどんなことでしょうか。

大浦 ¦ 「テクノロジー VS 人間」という対立の図式には、現実感がありません。オックスフォード大学のオズボーン准教授の論文(※1)では、半数近くの仕事がAIに代替されると述べられていました。しかし、最近の調査でその数値は9%~12%に大幅に修正されました。加えて、パーソル総合研究所と中央大学によると、2030年の人材不足の推計値は644万人(※2)。労働人口の約10%です。これはつまり不足する労働人口分を、AIやロボットが代替してくれるということ。ありがたい話です。ただ、テクノロジーを利活用できる力を、人間は身に付けなければいけないと思います。

―― 4月には労働基準法改正も控えています。変化にどのように備えるべきでしょうか。

大浦 ¦ 変化はさまざまあるでしょうが、私たちの働く環境は、長い時間をかけて少しずつ変わっていくものであって、劇的な変化ではないでしょう。ですから、情報に翻弄されないように気を付けて欲しいですね。人が元々持っている価値や、積み上げてきた労働政策、そして人事制度などは、そう簡単に変わるものではありません。自分が本当に大切にしなければならない、目の前のことを疎かにしないようにしてほしいと思います。

―― 最後に、皆さんにメッセージをお願いします。

大浦 ¦ これからの時代、未来が計画できないことだけは確実に分かっています。計画をしたいのであれば、自分で未来をつくるしかありません。キャリアの選択肢は増えており、転職市場は常にオープンです。
楽観的過ぎるかもしれませんが、これからは自分の好きなように生きても、何とかなる時代です。「こうあるべき」という画一的な価値観に縛られず、誰もが「やりたいこと」「なりたい姿」を実現できる世の中になるでしょう。
それに、もし失敗したとしても、やり直しができる社会になるはずです。何かをあきらめて働くのは、もったいないことだと強く思います。目の前にあることや、大切にしている人、大切に抱いている想いの火を消さないようにしてください。そして、少しでも心を動かされたなら、ぜひ一歩踏み出してみてください!

―― ありがとうございました。

次回は、アルバイト求人情報サービス「an」編集長の川合 恵太が語ります。

※1 「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」(2013年)Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne
※2 「労働市場の未来推計 2030」(2018年)パーソル総合研究所・中央大学


【プロフィール】
大浦 征也/パーソルキャリア株式会社 「doda」編集長

2002年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、一貫して人材紹介事業に従事。法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティングなどを経験した後、キャリアアドバイザーに。転職希望者のキャリアカウンセリングや転職活動サポートに長年携わる。担当領域は、エンジニアから営業・販売、管理部門まで多岐に渡り、これまでに支援した転職希望者は10,000人を超える。その後、「doda」キャリアアドバイザーの総責任者、法人営業部隊も含めた地域拠点(札幌、仙台、静岡、名古屋、大阪、広島、福岡など)の総責任者を歴任し、現職。JHR(一般社団法人人材産業サービス協議会)キャリアチェンジプロジェクト、ワーキングメンバーにも名を連ねる。

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